ここでは、評価結果が導き出した教訓を、(イ)プロジェクト・サイクルの各段階に関する教訓、(ロ)協力形態別教訓、(ハ)分野別教訓、(ニ)その他の教訓に分類した。
(イ)プロジェクト・サイクルの各段階に関する教訓
下表は、プロジェクト・サイクルにおけるプロジェクト「発掘・形成」、「実施」、「運営」の各段階にかかる教訓を整理した。プロジェクト・サイクルにおいては、特に発掘・形成段階にかかる教訓が多い。これは、発掘・形成段階で策定された計画が、その後のプロジェクトの成否に大きく左右すると認識されていること、同段階は、プロジェクト・サイクルの中で日本側が最も関与できる部分であることなどが、理由として考えられる。
プロジェクト・サイクルの各段階に関する教訓
計画段階 | |
---|---|
プロジェクト形成時において相手国政府が十分に予算を確保できるか等の体制・能力の把握が必要である。 | 9 |
外部条件の変化によるニーズの増減をできる限り、事前に想定し、柔軟な対応がとれるようにするべきである。 | 6 |
プロジェクトと対象地域の特性の整合が必要である。 | 4 |
先方政府指導層の支持が得られるかどうかの把握が必要。 | 2 |
完成後の他の協力形態との連携を視野に入れたプロジェクト形成が望まれる。 | 1 |
我が国の協力を契機に組織(学校、研究所等)が新設される場合、体制面や運営能力面で不備がある場合が予想されるため、これらを十分に見極めた上で段階的に協力を実施することが必要である。 | 1 |
プロジェクト目標に具体的達成値を盛り込むべきである。 | 1 |
プロジェクト建設により生ずる周辺の人的安全にも配慮する必要がある。 | 1 |
事前の調査団派遣は、協力内容の十分な検討ができることから有効である。 | 1 |
計画機関と実施機関が異なる場合には、それぞれの責任分担を明確にし、連携について十分に検討する必要がある。 | 1 |
自然災害が毎年予想される地域はコスト高でも建造物等の耐久性を確保するべきである。 | 1 |
当初の目的が政治的に左右されないようなプロジェクトの選定に留意するべきである。 | 1 |
民営化、民間活力が顕著な分野への協力は中長期的な視点で要請前段階における調査の充実が必要である。 | 1 |
計画段階・実施段階 | |
維持管理システムの確立に留意したプロジェクト形成・実施管理が必要である。 | 1 |
実施段階 | |
短期間で行われるプロジェクトは、施工管理を徹底させる必要がある。 | 1 |
ローカル・コントラクターが受注する可能性が高い事業は、実施機関が工程監理強化を促すことが必要である。 | 1 |
実施機関による技術的管理能力がある場合でも、事業を取り巻く環境について、外部コンサルタントを活用し助言を求めることが必要である。 | 1 |
相手国と責任範囲を明確にするとともに、継続的に確認することが必要である。 | 1 |
運営段階 | |
先方実施機関の経営合理性にも助言すべきである。 | 1 |
維持管理には、草の根無償や見返り資金とのタイアップが必要である。 | 1 |
「発掘・形成」段階では、前述の「先方政府・実施機関の体制等により生じた問題点」の中でも明確にされたとおり、「先方政府・実施機関による予算措置が十分ではなかったこと」が最も顕著な問題点であったことに対応して、「プロジェクト形成時において相手国政府が十分に予算を確保できるか等の体制・能力の把握が必要である」ことがあげられている。
また、教訓としてあげられた項目数の多い、「外部条件の変化によるニーズの増減をできる限り事前に想定し、柔軟な対応がとれるようにするべきである」、「プロジェクトと対象地域の社会経済的特性との整合が必要である」、「事前の被援助国側のニーズ・体制・能力の把握が必要である。」という教訓はいずれも、できる限り現地のニーズに合致したプロジェクトの計画を策定することを目指したものである。
日本側関係機関は、これまでも、被援助国の要請に基づきながらも、さらに現地のニーズを可能な限り把握・検討するため、またはプロジェクトが実施可能か確認・検討するために調査団を派遣したり、開発調査などで日本側および相手国が当該国のニーズを十分に把握する努力をしてきた。今後もさらに、ニーズの事前把握のため、努力を続けていく方向である。
その他、「先方政府指導層の支持が得られるかどうか把握が必要である」や「当初の目的が政治的に左右されないようなプロジェクトの選定に留意するべきである」は、いずれも、政治的影響の事前把握の必要性を示している。他にも、上表のとおりそれぞれ少数ではあるが、様々な教訓があげられた。
