我が国は現在まで、専門家、青年協力隊派遣などの技術協力とともに、インフラ関連の無償資金協力を中心に支援してきた。以下に、スキーム別、セクター別の援助実績の概要を具体的に述べる。
(1) 無償資金協力
1) 一般プロジェクト無償
1992年度より、毎年40億円から120億円の規模で無償資金協力を実施している。経済インフラ整備にかかわる案件を中心に、食糧関連援助などを実施してきた。無償資金協力案件については、多くが開発調査で明確化になった開発ニーズに沿って案件形成がされている。特に経済インフラに関しては、開発調査が提案した優先プロジェクトのほとんどが無償資金協力により事業化されている。カンボジア政府の資金力、また資金ソースに限界があることも鑑みて、このように無償資金協力で開発ニーズを実現化することは重要な施策である。
また社会開発分野関連では、保健医療分野でプロジェクト方式技術協力と協力した医療分野におけるユニセフとのマルチ・バイ協力に基づいて予防接種拡大計画を実施している
現在まで安全面の制約と首都復興の重要性から、首都圏の経済インフラ案件中心となっているが、今後は地方の生計向上、社会開発に資する案件の拡大が望まれている。
2) 草の根無償
草の根無償資金協力に関してはカンボジアでの実施件数は毎年10件から40件近くに及び、1件当たりの供与金額は100万円から1,000万円前後と一般の無償資金協力に比して少額ながら、地方で実施されている案件もあり、効果があがっている。平成10年度分までの実績を分野別にみると教育・文化分野で64件、医療・保健分野で32件、職業訓練分野で14件等であり、件数の示す通り、小学校・中学校の校舎建設関係が圧倒的に多い(詳細は付表-5参照)。
草の根無償を通じ、日本のNGO・専門家・協力隊が関係している機関、地域を支援することは、木目の細かい草の根レベルの支援を行うということで有意義である。一方、協力隊員が派遣される場合、何らかの物的供与が得られるということがマスコミなどを通して広く知られており、協力隊員の技術指導より、供与される物品・機材にカウンターパートの関心が集中する例があり、事前の調査による現地のニーズ・受け入れ体制の把握が重要である。NGOとの連携の節でも述べたが、こうした小規模団体や地方支援を充実させていくために、こうした事前の調査の更なる改善を図っていくことが肝要である。
(2) 技術協力
日本がこれまで実施した技術協力には、開発調査、専門家派遣、第三国専門家派遣、青年海外協力隊派遣、研修員受入、プロジェクト方式技術協力、青年招聘事業、機材供与(単独機材供与、感染症対策特別機材供与、WID単独機材供与)、緊急災害援助物資供与がある。
1) 開発調査
1992年以後、復興開発支援の中核として都市機能の回復、すなわち都市インフラ(経済インフラ)の整備を重点的に実施してきた。都市インフラとしては、電力・上水道・電話網・橋梁・港湾整備と、殆どの分野をカバーしてきた。具体的には、メコン本流架橋建設計画、シハヌークヴィル港整備計画、プノンペン市・シェムリアップ市電力復興計画、プノンペン市・シェムリアップ市上水道整備計画、プノンペン市および周辺地区電話網整備計画、シハヌークヴィル・コンバインドサイクル発電所計画調査、プノンペン市都市交通計画等である。開発調査の結果はほとんどフォローアップとして無償資金協力が供与されており、カンボジアにおいて開発調査と無償資金協力スキームが効率的・効果的に連携していることが分かる。
農業・農村開発、地域開発分野としてはプノンペン市周辺農村地域総合開発計画、アンコール・シェムリアップ地域総合開発計画、メコン河環境適応型農業開発計画等が実施されてきているが、地方の開発案件は安全管理の問題もあり、フォローアップは慎重に準備されている。農業開発では、流通システムの未整備或いは収穫後の処理・貯蔵システムの問題から、米の自給自足が達成されていないと言われ、米流通システム及び収穫後処理改善計画調査が時宜に適って計画されている。
2) 専門家派遣
専門家派遣については、1999年11月現在、37名の専門家を派遣中である。今後はさらに「政策アドバイザー」としての専門家を、カンボジア政策決定中枢機関に派遣する必要があろう。国家計画・予算編成をする計画省、経済財政省、或いは工業計画・エネルギー計画を取り纏める工業省、エネルギー省などへの政策アドバイザーの派遣である。政策アドバイザーとは、単にプロジェクト形成や個別技術の技術指導ではなく、大臣レベルの上級スタッフに政策レベルの立案・助言が可能な人材のことである。
現在の派遣先及び業務内容は、次ページの表5-1にまとめた通りである。なお、括弧内の数字は同一機関に複数派遣されている場合の専門家の人数である。
