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第2章 ODA事後評価活動
6.評価の基準


 外務省およびJICAでは1991年12月のDAC上級会合において採択された「DAC評価原則」を踏まえ、プロジェクト評価においては、以下の5項目を主な基準として評価を行っている。また、多くの評価において、この5項目に加え環境やジェンダーへの配慮・影響という視点も考慮している。


評価5項目

  • 効率性
     プロジェクトにおける各種資源の「投入」は、効率的に「成果」に転換されたか。別のより良い「投入」で同じ「成果」を得ることはできなかったか。手段・期間・費用などの側面からプロジェクトの適切度を検証する。
  • 目標達成度
     プロジェクトの目標がどの程度達成されたか。達成度が不十分である場合は、将来に達成される見込みはどれくらいあるのか。
  • インパクト
     プロジェクトの対象地域、対象グループに対して、プロジェクトがどのような正または負の社会的、経済的、技術的効果をもたらしたか。予見可能な効果のみならず当初予見できなかった効果も含まれる。
  • 妥当性
     プロジェクトは被援助国側の援助政策、開発政策や優先度と合致していたか、現在も合致しているか。
  • 自立発展性
     プロジェクトの結果として生じた正の効果が、プロジェクト終了後もどれだけ持続しているか。被援助国側の実施機関の運営体制や被援助国政府の支援状況を検証する。


 また、これら5項目に基づいて評価を実施するに際し、個々のプロジェクトにおける目標、投入、成果等の把握と整理が必要となり、プロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)も利用して、評価がより適切に行われるよう努めてきている(※1)

 外務省の「在外公館による評価」では、毎年50以上の在外公館が100件前後に及ぶプロジェクト評価を実施するため、統一的な評価基準および評価視点が必要となる。そのため、在外公館では、PDMの活用とともに、PDMの概念を活かして作成された「経済協力評価のためのレイティング・ガイドライン」を参考にした上で、5項目による評価を行っている。

(※1)PDMの起源であるロジカル・フレーム(通称ログフレーム)は、より効率的なプロジェクトの計画・実施のために、プロジクェトの運営・管理を容易にする手法として、1960年代に米国開発庁(USAID)により開発されたものである。PDMはプロジェクトの目標や、成果、投入、外部条件等、プロジェクトの主要な要素とそれらの関係を簡潔に整理した一覧表であり、ログフレームとほぼ同様のものである。プロジェクトの概要が一目で分かり、計画から実施評価までの管理に便利なことから、国際機関に広まり、80年代には、ドイツ技術協力公社がログフレームをさらに発展させたZOPPと呼ばれる手法を開発した。
 日本でも、90年代に入り、ZOPPをさらに発展させたプロジェクト・サイクル・マネージメイト(PCM)手法を開発した。PCMは、PDMを利用することにより、プロジェクト・サイクルの中で、計画立案から実施、評価に至るまでの一貫性の確保や関係者の共通認識の共有などを可能にするものである。JICAでは、94年より、効率のよい運営管理のため、同手法を取り入れている。


PDMと評価5項目

プロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)
プロジェクト
の要約
指標 指標データ
入手手段
外部条件
上位目標      
プロジェクト目標      
成果      
活動 投入  
前提条件

評価5項目(前述)を、プロジェクト評価の基準にする場合には、目標、成果、投入等を明確にした上で、以下の網掛け部分が分析の対象となる。

 PDMは、計画・立案・評価というプロジェクト・サイクルの流れの中で、様々な局面で活用される。同マトリックスで整理された概念は、評価段階では、当該プロジェクトの目標、成果、投入の確認や把握のために活用される。既に、PDMを使用して実施されたプロジェクトであればなおさらのこと、使用せずに実施されたプロジェクトにおいても、PDMにより整理し直すことにより、評価を実施するに当たり必要な観点が明確になる。

  効率性 目標達成度 インパクト 妥当性 自立発展性
上位目標     プロジェクトを実施した結果、どのような正・負の変化が直接・間接的に現れたか プロジェクトの計画は妥当であったか
プロジェクトの目標は今後も適切であるか
援助終了後、被援助国の機関・組織がどれだけプロジェクトの正の効果を維持することができるか
プロジェクト目標 プロジェクトがどれだけその目標を達成したか
成果 「投入」がどれだけ効率的に「成果」に転換されたか  
投入    

(出典:財団法人国際開発高等教育機構「PCM手法に基づくモンタリング・評価」)


 一方、OECFの評価は、上記「DAC評価原則」を踏まえつつ事業の実施と運用が当初計画に比べ、どのように行われているか、また、その事業が当初、想定していたとおりの効果をあげているかを検証することを中心に評価を行っている。具体的な評価項目は、次のとおりである。


OECFの評価項目

  • 事業範囲
     事業内容の計画/実績比較を行う。変更があれば、変更理由および変更内容の妥当性などについて分析・評価する。
  • 工期
     開始時期・完成時期・期間の計画/実績比較を行い、遅延があれば原因および採られた対策について分析・評価を行う。
  • 事業費
     支出項目別に計画/実績比較を行い、差異があればその内容について分析・評価を行う。
  • 事業実施体制
     評価対象国側の実施機関の事業実施の体制、コンサルタントの役割、およびコントラクターとの契約形態などが、事業実施にどのような影響を与えたかを分析・評価する。
  • 運営・維持管理体制
     事業の持続性確保という観点から、運営・維持管理体制の妥当性を分析・評価する。
  • 運営・維持管理状況
     運営状況を示すデータ(例えば、稼働率、生産量など)について計画/実績比較による分析・評価、および維持管理状況について評価を行う。また、運営主体が独立採算を旨とする機関・組織の場合には、必要に応じ、その財務的能力について検討を加える (※2)
  • 事業効果
     上記運営・維持管理状況を踏まえ、当該事業の経済・社会的効果について分析・評価を行う。また、事業効果が定量化できるものについては、内部収益率(IRR)(※3)を求めることもある。


(※2)分析・評価の結果、財政能力あるいは運営能力の不足が懸念される場合、OECFでは必要に応じ、SAPS(前述)などにより、それら能力向上のため支援を行う。

(※3)「内部収益率」(Internal Rate of Return: IRR):事業収益率を示す指標の一つで、事業の便益の現在価値が費用の現在価値と等しくなるような割引率のこと。事後評価の場合、事業に要した費用(実績)と、事業運営の全期間(プロジェクト・ライフ)に得られる便益(運営開始後数年の実績を基にした予想)とをもって計算する。
「内部収益率」には、国民経済的見地に立ち、事業の社会便益をベースに求められる「経済内部収益率」(Economic Internal Rate of Return: EIRR)と、事業単独の便益、すなわち事業実施機関にとっての収益をベースに求められる「財務内部収益率」(Financial Internal Rate of Return: FIRR)とがあり、事業の性格に応じ使い分けられる(事業によっては双方を求めることもあり得る)。但し、事業には定量化できない定性的な効果も期待されることが多い。また、社会開発事業、保険医療事業、教育事業、環境事業等はその事業の性格上収益率を求めるのが容易ではない。


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