1.6 有識者評価
16.ケニア、南アフリカ・NGO支援(2000年度)
評価調査団:
今里 義和 東京新聞論説委員
現地調査実施期間:2001年2月12日~22日
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■評価結果
- (1)日本経済が長期の不況に苦しむ昨今、納税者たちは、直接利益に結びつかない途上国支援に対し、せちがらくなりがちである。半面、途上国の人々は日本の状況が問題にならないほど厳しい貧困に苦しんでいるのであって、そこに救いの手をさしのべるのは国際社会の一員としての義務でもある。
この相反する要請の一つの調和点は、特に日本のNGO、または日本人が参加しているNGOに対する「草の根無償」協力の分野だろう。
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(2)
(イ) |
「オレンジファーム地域開発センター」では、低所得層地域の女性の自立を図るため、小規模の資金で託児所、職業訓練施設としての裁縫教室などを整備していて、協力にあたっている日本のNGOが「日本の顔」にもなっている。 |
(ロ) |
「プリンセス・ダイアナ・モハウ児童ケア・センター」は、HIVに感染した児童らを保護、収容する施設であり、日本のNGOの姿はなかったが、玄関入り口の目立つ場所に日本の貢献を顕彰するプレートが飾られていて、少なくとも日本の足跡がしるされていた。 |
(ハ) |
「ガイゼ小学校」及び「エンブ子供診療所」は、首都ナイロビから車で2時間以上かかる郊外に定着した日本人夫婦が、学校建設に協力、あるいは医療や職業訓練の施設を直接運営している事業で、同夫婦の、子供を失った苦難や強盗の恐怖を乗り越えながらの活動は特筆に値する。 |
(ニ) |
「セーブ・ザ・チルドレン・センター職業訓練校」は、ナイロビ近郊で孤児、ストリートチルドレンらを保護して織物、陶器、農業などの職業訓練を行うのが目的で、日本人主宰のNGOが運営に奮闘している。 |
■提言
- (1)「草の根無償」は、性格上、1,000万円未満の比較的小規模な支援が中心である一方、申請が大量に寄せられる大使館も多い。アフリカ各国にある大使館には、経済協力担当者は2~4人程度しかいないのが通例のようであり、申し込み受付、審査、供与、事後検査といった事務の処理をこなしていくのは相当に煩雑な仕事になる。
しかし、どの案件が最も支援を必要としているのか、あるいはどの案件に支援すれば最も協力の効率が高いのかは、現地を訪れてみなければ実際にはわかりにくい。たとえば、同じケニア国内の小規模無償資金協力であっても、井戸さえないガイゼ小学校と、給水施設を完備したセーブ・ザ・チルドレン・センター職業訓練校とでは、「ありがたみ」に大きな開きがある。
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(2)「草の根無償」をさらに展開していくには、こうした差を事前に情報収集して支援金額に反映させる努力が必要である。それには大使館の要員の確保、予算手当がまず不可欠であるという印象を強く受けた。
とりわけ、南アはこの地域ではいわば経済大国であり、基本的には国内における「富の再配分」の自助努力を優先させることとし、日本の人道上の経済協力は、できるだけ、より貧しい国に振り向けるべきである。南アにおいては、単純な人道支援よりも「周辺国を含む地域の安定に果たす役割への支援」といった戦略的支援に重点を置くべきであり、「草の根無償」は、日本のNGOまたは日本人参加のNGOを最大限優先すべきではないか。
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(3)また、各事業の支援金額と整備された施設を見比べると、効率性にもかなりの開きがあるように見える。プロジェクトのモニタリングや評価は、外部委託してでも厳密に実行すべきだ。
さらに、最も基本的な問題は、日本のNGOがもっとこの制度を活用できるよう、プロの人材と組織を育成することだ。たとえば「専門化」、「提携・合併による大型化」といった目標を立てつつ、日本国内の教育訓練体制を急いで整備、強化していく必要がある。
■■外務省からの一言■■
- (1)草の根無償は、少額であるが木目細かな手当を行うことが可能であり、かつ末端の一般庶民に日本の「顔が見える援助」として受け止められる制度であり、今後とも一層活用したいと思います。
- (2)また、提言にも指摘されているとおり、制度導入後10年が経ち、予算、件数が飛躍的に伸びていることから実施体制の強化が急務です。案件の適正な実施及び在外公館の対応能力の強化のために、専門家、青年海外協力隊員との連携を一層強化するとともに、外部調査委託制度を更に活用していきたいと考えます。
