JICAの特定テーマ評価は、特定分野、重要課題または事業形態をテーマとして、プロジェクト横断的にJICAの協力の効果や問題点を整理・分析し、今後当該テーマの協力を実施するうえでの教訓・提言を導き出すことを目的に実施されています。
1. ネパール「農林水産業分野における協力と貧困・ジェンダー」(1999年度) 本評価は名古屋大学に外部委託して実施された。主な団員は以下のとおり。 調査団構成: 西村 美彦 名古屋大学大学院国際開発研究科教授(代表) 門平 睦代 名古屋大学農学国際教育協力研究センター助教授 吉岡美千子 名古屋大学大学院国際開発研究科講師 |
JICAは「貧困・ジェンダー」の視点からの取り組みが必要なプロジェクトについては、その計画段階で社会調査などを実施している。しかし、その調査結果をプロジェクトで有効に活用し、貧困やジェンダーの視点からプロジェクトを効果的に実施することにおいては、現場での試行錯誤が続いている。
本評価調査は、ネパールにおいてJICAが過去に実施した、または実施中の農林水産業分野の協力プロジェクト4件を「貧困・ジェンダー」の視点から評価し、今後のプロジェクトにおいてJICAが「貧困・ジェンダー」の諸問題に配慮しつつ、受益者たる地域住民に効果的に協力の効果を波及させるための方策について、教訓・提言を得ることを目的として実施した。なお、評価の客観性を高め、外部機関の知見を活かしてより良い評価を実施するため、JICAとして初めて本調査を名古屋大学に外部委託して実施することとした。また、本調査はプロジェクト実施地区と非実施地区から農家を無作為に抽出し、現地コンサルタントを用いながら質問票に基づいて農民へのインタビューや関係者からの情報収集等を行い、プロジェクトの効果を分析した。
直接農民をターゲットグループとするプロジェクトでは生産に対するインパクト(収入向上)は大きなものがあり、低位カーストの社会的な地位向上が見られるケースもあった。しかし、受益者と受益者以外の貧富の格差の増大につながるケースもあるため、計画段階での的確なターゲット・グループの選定に留意する必要があることが明らかになった。
また、ジェンダー配慮では、果樹栽培が女性にとって参加しやすい活動であり、新たな技術に接触することが可能になったことから、女性への教育効果が生じた事例がある。しかし、ネパールの農村社会では女性の多くが非識字であり、持続可能な発展基盤を識字教育なしで構築することは困難であることから、女性への識字教育についても積極的に取り組んでいくことの重要性が再確認された。
なお、本評価の結果については、2001年11月に開催されたJICA評価セミナーにおいて広く国内の援助関係者やODAに関心のある市民に対してフィードバックされた。
2. パラグアイ「農林業分野における協力と貧困・ジェンダー」(1999年度) 本評価はグローバルリンクマネージメント株式会社に外部委託して実施された。主な団員は以下のとおり。 調査団構成: 西野 桂子 グローバルリンクマネージメント株式会社専務(代表) 上岡 直子 グローバルリンクマネージメント株式会社 和田 知代 グローバルリンクマネージメント株式会社 |
JICAでは、地域住民を対象とするプロジェクトを計画・実施・評価する際には、社会調査を実施して「貧困」や「ジェンダー」の観点からの対策あるいは必要な配慮を取り入れることの必要性が認識されている。本調査は、この具体的な方法論を確立するため、パラグアイで実施された(または実施中の)4つの農林業プロジェクトについて、貧困・ジェンダーの視点から評価し、また他ドナーなどの現状を把握することにより、今後の農林業分野の協力にフィードバックするための教訓・提言を導き出すことを目的として行われた。なお、本評価はグローバル・リンクマネージメント株式会社に外部委託して実施された。
本調査は、ピラール南部地域農村開発計画(プロジェクト方式技術協力)、ブラスガライ入植地開発振興計画(青年海外協力隊チーム派遣)、南部パラグアイ林業開発(プロジェクト方式技術協力)、東部造林普及計画(プロジェクト方式技術協力)の4案件を対象として、プロジェクトを実施する「供給側」が意図した波及効果とその効果の「需要側」である貧困層・女性との認識の差を中心に評価したものである。
