III. 統計による日中経済に対する影響度分析
1.中国経済の発展と外国資金
【外国資金導入の4段階と借款比率の低下】
中国の外国資金の導入の推移とその特徴を開放政策の流れから見ると、四つの段階に区分することができよう。
第一期は1979年から84年までの6年間であり、開放政策の始動期とも呼べる時期であり、外国資金の導入は借款が中心であり、全体の約6割が借款であった(契約ベース)。直接投資は合弁・合作を主とし、しかも香港資本主導型の時期でもあった。
第二期は1985年から91年の7年間である。この時期は1984年の鄧小平の第一次特区視察による開放政策拡大の指示を受けて、大連など14の沿海開放都市の開放、特区に準じた経済開発区の設置、更には外国直接投資奨励政策の公布(1986年)されるなどによって、開放政策の拡大とともに、外国からの直接投資が急増した時期である。この時期の借款の比率は第一期よりも10%ポイント下がり、5割となっている。しかし、第二期は同時に、政治的には天安門事件の発生、経済的には経済調整などもあり、外国資金の導入にも一定の影響が出た時期でもあった。
第三期は1992年から94年までの3年間である。この時期は1992年の鄧小平の第二次特区視察(南巡講話)によって、開放政策が一段と拡大し、小売・流通など第三次産業への外国企業参入が緩和された。また、内陸・辺境地域の開放によって、各地に開発区が設置されるなど、開放政策は全方位に拡大された時期であった。この結果として、外資の対中進出は未曽有の勢いで増大し、1993年に契約された直接投資件数だけで、過去13年間の累計直接投資額を上回る、という驚異的ブームを呼んだのである。借款の比率は直接投資が急増したために、一挙に9.2%にまで下がっており、この時期を境に、中国の外国資金導入の重点は借款から直接投資に移っているのである。
1994から99年までが第四期である。第四期は第三期の反転として、外国からの直接投資は折からの経済調整、金融引き締めおよび外国直接投資政策の修正或いはGITIC問題(広東国際投資信託公司)などの金融不安の発生などの要因が加わり、直接投資は大幅に後退することとなり、1994年から直接投資額は毎年前年割れとなっている。借款の比率は現在では1割前後で推移している。
中国の外国資金導入は完全に直接投資が主導しており、これまでの借款が民間の直接投資を誘発したということで、大きな役割を果たしたと言えよう。2001年から始まる第10次5ヵ年計画では、WTO加盟の可能性もあり、直接投資のブームが予想されている。
図表III-1 中国における直接投資と借款の比率変化
年 |
借款 |
直接投資 |
外国資金計 |
借款の比率
(%) |
1979~83年
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99 |
150.6
19.2
35.3
84.1
78.2
98.1
51.9
51.0
71.6
107.0
113.1
106.7
112.9
79.6
58.7
83.9
83.6 |
77.4
26.5
59.3
28.3
37.1
53.0
56.0
66.0
119.2
581.2
1、114.4
826.8
912.8
732.8
510.0
521.0
412.2 |
239.8
47.9
98.7
117.4
121.4
160.0
114.8
120.9
195.8
694.4
1,232.7
937.6
1,032.1
816.1
610.5
632.0
520.0 |
62.8
40.1
35.8
71.6
64.4
61.3
45.2
42.2
36.6
15.4
9.2
11.4
10.9
9.7
9.6
13.2
16.0 |
79~99年
累計 |
1,385.5 |
6,134.0 |
7,692.1 |
18.0 |
注 |
: |
契約ベース。なお、直接投資は合弁、合作、100%外資を指し、委託加工などは含まれていない
(「外国資金計」には含む)。単位は億米ドル、% |
資料 |
: |
対外経済貿易合作部。 |
【中国の借款受け入れと日本の地位変化】
中国の借款受け入れのうち、日本のシェアは累計ではトップの地位にある。中国の「改革・開放政策」を支援する目的で始まった対中借款は、中国側の統計でも、1980年代は3割から4割のシェアを占めており、西側諸国の中では突出していた。
しかし、1990年代に入ると、中国の借款受け入れ国多様化の中で、日本のシェアは徐々に下がり、1979年から90年の累計で見た日本のシェアは30.7%であったのに対し、93年までの累計ではそのシェアは26.3%に下がっている。
更に、その後もシェアは低下傾向にある。
日本に次ぐのが欧州諸国である。欧州諸国の中では、フランスが1997年末までの累計で見るとトップにあるが、それでも日本の4分の一程度の規模である。フランスに次ぐのはドイツ、英国などである。しかし、1997年末までの累計で見ると、全体のうち日本が24.1%のシェアに対し、欧州13カ国は21.2%のシェアとなっており、欧州全体でようやく日本並みのシェアを占めている。
また、最近では、1992年に中国と国交を樹立した韓国が注目される。韓国は、1992年から対中借款を始めており、1992年の単年度では、日本を上回る2億ドル近い借款を供与している。また、1997年で見ると、日本の供与額を上回っているのが、スペイン、ドイツなどの欧州勢である。このように、1990年代後半からの、対中援助国の多様化と新興国の台頭などにより、日本の地位は相対的に下がり、対中借款はもはや日本の独壇場ではなくなっているといえる。
図表III-2中国の借款受け入れ国上位のシェア変化