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(3)長年の白人支配体制の結果、南アフリカの所得格差は世界で最悪です。南ア政府は格差の是正に取り組んでいますが、急激な富の再配分はむしろ経済・政治上の混乱を来すとの立場であり、日本を含む国際社会も同意見です。従って、我が国は草の根無償を含む南ア貧困層への支援は引き続き必要であると認識しています。また、中央・地方政府の政策を実施するための能力が十分育っていないことから、現在コミュニティやNGOがその代替媒体として社会開発(教育、基礎医療、職業訓練等)事業を実施せざるを得ない状況であり、これらの分野では草の根無償を継続する意義は高いと思われます。
17.アルゼンティン・国立水産開発研究所建設計画等(2000年度)
評価調査団:
川村 軍蔵 鹿児島大学水産学部教授
現地調査実施期間:2000年4月1日~10日
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■プロジェクトの目的
アルゼンティン海域の漁業資源はアルゼンティン漁船に加え日本漁船を主とする外国漁船も利用してきた。アルゼンティン政府の漁業資源管理政策はアルゼンティン唯一の水産研究所である国立水産開発研究所(INIDEP)が提供する科学的研究成果に基づくことになっているが、INIDEPの建物は極度に老朽化して研究機能に支障をきたしていた。
これらの協力は、研究所の建設と研究機材供与・技術移転によってINIDEPの漁業資源評価研究能力を向上させることを目的とする。
■評価結果
- (1)水産分野における経済協力はアルゼンティン海域の低開発漁業資源の持続的利用を技術的に支援して、アルゼンティン経済の持続的経済発展に寄与することを目指している。持続的漁業開発には開発技術と管理技術の両方が必要である。INIDEPへの協力の前に漁船乗組員養成機関である国立漁業学校にも水産無償資金協力とプロジェクト方式技術協力を行っており、アルゼンティン政府の漁業資源開発経済政策に適合していて妥当性の高い協力であると評価される。
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(2)JICA派遣専門家によるINIDEP研究職員へ行われた技術移転は、目的が明瞭で技術レベルは適切であった。専門家とINIDEP研究職員が行った技術開発共同研究は予定された期間内に目的を達成し、得られた研究成果は資源評価に必要なもので技術的・学術的に高く評価される。
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(3)INIDEPに投入された施設・機材・人材は十分活用されており、研究を継続させるために必要なリソースは確保されていて自主管理能力は申し分なく、今後も自立的発展を遂げることが期待される。また、アルゼンティン政府の漁業資源管理政策にはINIDEPの研究成果が活用されている。
国立漁業学校(野外での漁業風景)
■提言
本案件では漁業資源の評価研究能力は強化されたが、行政の範疇に入る資源管理は直接的には協力の対象としていない。現在、資源管理策の実施にあたってアルゼンティン国内に種々の混乱が生じている。本案件の成果を行政に反映させるには、我が国がこれまで培ってきた資源管理のノウハウをアルゼンティン側に移転し、適切な資源管理に寄与することが望まれる。また、INIDEPには我が国の海外漁業協力財団(OFCF)によるヒラメ等の海産魚類養殖の技術協力が行われているが(現在、専門家3名派遣)、一層効率的な水産分野での援助を行っていくためにも、OFCFの事業との役割分担の明確化や連携と、現地公館他の関係者による情報の共有化が望まれる。
■■外務省からの一言■■
OFCF事業の成果の有効利用を含め関係行政機関の行う技術協力の企画及び立案の調整に努め、一層効率的な援助の実施を図っていきたいと思います。
18.チリ・デジタル通信訓練センター(2000年度)
評価調査団:
上山 信一 ジョージタウン大学政策大学院教授
現地調査実施期間:2001年2月26日~3月2日
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■プロジェクトの目的
チリの通信電話サービスのスムーズなデジタル化を支援することが目的。具体的には、非営利法人(元政府機関)である全国職業訓練所(INACAP)が新規に設立した、デジタル通信訓練センター(CINCATEL)に対して、技術協力を行った期間は5年間(1992~97年)。技術移転の分野は、(A)デジタル交換技術、(B)デジタル伝送技術、(C)デジタル無線技術、(D)通信網計画技術の4つ。
■評価結果
- (1)直接の援助対象であるINACAPの研修事業の成果について
(イ) |
援助期間(1992年~97年)に行われた活動は、(a)日本人の専門家派遣、(b)日本への研修生の受け入れ、(c)機材の供与。この結果、INACAPは、全体で20人の教官を養成し、先方受入機関(INACAP)の満足度は高い。 |
