カンボジアの保健医療の状況は、近隣諸国のベトナム、タイと比較しても非常に恵まれない状況である。具体的には平均寿命は両国より10歳くらい短く、乳幼児死亡率、妊産婦死亡率は2~3倍である。カンボジアの1995年時の平均寿命は53.4歳である。1996年の調査では5歳以下の児童の約50%が栄養状態が悪く、標準的な体重に満たないとされている。またマラリア、呼吸器関連疾患、結核に加えて、交通事故、地雷被害も顕著である。HIV/AIDSの感染者は約15万人おり、感染率は18~45歳の成人の3.6%と調査の結果明らかになっている9。
現在、23の州立病院に5,196床、4の地域研修センター、42の中核病院(レファラル病院)、合計で3,908床もつ116のヘルスセンター、入院用ベットのない272のヘルスセンターと878のコミューンのヘルスポストがある。住民1,000人当たりのベット数は0.96であるが、これはベトナムの3.3、ラオスの2.6、タイの1.6と比較して非常に少ない。
またポル・ポト時代を生き抜いた医師は全国で40人程で、専門教育を吸収できる人材が絶対的に不足している。たとえば助産婦では読書き・算数ができない人もいるというのが実情で、医療従事者のレベルアップが大きな課題である。しかも、公務員としての医療従事者の給与は非常に低く押さえられており、スタッフの技術向上の意欲をそいでいる。生活できない医療従事者は民間の医療施設で副収入を得ることに専念している。このような状況が続けば、高くて問題のある民間医療が主流を占めるという歪んだ状況になってしまう危険性がある。
また、1980年代の社会主義政権下では建前上無料であった医療費であったが、実際的には医師に謝礼を支払わなければ医療サービスを受けることができず、貧困者が正式なサービスを受けることが不可能という状況を改善することも重要である。この点、我が国の母子保健センターが透明性のある、かつ貧困者には治療費を免除する柔軟な医療費徴収制度を導入し、病院経営状況を改善させた実績は大きい。今後、医療サービスを改善するためには、全国的にどの病院でも透明性のある医療費徴収制度が導入されることが最大の課題である。これによって病院の経営を健全化し、医療従事者の技術向上が可能になることが期待されている。
更なる課題としては医師、看護婦、助産婦、歯科医、臨床技師など医療従事者は全国でおよそ1.8万人存在するが、その5割がプノンペンを中心に活動している。医師及び研修医にいたっては全国で3,389人のうち、約2,118人がプノンペンと州都を拠点としており、地区、村レベルでは医師の診察を受けることが非常に困難な状況である。今後は地方の医療従事者の向上が大きな課題である。
保健分野のドナーとしては現在までUNICEF、WHOが中心となって、プライマリー・ヘルスケアの拡充を行ってきている。また他にも多くのドナーが図のようにこの分野での支援をしてきており、近年状況は徐々に改善されている。また保健分野ではODAだけでなく、NGOも様々な支援を行っており、最近NGO、ドナー、国・州の医療関係者の参加する会合が定期的に開かれており、情報交換を通じドナー調整は徐々に改善される方向にある。
表 4-8 ドナーの保健分野援助内容
プロジェクト名 | 期間 | 援助国(機関) | 援助額 | 援助の種類 | プロジェクトの目的等 |
プライマリーヘルスケア | 1994-1997 | EU | 591 | 無償 | プライマリヘルスケアの基礎 |
地域保健、社会福祉の強化 | 1994-1998 | EU | 591 | 無償 | 基本的地域保健サービス必要性の宣言 |
メディアによる保健協力キャンペーン | 1995-1997 | EU | 261 | 無償 | メディアによる保健協力キャンペーンの強化 |
病院研修 | 1995-1997 | EU | 261 | 無償 | 病院スタッフの研修。 |
NGO保健分野取り組みへのEU特別予算 | 1995-1998 | EU | 1,833 | 無償 | 保健分野への協力 |
保健医療促進プログラム | 1995-1998 | EU | 651 | 無償 | 保健センターの改善 |
マラリア撲滅計画 | 1996-2000 | EU | 3,518 | 無償 | |
HIV/AIDS対策 | 1997-2000 | EU | 2,516 | 無償 | |
保健システム運営強化 | 1992-1998 | UNDP | 7,413 | 無償 | 保健省への技術協力 |
家族計画 | 1994-1998 | UNFPA | 1,885 | 無償 | サービス強化 |
リプロダクティブヘルス | 1997-1998 | UNFPA | 399 | 無償 | 家族計画、ヘルスケアサービスの強化、女性省の強化、NGOを通した女性のエンパワメント |
NGO主導によるリプロダクティブヘルス | 1997-1999 | UNFPA | 357 | 無償 | カンボジア女性への情報と行動を通じた健康地位強化 |
リプロダクティブヘルス | 1997-2000 | UNFPA | 7,323 | 無償 | カンボジア女性への情報と行動を通じた健康地位強化 |
ヨウ素欠乏による混乱 | 1994-1997 | UNICEF | 99 | 無償 | アジア13ヶ国におけるヨウ素欠乏による混乱に対する持続可能な排除 |
1996-2000 | UNICEF | 10,500 | 無償 | ||
ODC/AIDS | 1991-1998 | WHO | 77 | 無償 | エイズ等の疾患に対する教育、防止、抑制 |
保健システム運営強化 | 1992-1998 | WHO | 3,770 | 無償 | |
保健の人的資源強化 | 1992-1998 | WHO | 945 | 無償 | 保健サービスの運営能力強化 |