ピラール南部地域農村開発計画プロジェクトでは、地域の小規模農家に対して排水工事による農牧地の回復、交通状況の改善及びそれに伴う保健サービスへのアクセス改善などの便益がもたらされ、収入向上に伴う意識及び社会的地位の向上などの効果が見られた。その他のプロジェクトについては、新規技術の習得、農産物の増加に伴う小規模農家の栄養改善、また生活改善などの総合的な農村開発の便益がもたらされたことなどが明らかになった。
評価結果から得られた教訓としては、貧困対策、貧困配慮を実施するために必要な事項として、1)貧困の独自の定義付け、2)貧困対策及び配慮プロジェクトという視点からの分類方法の確立、3)貧困対策及び配慮という視点からのターゲット・グループの設定、4)貧困対策・配慮プロジェクトにおける普及の概念導入、5)貧困対策・配慮プロジェクトにおける定性的指標及びプロジェクト計画の柔軟性の導入、そして6)ジェンダー分析に基づくジェンダー情報の重要性を認識することの6つが挙げられた。
3. タイ「障害者支援」(1999年度) 調査団構成: 中西 由起子 アジア・ディスアビリティー・インスティチュート代表(団長) ニノミヤ アキイエ 関西学院大学総合政策学部教授 大川 直人 JICA企画・評価部評価監理室 古川 真理 JICA地域部準備室インドネシアグループ・ジュニア専門員 駒沢 牧子 株式会社設計計画 |
JICAは従来から各種の協力形態を用いて障害者支援関連の協力を実施しており、国際社会や我が国における障害者支援体制の強化の潮流を受けて、「障害者の社会への完全参加と平等の実現」に向けての体制整備を図っている。
本評価は、「障害者の社会への完全参加と平等の実現」の観点から、JICAの過去の協力について評価を行うとともに、同実現に向けて今後の協力の改善に関する教訓・提言を導き出し、将来の障害者支援分野の協力にフィードバックすることを目的として実施された。タイは障害者支援分野で一定の協力実績があり、インドシナ地域の中心国として今後も協力拡大が予想されていることから、ケーススタディとして選定されたものであり、今回の評価では「労災リハビリテーション計画(無償資金協力、プロジェクト方式技術協力)」及び障害者支援分野で実施された青年海外協力隊派遣と研修員受入事業を評価対象として選定した。
JICAのタイにおける障害者支援分野での協力は、1983年度に労災リハビリテーションセンター(IRC)を無償資金協力により設置したことから始まるが、当時はまだタイ社会における障害者への認識は極めて低く、政府の障害者支援サービスはほとんどなかった。このことからJICAが、労災者の職業・社会復帰訓練への支援を通じて、障害者の「経済的自立」の問題にいち早く取り組んだ功績は大きい。また、タイ社会における障害者への認識が高まるにつれ、IRCは職業リハビリテーションの概念の普及と技術開発にも貢献してきた。タイ国内の需要に対応する形で自立発展を遂げてきたことからも、協力の妥当性は高いと判断できる。
タイにおける障害者リハビリテーションが普及したことにより、同分野における人材育成の需要は極めて大きくなっている。JICAは、タイ側の行政官、施設職員及び障害者を対象として日本での研修を行い、障害者支援分野の先駆的なリーダー育成と先端技術・制度の紹介に貢献してきた。さらに、障害者施設に青年海外協力隊員及びシニア海外ボランティアを派遣して、施設職員への技術移転を行うだけではなく、障害者に対する理解やモラルの向上を促進した。
以上のように、JICAが行ってきた各スキームにおる障害者支援は、障害者の社会への完全参加と平等を実現するための基盤整備に大きく貢献してきたといえる。今後は政府だけでなく、障害者団体、NGOの活動と連携し、タイの社会全体を巻き込んでいく必要がある。
4. カンボディア「協力隊員による職業訓練分野への協力」(1999年度) 調査団構成: 津端 勝造 雇用・能力開発機構指導役(団長) 手束 耕治 シャンティ国際ボランティア会事務局次長 飯島 大輔 JICA協力隊事務局派遣第一課 大川 直人 JICA企画・評価部評価監理室 |
