評価結果は、協力実施面に反映させ、評価されたプロジェクトの運営・管理の改善に役立てるとともに、今後の協力にかかる政策の立案、新規事業およびプロジェクトの形成等に際して教訓とすることが重要である。今回の報告書において改善を要する点として指摘された内容のうち、日本側で取り得る措置については、そのフォローアップに努めており、新規プロジェクトによる対応、個別専門家の派遣、機材・スペアパーツの供与や施設の補修、協力期間の延長などを行っている。また、改善すべき点が被援助国側にある場合には、政府レベル、実施機関レベルでの注意喚起や改善のための申し入れを行い、被援助国の自助努力を促すようにしており、実際に、被援助国側の自助努力によりフォローアップがなされている事例も報告されている。開発援助の基本的な考えである開発途上国側の自助努力を支援し、自立発展を助けるという観点から、フォローアップを行う場合にも、被援助国側の自助努力を損ねるような結果に陥らないように留意しつつ、プロジェクトがより高い効果を発現・維持していくような支援のあり方を工夫していくことが重要である。
ここでは、それぞれの評価報告の部分において、フォローアップへの言及があるプロジェクトのうち、被援助国による対応が求められるものを除いて、日本側がフォローアップを実施したものについて、主なものを以下に紹介する(※1)。
(※1)会計検査院は、ODAプロジェクトの現地視察を行っており、その視察結果を、1988年度より「決算検査報告」の一部として掲載し公表している。今回、「決算検査報告」に記述のあったODAプロジェクトのフォローアップ状況について、参考資料として「会計検査院の決算検査報告に記述された事項のフォローアップ状況」を掲載した。
無償資金協力と技術協力または有償資金協力と技術協力の連携の有効性は、前章における評価結果にも指摘された項目であった。有償・無償資金協力の効果を更に高めるため、フォローアップ措置として専門家派遣を行うこともその連携の一種である。プロジェクト終了後に、特に技術移転が十分に達成されなかった場合や新たな技術の必要性が認められた場合には、個別専門家の派遣が行われている。
インドネシアの「家畜衛生研究センター建設計画」(無償資金協力)および同センターにおける「家畜衛生改善計画」(プロジェクト方式技術協力)は、同国における畜産業の生産性の向上を通じた畜産業振興を目指して実施された。評価の結果、組織体制・人材確保等の観点から、持続的に活動が行われていることが確認された。家畜疾病診断と防除について技術移転が十分に達成されるよう技術指導・助言を行うため、個別専門家を派遣した。
カンボジアの「道路建設センター改善計画」(無償資金協力)では、同国の公共事業運輸省道路建設センター(RCC)を道路復旧事業の拠点として位置づけ、内戦などにより破壊・疲弊した国道の復旧・修復を促進するために実施された。評価結果から、RCCの運営能力の強化が必要であることが認められ、今後のRCCのさらなる活動拡大も支援する目的で、長期専門家を派遣し機材の操作・維持管理、施設運営などについて指導助言を行っている。
ラオスの「高等電子技術学校改善計画」(無償資金協力)は、教育機能の向上を図り、電気・電子技術全般における高等技術者を養成することにより、同国の経済、産業の発展に寄与することを目的に実施された。本評価の結果、同プロジェクトは無償資金協力・技術協力の連携の有効性やニーズの十分な把握によるプロジェクトの妥当性の高さが報告された。今後もラオスに対して日本の協力の有効性を高めていくため、日本より調査団が派遣され、その結果、現在電子技術にかかる技術指導のため個別専門家を派遣している。また、同国における「ナムグム水力発電所補修計画」(無償資金協力)は、同発電所の機能を回復させ、電力の安定と余剰電力の輸出による外貨獲得を目指して実施された。本評価では、発電所全体が長期的に支障なく運営されていくよう、日本側の補修計画などへの指導・助言が有効であることが報告された。このため、現在、送配電網に関する指導のため、長期および短期の専門家を派遣している。
ネパールの「ウダイプールセメント工場建設事業」(有償資金協力)は、セメント工場および関連施設を建設することにより、急増するセメント需要に応えるとともに、同国におけるセメントの自給率向上を図ることを目的に実施された。工場の稼働率が当初計画に比べ低いことが認められたため、OECFの援助効果促進調査(SAPS)を実施し、工場の運営管理に関し、工場側に提言を行った。また、技術面のサポートの必要性が確認されたため、技術指導および工場経営の指導のため、長期と短期のJICA専門家を派遣している。
被援助国の技術者養成を行うため、専門家派遣による技術協力の他に、研修事業を通じてフォローアップを行う場合がある。
スリランカの「地方病院整備計画」および「第二次地方病院整備計画」(無償資金協力)は、地方病院による保健医療サービスの向上により、同国の地方住民の健康状態を改善することを目指して実施された。評価結果では、医療機器の維持管理体制の強化のためには病院スタッフへの操作・維持管理訓練の必要性が不可欠であることが指摘された。このことから、病院スタッフへの医療機器の維持管理訓練のため、同国の医療機材センター(BES)において、過去の技術協力を通じて育成した人材を講師とする現地における研修(第二国研修)(※2)を1998年から2001年までの予定で開始した。
