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1.7 シンクタンクによる評価


 シンクタンクによる評価は、1998年度に導入され、経済協力に関わる研究機関の有する情報収集能力・分析力と外部の有識者の有する知識・専門性を活用することにより、評価視点の多角化、評価の総合化を目的に行っています。


1.パレスチナに対するODA評価ミッション(1999年度)

評価調査団:
 小早川敏彦 東京三菱銀行常任顧問・中東調査会常任理事
 中島  勇 財団法人中東調査会研究員
 石井 幸造 財団法人国際開発センター調査部研究員
 向 賢一郎 外務省中近東アフリカ局中近東第一課
 保科 秀明 国際協力事業団国際協力専門員

現地調査実施期間:1999年8月15日~23日

評価の目的

 我が国は、1993年秋に細川総理(当時)が国連総会で2年間に2億ドルの援助を行うことを発表し、また98年秋に小渕総理が日米首脳会談で99年と2000年の2年間で2億ドルの援助を行うことを発表して以来、93年秋より99年7月までに総額4億5000万ドルの援助を実施している。こうした中、99年10月14~15日に、東京でパレスチナ支援調整会議(AHLC)が開催された。我が国は、同会議に向けたイニシアティブとして、世界銀行と協力して「過去5年間のドナーによるパレスチナ支援の分野別評価」を行い、その中間報告を行った。また、それと並行して、過去5年間の我が国の対パレスチナ援助の効果についての評価を行い、将来の援助の方向性への提言を含む報告書を作成することが本評価の目的である。


評価結果

  • (1)援助の枠組みと政策分担
     これまで我が国によるパレスチナ支援の枠組みは大きく、国際機関への資金拠出と二国関援助による無償資金協力、草の根無償、技術協力、選挙協力であった。過去5年間の援助をみると、各援助機関による援助は自治暫定合意直後ということもあって、援助側の思料から援助対象が選定されていた感が否めない。しかしこれも98年以降パレスチナ開発計画が立案されるに至って、援助機関の間での調整も進み始めたという全体状況が見えてきた。
     しかしもう一歩進めてパレスチナ問題の特殊性を考慮すれば、国際機関のパレスチナ情勢への関与と二国間関係から見たパレスチナ情勢への関与とは質的な違いがあるように見える。たとえば二国間関係のもとでは内政干渉とも取られる事象のなかには、国際機関の立場にたてば内政干渉にならないものもあるであろう。特にパレスチナ当局とイスラエル政府の開発協議の簡素化や、パレスチナ当局の援助からの自立のシナリオづくりへの支援といった分野は国連機関のイニシャティブに期待したいところである。
     もしそうだとすれば、今後の5年間の援助調整においては、援助分野の分担に加えて、援助効率を高めるための周辺環境改善として何が出来るか討議されることが求められる。
  • (2)難民問題
     パレスチナ難民が発生してからすでに半世紀以上の時がたって、第2世代、第3世代の難民が生まれている。パレスチナ自治が実現したとしても、これら難民の全員が帰国するとは考えにくく、難民のなかには難民から移民という立場に移行するものがでてくるはずである。そのときの受け入れ国の支援策や援助機関による援助支援の在り方についても長期的には議論されるべき時期が到来するのではなかろうか。長期にわたる難民支援の結果、なかには難民受入国の国民貧困層の問題が顕在化してきた国もある。周辺難民受け入れ国における貧困対策支援といった課題が新たに浮上してくる可能性を否定できない。また長期的には、UNRWAのあり方の変化も視野に入れておくべき課題である。パレスチナ暫定自治政府・準国家・国家が成立した時点で、UNRWAは当初の目的を終了するからである。
  • (3)パレスチナの経済的自立のシナリオ
     パレスチナの国家主権を高め、経済的な自立を計るために引き続き援助が求められるが、援助国の援助予算が縮小傾向にあり、なおかつ新たな援助需要国が発生してきている状況のなかで、長期的にはパレスチナ自身が経済的な自立のシナリオを描くことが求められてこよう。このシナリオを確かなものにするためには周辺国を含むマクロな経済環境を安定させるとともに、パレスチナ国内のミクロな地域組織の確立と近代化が欠かせない要素である。

