JICAの国別事業評価は、評価対象国におけるJICAの協力をプロジェクト横断的に評価した上で、当該国におけるJICAの協力全般の効果や協力実施上の問題点を整理・分析し、当該国に対して今後協力していくうえでの教訓・提言を導き出すことを目的に実施されています。
1.メキシコ・国別事業評価(1999年度) 調査団構成: 小山 伸広 JICA国際協力専門員(団長) 笹尾 隆二郎 アイシーネット株式会社 高橋 悟 アイシーネット株式会社 山本 愛一郎 JICA評価監理室調査役 阿部 亮子 JICA評価監理室 吉田 充夫 財団法人日本国際協力センター(通訳) |
1990年代に入り、先進各国は政治的・経済的・社会的理由などから公共部門の制度改革を推進しており、各国の援助機関は途上国への援助において、個々の事業の「成果をあげる」ことが強く求められるようになった。しかし、途上国の「開発課題の解決」に向けられる様々な援助事業が全体として成果をあげることが求められる今日では、個別事業の成果を向上させることに加え、援助事業全体としての成果を向上させる枠組みづくりが求められている。
このような背景のもと、OECDのイニシアティブにより援助事業を全体として評価する国別評価の枠組み造りがドナー諸国・国際機関の協力のもとに進められている。本評価は、このような評価の枠組み造りの一環として、1988年から1998年まで我が国がメキシコに対して行った24プロジェクト及び3事業形態の協力案件を対象として実施した。
本評価の特長は、メキシコへの協力を「ニーズ確認サブ・フレーム」「事業評価サブ・フレーム」並びに「援助政策サブ・フレーム」という3つのサブ・フレームから多面的に評価し、最終的に総合評価を行っていることである。「ニーズ確認サブ・フレーム」では、対象期間内のメキシコの政策を分析し、同国の開発ニーズがどのように変遷してきたかを確認している。「事業評価サブ・フレーム」では、(1)個別案件の評価、(2)複数の個別案件を束ねて評価するセクター評価と援助形態評価、さらに(3)すべての案件を総合化して評価する国別評価により構成されている。個々の評価は、5段階にレイティングされ、評価点の高低と促進・阻害要因が分析されている。「援助政策サブ・フレーム」では、メキシコの開発政策における我が国の協力の位置づけを明確化し、今後我が国の開発課題へ取るべきアプローチを提案している。
メキシコが高中所得国であることから、我が国の対メキシコ援助枠は限られたものとなっているが、この限られた援助枠をメキシコの開発に向けて効果的に活用するためには、「開発課題に対する取り組み」を強化し、開発課題に対して適切なセクターと援助形態の組み合わせを検討し、援助資源を集中していくことが望ましいといえる。本評価では、新たな開発課題として、開発の遅れた地域への支援に重点をおくことと、すでに近隣諸国に対しODAの実施を始めているメキシコのドナー国化の促進、日墨友好関係の強化などがあげられている。
2.ボリヴィア:国別事業評価(2000年度) 本評価はアイシーネット株式会社に外部委託して実施された。主な団員は以下の通りです。 調査団構成: 笹尾 隆二郎 アイシーネット株式会社 薄田 栄光 アイシーネット株式会社 冨岡 丈朗 アイシーネット株式会社 長田 博見 アイシーネット株式会社 |
JICAはこれまでボリヴィアに対して「基礎生活分野(保健医療・基礎衛生など)」、「農林水産畜産」、「インフラ整備」、「環境保全」、「資源開発」の各分野に重点を置いて幅広い協力形態による支援を行ってきた。本調査はJICAがこれまでボリヴィアに対して実施した協力について総合的に評価するとともに、その教訓・提言を国別・課題別アプローチの強化を含む今後のJICAの事業実施にフィードバックすることを目的として実施された。
調査の対象は、1985年から1999年までに実施された協力のうち特に「基礎生活分野」、「農林水産畜産」、「インフラ整備」の3分野を中心とした27件のプロジェクトとした。
評価のフレームワークは、(1)ボリヴィアにおける社会経済開発の推移と現状の把握、(2)案件評価・セクター評価・横断的な評価の3つから構成される評価、(3)教訓の抽出と提言の作成の3つの段階から構成されている。また、特に(2)のうち個々の案件評価については評価5項目による評価を5段階評価法で、セクター評価については政府統計などによる各セクター指標の推移による援助効果の確認と、各セクターにおける重点開発課題とJICAの支援の適合性の確認を、さらに横断的評価では協力形態別評価としてプロジェクト方式技術協力、無償資金協力、開発調査の3つの協力形態別の評価を行い、さらに、貧困・ジェンダー面からの評価として地域住民に対する質問票調査・聞き取り調査に基づいた定性的な評価を行った。
評価の結果、まずJICAのボリヴィアへの支援はボリヴィアにとっても重要なセクターに対して行われていることから、その援助の妥当性は高く、また各セクターにおける重要な開発課題へのJICAの協力の適合度合いも高いと評価された。しかしながら、政府の統計などの指標によれば各セクターにおける開発効果の発現度にはばらつきがあり、「基礎生活分野」で比較的発現度が高いのに対し、「インフラ整備」では中程度、「農林水産畜産」ではやや低くなっていた。JICAが関与した個々の事業の効果もこうしたセクターの開発状況にほぼ呼応する形になっており、「基礎生活」分野がやや高く、「インフラ整備」「農林水産畜産」が中程度に留まっている。
なお、横断的評価の結果については協力形態別に事業実績を見ると、相対的には無償資金協力の評価が高いが、協力形態間に際立った差は見られなかった。また、貧困・ジェンダーの観点から全体を概観すると、貧困格差の解消や男女格差の解消を意図的に目指し、効果をあげた事業は多くは見られなかったが、多くのプロジェクトがJICAを含むドナー社会が開発課題として貧困・ジェンダーを必ずしも最重要視していなかった時期に形成されたものであることも影響していると思われる。