年 |
日本 |
フランス |
ドイツ |
英国 |
スペイン |
韓国 |
1979-83年
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97 |
22.0
33.6
39.7
37.0
44.5
30.9
23.4
23.0
19.4
10.5
23.8
10.5
23.7
31.8
3.1 |
1.3
1.7
5.6
23.6
2.6
9.2
11.7
2.3
2.0
12.1
2.3
10.5
2.5
―
― |
1.8
0.7
3.5
3.5
6.2
3.2
7.5
1.7
0.7
3.3
9.9
3.4
3.1
7.5
5.2 |
1.8
0.7
0.2
6.0
4.4
10.9
2.7
1.6
2.9
3.6
1.4
4.3
1.9
5.1
― |
―
―
0.26
0.04
―
0.20
3.5
2.5
―
2.8
0.8
3.3
4.3
2.2
5.1 |
17.6
1.2
0.7
1.1
1.4
1.9 |
79-97年
累計 |
24.1 |
6.3 |
4.2 |
3.5 |
1.7 |
2.0 |
|
注:契約ベース(1994年は実行ベース)。単位は%。
資料:対外経済貿易年鑑 |
【日本のODAに占める中国のウエイト】
次に、日本のODAの実績から中国の地位を見てみる。
日本の対中資金協力(円借款)は1979年から実施されているが、1998年度累計で見ると、そのシェアは日本の全世界のODA供与額の12.6%に及んでおり、インドネシアの18.6%に次いで、第二位である(2兆2千億円、円ベース、承諾額ベース)。
ODA実績全体と中国向けのシェア推移を見ると、図表III-3 のとおりであり、過去10年間でみると、おおむね10%前後で推移している。(年間10億ドル、1000億円規模)。
図表III-3 日本のODAに占める中国のウエイト
年 |
実績 |
中国 |
中国のシェア |
1989年
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99 |
8,965
9,069
10,952
11,151
11,259
13,239
14,489
9,439
9,358
10,640
15,323 |
832.2
723.0
585.3
1,050.8
1,350.7
1,479.4
1,380.2
861.7
576.9
1,158.1
1,225.9 |
9.3
8.0
5.3
9.4
12.0
11.1
9.5
9.1
6.2
10.9
8.0 |
|
資料:ODA白書。単位:100万ドル |
【中国のマクロ経済における外国資金の地位】
中国は2000年末までに、契約ベースで7,692億ドル、実行ベースでは6,337億ドルの外国資金(借款と直接投資の合計)を受け入れた(中国統計摘要2001)。このうち、借款は契約ベースで1,385億ドル、実行ベースでは1,628億ドルであり、借款のシェアはそれぞれ18.0%、29.9%である。
借款は中国の港湾、空港、道路、発電所などのインフラ、或いは工場改造などに用いられている。直接投資もインフラ部門に投資されている場合もあるが、これまではインフラ分野への直接投資が制限されていたこともあって、民間資金は少ないといってよい。
インフラ投資や学校、病院建設などはこれに該当する。この固定資産投資は主として、内外借款、国家予算などから捻出されるが、中国の1981年から2000年までの20年間の固定資産投資の累計は23兆1,194億元(中国統計摘要)となっている。この間の為替レートの変動はあるが、この累積額を米ドルに換算すると(1元=8.27ドル)、約2兆米ドルとなる。
固定資産投資は資金の源泉から見ると、国家予算、国内借款(銀行融資)、外国資金利用、その他(自己調達)からなるが、1980年以前は国家予算比率が圧倒的であったが、その後、銀行融資に切り替わったこともあり、国家予算比率は年々減少し、1980年には28.1%のシェアが1998年には4.2%にまで落としている。
国家予算に代わって、国内借款(銀行融資)は1980年の12.7%から1998年には19.3%(1992年には27.4%までアップ)となっている。また、対外借款は1980年の3.8%から1998年には9.1%に高まっている(1996年のシェアは11.8%)。
さて、先の2000年末までの直接投資累計4,709億ドル(実行ベース)と借款の累計1,628億ドル(実行ベース)の固定資産投資累計2兆ドルにおけるシェアを見ると、直接投資と借款の合計では23%、借款だけでも6.8%を占めている。つまり、中国の公共事業の2割が直接投資によって担われており、またうち、6.8%が借款によっているということを意味する。
図表III-4工業生産および輸出における外資企業のポジションを見たものである。工業生産では2割、輸出では4割以上となっており、輸出のウエイトはさらに高まる一方である。
図表III-4 中国経済に占める外資企業のシェア(%) |
年 |
固定資産投資 |
工業生産 |
輸出額 |
1990年
91
92
93
94
95
96
97
98
99 |
6.3
5.7
5.8
7.3
9.9
11.2
11.8
10.3
9.1 |
4.4
6.0
7.6
10.8
14.9
16.5
16.6
18.4
22.9 |
7.2
16.7
20.4
27.5
28.7
31.5
36.5
40.7
44.1
45.5 |
|
注: |
工業生産における外資は「その他経済類型企業」であり、国内の株式制企業も含まれている。 |
資料: |
中国統計年鑑。 |
|