(ロ) |
わが国の援助を受け入れたINACAPのデジタル訓練研修は合計3,198人(1993年~97年分)の研修生を送り出した。何人かにインタビューしたところ、コースの内容、教材については、日本が供与した機材を使った実習が出来るので、実践的と高く評価していた。また、当時のアンケート結果を見ても満足度は高い。 |
(ハ) |
今回、当時の研修生が所属する電話会社にもインタビューをしたが、本件援助は、デジタル化の時期にたいへんタイムリーかつ実践的な研修だったとする意見が多い。 |
(ニ) |
さらに視点を広げて、本件援助は、チリの通信産業の健全な市場形成に貢献し、そのことを通じてサービスの質の向上とコストの低下に貢献したと考えられる。
チリは、国営電話会社(2社、CTC Telefonica、ENTEL)の民営化(88年)及び通信分野の完全自由化(94年)及びデジタル化という3つの構造変化をテコに民間主導の通信インフラのサービス充実を図っていた。本件援助は、この分野での健全な競争環境の整備にも寄与した。具体的には、(a)ボトルネックとなりがちな技術者、中でも大量かつタイムリーに求められる現場レベルのテクニシャンの育成に貢献。(b)特に、旧国営会社以外の新規参入企業や施設業者などにも最高水準のデジタル技術を提供し、健全な競争の機会を提供した。 |
-
(2)本件援助の波及効果について
本件援助を契機として、INACAPはその後も業界のニーズに併せてインターネット分野等の研修を自律的に運営。
本件援助で育った専門家がわが国の対ボリビア援助で第三国専門家として活躍(1998年3月)。また、INACAPは、いわゆる水平協力、即ち日本の資金援助のもとで、チリが、グァテマラ、パナマ等の他のラ米諸国の研修生を受入れ、本件援助で日本から得た技術と設備を他国のためにも活用している。
- (3)本件援助の費用対効果について
本プロジェクトのケースについては、援助対象機関がINACAPという独立採算のNPO(非営利団体)であったことが、対政府機関援助よりも効果的かつ効率的な援助を可能にしたと思われる。
■提言
- (1)本プロジェクトは、個別プロジェクトとしてはかなりうまくいった案件であるといえる。しかしながら、現地の新聞報道以外には、プロジェクトの実施中も終了後においても、両国の国民に対して、本件プロジェクトの意義や成果が積極的に伝えられていない。両国民に対する広報のあり方を見直すべきである。
- (2)今回の評価対象プロジェクトは、NPO経由の援助のユニークな成功例といえる。今後は、政府機関に対する援助だけではなく、このようなNPO経由の援助の可能性を追求すべきである。
- (3)今回のプロジェクトの副次的な成果は、民営化、健全な自由競争の促進に貢献したことである。今後、特に、チリのような中進国に対する援助を検討するに当たっては、「民営化」、「健在な自由競争市場の形成」への貢献も対象にすべきである。
■■外務省からの一言■■
- (1)このプロジェクトは、チリの電気通信網が急速に拡大していく中(電話普及率:7.9%(1991年)から17.4%(1996年)、携帯電話加入者数:36,000人(1991年)から350,000(1996年))で非常に時宜を得たプロジェクトであった。また、指摘されているとおり、このプロジェクトの波及効果は、チリだけではなく、中南米諸国の専門家にも及んでおり、極めて効果的なプロジェクトでした。
- (2)このプロジェクトの意義や成果について積極的に両国民に広報を行っていきたいと考えます。
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(3)IT分野での協力は、チリ側の関心も高いので、今後もチリに対してIT分野においてどのような協力が可能かを検討していきたいです。
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(4)チリのような中進国に対する援助については、民間セクターの重要性、政府機関との役割分担を視野に入れ、民間セクターへの裨益をも考慮してい行く必要があります。
19.サモア・国立大学拡充計画等(2000年度)
評価調査団:
小林 泉 大阪学院大学教授
現地調査実施期間:2001年3月16日~21日
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■評価結果
- (1)施設等の無償協力援助については、主として、第一に利用状況、第二には維持管理状況の如何にてプロジェクトの成否を判断した。
(イ) |
