1.6 有識者評価
11.ガーナ・灌漑小規模農業振興計画(2000年度)
評価調査団:
小浜 裕久 静岡県立大学国際関係学部教授
高橋 基樹 神戸大学大学院国際協力研究科助教授
現地調査実施期間:2000年9月11~15日
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灌漑水路
■プロジェクトの目的
ガーナ食糧農業省の傘下にある灌漑開発公社が管轄する灌漑農業地域において、無償資金協力による灌漑施設改修とプロジェクト方式技術協力によるモデル営農システムを確立する。
■評価結果
- (1)現在、首都アクラから東へ約30キロメートルのアシャマン灌漑事業区(56ヘクタール)とアクラから西へ約70キロメートルのオチェレコ灌漑事業区(81ヘクタール)の2つのモデルサイト及びアクラの研修センターで協力を実施中である。アシャマン灌漑事業区の方が進んでおり、オチェレコ灌漑事業区では、9月上旬に灌漑用ポンプが動き始めた段階であった。
- (2)農民自身の手による協同組合を再活性化し、彼らにその管理(資金管理、投入財の調達、水路など)を任せるといった方式は大変評価できる。農民のイニシアティブを重視した協力思想も高く評価できる。
- (3)アシャマン灌漑事業区では、小規模クレディット(種子、肥料などの経常投入)がうまく機能している。運営は、農民組合が担当し、生産性が向上した。このようなアシャマン灌漑事業区で実施されているソフト中心の援助は望ましい援助形態である。
- (4)ただし、小規模クレディットの原資は、プロジェクト方式技術協力の現地業務費などから捻出されているのが現状である。
■提言
- (1)小規模クレディットの原資として見返り資金を活用する、或いは適切に予算化するなどの対応が望ましい。
-
(2)自立発展性について、
(イ) |
アシャマンで農民組合に小規模クレジットの運営を任せていることは、財務的な自立発展性に向けた一歩と評価できるが、将来的にはオチェレコも併せて、日本の援助が終了した後も農民組合を中心とするガーナ側が自主的に資金調達できるよう誘導する必要がある。 |
(ロ) |
商品作物の市場、出荷方法、生産のための資金調達手法などを開発し、農民が自立的に担っていくようにするのが望ましい。 |
(ハ) |
ディーゼルで水を汲み上げる揚水式を採用しているオチェレコについては、運転費用と農業収入の釣り合いのみを見ると、黒字となるのか、疑問である。今後は、小規模な灌漑に高いコストを必要とする揚水式を採用することには慎重であるべき。さらに、現在のガーナの名目金利は約40%であるので、支援方法・時期を決定するに当ってはその点をも勘案すべき。 |
-
(3)日本の対ガーナ援助方針を示した国別援助計画はあるが、「総花的」で「優先順位」がついていない。分野別・地域別に優先順位をつけるのが望ましい。
■■外務省からの一言■■
提言の(2)(ハ)に関して、この計画は、小規模灌漑農業振興の観点から、既存のオチェレコ湖からの自然流下水で不足している水量を補うためには揚水を行わざるを得ない、との前提に立ったものです。外務省としては、ガーナ側が維持管理費用についても拠出可能と判断していますが、引き続き注意していきたいと思います。
12.ケニア・半乾燥地社会林業普及モデル開発計画(2000年度)
評価調査団:
高橋 基樹 神戸大学大学院助教授
現地調査実施期間:2000年9月16~20日
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■プロジェクトの目的
人口の急増と農業適地の不足により、森林の減少がとりわけ半乾燥地で進んでいる状況を受けて、以前のプロジェクトで開発された造林保育技術を更に実用的に改良し、それに基づいて、地域住民が適切な樹木の植栽・管理・利用ができるよう、農林地造成のための普及モデルを開発する。
■評価結果
- (1)長い協力により開発された樹木の植栽及び管理に関する技術は現実に農民によって取り入れられ、便益をもたらしている。技術開発_訓練_農民の日常生産活動への普及という一連の協力活動の発展は本来あるべき流れである。