一方、「実施」「運営」段階における教訓としては、全て少数ではあるが、日本側と被援助国側の責任範囲を明確にすることや、実施または運営中に、実施機関以外から、助言することの必要性などが示されている。
(ロ)協力形態別教訓
協力形態別でも、様々な教訓事項が報告された。まず、有償資金協力では、「人材育成や技術移転についても事業範囲に含める必要がある」、「予め、他の関連事業との整合性を十分に図るべきである」などの教訓があげられ、発掘・形成段階における教訓が多かった。
無償資金協力にかかる教訓事項として最も多く報告されたのは、「供与する機材が使用者の技術レベルに適しているかについて、事前に詳細な調査を行うことが効果的である」、「機材供与は過去の供与実績と活用状況を十分に見極めた上、実施するべきである」、「供与機材を使った受入機関による教育・研修可能性を考慮するべきである」等、教訓事項のほとんどが機材に関係する教訓であった。
機材に関する教訓として報告された事項は多様であるが、大まかには(1)供与する機材が、使用者または修理者の技術レベルに適していること、(2)供与する機材に関係するスペアパーツの安定した現地での入手が可能であること、(3)高度な機材の場合には研修等の特別な配慮が必要であること、(4)機材の維持管理に関する専門家の派遣や職員の訓練が必要であること、の4つに分けられる。
また、このほか少数ではあるが、草の根無償資金協力では「運営資金不足をサポートする何らかの先方政府による制度的対応が必要である」ことや、食糧増産援助では「実施に関し、専門家等による詳細な調査が効果的である」などの教訓が報告された。
協力形態別教訓(有償資金協力・無償資金協力)
有償資金協力 | |
---|---|
人材育成や技術移転についても事業範囲に含めるべきである。 | 2 |
予め、他の関連事業との整合性を十分に検討するべきである。 | 1 |
為替変動による償還問題等の為替リスクは借手が負担することを明確にするべきである。 | 1 |
コントラクター間の責任分担を明確にする必要がある。 | 1 |
事業費不足によるプロジェクトの中断を防ぐため、事業費予算の見積もりが適正かどうか十分に検討する必要がある。 | 1 |
無償資金協力 | |
(一般無償) | |
供与する機材が使用者の技術レベルに適しているかについて、事前に詳細な調査を行うことが効果的である。 | 9 |
スペアパーツの確保のための適切なフォローアップが必要である。 | 5 |
機材供与は過去の供与実績と活用状況を十分に見極めた上、実施するべきである。 | 4 |
供与機材を使った受入機関による教育・研修可能性を考慮すべきである。 | 3 |
機材供与とともに、管理体制構築とキャパシティー向上のために協力することは重要である。 | 3 |
機材供与に際し、メーカーにより異なったシステムを導入していることや技術革新の早い機材の供与に際しては、保守管理技術の移転等に十分に考慮する必要がある。 | 2 |
機材の供与とともに、修理の専門家派遣による技術移転も有効である。 | 2 |
機材使用者による維持管理を可能にするため、できるだけ同種の機材を使った研修が効果的である。 | 1 |
機材供与に際しては、必要があれば、安全管理万全化を図ることを供与の条件に含めるべきである。 | 1 |
精密機器の供与には長期的視点に基づいた効果の持続性を考慮することが必要である。 | 1 |
草の根レベルでの協力には、運営資金不足をサポートする何らかの先方政府の制度的対応が必要である。 | 1 |
直接的に生活改善に効果をもたらす援助は人々に肌身で感じてもらえるための積極的に推進するべきである。 | 1 |
(食糧増産援助(2KR)) | |
2KRは実施に際し、専門家等による詳細な調査が効果的である。 | 3 |
2KRには、被援助国政府による供与品の流通や見返り資金の管理に対して、日本側から助言・指導することも必要である。 | 2 |
一方、技術協力では、「研修事業」における、運営管理の問題も技術移転する必要性や研修員の帰国後の進路についても考慮する必要性、「青年招へい業」の参加者を一部のグループに偏らず、広く国民全般から公募すること、「専門家事業」の技術を習得した協力組織の人材がさらに新たな技術移転を行うことも考慮に入れて計画すること、「開発調査」の実施国も調査当事者であることを明確にすることや実施にかかる柔軟性の必要性などが報告された。
協力形態別教訓(技術協力)
技術協力 | |
---|---|
(研修事業) | |
・研修事業一般 | |