カンボディアでは1991年の和平協定締結後、同国の復興にあたり難民の帰還への対応と各方面での人材の育成が急務であった。この状況を受け、JICAは1993年から青年海外協力隊派遣を中心に人材育成、特に職業訓練分野に対して協力を行ってきた。本評価では、1993年から1999年までの間に職業訓練の技術向上のために派遣された10名の協力隊員の活動を評価の対象とした。
評価は、技術協力の視点(評価5項目)と技術協力以外の観点(「国際相互理解」「国際協力の国内的理解促進・人材拡大」「青年育成」)により行われた。具体的な調査方法としては、評価対象の協力隊員へのアンケート調査、隊員最終報告書の分析、現地調査による隊員配属先及び関係機関へのヒアリング調査などである。
カンボディア政府が明確な職業訓練計画を持っていない、訓練内容と市場のニーズが合致していない、政府の体制が整っていない、工業が未発達で就職口が限られているなどの様々な阻害要因があるものの、協力隊員は限られた予算のなかで活動を効率的に行い、カウンターパートの技術向上、カリキュラムや教科書の作成、訓練機械の整備など、訓練技術の向上に一定の効果を上げていることが確認された。また、アンケート調査及び聞き取り調査の結果から、技術協力以外の観点でもカウンターパートや訓練生の日本に対する親しみが増した、帰国後に多くの隊員が任国の紹介活動を行っているなど、予想以上の効果があったことがわかった。
カンボディア政府は今後職業訓練分野のマスタープランを作成し、本格的に職業訓練分野の強化を図ろうとしている。JICAも職業訓練から就職までの各ステップの現状に留意しつつ、技術協力を継続すべきとの提言がされている。
5. ホンデユラス「保健医療」(1999年度) 調査団構成: 山形 洋一 JICA国際協力専門員(団長) 唐澤 拓夫 JICA企画・評価部評価監理室 和田 知代 グローバルリンクマネージメント株式会社 |
ホンデュラスは中米諸国の中でも最も経済開発が遅れている国の一つである。同国政府は、我が国を含む他のドナーの援助などを受け、保健医療分野に対し積極的に取り組んできたものの未だ解決されていない課題も残されている。我が国は、保健医療サービスの向上をホンデュラスにおける援助重点分野の一つに位置づけ、積極的な協力を実施してきた。
本調査は、過去にホンデュラスにて実施した保健医療分野の協力を総合的に評価し、協力効果を明らかにするとともに、今後同国の保健分野への協力を効果的に実施していくための教訓を導き出すことを目的として評価を実施した。
近年、他のドナーがプライマリー・ヘルスケアに重点を移し、地方の保健所などに援助が集中しているが、そのために病院が何年にも渡り事実上放置され、多くの問題が顕在化してきていることもあり、医療施設及び機材の整備を行う日本の協力は、ホンデュラス側に高く評価されている。また、首都に建設された3か所の都市型救急クリニックは、患者が飽和状態であった教育病院の救急患者の一部を吸収していることから、教育病院の混雑の緩和が進み、今後、より適切かつ迅速な医療サービスが住民に提供されていくことが期待される。
看護教育プロジェクトでは、看護人材育成に対する高いニーズ、カウンターパートの能力、日本の専門家の高い技術と意欲により、プロジェクト終了後も自立発展していることが確認された。1996年にJICAの開発調査により策定された基本計画は、同国の保健医療政策の基礎となったが、1998年のハリケーン・ミッチの襲来により、国の保健状況が変わってしまったことから、計画の中で提案された全ての事項を実施するのは難しい状況にある。
ホンデュラスに対する協力は、政府の行政能力が低いことが障害となっている反面、比較的実施体制の整った部門への投資は小国のために効率が良いという側面もある。今回評価調査を行った看護教育、地域中核病院、都市型救急クリニックなどについての協力はいずれも、点としての援助の成功例と呼ぶことが出来よう。しかし、長期的視野に立てば、この点としての援助の成果を国家保健開発政策に反映させる努力が主要ドナーである我が国に要求されている。
