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II.マクロモデルによる日本の対中ODAの効果分析

1.計量分析結果の概要

 対中ODAが中国経済に与えた効果の定量的な測定に関しては、計量モデルによるシミュレーションが不可欠である。本章では、対中ODA効果測定用に開発された中国マクロモデルを用いて、対中ODAが中国経済に与えた効果の定量的な測定を行うものとする。効果の測定は、基本シナリオ(実際に対中ODAが行われた現実のケース)と、対中ODAが行われなかったと仮定したケースの双方のシミュレーションを、同一のマクロモデルを用いて実施し、双方を比較することにより行った。
本稿における効果にかかわる数値は前提をおいて作成した経済モデルにより本研究所が独自に試算した理論値であり、外務省等援助関連機関がオーソライズしたものではない。モデルや前提によっては変りうる性質ものである。例えば、以下の計量結果分析1で言及した対中ODAの年間GDP押し上げ効果(1999年末で0.84%)については対中円借款の効果に限った別の研究事例で、約0.1%との数字もある。3


計量分析結果
1.対中ODAの年間GDP押上げ効果*は、1999年末において0.84%に達する。対中ODAが中国のGDPに占める割合が年平均0.16%であったことを考慮すれば、効果が大きいと言うことができる。これは、中国経済が日本の対中ODAによるGDP押し上げ効果を持続して蓄積していき、有効に使用したことを示すものである。ODAの第二次産業に対する効果が大きく、1999年末において押し上げ効果は1.08%であり、第一次産業は0.58%、第三次産業は0.10%であった。

2.地域別効果でみると、先進地域の上海だけでなく、東北三省や最も遅れている内陸の貴州省に至るまで一定の効果が計測された。但し、その押上げ効果は先進地域において相対的に高く、今後はそれ以外の地域にODAの焦点を当てることによる経済格差の是正という課題に寄与できることが示唆されていると言える。


 「0.84%」の名目GDP効果実額(681億元)の意味するところは、毎年、海南省(1999年GDP471億元)、寧夏自治区(同242億元)以上の規模のGDPを創出している、と言うことができる。あるいは、中国で最も先進地域である上海のGDP(1999年、4,035億元)の17%に相当する、つまり、上海経済の2割弱を創出していると言うこともできる。
 国際的比較でみると、681億元規模(米ドル換算で、82億ドル)のGDPに相当する国はパプア・ニューギニアであり、また、フィリピン経済(789億ドル)の約1割である。
 なお、これに旧輸銀ローンを含めた試算では、押し上げ効果は1.94%にも達する。
 ちなみに旧輸銀ローンを含めたGDPの押上げ効果を参考までに付記するとそれは「1.94%」である。この数字の意味するところの名目GDP効果実額(1,566億元)は天津市(1999年GDP1,450億元)、重慶市(同1,489億元)の2つの直轄市を上回り、同じく直轄市の北京市(同2,169億元)の約7割(72%)、上海市(同4,035億元)の約4割(39%)を創出したということである。
 国際比較でみると、1,566億元(米ドル換算で相当214億ドル)のGDPはベトナム一国のGDP(287億ドル)の75%に匹敵する。

GDP押上効果の定義

*GDP押上げ効果= (実際のケースのGDP-対中ODAがなかった場合のGDP)×100
  対中ODAがなかった場合のGDP



3"Japanese External Politics and the Asian Economic Developments" Ken-ichi Kawasaki, Visiting Senior Fellow, RIETI. http://www.agecon.purdue.edu/gtap




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