クメール・ルージュにより正規の教育制度が全て破壊されたため、現在の成人の教育水準が低く、専門職の人材層が薄いことがカンボジアの発展を妨げる大きな要因となっている。国民の約40%が就学したことがなく、32%が非識字者であるとされ、1%未満しか、高等教育を受けていない。そのため、現在も教育・人的資源開発はカンボジア政府の重要課題の一つと位置付けられている。そのため多くのドナーが教育分野の支援を行っている(表4-6)。
表 4-6 ドナーの教育援助内容
援助機関 | 援助分野 | 現在までの援助内容 |
ADB | 基礎教育 | カリキュラム・教科書開発 |
職業技術訓練 | 技術教育機関の拡充 | |
世銀 | 初等教育 | 学校施設改善 |
ILO | 職業技術訓練 | 職業訓練の提供 |
職業訓練分野の中央・地方政府との行政能力の向上 | ||
EU | 初等教育 | 教員養成、指導書作成、学校とコミュニティのリンク強化 |
UNDP | 貧困対策プロジェクトにおける教育協力 | 学校施設改善、職業訓練、高等教育等 |
教育行政 | 行政改革の技術支援 | |
UNESCO | 基礎教育 | 科学カリキュラムの開発 |
UNICEF | 基礎教育 |
教材開発による算数・数学・国語能力の向上、教員養成カリキュラムの開発、教科書印刷配布 |
女性識字教育 | ||
日本 | 教育施設 | NGOを通しての学校建設(草の根無償資金協力) |
教育行政 | 教育投資計画策定への協力(専門家派遣等) | |
アメリカ | 初等教育 | 教員養成プログラム(クメール語、算数・数学) |
ドイツ | 技術・職業教育 | 技術・職業教育プログラムの開発計画の策定 女性に重点を置いた技術研修プログラムの開発 |
イギリス | 英語教育 | 英語教師の訓練、中等教育における英語教育の充実 |
オーストラリア | 教育省支援 | 計画アドバイザーの派遣、国家試験制度の開発への支援 |
高等教育 | プノンペン大学の支援 | |
フランス | 高等専門教育 | 高等教育農業学部、医学部への協力 |
教育省の能力強化 | 教育行政官、視学官の研修プログラムの開発 | |
語学教育 | フランス語教育、クメール語の研究 |
学校制度は小学校が6年間、中学校が3年、高等学校が3年の6-3-3制で、高等教育機関が9機関ある。職業学校は26校ある。初等教育の拡充が最大課題で、教科書、カリキュラム、教員養成、学校建設の支援が行われている。現在小学校数は全国で5,136校、その他寺院でも寺子屋形式で初等教育が行われている。学齢時に当たる15歳未満の人口は、全人口の43%も占めており、学校は絶対的に不足している。現在存在する学校も50%以上が屋根や壁が満足になく、水、便所がないような状況である。学校建設については一定規模の地域の複数の小学校の中にコアになる中心校を設定し、その周りに衛星校を配置するというクラスター・スクールシステムを導入している。ユニセフが導入した構想で、全国で700のクラスターを設定した。中心校のリソースを共有するためには中心校に教育に必要な教材、図書館などを供与する必要があるのだが、現在もその一部しか支援できない状況である。義務教育は憲法では9年と定められているものの、1998-1999年の調査では小学校でも1年生から6年生までの全クラスがない学校が51.7%も存在する。国全体で6~11歳の児童で何らかの形で小学校に就学したことがあるのは78.3%であるが、遠隔地の農村ではその数値が50%未満にまで下がる。全体で中学校へは12%、高等学校へは10万人に64人が進学できるという状況である。
更に問題なのは女性の就学率が低く、識字率においても男性と女性との間に20%以上の差があり、女子の就学率が入学時から高学年にいくに従って下がっていくことである。教育省とNGOのケア・インターナショナルの共同調査8では小学1年生時に46%を占めていた女子の割合は高校3年時には34%まで落ち、更に高等教育を受ける女子は15%未満となっている。我が国も全体の教育政策アドバイザーに加えて女子教育に関連する専門家を派遣している。
表 4-7 現在進行中のプロジェクト
プロジェクト名 | ドナー | 期間 | プロジェクトコスト |
基本教育改善 | ADB, UNICEF, DFID, フランス, SIDA, NGOs | 1995-2001 | 46,912 |
教育の機会平等確保 | UNICEF, UNESCO | 1996-2000 | 5,452 |
小学校建設・復旧 | EU | 1999-2001 | 6,400 |
高等教育開発 | タイ,ILO, UNFPA, フランス | 1996-2001 | 8,388 |
技術・職業教育 | ADB | 1996-2001 | 20,340 |
農村職業訓練 | EU, フランス, 世銀, NGOs | 1998-2001 | 2,512 |
計画・管理強化 | UNICEF | 1996-2000 | 3,977 |
基礎教育 | EU | 1999-2000 | 8,400 |
高校教育開発 | オーストラリア | 1997-2002 | 4,200 |
貧困緩和の為の職業訓練 | UNDP | 1996-1999 | 2,358 |
雇用促進の為の能力強化 | ADB, CIDA, 国家予算 | 1999 | 1,307 |
8 Draft National Action Plan on Girl's Education 1998-2003, National Taskforce on Girl's Education, Ministry of Education, Youth and Sport, August 1998