6. タイ、フィリピン「沖縄県との連携協力」(1999年度) 調査団構成: 嘉数 啓 沖縄振興開発金融公庫副理事長(団長) 鈴木 徹也 JICA沖縄国際センター業務課長代理 芳賀 克彦 JICA企画・評価部評価監理室 |
近年、開発援助においては貧困緩和、生活水準の向上など地域と密接に関連した問題への取り組みの重要性が増してきている。また、日本のODAの基本的指針としても、地方自治体を含む国民参加型協力の推進や地方自治体による地域活性化及び国際化が重視されてきている。このような背景のもと、JICA沖縄国際センター(OIC)と沖縄県との連携協力事業として実施された協力を対象として、6つの研修員受け入れプログラムを中心として、その成果を評価し、今後のJICAと沖縄県との一層効果的な連携協力の実施に向けての提言を導き出すことを目的として本調査が行われた。
日本における関係者へのアンケート・聞き取り調査及びタイ・フィリピンにおける現地調査を含む調査の結果、効率性については、研修の範囲やレベル、また時間配分や講師の能力について、おおむね「良い」という結果が得られた。目標達成度については、研修実施機関、研修員とも技術の移転・習得状況について高く評価しており、目標はおおむね達成された。効果については、研修によって習得した知識・技術が帰国後に研修員から第三者へ伝達されたり、研修員自身の仕事ぶりが向上するという形で活用されている。さらに、アンケート調査の結果90%以上の研修員が研修で習得した知識・技術は現在も役立っていると答えていることから、研修内容の妥当性は認められる。また、研修実施機関は、今後も研修員の受入に対する強い協力姿勢を見せていることから、研修継続という面での自立発展性は大いに認められることが判明した。
以上の評価結果をふまえ、今後国際協力におけるJICAと沖縄県の連携関係を一層拡大、強化していくために、沖縄の特徴と経験を生かした協力の拡充、適正な研修員の選考、研修実施機関間の横のつながり強化、帰国研修員の情報整備などの研修実施体制の改善が教訓・提言としてあげられた。
7. フィリピン「上水道・水資源開発」(1999年度) 調査団構成: 大川 直人 JICA企画・評価部評価監理室長代理(団長) 横田 一郎 JICA個別長期派遣専門家 中澤 哉 JICA企画・評価部評価監理室 小林 茂 システム科学コンサルタンツ株式会社 福田 文雄 株式会社ソーワコンサルタント |
「安全な水」はベーシック・ヒューマン・ニーズを満たすための要素の一つである。フィリピンでは、都市部への急激な人口流入と経済活動の集中に伴う都市用水の不足や水質の悪化などの問題が深刻化しており、その対策が急がれている。このような背景の下、JICAはフィリピンに対して、従前より上水道・水資源開発分野を重点援助分野として協力を実施しており、対フィリピン国別事業実施計画においても、特に貧困対策の観点から「上水道整備」を援助課題として取り上げている。
フィリピン政府は、1987年に「全国上下水道・衛生基本計画1988-2000年」を策定し、上水道普及率を63%から94%へと向上させることを目指している。また、上水道供給組織の効率的な運用のため、首都を担当するマニラ首都圏上下水道公社(MWSS)の事業実施部門を1997年8月から民間会社2社に委託し、また、地方を担当する地方水道庁(LWUA)の組織改編をおこなっている。
こうした状況を踏まえ、フィリピンの上水道・水資源開発分野に対する過去のJICAの協力を評価してその効果を明らかにすると共に、評価結果から今後の援助の改善のための教訓・提言を抽出することを目的として本評価を実施した。
本調査の結果、JICAのこれまでの協力は、「開発調査による本分野の計画策定」と「無償資金協力による村落の施設整備」が中心であり、特に計画策定では主導的な役割を果たしてきたことが分かった。また、策定された計画は、各種の借款などにより事業化されており、無償資金協力によって整備された施設と合わせて、水道普及率・料金・サービス格差の是正に貢献してきたと評価できる。さらには、他のドナーに先駆けて、水質改善や漏水対策についての協力を行ってきたことは大きな特徴である。