2.タンザニア・首都圏道路網整備における社会的・経済的効果(1999年度)

評価調査団:
 太田 辰幸 株式会社国際開発アソシエイツ アソシエイツエキスパート
 笠  芳子 株式会社国際開発アソシエイツ パーマネントエキスパート
 黒澤 靖彦 株式会社国際開発アソシエイツ アソシエイツエキスパート

現地調査実施期間:2000年2月13日~24日

評価の目的

 ダルエスサラーム市は、タンザニア連合共和国の、経済、社会、行政の中心であるが、1980年代後半当時の市内道路網の大半は、市の財政難による維持管理の欠如のため、道路破損が著しく、市内の交通安全の障害であるばかりでなく、交通渋滞による輸送の遅延が、同国の経済発展にとっても少なからぬ障害となっていた。

 「首都圏道路網整備計画」は、このような同市における都市内道路網の改良、修復を我が国の無償資金協力によって実施したもので、1991年から1995年まで4期に分けて実行された。

 本調査は、この道路整備を対象とした経済協力プロジェクトの及ぼした社会的・経済的効果について事後評価を行ったもの。


評価結果

  • (1)広範にわたる道路整備効果
     道路網整備プロジェクトの整備効果は、非常に広範囲な分野に及んでいることが確認された。道路整備プロジェクトは、まず建設段階において、その巨額な建設投資が4年間の工事期間中に、ダルエスサラーム市の地域経済の成長に大きく貢献したことが推定された。道路整備の完了後は、整備された道路のもたらす自動車の走行費用や時間費用の節減効果が輸送の効率化を生み、その効果は、運輸交通業だけでなく荷主、利用者を通じて広く産業の各分野や市民生活に及んでいた。運輸交通業へのインパクトは、またミニバスなどの公共交通の発展を促した。
     一方、道路整備による交通の利便性の向上は、沿線に新たな商店などの立地を促し、周辺の商業・流通業の活性化に大きく寄与したことが判明した。また、交通利便性の向上は、通勤圏の拡大にともなう雇用機会の増大をはじめ、医療、教育施設や買物、レジャー施設等へのアクセス条件の改善が、これらの施設への訪問回数を増加させるなど、地域の市民生活にも大きな影響を与えた。
     さらに、排水の改善や街の景観など道路整備の周辺環境に対する改善効果も、周辺の地域住民に大きく評価されていることも確認された。
  • (2)大きな建設投資効果
     道路整備プロジェクトは、建設の期間中に、資材購入や人件費などの形でダルエスサラーム市の道路建設関連産業に毎年5.5億タンザニア・シリング(3.75億円)の建設費を4年間にわたり投入してきた。資本投入の乗数効果を2倍と仮定すると、年間11億タンザニア・シリング、4年間では44億タンザニア・シリング(30億円)が道路整備の地域経済に与える所得創出効果となる。この額は、1991年における同市の地域GDPの0.6%に相当し、成長率23.17%(名目)に対して0.7%の引き上げ効果、すなわち約3%の成長寄与率があったと推定される。
     また、建設期間中に平均して1日300人の建設労働者を雇用しており、潜在的な失業率が高い同市において、道路整備事業のもたらす雇用機会創出の効果も大きい。さらに、建設工事の下請けなどを通して、日本の先進的な施工技術や近代的な管理手法を身に付けた建設企業が育成されたことも、その後の同市の発展に大きく寄与したと想定される。
  • (3)認識が薄い自動車走行便益
     道路整備の計画段階の経済評価では、自動車の走行費用と時間費用の節減が直接の経済便益として計上されている。1999年までの便益の合計は、約83億タンザニア・シリングと算定されているが、最近の著しい自動車交通量の伸びを考慮すると、想定より早く、既に最大便益の交通量に達していると想定され、約22%増の101億タンザニア・シリングと推定される。ただし、今後は交通量が飽和状態となるため、2010年までの15年間の累計便益は、341億タンザニア・シリングとなり、当初の予測値300億タンザニア・シリングと大きくは変わらない。