表 5-1 JICA専門家派遣状況
派遣先 | 人数 | 業務内容 |
農林水産省 | 2 | 農業アドバイザー、森林資源保全アドバイザー |
農村開発省 | 3 | 「三角協力」プロジェクト・マネージャー、同アシスタント・プロジェクト・マネージャー(2) |
教育・青少年・スポーツ省 | 2 | 教育アドバイザー、女子教育計画 |
保健省 | 9 | 母子保健プロジェクト(6)、結核対策プロジェクト(3) |
郵便電気通信省 | 2 | 電気通信網計画、(デジタル伝送技術) |
公共事業・運輸省 | 5 | 運輸・港湾アドバイザー、道路・橋梁計画、建設機会運用管理行政、建設機械保守管理、工場施工管理 |
水資源・気象省 | 1 | 水文・農地水資源開発 |
婦人問題・退役軍人省 | 2 | 貧困対策事業運営アドバイザー、(女性の健康に関する情報普及支援) |
情報省(TVK) | 1 | テレビ番組制作技術 |
商業省 | 1 | 商業アドバイザー |
法務省 | 2 | 法制度支援(2) |
社会問題・労働職業訓練・青少年更正省 | 1 | 社会福祉行政アドバイザー |
CMAC* | 1 | 情報システム上級技術アドバイザー |
CDC(カンボジア開発評議会) | 1 | 援助調整 |
メコン河委員会事務局 | 3 | 灌漑、水文、水力・水資源開発 |
プノンペン市水道局 | 1 | (上水道維持管理) |
(注1)カッコ()内は、短期専門家(1ヶ月以上1年未満)
(注2)TVK:カンボジア国営テレビ局
(注3)CMACの邦訳はカンボジア地雷対策センター(ODA白書)
3) 研修員受入
カンボジアの人材不足改善に向け迅速な人材育成が求められているが、そのためには、研修員制度の効率的活用がきわめて重要である。研修員の受入は1989年に再開され、再開後1999年までに約600人が日本及び第三国において研修を終了している。分野は計画・行政、公共・公益事業、農業、保健・医療、法整備などが中心である。度重なる内戦により教育制度が崩壊していたこともあって基礎学力、語学力の面で他国の研修生と一緒に受講することが困難な場合もあるため、国別特設研修の枠で、法整備、地方教育行政官、警察行政、社会福祉行政などの分野で受入事業が実施された。日本の援助再開までは海外研修の中心がフランスや、旧社会主義国であったこともあって、日本型の行政サービスを学ぶ機会を提供するこの事業は非常に高い評価を得ている。一つの成果としては教育省の行政官が日本での研修の結果、日本の職員会議、校長の果たす役割をカンボジアの学校に導入したいとの意向をもち、ユニセフなどとも協力して日本の学校運営制度にならったカンボジアの新しい学校運営システムを導入したことが挙げられる。従来のカンボジアの学校運営は、校長がすべてを決めトップダウンで指示を出す仕組みで、日本のように職員会議などでボトムアップで問題を解決していく伝統はなかったため、日本での研修は好感を持って迎えられている。
また近隣諸国への研修スキームである第三国研修は、地理的・文化的・経済的な条件の似た国での研修のため、カンボジアの政府職員にとって違和感は少なく、研修内容が吸収しやすいとして今後とも充実させていくことが重要である。現在、働き盛りである世代が、内戦のため正式な教育を受けることができなかったというこの国固有の背景もあり、仕事を持ちながらの研修・職業訓練が比較的安価に実施できる国内・第三国研修制度の拡充は強く望まれている。
4) 青年海外協力隊派遣
協力隊派遣が再開され、現在18名の協力隊員が活躍している。日本語教師、スポーツ・文化、小学校教師に加え、職業訓練にも派遣されている。三角協力では、縫製のように現地で一番人気のある技術が指導されている。協力隊員による協力は、現地の人材育成に地道に貢献していると言える。隊員の派遣先については、これまでのところ三角協力プロジェクトの隊員以外、ほぼ全員プノンペン周辺で活躍している。今後は、地方での人材育成・職業訓練のニーズが大きい地方での協力活動を、安全確認の可能な地域から順次進めることが課題である。
5) 開発福祉支援事業
カンボジアでは長い戦禍を原因とする社会的弱者が多く存在するが、政府による社会福祉政策が整備されていない。このような社会福祉関係の支援には機材以上に、事務経費・人件費の援助によって、プログラムを支援していくことが重要であり、その面ではJICAによる開発福祉支援事業は、通常のODAスキームではなかなか目の行き届かない社会福祉プログラムを支援することの意義は大きい。現在一件の上限が約1,500万円で、心神障害を含めた社会的弱者に対して働くカンボジアソーシャルワーカーの支援と、貧困削減にむけた女性対象のプロジェクトを実施するNGOを支援する2案件が実施中である。