今後は、水質の改善と、水道事業運営の効率的改善のための技術協力を重視すべきである。また、上水道事業の民営化が進めば、採算性の確保が困難な貧困村落における「安全な水へのアクセス」はますます困難になると考えられるので、そのような地域に対する対策も併せて実施する必要がある。
8. マレイシア「中所得国における協力隊事業」(2000年度) 調査団構成: 数原 孝憲 外務省参与(団長) 伊藤 耕三 JICA青年海外協力隊事務局海外第二課長代理 阿部野 肇 元マレイシア協力隊調整員 加瀬 晴子 JICA企画・評価部評価監理室 渡辺亜矢子 株式会社地域計画連合 |
青年海外協力隊事業は青年の国際ボランティア活動を支援するものであり、技術移転の他、国際相互理解促進や青年の能力開発などの協力効果が期待されている。しかし、技術レベルが一定の水準に達している中所得国では、技術移転を中心とした協力効果の発現にバラツキがあることが指摘されている。
中所得国において効率的・効果的に協力隊事業を展開していくために、マレイシアを主な調査対象国として、技術レベルが一定の水準に達している中所得国における協力隊事業評価のケーススタディを行い、今後の事業改善のための教訓・提言を得ることを目的として、本調査を実施した。
調査の対象範囲は、マレイシアにおいて過去5年間に帰国した1)日本語教師、2)スポーツ、3)社会福祉、4)環境、5)職業訓練の5つの分野の隊員を対象とした。また評価の観点としては1)技術協力の観点と2)それ以外(青年育成、国際交流、国際協力への国民理解促進)の観点から評価を行うこととし、さらにそれぞれの観点を1)受入国側満足度、2)隊員自己評価、3)政府ベースの事業としての妥当性の3つの基準で評価した。
技術協力の観点からは、受入国側の9割以上が、JOCVの活動に「満足」と回答しており、また、隊員側からみた自己評価についても全体の7割近くが活動目標は「達成されている」と回答していることが判明した。また活動の成否を左右する要因としては「配属先の理解」が最も多く指摘されていた。ただし、分野によっては既にマレイシア側で必要な人材が確保可能なものもあり、隊員が効果的に活動できる領域を見定めつつ、将来的にはマレイシア側に引き渡せるよう、相手国側に働きかけながら協力を行う必要がある。
技術協力以外の効果としては、受入国側からは、隊員の帰国後も64%が何らかの形で交流を続けていた。また、隊員側の評価によれば、全体の8割が協力隊活動は自身の技術・国際協力のスキルの向上に「役立った」と回答しており、また9割強が協力隊活動が自己の成長にポジティブな影響を与えたと指摘していることから青年育成の面でも効果を上げているといえる。さらに、政府ベースの事業としての妥当性の観点からは、マレイシアはLook East政策の下、日本を目標として国の発展を図っていることから、協力隊事業を通じて両国が今後も良好な関係を築いていくことの重要性は依然高く、妥当性は高いといえる。
今後の協力隊事業のための教訓・提言としては、(1)要請背景調査を低所得国と比べて格段に高い精度で実施する必要がある、(2)分野別の小規模な「卒業」を目指して計画的な協力を考えていく必要がある、(3)協力隊の活動の多様性を明示して、広報していく必要があるなどが指摘されている。
9. タイ南南協力支援(2000年度) 調査団構成: 三好 皓一 JICA企画・評価部評価監理室長(団長) 村岡 敬一 JICA企画・評価部援助協調室長 山田 恭稔 社会開発国際調査研究センター副主任研究員 阿部 亮子 JICA企画・評価部評価監理室 小島 公史 株式会社パシフィックコンサルタンツインターナショナル |
我が国は、開発途上国が行う南南協力に対する支援を重視してきており、その意義として、適正技術の移転、低コスト、南南協力実施国のドナー化支援を挙げている。JICAもこの方針を踏まえて、第三国研修や第三国専門家派遣などの事業を実施している。
本評価は、1994年度から1999年度までにシンガポールとタイにおいて実施された第三国研修及び第三国専門家派遣について、我が国の南南協力支援の考え方と照らし合わせて評価することにより、今後のJICAの南南協力支援における効果的な戦略及び実施上の留意点について提言を行うことを目的として実施された。