研修では技術の向上のみならず、運営管理能力の向上も図れるように考慮する必要がある。 | 1 |
研修員の帰国後の進路についても、自立発展性の観点から考慮する必要がある。 | 1 |
・青年招へい事業 | |
「国民参加型」の運営形態を促進するため、マスメディアを使った公募等の配慮が必要である。 | 1 |
開発途上国側は、帰国青年の参加者を公務員に偏らず広く国民全般から公募することが必要である。 | 1 |
同窓会に募集・選考について協力を求めることが望ましい。 | 1 |
(専門家派遣事業) | |
専門家の派遣には、専門家個人単位からの技術移転のみならず、技術を習得した協力組織の人材が、さらに組織単位で他へ新たな技術移転ができるよう、計画することが望ましい。 | 1 |
(プロジェクト方式技術協力) | |
必要に応じ、プロジェクト終了後も、専門家を派遣することが必要である。 | 2 |
優秀なカウンターパート確保のためには、被援助国政府が十分なモティベーションを与えることが大切であり、援助担当機関の予算確保が必要である。 | 1 |
プロジェクト終了後も人材交流を断続することが望ましい。 | 1 |
(開発調査) | |
開発調査の場合には対象国も調査者であるという立場を明確にすべき。 | 1 |
開発調査は状況に応じ、期間の延長を柔軟に行う必要がある。 | 1 |
(ハ)分野別教訓
分野別の教訓としては、教育、上水道、運輸、エネルギー、水産、環境分野における教訓が報告された。それぞれの教訓事項は以下のとおりである。
分野別教訓社会セクター | |
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大学等の研究機関への協力の場合には、他研究機関とのネットワークづくりにも考慮すべきである。 | 1 |
大学等の研究機関への協力の場合には、若手教官の日本での博士号取得も考慮すべきである。 | 1 |
NGOの協力を得た学校運営や施設の維持管理指導についても、計画内容に含めるべきである。 | 1 |
上水道事業には既存の配水網等の状況を確認する必要がある。 | 1 |
経済インフラ | |
鉄道車両調達については、中長期的な輸送戦略を考慮する必要がある。 | 1 |
高速道路事業は接続道路の整備状況についても把握する必要がある。 | 1 |
事業の案件実施・運営にかかる不確定要素を予め明確にしておく必要がある。 | 1 |
地熱発電事業の場合、円借款を利用し実施機関が開発リスクを負うことにより、民活導入を図りやすい環境を作ることが可能である。 | 1 |
海底送電線建設の場合には、F/Sにおける海底地形、潮流等の詳細な調査が極めて重要である。 | 1 |
電力セクターの場合は、十分な環境問題への配慮が必要である。 | 1 |
生産セクター | |
水産業にかかる協力は、海洋環境の変化等の外的要因に左右される可能性が高いので、事前の十分な調査が必要である。 | 1 |
その他 | |
研究協力事業(バイオ・テクノロジー)においては生物多様性等の地球規模環境問題の取組も必要である。 | 1 |
環境案件は環境教育も同時に視野に入れるべきである。 | 1 |
(ニ)その他の教訓
そのほかには、協力体制にかかる教訓、他ドナーとの関係にかかる教訓が報告された。協力体制にかかる教訓としては、州政府レベルの補助や自治体間の調整機能の重要性、また、他ドナーとの関係に関しては、援助政策についての十分な意見交換の必要性、問題が生じた場合の慎重な対応などについて教訓が報告された。
その他の教訓社会セクター | |
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実施団体、組織、組合等が財政的に脆弱である場合には、州政府の補助金等によるサポートが必要である。 | 2 |
複数の地方自治体にまたがるプロジェクトの場合には、自治体間を調整する機能を持つ機関が必要である。 | 1 |
個別プロジェクトの地域総合整備計画とのタイアップが効果的である。 | 1 |
経済インフラ | |
他ドナーとの連携において一方の不都合により生じた問題の対応は慎重にするべき。 | 1 |
他ドナーとの連携において一方の不都合により頓挫してもある程度の効果の発現が期待できる計画策定が必要。 | 1 |
他ドナーとの援助政策についての十分な意見交換が必要である。 | 1 |
ドナー1か国では実現不可能な大規模プロジェクトは、他ドナーとの調整や実現可能性の検討を十分に行う必要がある。 | 1 |
協調融資による事業の場合は、事業全体の調整・管理を実施機関に求めることが望ましい。 | 1 |