     しかし、今回の調査では自動車走行便益は、輸送交通業を除きほとんど認識されていないことが明らかになった。この理由としては、第1に道路整備の開始から現在までの10年間に、5倍以上にのぼる価格インフレがあったこと。第2に、先進諸国と異なり自家用車利用者が少ないこと。第3に対象プロジェクトが都市内道路の1部であり、市全体の交通渋滞が依然として解決していないことなどが挙げられ、実感として走行費用の節減効果を感じることが無かったものと想定される。
  • (4)公共交通の発展
     道路整備は、バス、タクシーなどの道路公共交通手段の発展に大きく寄与した。特に、道路整備以降は、庶民の足としてのミニバスの発展が著しく、1999年現在で、市内に約1万台を数えており、道路整備前の1990年当時の600台と比べると、約17倍、道路整備完成後の1995年と比べても2倍以上に増加している。ミニバスの急増は、個人営業の参入自由化による影響が大きく、発展要因のすべてを道路整備に帰することは出来ないが、道路整備以降は、車両維持費が大きく低下したこと、乗客需要が大幅に増加したことの2点に道路整備の効果が認められる。
  • (5)大きい市民生活への間接効果
     今回の聞き取り調査では、道路整備の間接効果が市民生活の隅々にまで及んでいる事が確認できた。例えば、道路整備による輸送の効率化が周辺の商業に品揃えの豊かさや、競争をもたらし、周辺住民の買い物の利便性が大きく改善されたこと、通学経路の交通条件が大きく改善されたことで、小学校の生徒数の増加や出席率の向上、遅刻生徒の減少などの効果があったこと、道路整備をきっかけにミニバス輸送が庶民の足として発展し、地域住民の行動範囲が大きく広がったことなどである。また、道路整備に伴う排水の改善など周辺環境の改善は、周辺住民の衛生環境に大きく貢献したことも明らかである。
  • (6)見えにくいマイナスの効果
     今回の調査では、プロジェクトのプラスの効果ばかりではなく、マイナスの効果についても差別なく収集に努めたが、マイナスの効果を指摘する事例は比較的少なかった。ただし、いくつかの事例は指摘されている。交通事故の例で見ると、道路整備により道路の路面状態が改善されたため、路面の欠陥に起因する車の転倒事故や事故に伴う交通渋滞などは、明らかに改善されたが、一方で、スピードの出しすぎや酔払い運転など、道路が改良されたために増えた事故もあり、むしろ事故は増えたと評価した地区もある。
     大気汚染については、道路整備地域の詳しいデータがなく、客観的な状況を確認することができなかったが、道路整備により交通量の増えた地域では悪化したという指摘もあった。ただし、市全体の交通密度がまだ低いため、地域住民も、まだそれほど深刻な事態とは受け止めていないようである。道路の交通騒音については、悪化したとの指摘があった。マイナス効果については、短期間の調査で把握し難い面もあり、今回の調査結果を額面どおりに評価することには危険もある。
  • (7)予期しなかった効果の発見
     今回の調査では、道路整備の効果として当初全く予想していなかった効果項目も見出すことができた。例としては、道路の地下に埋設されている電話回線が道路の整備以降はケーブルに損傷を受けることがなくなり、電話、ファックス、インターネットなどの情報通信手段御確実性が増したこと。マイナス効果の例として、道路整備後に路側の排水溝がしばしば詰まるため、かえってマラリア蚊の発生源になる等の指摘である。

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