国立大学拡充計画1997年から2001年の間に、学生数は2.2倍に増加した。新キャンパスはこれら倍増学生の受け入れに貢献し、施設の有効利用が実現していた。サモアの伝統建築ファレを模した大集会施設の使用は、有料で一般市民にも休日開放されるなど、多目的な利用が行われている。建物の管理は概ね良好であったが、美観を重んじたファレの木製屋根は、既に腐食箇所が出現しはじめており、近々の一部修理が必要な状況にあった。
拡大する大学運営に関しては、学長アドバイザーである日本の技術協力専門家の存在が大きい。学事の運営管理はもちろん、日本の大学との研究交流、学生交流計画の積極的に進められており、これらはみなこの専門家が果たし得た成果である。教師として複数人のシニアボランティアが派遣されているが、彼らには総じて、大学が期待する役割を演じられる環境が整えられている。これも全体を見渡せる、政策決定レベルに関わる日本人専門家(1名)が居るからであろう。 |
(ロ) |
島嶼間貨客船建造計画1998年供与の貨客船(レディ・ナオミ号)はアピア・パゴパゴ(米領サモア)間を週1便、88年に供与した貨客船(レディ・サモアII号)は本島・サバイ間を1日3往復で週6日といずれもフル稼働し、人及び物資を輸送する唯一の定期海運路として利用されている。これを運航するサモア船舶公社は、ここ10年来の累積赤字を99年に解消し、黒字に転化した。
最新計器類を搭載した新造船は、エンジン音も小さく、船長以下、サモア人乗組員の評判は上々であった。ここにも船舶修理の技術専門家が派遣されているが、公社総裁は「フェリー事業の成功は、日本からの船舶供与と技術協力のセットにある」と指摘した。 |
-
(2)以上の二つは、利用と維持管理の双方において、当初計画通りの進展が見られる成功事例である。いずれも、施設等の供与に留まらず、適切な技術協力が伴っており、これがプロジェクトを成功に導いた最大の原因だと言えよう。

サモア国立大学:集会場(ファレ)周辺風景
■提言
- (1)大いなる利点は、大いなる欠点に繋がる。専門家の技術協力がプロジェクトの成功を支えている2事例は、無償供与から技術協力が切り離しにくいこと、成否が専門家個人のパーソナリティーに負うところが大きいことを示している。供与物が順調に運営・管理されるかは専門家の総合的能力の発揮によるところが大である。大学行政全般に関わる学長アドバイザーの場合には、この点特に顕著である。任期切れによる専門家の単純交代、現地化を念頭にした専門家の引き上げを実行すると、成功事例が失敗事例になる危険性がある。
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(2)サモア国立大学において、組織の政策に影響を及ぼせるポストに専門家を派遣できたことは特筆に値するが、一方で、ニュー・ジーランド、豪州の影響力が強いサモアで日本の専門家が受け入れられた背景を、南太平洋大学との関連で十分認識しておく必要がある。ニュー・ジーランド、豪州は、地域連帯という太平洋諸島フォーラムの方針に沿って、地域の大学教育は南太平洋大学の充実によって果たすべきだと考え、南太平洋大学への支援と国別の独立大学設立への支援は対立矛盾する行為になるため、あえてサモア大学への積極的支援を行っていないという事情がある。これら二大学を支援する我が国は、これら援助が矛盾しないことを、日本国民、関係国に対して説明できるように援助の意図を明確にしておかねばならない。
■■外務省からの一言■■
- (1)評価対象となった2つのプロジェクトは、サモア政府が国家開発計画において重点分野と位置づけている人的資源開発(高等教育)及び同国の貿易・経済上の生命線である海運セクターに対する支援であり、同国の開発に直接裨益する案件となりました。また両案件とも、サモア船舶公社総裁が指摘したとおり、「無償資金協力と技術協力の連携」により援助効果が最大源に発揮されました。無償資金協力によるハード面の整備と技術協力によるソフト面の連携がうまく実施されている例として、今後の施設・機材供与と技術協力との連携の参考としていきたいと思います。
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(2)南太平洋大学に対する協力は、この地域の遠隔・広域教育の拠点として今後とも重要であり、一方、国立サモア大学等個々の国における大学への協力も、当該国に対する高等教育、人材養成のために重要と考えています。
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(3)サモア国立大学の新キャンパスを有効利用し、一般市民にも開放する等の試みは、地域社会の開発にも資するものであり、今後の教育協力への取り組みを進めている中でそういった視点に留意したいと思います。
20.サモア、フィジー・南太平洋大学通信体系改善計画(2000年度)
評価調査団:
小林 泉 大阪学院大学教授
現地調査実施期間:2001年3月16日~21日
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■評価結果
