広報・資料 報告書・資料

2.3 有識者評価


 JICAの有識者評価は、JICA事業の透明性と評価における中立性を確保するとともに、各有識者の豊富な経験や専門性に基づいて、より幅広い視点から質の高い評価を行うために、開発援助やJICA事業について見識を有する外部の有識者に依頼して評価を行うものです。


1.ラオス「市場経済化支援」(1999年度)

調査団構成:
 鈴木 義基 三重大学教授
 山本愛一郎 JICA評価監理室調査役

評価目的

 ラオスは1975年に社会主義革命が成立し、生産の集団化と資産の国有化が進んだが、経済運営は困難を極めたため、1986年より「新経済メカニズム」と呼ばれる経済改革に乗り出し、市場経済の導入を図っている。JICAはラオスの市場経済化を支援するため、国別特設研修を実施して市場経済運営を担う人材育成を行ってきた。

 本評価調査では、三重大学の鈴木基義教授に評価を依頼し、市場経済化支援を目的として行われた5つの国別特設研修について、これらの研修が市場経済化に向けてのラオスの人材育成に対しどの程度貢献してきたかを把握し、教訓・提言を抽出することを試みた。評価にあたっては、研修実施によって達成されうる7つの目標(意識転換、ネットワーク構築、個人的便益増大、政策策定能力・分析能力向上、技術移転、リーダーシップ養成・組織強化、学習達成・経験蓄積)を設定し、それに対して研修参加者及びその上司への質問票に基づく聞き取り調査を行って、総合的な分析を試みた。


評価結果

 評価の結果、研修参加者の意識転換、政策策定能力・分析能力向上、リーダーシップ養成・組織強化、学習達成・経験蓄積については高い達成度が示されたが、それ以外については改善の余地があることが判明した。

 これらの結果から、研修参加者の事前の研修準備の充実、ラオス国内におけるさまざまな対象者向けの市場経済化セミナーの開催、ラオスの実状により適した研修内容の策定等が提言された。


2.ミャンマー「人造り支援分野」(1999年度)

調査団構成:
 吉田 鈴香 フリージャーナリスト(団長)
 橋口 祐子 JICA企画部地域第一課

評価目的

 JICAは、ミャンマーに対して人材育成を目的とした協力を行ってきており、本評価の対象である「橋梁技術訓練センター計画(プロジェクト方式技術協力)」「橋梁建設計画(無償)」もその一環として実施された。本調査では、国際協力分野について広い知見を有するフリージャーナリストの吉田鈴香氏に依頼して、これらのプロジェクトの人材育成の効果について評価を行った。


評価結果

 本プロジェクトは、無償資金協力による橋の供与のみならず、それをプロジェクト方式技術協力の実施により技術協力の実践の現場として活用することにより、ソフト面とハード面の協力の相乗効果を期待したものである。また、本プロジェクトで指導したのは、コンクリート製の橋梁の建設法であるが、コンクリートであれば現地で材料の調達ができるためという、技術の持続可能性を重視したものであった。プロジェクトの初期段階では、エンジニアが技術の共有を拒む、現場に出向かない等問題があったが、日本人専門家が現場で忍耐強く指導を続けることにより、ミャンマー人エンジニアに対して技術を移転するのみならず、人材育成の重要を認識させる等の意識を改革する効果も見られた。こうした努力により、日本の協力の終了後も、研修参加者が自力で橋を建設する等、技術の定着が見られる。また、OJTによって基礎技術を教える方針や、先輩から後輩へ技術の継承を行う伝統も継続している。


3.カンボデイア/インドネシア 「開発福祉支援・平和構築支援」(1999年度)

調査団構成:
 脇阪 紀行 朝日新聞社論説委員(団長)
 小林 雪治 JICA総務部広報課

評価目的

 JICAは、草の根レベルでの住民の福祉向上などを目的として現地NGOと連携して開発福祉支援事業を実施している。本調査は、カンボディア・インドネシア両国における計5件の開発福祉支援事業を取り上げ、対象プロジェクトの社会的効果を把握するとともに、今後のNGOとの連携のあり方に主眼を置き、類似の協力実施に関する教訓・提言を導き出すことを目的として実施された。なお、評価者については国際協力の現場を数多く取材した経験のあるジャーナリストであり、平和構築についての豊富な知見を有する脇阪紀行氏に依頼した。


評価結果

 評価の結果、それぞれのプロジェクトについては様々な課題を抱えながらも概ね順調に活動が行われていることが確認された。また、今後開発福祉支援事業をより効果的に行っていくための方策として、1)在外事務所への権限委譲と体制強化、2)在外事務所内の現地NGO対応専任スタッフの配置、3)NGOとの信頼関係の構築、4)支援規模の縮小化、5)在外事務所の裁量の拡大による案件形成の迅速化、6)要請提出時の事務手続きの簡素化・効率化、7)JICA本部の役割の縮小化、8)中間組織やネットワーク型NGOなどのフォーラムの創設、9)他のNGO支援策との連携・統合、10)専門家や青年海外協力隊などの事業への関与、11)小規模金融などのコミュニティー開発の手法研究、12)安全管理体制の強化、13)JICAの組織・人員の見直しなどが提言された。