6) NGO事業補助金
NGOの活動を積極的に支援すべく、人件費も対象とする補助事業がNGO事業補助金である。ローカルNGOとの連携の上で潜在需要はきわめて大きいと言える。1998年度にカンボジアについて同補助金を受けた日本のNGOは以下の通り。
表 5-2 1998年度NGO事業補助金の実績
団体名 | 事業 | 補助金交付実績額 |
AMDA(アジア医師連絡協議会) | 地域総合振興事業(人材育成・医療) | 910万円 |
幼い難民を考える会 | 女性自立支援事業(自立支援研修) | 179万円 |
(財)国際開発救援財団 | 医療事業(医療診察) | 150万円 |
JHP.学校をつくる会 | 人材育成事業(学校建設) | 450万円 |
曹洞宗国際ボランティア会 | 地球産業向上事業(専門家等派遣) | 360万円 |
曹洞宗国際ボランティア会 | 地球産業向上事業(青少年職業訓練計画) | 600万円 |
曹洞宗国際ボランティア会 | 生活環境事業(生活改善指導センター建設) | 871万円 |
曹洞宗国際ボランティア会 | 人材育成事業(貧困地区学習援助) | 1,500万円 |
日本国際ボランティアセンター(JVC) | 地球産業向上事業(青少年職業訓練計画) | 730万円 |
分かち合いプロジェクト | 人材育成事業(学校建設) | 198万円 |
出所:外務省経済協力局編(1999)『我が国の政府開発援助:ODA白書上巻』(財)国際協力推進協会
(3) 有償資金協力
有償資金協力については、1969年のプレクトノット川電力開発灌漑計画に円借款が供与されて以来、経済力・返済能力の点や政治的に不安定であったことから供与が控えられてきた。しかし、最近の政治的安定及び新政権による経済再建のための種々の政策の着実な実施に鑑み、99年9月、30年ぶりにシハヌークヴィル港緊急リハビリ事業に対する円借款が供与された。シハヌークヴィルはカンボジアが有する唯一の深海の外港であり、河川港としての制約のあるプノンペン港等と異なりきわめて重要な拠点である。この港湾の整備が完成すれば、周辺インフラの開発や輸出加工区・工業団地等の後背地開発が進むことも予想され、民間投資の促進、産業の集積が期待されている。なお、借款については世界銀行、アジア開発銀行が既に実施しており、経験はあるものの、今後のプロジェクト管理についてはカンボジアの財政状況に十分配慮しつつ慎重に実施することが肝要である。
(4) セクター別援助実績
我が国の協力は資金的規模のみならず技術協力レベルにおいても他のドナーより圧倒的に貢献度が大きい。そのため、カンボジア人が我が国の専門家、コンサルタント、エンジニア等から受けるオンザジョブトレーニング(OJT)が一様に高く評価されている。(セクター別援助実績は付表-4参照)
農業部門は、プノンペン市周辺農村地域総合開発計画、メコン河環境適応型農業開発計画等が実施されてきている。国連を通じた三角協力プロジェクトでは、他のASEAN諸国の専門家と協力し、米、野菜、くだもの等の農作物の営農指導がプノンペン近郊で実施されている。また、農業セクターのソフト支援としては、流通システムや収穫後の処理・貯蔵システムの改善を目指し、米流通システム・収穫後処理改善計画調査が現在計画されている。農業開発では、地方への展開が安全管理の上から困難な状況にあり、我が国はまだ本格的な支援を展開していない。しかし、今後は生産量の一層の拡大のため、営農指導、灌漑施設の整備、肥料の供給、農道の整備等新たな支援が求められており、安全管理に配慮し慎重にプロジェクトが検討されている。
運輸セクターは、我が国が支援したチュルイチョンバーと国道6A号線の建設が首都プノンペンの経済圏拡大に大きく貢献したのをはじめとして、道路建設センターにおける道路建設・保守管理の技術移転が我が国が支援した道路のみならず、他のドナーの道路建設プロジェクトについても有効に活用されている。1997年より建設中の国道7号線のメコン架橋建設は、カンボジアにとってはじめての大規模な橋梁建設であるが、この工事を通じ、日本人、第三国人、カンボジア人の協力の下、安全管理を踏まえた技術指導が日々重ねられている。