(※2)現地における研修(第二国研修)とは、日本の過去の技術協力を通じて育成された被援助国の人材が、講師となって自国で行う研修のことをいう。因みに、研修事業にはこのほかに、日本に被援助国の人材を招へいして行う研修と、周辺地域の経済・社会状況を熟知した被援助国がイニシアティブをとり、同国の周辺国から研修員を受け入れ行う第三国研修がある。
評価結果により明らかにされた問題点に対応するために、指摘の内容によっては、新たなプロジェクトを計画することによってフォローアップを行う場合がある。
バングラデシュの「ハジプール地区基礎インフラ整備計画」(草の根無償)は、小規模な小学校および簡易道路を整備することにより、農村地区の生活向上を目指し実施された。しかし、サイクロンによる被害により、本計画により建設された小学校が倒壊したため、「ハジプール地域サイクロン被災者救援・復旧計画」(草の根無償)として、倒壊した小学校の復旧・補修を行い、住民の初等教育および成人識字教育の実施を再開させるとともにサイクロン・シェルターとしての機能を強化した。
サウジアラビアの「海水淡水化技術協力計画」(開発調査)は、同国の海水淡水化公団(SWCC)において、同国の自然条件に適合しかつ実用化し得る効率的な海水淡水化技術を確立し、都市化・近代化や人口増加による水需要を満たすことを目指して実施された。
同協力により、計画策定やスケジュール管理能力が向上したことについてカウンターパート側は高く評価しているものの、自立発展性に若干の不安が見られたため、同協力で移転された研究技術をもとに、カウンターパートが自立的に研究を行い成果をあげていくことができるように研究開発能力の向上を目的とした「海水淡水化研究開発」(研究協力)を今年度から実施する予定である。
供与した施設や機材の運営・管理に当たって、さらに補完的な協力が必要な場合は、調査団を派遣し、必要な措置を行い持続的な機材の有効活用を図る体制をとっている。
スワジランドの「地方電話網整備計画」(無償資金協力)は、通信手段が整備されていない地方・農村部において、デジタル無線方式による電話網が整備され、地方農村部における通信手段が確保されることを目指して実施された。しかしながら、本プロジェクトにより整備された設備は、落雷による故障により通信が断絶されることが多かったため、調査団を派遣し、落雷対策を含む現在のシステムの維持管理に必要な経費などを確認・検討した上で、同国郵便通信公社(SPTC)に対して今後のシステム改善のための計画に対する提言を行った。
被援助国側の自助努力を損ねないように留意しつつ、プロジェクトがより高い効果を発現・維持していくために必要であると見なされた場合、追加支援としてスペアパーツや機材の購送を行っている。
ガーナの「ガーナ大学基礎学科教育機材整備計画」(無償資金協力)は、同大学の自然科学系学部における研究・実験用機材の不足により基礎分野の実習さえ行えない状況を改善するため、視聴覚機材、理化学機器等の基礎科学教育用機材供与を実施した。評価により、本プロジェクトは大学側の予算の制約により、独自にスペアパーツ購入ができない状況にあり、一部機材が故障したままの状態であったことが明らかになったため、フォローアップ調査を実施し、実施機関の対応能力等を十分に検討した上で、必要と認められた修理用部品およびスペアパーツを供与するとともに修理技術者を派遣した。
サントメ・プリンシペの「アイレス・ディ・メネデス病院医療機材改善計画」(無償資金協力)は、同国最大の医療拠点として医療機材を改善することにより、病院自体の医療インフラの改善だけではなく、同国保健医療体制の整備を促進するために実施された。本プロジェクトは、同国のニーズが非常に高く開発政策上の高い優先順位を維持しているものの、経済的困難から、維持管理のための財源確保は厳しい状況にあり、また、同国政府の行政能力も十分でないことから、自助努力の観点に十分留意しつつ、透視断層用X線装置などのスペアパーツを供与した。
セネガルの「カオラック病院改修計画」(無償資金協力)は、老朽化の進んでいた同病院に対し、医療サービスの質的向上を目指し医療機器の供与および外科棟などの施設建設を実施した。しかし、評価により、本プロジェクトで供与された機器の中に故障機器が確認されたため、状況確認と支援策の検討のためのフォローアップ調査団を派遣した。この結果をもとに、修理に必要なスペアパーツの供与を実施中である。
また、同国「ダンテック病院医療機材整備計画」(無償資金協力)は、同国における最上位医療機関のひとつである同病院の一般外科、小児外科、整形外科、心臓外科および麻酔・集中治療科の医療機を整備することを目的に実施された。供与された機材は、良好に使用されているものの、一部に故障・不具合が発生し、同国が独自にスペアパーツを購入し修理を行うことが困難であったため、上記の「カオラック病院改修計画」と併せて、フォローアップ調査が実施された。同計画と同様に必要なスペアパーツの調達が進められている。
日本のODAによる協力についての被援助国側理解の促進のため、評価セミナーを行うことがある。
ベトナムの「青年招へい事業」(技術協力)は、同国の未来の国造りを担う青年と日本の青年が、相互理解を深め、友情と信頼を培うことを目的として実施され、同国側からも高い評価を得ているが、更なる理解促進の必要性が確認されたため、ハノイにてセミナーを開催し、ベトナム側の支援体制の一層の強化の必要性を指摘した。