- (1)これらプロジェクトは計画通りに実施され、従来の音声による遠隔教育のハード面について質的向上が見られると共に、これまでになかった映像画面を伴う本校と分校間の相互通信が可能になった。これにより、遠隔教育の効率化が一気に進むと共に、画面を通じての理系実験科目の実施や討論、会議等、これまでできなかった分野でのコミュニケーションのシステムが確立された。
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(2)2000年5月に起こったフィジーの国会占拠事件に端を発する社会不安により、フィジー本校への留学生が帰国するという事態が発生した。その際、本施設、機材の効力が発揮され、中断された講義や学習指導が帰国地の分校あるいは大学センターを通じて遠隔教育されたため、帰国学生のすべてが所定の期間内に予定カリキュラムを消化した。今回視察したフィジー本校・ハブ局およびサモア校・ミニハブ局の供与施設・機材は、視察時に休眠状態にあったものはなく、いずれもフル稼働しており、利用状況は良好であった。
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(3)以上により、これらプロジェクトは、援助要請目的が十分に達成された成功事例として、高く評価できる。また、二国間援助を基本とする我が国の無償援助スキームの中で、国際共有組織(南太平洋大学)に対して、しかも、豪州、ニュー・ジーランドとの協調プロジェクトとして援助が実現したことは、極めて特筆に値する。極小諸国が散在する太平洋地域の特殊性に鑑み、こうした地域事情に対応した柔軟な援助方式が、今後の援助案件を検討する際にも十分取り入れられることを期待したい。
■提言
- (1)これらのプロジェクトは、国際機関への援助を他の援助国と共同で実施したが、極小諸国が散在する太平洋島嶼国地域の特殊性に鑑み、今後の援助案件を検討する際にも、地域事情に対応した柔軟な援助方式が十分取り入れられることを期待する。
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(2)太平洋島嶼国地域への援助に当たっては、次の二点を十分考慮してほしい。
(イ) |
本件プロジェクトにおいて、最新の施設と機器類を供与したにもかかわらず、テレビのように完全動画が常に送信されないので講義科目が限定される、語学教育を行うには音声が不明瞭である等、現時点で技術的には種々制約がある。そういう状況の中で、教授陣、受講者の双方が新たな施設・技術の利用に慣れるまでにある程度の時間を要する一方、技術的な問題は技術の進歩によって解決され、その結果、供与した施設や機器類は陳腐化する。
供与後の機材の老朽化への対応については従来指摘があるが、IT関連機材は、技術の先進性、進歩の急速性の故に、老朽化する以前に陳腐化するものであり、その時点で最新技術と機器類が求められる。しかし、途上国の自助努力では実際上対応は困難で、陳腐化した供与施設や機器類を放置すれば、我が国援助に対する不評や批判が強まる可能性は高い。大洋州・島サミットにおいて、日本側のイニシアティブの一つとして大洋州IT推進プロジェクトの実施が挙げられているが、IT関連援助については、我が国は、技術の進歩に伴った技術や機材の継続的な供与の可否を含めて、対応振りを用意しておく必要がある。 |
(ロ) |
南太平洋大学は、島嶼諸国の協調や連帯という理想を推進させる実施機関として、またそのシンボルとして位置づけられているが、他方、島嶼諸国がナショナリズムを競い合う現実のなかで、独自の大学設置を望む国がある。国立サモア大学がその事例で、我が国は両大学への援助を実施している。そのため、地域連帯の方向性を支持しているのか、それに反するかのように見える独自行動を支援しているのか、援助意図は極めて不明確であると思われる。それゆえ、援助している我が国の援助意図は何処にあるのか、はっきりとした答えを用意しておくべきであろう。さもないと、被援助国に評価されても、他の諸国からは反地域連帯行為としてマイナス評価になるか、あるいは各国から大学創設への援助要請を受け、その全てに対応しなければならないといった可能性がある。 |

南太平洋大学フィジー校:動画像による講義のデモンストレーション風景
■■外務省からの一言■■
- (1)本件プロジェクトは、地域事情に鑑みて他の援助国との共同で実施しましたが、今後も、ご指摘の通り、太平洋島嶼国地域の特殊性に対応した柔軟な援助方式を検討していきたいと考えています。
- (2)南太平洋大学に対する協力は、この地域の遠隔・広域教育の拠点として今後とも重要であり、一方、国立サモア大学等個々の国における大学への協力も、当該国に対する高等教育、人材養成のために重要と考えています。
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