4.ウズベキスタン/カザフスタン「市場経済化支援」(1999年度)

調査団構成:
 千野 境子 産経新聞社論説委員
 山本愛一郎 JICA企画・評価部評価監理室調査役
 堀内 敏夫 財団法人日本国際協力センター

評価目的

 本評価は、ウズベキスタン及びカザフスタンに対してJICAがこれまで市場経済化支援分野において実施した協力の効果を概括的に分析・評価するとともに、今後の両国に対する本分野での支援のあり方についての教訓・提言を得ることを目的として実施された。調査にあたっては、市場経済化支援を目的として実施した6つの研修コースを対象とし、産経新聞社論説委員の千野境子氏に評価を依頼した。


評価結果

 ウズベキスタンについては、日本やJICAの事業が政府当局者に大変積極的に評価されていた。また、相互理解という観点から、JICA事務所がタシケントに開設されたことも評価された。JICA協力の大きな柱に、重要政策中枢支援と呼ばれる市場経済化促進のための人材育成があるが、研修受講者の意見からは、研修内容の明確さや、職場における忠誠心や義務感などの意識の高さを評価するものが見られた。しかし同時に、市場経済化を進める上で重要な人間の意識改革の難しさを指摘する元研修員もおり、日本の経験から学ぶだけでなく、中央アジア隣国との情報交換をすることの意義深さを再確認する意見もみられた。

 一方、カザフスタンでの帰国研修員インタビューからは、研修員選考や研修の実施体制、研修後のネットワーク構築にかかる改善点について指摘する提言があったものの、概ねJICAの研修を高く評価していることが判明した。

 上記の評価結果を基に、1)「日本の経験」の体系的伝達、2)外国語教材の充実、3)中央アジア研究の充実、4)JICA同窓会ネットワークの設立、5)派遣者選考の多様性重視の5つの提言が挙げられている。


5.ボスニア・ヘルツェゴヴィナ「復興支援」(2000年度)

調査団構成:
 仮野 忠男 毎日新聞社(団長)
 富本 幾文 JICAオーストラリア事務所長

評価目的

 JICAは、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争後、2000年10月(評価実施時)まで約5年間復興支援のための様々な協力を実施してきた。本評価では、これらの取り組みを評価することを目的として、日本の国際貢献と平和構築活動に造詣の深い、毎日新聞社論説委員の仮野忠男氏に総括を依頼した。なお、評価の実施においては、案件形成、実施段階における平和構築配慮の状況と紛争再発防止や民族再融和に果たした役割、復興支援のための国際社会の枠組みにおけるJICAの位置づけ、開発援助がボスニア・ヘルツェゴヴィナに与えたインパクト、欧州安全保障協力機構の平和構築活動の状況とJICAとの協力関係の可能性などを把握することに重点を置いて、評価が実施された。


評価結果

 JICA協力の平和構築配慮の状況に関しては、サラエヴォ、バニャルカ両市の公共輸送力復旧計画(バス事業に対する無償資金協力)は、どれも満員でよく利用されている上、サラエヴォ市の場合は、民族間の壁を越えてふたつのエンティティーの間をバス往来しているため、民族の再融和を促進する意義が高く、平和構築の視点が貫かれている協力といえる。また、サラエヴォ総合病院(無償資金協力)においても調達された各種医療機器は有効に機能しており、紛争再発防止や民族再融和に配慮したJICAの平和構築支援が行われている。

 また、国際社会の枠組みにおけるJICAの位置づけであるが、JICAの協力は概ね評価されているが、その一方で人的貢献の薄さ、人道問題への支援が多くないこともあり、広報が不足していることも相まって、顔が見えない、援助の理念がないという印象を現地の人々にもたれているという残念な一面もあった。一方、他のドナーやNGOとの間では、概ね良好な関係が築かれており、UNHCRと連携を深めて人道援助から開発援助への円滑な切り替えに取り組んだり、家畜小屋の修理事業を実施中の「JEN」や、小学校の修復や住宅の再建などに取り組んでいる「World Vision」等との情報交換を行ったりしている。

 欧州における紛争予防に積極的に取り組んでいる欧州安全保障協力機構(OSCE)と日本の関係については、本調査の過程でサラエヴォのOSCE事務所で活動の全容を聞くことができた。同事務所の民主化局長は、OSCEの平和構築に関する経験・方法論が日本政府やJICAを通じて世界に拡がっていくことを期待していると述べた上で、今後の協力の具体策として、特定のプロジェクトに対する資金面での協力と、日本政府よりOSCEに人材を派遣することにより、経験を日本に持ち帰ることを指摘した。平和構築活動のノウハウ取得のためにも、JICAはOSCEとの協力関係強化をはかるべきであり、それは可能であると考える。


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