マラリア計画 | 1992-1998 | WHO | 3,810 | 無償 | |
結核予防 | 1993-1998 | WHO | 338 | 無償 | |
デング病予防 | 1994-1998 | WHO | 155 | 無償 | |
全国予防接種デーへの協力 | 1994-2000 | WHO | 960 | 無償 | 急性灰白髄炎撲滅の為の免疫 |
下痢症対策 | 1997-1998 | WHO | 110 | 無償 | |
リハビリの基本的能力 | 1995-2001 | アジア開発銀行 | 5,215 | 有償 | |
基本的保健サービス | 1996-2000 | アジア開発銀行 | 20,000 | 有償 | |
デング病予防 | 1994-1998 | アメリカ | 869 | 無償 | |
全国予防接種デーへの協力 | 1994-2000 | アメリカ | 1,050 | 無償 | 急性灰白髄炎撲滅の為の免疫 |
家族計画 | 1995-2000 | アメリカ | 16,000 | 無償 | |
医療施設 | 1992-1998 | オーストラリア | 1,139 | 無償 | 病院への機材供与 |
全国予防接種デーへの協力 | 1994-2000 | オーストラリア | 1,717 | 無償 | 急性灰白髄炎撲滅の為の免疫 |
保健教育 | 1995-1998 | オーストラリア | 752 | 無償 | エイズ予防等の告知 |
プライマリーヘルスケアの強化 | 1996-1998 | オーストラリア | 478 | 無償 | 村社会におけるプライマリーヘルスケア改善の持続可能な供給 |
OUDONG通りの保健サービス | 1996-1998 | オーストラリア | 740 | 無償 | OUDONG通りの保健サービス改善 |
プライマリーヘルスケア | 1996-2001 | オーストラリア | 12,476 | 無償 | 保健医療従事者の訓練、コミューンレベルのプライマリーヘルスケアシステムの強化、政府の調整能力の強化 |
精神医療プログラム | 1994-1997 | オランダ | 1,584 | 無償 | |
保健医療インフラ | 1996-1997 | オランダ | 720 | 無償 | 病院修復 |
保健医療インフラ | 1996-1999 | 世界銀行 | 15,000 | 有償 | |
病院改装 | 1996-1999 | タイ | 523 | 無償 | |
保健医療インフラ | 1994-1998 | 中国 | 2,501 | 無償 | 薬品工場の修復 |
母子保健 | 1994-1997 | デンマーク | 439 | 無償 | 母子保健クリニックの支援 |
基本的保健サービス | 1994-1997 | デンマーク | 582 | 無償 | |
セクターリフォーム | 1994-1997 | ドイツ | 5,051 | 無償 | |
保健省の機構的強化 | 1995-1997 | ドイツ | 4,887 | 無償 | |
セクターリフォーム | 1995-1997 | ドイツ | 3,490 | 無償 | |
結核病に対する技術協力 | 1997 | 日本 | 78 | 無償 | |
伝染病研究施設改修 | 1997 | 日本 | 9 | 無償 | |
病院建設・改修他 | 1997 | 日本 | 302 | 無償 | |
全国予防接種デーへの協力 | 1994-2000 | 日本 | 660 | 無償 | 急性灰白髄炎撲滅の為の免疫 |
母子保健センター | 1995-1997 | 日本 | 18,789 | 無償 | 母子保健センター建設と機材・薬品供与 |
妊婦・小児保健医療への技術協力 | 1995-1999 | 日本 | 9,000 | 無償 | |
病院改修・インフラ整備 | 1996-1999 | 日本 | 316 | 無償 | |
下痢症対策 | 1997-1998 | フィンランド | 112 | 無償 | |
ODC/AIDS | 1991-1998 | フランス | 435 | 無償 | エイズ等の疾患に対する教育、防止、抑制 |
医療施設・機材 | 1993-2000 | フランス | 16,430 | 無償 | 病院、研究所の機材供与 |
医療施設機材 | 1994-1998 | フランス | 1,101 | 無償 | 機材供与 |
基本的保健サービス強化 | 1995-2001 | アジア開発銀行, 世界銀行、 | 147,500 | ||
女性、子供の健康 | 1996-2001 | NGOs | 53,012 | ||
結核予防 | 1995-2001 | WHO、日本、WFP 、NGOs、MSF | 17,122 | 無償 | |
マラリア、デング病予防 | 1995-2001 | WHO、USAID、WB、NGOs、EU、UK ODA | 17,500 | ||
薬品セクター復興 | 1996-2001 | WHO、UNICEF、WB、KfW/Germany | 12,710 | ||
AIDS対策 | 1995-2002 | UNICEF、UNDP、UNFPA、EU;GTZ、NGOs | 51,798 | 無償 | |
病院改修 | 1995-2001 | NGOs | 40,000 | ||
小児麻痺撲滅、免疫拡張計画 | 1996-2001 | AusAID、WHO、JICA、 | 20,651 | 無償 | |
精神治療 | 1996-2001 | NGOs | 4,504 | 無償 | |
公共保健機関建設 | 1996-2005 | アジア開発銀行 | 5,926 |
9 Health Situation Analysis1998 and Future Direction for Health Development 1999-2003. Ministry of Health, October 1999.を参照