- (2)このプロジェクトでは、一部の農民の協力を得て、植栽技術モデルの実証調査を行っているが、農民の造林技術に対する評価は良好だった。
- (3)ケニア側の現地実施機関と日本側の密接な協力により、各種パンフレットの作成やメディアの利用、イベント活動、モバイルショー、訓練セミナーなどにより造林技術の普及が進められている。
- (4)今後の課題は、現在のプロジェクト対象地域を超えて、広い範囲での普及が、どれだけ進んでゆくかにある。このプロジェクトの2つの現地側実施機関のうち、林業研究所は比較的技術水準、組織能力が高いようであるが、一般農民への普及を担当する林業局は、財政的に逼迫した状況にあり、現状では十分な機能を果たせていないのではないか。
■提言
- (1)一連のプロジェクトには息の長い協力ならではの着実な成果が見られる。ケニアのみならず近隣諸国の貧困削減・環境保全の重要性や普及事業の困難さを考えれば、今後も社会林業分野での協力は重要である。
- (2)但し、「開発行為」としてプロジェクトを見た場合、先方実施機関の財政、組織能力が脆弱であっては所期の目的を達成できない。その点、林業局の財政状況は大きな障害である。今後、実施予定の先方援助実施機関の組織・財政改革の動向を注視するとともに、限られた予算の下で、林業局等が普及などの大きな職責を果たしていくための効率的な組織づくりやノウハウの習得に向けた技術的支援の可能性につき検討する必要がある。
■■外務省からの一言■■
ケニアは、国土の8割が乾燥・半乾燥地域であり、干ばつ被害も頻発していることから、本件協力により開発された技術を基に、林業研究所を拠点として各地の自然条件・社会条件に適した改良を行いつつケニア国内への普及を図ることは重要な課題であり、今後とも社会林業分野での支援を継続すべきと考えます。また、このプロジェクトは、サブ・サハラ地域における半乾燥地社会林業のモデルケースとなりうるものであり、周辺国への技術普及に対する協力も併せて検討したいと思います。
13.タンザニア・バガモヨ灌漑農業普及計画(2000年度)
評価調査団:
高橋 基樹 神戸大学大学院助教授
現地調査実施期間:2000年9月20~23日
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■プロジェクトの目的
コースト州ルブ川流域の未開発地域において、灌漑稲作技術を導入・普及させ、同地域の小規模自営農家の所得向上のために寄与、貢献する。実験圃場8ヘクタールに加えて、農民が入植するための灌漑水田100ヘクタールを造成する。
■評価結果
- (1)灌漑稲作技術の導入によって生産性が顕著に増加した。非灌漑の従来農法による稲作の場合1.5トン/ヘクタールだったものが、5.5トン/ヘクタールへと約4倍近く上昇した(2期作)。灌漑稲作技術が灌漑地区の外へも普及したため、周辺地域の収穫量が1.5トン/ヘクタールから2.5トン/ヘクタールに向上した。同地域の農家の年間収入(約500米ドル)は、世界最貧国のひとつであるタンザニアの平均国民所得の数倍に上る。雇用の創出、住居の改善、就学状況の向上などにも好影響があった由。
- (2)タンザニア側にとっても吸収しやすい小規模、住民参加型のプロジェクトである。タンザニア側の予算の不足、洪水、実験圃場の狭さ等が原因で、灌漑水田の造成は40ヘクタール、入植農家は訓練希望農家の300家族に対して128家族に留まった。
- (3)灌漑稲作導入の問題点は、高いコストであり、その合計が収益の約6割に及ぶ。ディーゼル・ポンプで水を汲み上げる揚水式であることがコストをより大きくしている。
バガモヨのプロジェクト対象地で稔る稲穂
■提言
- (1)対象地域の灌漑の必要性は大きく、訓練の為の入植を希望する農民の数も多い。現地政府機関の評価も高く、更なる援助を実施することを希望している。条件さえ整えば貧困削減、食糧増産にインパクトの大きい援助を行い得ると考えられるので、更なる援助を真剣に検討すべき。
- (2)今後は、タンザニア側の援助受け入れ体制の整備、特に予算や人材確保を強く促し、現在進行中のタンザニア政府の行財政改革を注視する必要がある。また、農民組織が十分に機能せず、灌漑の運営がうまく行かない場合も他に多いため、農民水利組合の発展支援を検討すべき。