電力事業・水道事業においては我が国の支援による発電所の建設や、浄水場・水道管の敷設が高く評価されている。本調査で視察した電力公社及びプノンペン水道公社においては、限られた人材ソースにもかかわらず、トップ経営陣は我が国の技術協力を中心に、施設の維持管理専門家を育てつつある。特に水道公社ではこうした支援の甲斐もあり、経営的に黒字を実現している。また、電力公社、プノンペン水道公社共に、他国のコンサルタントに比して日本のコンサルタントがスコープ以上に技術供与を惜しまず、オンザジョブトレーニングに注力していることを高く評価している。これは各機関のトップマネージメントのリーダーシップの下、カウンターパートの体制が整い、我が国の技術協力が最大限活用され、援助の効果が十分に発揮されている好例である。
教育分野では、専門家派遣、日本への研修についての評価が高い。フランス式の教育運営制度が中心であったカンボジアにとって日本の教育制度から学ぶ点は多いためとみられる。草の根無償資金協力、日本のNGOを通じての学校建設や職業訓練の支援に対しても同様に高く評価されている。また、学校建設と同時に教材の開発などソフトの支援が不足していたことから、日本のNGOが現在までの協力経験を活かし、これまでのプロジェクトを支援するための「開発パートナーシップ事業」が開始される予定である。 職業訓練に関しては、我が国はプレアソコマ職業訓練センターと日本のNGOが実施しているカンボジア・日本友好技術訓練センターに協力隊員を派遣するなど、工業分野、縫製、木工等での人材育成に貢献している。
環境分野では、最大の課題である森林保全について専門家を農林水産省へ派遣し知的支援を行っている。環境分野における支援は、各ドナーとも緒についたところであり、我が国としては環境関連データの整備、環境評価アセスメント、環境教育など現地から要請のある基礎的なベースラインデータの整備、組織強化(Institution Building)について支援を行っていくことになろう。
医療・保健分野では、我が国は国立母子保健センターの活動を強化すべく、母子保健にかかるプロジェクト方式技術協力及び国立母子保健センターの移転新築にかかる支援を実施した。現在日本人専門家がカンボジア医師、助産婦、看護婦、その他スタッフと協力して、カンボジアの母子保健状況改善に向けた取組みを行っている。特に「母子保健センター」においては、日本の品質管理(QC)システム、料金徴収システムを導入し、徴収料金の一部を職員の給与改善等のインセンティブにあてる仕組みをつくる等、病院経営が大きく改善されている。他のドナーやNGOも同センターの活動を注目しており、これらドナー、NGO間の連携に向けての具体的な協議が始まっている。また、カンボジアの国家結核対策計画の実施機能強化のため、無償資金協力による国立結核センターの建設と99年より5年間の技術協力が実施される。
(5) 国際機関に対する拠出金
カンボジア難民再定住・農村開発プロジェクト(三角協力)
本件は、1992年より日本政府がUNHCRへ拠出した任意拠出金を利用し難民再定住支援のための農村基盤整備プロジェクトとしてスタートし、1994年よりフェーズIIとしてUNDPへの拠出金を基に実施され、1998年からはフェーズIIIが運営されている。当初より、ASEAN諸国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ)の専門家の参加を得て、日本の青年海外協力隊員、専門家の友好的な協力の下、農民の生計向上をめざして推進されている。各国から毎年、計30人~50人の専門家を動員し、年間120万ドル~180万ドルの事業費を投入し、30以上の事業を運営するまでに拡大した。
ASEAN専門家の技術・経験を直接活かすという点で南南協力としての意義も大きく、また個々の事業が木目こまやかな職業訓練事業、所得向上プロジェクトで、NGO的な手法も取り入れられており、従来の我が国の技術協力にない小規模な農村開発スキームが実現している。農村基盤整備として実施されていることは、圃場整備、事務所、研修施設、訓練用資機材を備えた農村開発センター、農村サブセンター、公共施設、教育施設、内水面漁業施設整備、貯水池整備、州道改修等である。また整備された環境を利用して、専門家・協力隊員・カンボジア側カウンターパートが対象地域農村で、農業以外の公衆衛生、教育分野、生計向上の普及活動も行っている。同時に農民組織の強化も実施されている。
今後は我が国の拠出金は漸減していく方向にあるため、これまでの成果を十分評価し、プロジェクトの事業の内、どの事業をコア事業として位置付けるかを明確化することが重要である。また、プロジェクトのサステナビリティを確保するため、カンボジアのオーナーシップの下に経営管理を移管し、カンボジア人カウンターパートが担当できるようにマネジメントの手法を工夫することが課題である。