1.8 国際専門家による評価
国際専門家による評価は、開発援助などの外国人専門家に委嘱して実施する評価です。評価視点の多角化、外国の専門家の評価手法など学べることが特徴です。
1.インドネシア・地方基盤整備事業(1999年度)
評価者:
ヘンリック・ショウムブルグ・ムーラー コペンハーゲン商科大学教授
現地調査実施期間:2000年1月15日~2月3日
|
■プロジェクトの目的
地方道等等、地方インフラを整備することにより、(1)市場アクセスの改善、(2)住民の健康改善、(3)雇用機会の増加、(4)地方コミュニティのインフラ管理能力の強化を図る。 これらを通じて、農村住民の経済活動を活発化させ収入を増加させることにより、住民の生活状況の改善を目指す。
■評価結果
本事業は農村住民の生活状況の改善、ひいては貧困削減に効果的に貢献した。本事業により、ジャワ島とバリ島を除くインドネシア全域に所在する3,456の村において道路を中心とする地方インフラが計画どおりに整備された。地方道路の整備は、貧困削減に向けたほとんどの活動の前提条件となるものであり、車輌、自転車、徒歩によるアクセスが改善した結果、(1)農産物市場までの輸送コストが大幅に軽減した、(2)村の住民が外部の保健施設や各種サービスを利用することが可能となった、(3)雇用増大にも効率的に貢献した、(4)農業生産、特に市場で売るための商品作物の生産が大幅に増加した。
■提言
- (1)改善効果等を測定するためのモニタリングの仕組みの改善を図る。
-
(2)プロジェクトを農村自ら管理運営するための能力開発・能力向上のための技術協力を拡充する。
- (3)整備された地方インフラを農村自らが保持し管理すべきだという意識を強化する。
■■外務省からの一言■■
本案件は、地方農村部において小規模なインフラを整備することにより、村落の生活状況の改善に、より直接的に資するプロジェクトですが、今回の評価により、所期の目的を達成していることが確認されました。今後とも効果的な援助の実施に努めていきたいと思います。
2.ウズベキスタン・市場経済化に対する専門家派遣事業(2000年度)
評価調査団:
上野 真城子 アーバン・インスティテュート研究員
Harold Katsura アーバン・インスティテュート研究員
現地調査実施期間:2001年3月12日~3月16日
|
■評価の目的
ウズベキスタンに対する専門家派遣事業の市場経済化支援への成果を把握し、併せて今後の技術協力事業のあり方及び改善について提言を得る。
■評価の結果
- (1)「市場経済化支援」を目的とした日本の専門家派遣事業として、大規模産業連関表、人材育成教育訓練、財政金融、開発計画、保健医療など進行中のものを含め、現在まで同国政府の要請をもとに延べ97人(うち1999年度は26人)の専門家派遣事業が行われている。より具体的には、経済実態把握に必要とされる「大規模産業連関表」の作成支援の専門家派遣事業(マクロ経済・統計省へ派遣)、市場経済化に伴う新しい政府の役割に沿った行政官再教育のための専門家派遣事業及び研修事業(国家社会開発アカデミーへ派遣)、医療改革に資する看護管理・母子保健アドバイザー派遣事業(保健省へ派遣)などが含まれる。
-
(2)専門家受入省庁の全てについてヒアリングすることはできなかったが、マクロ経済・統計省のホジャーエフ・バハディール次官、国家・社会建設アカデミーのジェラーエフ学長代理、保健省のアリジョン次官、そして専門家受入の取り纏め省庁の対外経済関係省のイスラムホジャーエフ次官等に詳細なヒアリングを実施し、同国政府側は日本の技術協力事業を以下のとおり評価していることが確認された。
イ) |
派遣された専門家は、OJT、セミナー開催(技術講習会等)、マニュアル等の作成・配付等を通じて同国政府側へ先進技術の移転を図っており、これら個別の派遣事業の多くは、特定の高度な技術を身に付けた人材を確実に育成している。 |
ロ) |
さらに日本の技術支援事業は、決定までに時間がかかるが、一旦決定されると、全援助国の中でもっとも素早く確実かつ効率的に実施されている。 |
ハ) |
さらに、日本の専門家は、現場の人間との協議を通じてまず現場のニーズを詳細に把握することから始めるが、これが他の援助国とは根本的に違う特色であり、その点が同国政府から高く評価されている。 |
-
(3)また、医療の有料化など市場経済メカニズム導入を柱とした医療分野改革を支援するために派遣された看護管理・母子保健アドバイザー派遣事業に関しては、保健省のアリジョン次官、クライクロビッチ次官の説明によると、医療技術の一般的向上、看護婦と医師の役割分担の適正化、看護婦の技術および責任感の向上により、派遣地域における幼児の疾病率や母子保健の状況が数量的に改善したことが確認された。
■提言
- (1)日本の今後のウズベキスタンへの技術支援は、個別の技術協力の計画・実施にとどまらず、関連する複数の技術協力をあらかじめ連携させて相乗効果を狙う「市場経済化促進プログラム」とも言うべき総合的な援助計画を立案すべきである。また、個別の技術協力の効果を測る個別の指標に加え、総合的な援助計画としての目的の達成度合を測定する総合的な評価指標を明瞭に決めるべし。これは他の援助国や国際機関ではすでに普通に実施されていることであり、今後日本が限らた援助資源の有効利用を図るとともに、日本国民のみならず国際社会にも日本の援助の効率性・有効性を説明していくうえで不可欠な試みである。
- (2)途上国側から提出される専門家派遣要請の申請用紙(「フォームA」と呼ばれる)の記入項目を、目的・目標、達成戦略などがより明確に記載される形式にするのも一案である。他の援助国の要望フォームのように不必要に詳細な質問がない点が評価できるし、要請を検討した後日本側職員が詳細を聞きにくるのでその機会に理解が深まるという意見も出されており(要請取りまとめ担当機関の対外経済関係省)、書面での要望提出以外に、緊密な意見交換の機会は今後とも確保していくべきであろう。
- (3)大規模な技術協力の実施の前に、パイロット・プロジェクト(試験的実施)を行い、効果や効率性を確認することも一案。また、パイロット・プロジェクトの実施により、大規模実施の際の留意点・改善点も明らかになる。これは他の援助機関、具体的にはアメリカ国際開発庁(USAID)で一般的に実施されている仕組みであり、限られた援助予算内での効率的・効果的実施のために、日本の援助においても有効ではないか。
- (4)なお、今回の評価調査中に、我慢強く一歩一歩着実に改革を進めていく点など日本とウズベキスタンは気質や文化が似ている、とのコメントが、ウズベキスタン政府及び教育機関関係者から度々出された。ウ国の市場経済化及び民主化の前途が非常に厳しいと考えられる中、今後技術協力を考える上で、日本はこの点を最大限に利用していくべきであろう。

国家社会建設アカデミー:
市場経済化の人材養成プロジェクトの進行状況について協議
■■外務省からの一言■■
市場経済化促進は、社会セクターの再構築、インフラ整備と並び、ウズベキスタンに対する我が国からの支援の重要3項目の一つに捉えられています。市場経済化支援は、法制度整備、金融、財政、税制の再構築等、課題が多岐に亘るため、今回の専門家による評価にもあるとおり、総合的な視点からの支援計画策定により更に効率的な支援に心がけていきたいと考えます。また、専門家に評価して頂いた、被援助国との密な接触による細かいニーズ汲み上げに関する努力は、今後とも在外公館並びにJICA事務所を通じて継続していく所存です。
前のページへ /
次のページへ