- (3)対象の造成地以外への水田の拡大を図るためには、タンザニア自体の普及訓練、灌漑地造成能力の飛躍的向上が必要である。また、コスト削減の観点からポンプで水を汲み上げる揚水式に代えて灌漑水路を用いた自然流下式を採用することが望ましい。
■■外務省からの一言■■
このプロジェクトの成果を踏まえ、タンザニアに対する地方開発(農民のための小規模灌漑)についての開発調査を実施し、更なる協力の可能性を検討してゆく予定です。
14.ケニア、ザンビア・エイズ・感染症プログラム(2000年度)
評価調査団:
今里 義和 東京新聞論説委員
現地調査実施期間:2001年2月12日~22日
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■評価結果
- (1)多数の人の命や健康が危機に直面しているとき、救いの手を差し延べることは、国際社会にとって人道上の義務である。感染症対策の支援に関する各プロジェクトは、その意味で、最も基本的な途上国支援の一部だ。
- (2)とりわけ、プライマリ・ヘルス・センターにおける低所得層地域住民向けの保健教育、井戸などの衛生環境改善、新生児の成長状態管理といった事業は、人道支援本来の意味を発揮している好例だった。ここではJICAの日本人専門家が直接、地域住民らと交流しながら活動を展開していて、「顔の見える援助」にもつながっている。
- (3)ザンビア大学教育病院(UTH)では、現時点では治療が事実上困難なエイズを扱うだけでなく、日本人医師が地味な結核治療にも力点を置いて活動していて、現実的な成果を挙げているのが印象的だった。
- (4)HIVハイリスクグループ啓蒙活動では、NGOを通じ、売春を職業とする若い女性たちにエイズの恐ろしさを語りかけていて、この国のHIV感染率が人口の20%以上であることを考えれば、その意義が高いのはもちろんである。しかし、こうした女性たちにはほかに働き口がないうえ、「客が避妊具の装着を嫌う」という現実がある。そもそも、女性たちはエイズの怖さは既によく理解しているのであって、雇用対策や、男性たちに対するエイズ教育の方が実際上、最大のエイズ対策になるはずだ。
- (5)ケニア中央医学研究所(KEMRI)のエイズ研究は、確かにケニアだけでなく、周辺各国を含む地域全体にとって、将来のエイズ克服などを期待させる事業である。もっとも、同じ額の支援を、マラリアなど既に治療法が確立している感染症の対策に振り向ければ、現時点ではより多数の人命を救えるのも事実であるが、長期的な視野に立てば、HIV/AIDS対策は重要であり 、その配分の判断の是非はなかなか難しい。一部には、KEMRIの幹部ポストが特権階級の既得権化しているという指摘もあり、組織上の問題も見極める必要があると思われる。
■提言
- (1)プライマリ・ヘルス・ケアは、住民に直接援助が行き渡る事業であり、ぜひ他の低所得層地域にも対象を拡大し、継続してほしい。現地人の施設運営者は将来の希望援助品目として患者搬送用の緊急車両などをリストアップしていたが、現実には管理維持する能力に疑問もあるため、自治体当局に対する関連支援との連携、整合性にも留意したい。
- (2)UTH、KEMRIに日本人医師を何年かの周期で入れ替えつつ派遣継続するには、日本に帰国後のポスト確保がネックになっている。一部の医師の善意に頼るだけでなく、幅広く日本人医師が参加できるよう、医学界の体制整備が望まれる。
- (3)エイズ対策は、治療研究よりも学校や社会での教育活動への支援にもっと力点を置くべきではないか。マラリア、結核など、比較的安価な薬で多くの人命を救える感染症対策も忘れるべきではない。
- (4)KEMRIのように多額の研究費用を支援している機関については、研究方法や、幹部人事を含む機関運営のあり方についても、協議できる体制が求められるはずだ。
■■外務省からの一言■■
- (1)我が国は、これまでもマラリア対策やポリオ撲滅、基礎教育等の支援を行ってきており、今後も「沖縄感染症対策イニシアティブ」(注:感染症対策分野で5年間で30億ドルの協力を行う)に沿ってHIV/AIDSをはじめとする感染症対策分野での取り組みを積極的に行きたいと考えています。