第三国研修は、我が国が南南協力実施国へ移転された技術を周辺国へ再移転することを基本とし、国内研修よりも低コストでより効率的な研修が実施できること、言語・文化・気候的条件が類似していることにより、よりよい研修環境で研修が実施できること等を利点として挙げられている。しかし、現在の第三国研修においてはそのような考え方が開発協力が南南協力実施国及び周辺国と共有され、案件採択・計画立案が実施されているとは限らないことが明らかになった。
第三国専門家に関しては、適正技術の面で日本人専門家に対する比較優位性をもち、多くの第三国専門家自身の知識、経験の蓄積による能力向上およびネットワーク形成などの効果があることが確認できた。一方で、現在のようにJICA専門家を含むJICAプロジェクトのみと結び付けるのでは、専門家派遣国に対するメリットが明確でないことも明らかになった。
今回の調査では、シンガポール、タイ両国とも南南協力の実施に当たっては、できるだけ多くの国の研修員に自国を知ってもらうことを挙げており、南南協力を進める背景に諸外国との外交的側面が強いことが明らかになった。したがって、南南協力における本来の技術協力のみならず、これら外交的側面とを考慮する必要がある。
また日本の南南協力支援に対しては、タイの技術経済協力局をはじめ日本側関係者からも戦略・方針が見えないという意見があった。さらにシンガポールの場合、日本側としては新興援助国育成の目的を前面に出しているが、シンガポール側としては「対等なパートナー」として実施すべきであるという意見が出されている。これらの意見を踏まえ、日本として南南協力支援の意義を再整理し、南南協力支援に対する戦略・方針を確立することが必要である。
10. フィリピン「人口・健康セクター/USAID連携Part I」(2000年度) 調査団構成: 北谷 勝秀 特定非営利活動法人2050理事長(団長) 尾崎 美千生 JICA国際協力総合研修所客員専門員 西田 良子 家族計画国際協力財団国際事業部長 Christine Pileavage JICA企画・評価部援助協調室 中澤 哉 JICA企画・評価部評価監理室 駒沢 牧子 株式会社設計計画研究員 Gorra, N. Marilyn Hewspecs, Inc. |
日本政府は、「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)」(1994年)や「沖縄感染症対策イニシアティブ」(2000年)を発表しており、人口・保健セクターでの援助に積極的に取り組んでいる。本評価は、我が国ODAの重要な対象国であり、日米協調の強化の観点からも適当であるフィリピンを対象として、フィリピンにおいてJICAが実施した人口・保健分野の協力のうち、家族計画・母子保健(リプロダクティブ・ヘルス:以下、RH)分野について評価を行ったものである。評価対象は、1992年4月~2000年2月の間に実施された各協力形態のプロジェクトを対象とし、これらを「協力プログラム」とみなして、既存統計の活用とアンケート調査の実施により、試行的に「協力プログラム」の評価を行った。
本協力プログラムは、プロジェクト方式技術協力のパイロットサイトを中心に、RHに関する住民意識の変化や行動様式に一定の成果を上げている一方で、地域差のみられる項目もあった。また、設備や薬剤などの基盤整備やサービスの提供といった点では比較的大きな向上がみられたが、サービス提供者の質の向上については顕著な改善は見られなかった。これに加え、カトリック教会の考え方が根強く残っており、プログラム目標の達成を制約したと考えられる。
RH分野は、多岐に渡るセクターの総合的な取り組みにより大きな成果が期待でき、JICAの協力においても複数の関係部署の連携を図るとともに、医療関係者のみならず人口学・社会学・統計学・WID等の専門家を積極的に投入する必要がある。このことは、欧米援助国・国際援助機関が推進している成果主義に呼応するものであり、我が国においても、より効果的・効率的な協力形態としてのプログラムの実施体制を整備していくことが重要である。この点、実績の蓄積のあるUSAIDとの連携から得られるものは多い。