- (2)医師等の専門家については、地方自治体や民間病院等の機関を含め、さらに国際医療協力を円滑に推進できるような措置を今後とも図っていきたいと考えます。
- (3)KEMRIについては、現地カウンターパート・スタッフの見直しを行い、また、日本側及びケニア側のリーダーの会合を定期的に開催し、日頃の問題点を改善するよう既に体制を整備しました。
15.ケニア、ザンビア、南アフリカ・人づくり・教育プログラム(2000年度)
評価調査団:
今里 義和 東京新聞論説委員
現地調査実施期間:2001年2月12日~22日
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■評価結果
- (1)資源小国の日本が明治の開国以来、欧米各国に肩を並べるまでに経済成長した大きな理由の一つは、教育による人的資源の充実だったといわれる。
IT、グローバル化が経済成長のキーワードになっている今日、発展途上段階にあるアフリカ各国が確実に成長の歩みを速めていくためには、特に理数科教育の充実が不可欠である。
- (2)しかし、大部分が長く植民地の地位におかれていたアフリカでは、黒人が理数科教育の機会を与えられず、自立を阻害されてきた国も多い。子供たちに学問を教えるべき世代にも理数科の知識は不足しているわけで、教員養成によってその空白を埋める努力(例えば「ムプマランガ州理数科教員再訓練」及び「ケニア理数科教員養成大学」)に対する支援は、国の土台を形成する上できわめて重要な支援である。
しかも、教員が日本に好印象を抱いた場合、生徒に日本のことを好意的に話す可能性が大きいことに着目すれば、二国間関係の視点からも戦略性の高い支援であるともいえる。
- (3)小中学校の建設や、教員の派遣事業なども、「国の土台となる人的資源を育成する」「次の世代に、日本に好印象を持ってもらう」の両目的に合致する。特に、井戸もないような宿舎に住み込んで学校教育にあたっている青年海外協力隊員は、二国間の貴重な架け橋になっている。
■提言
- (1)優秀な人材は、理数科教員としての要請訓練を受け終わると、もっと待遇の良い国に出稼ぎに行ってしまう例がある。もちろん、援助受け入れ国自身が理数科教員の定着に努力すべきだが、日本側も、交流・研修のための日本招待などをインセンティブとして、優秀な人材の定着を促すべきだ。
- (2)学校建設に対する協力は、施設の水準の設定を柔軟に考慮すべきかもしれない。「タカマド・スクール」(ザンビア・ルサカ市)は、もちろん先進国の水準とは比べられないが、同国内や近隣国の標準的な学校と比べれば、日本の援助で相当恵まれた施設が整備されている。援助は「広く薄く」になりすぎてもいけないが、模範的な例として整備するにせよ、一件だけがあまりに先進的な事業になっても不均衡が生じかねない。
教室など施設の建設の協力だけでなく、当該校での日本に関する知識の教育などソフト面でも、押しつけにならない範囲で、協力を積極的に申し出るべきだ。「タカマド・スクール」の教室の外壁に日本地図が描かれていたのは、一つの参考例になる。
- (3)青年海外協力隊員たちは、厳しい生活環境の中で、よく頑張っている。ただ、強盗や病気、けがなどの危険も非常に高い。まず募集、赴任にあたっては、こうした危険について十分に告知すべきである。赴任した現地では、宿舎の安全対策として施錠や格子戸などの構造、無線や発電器具の装備など、危険を避けるための対策に万全を期すのは当然として、万一不幸な出来事に遭った場合に備え、医療や心理カウンセルなどまで含めた支援態勢の整備が望まれる。
■■外務省からの一言■■
- (1)2000年4月の世界教育フォーラムで採択された「ダカール行動枠組み」(注:基礎教育分野に関し、2015年までの無償初等教育の普及等、国際社会が取り組むべき目標及び戦略等が示されている)の目標達成に向け、特に基礎教育分野での取り組みを積極的に行っていきたいと考えています。
- (2)海外への経済協力関係者の派遣に際しては、事前に注意喚起するとともに、現地到着後もJICA事務所、大使館から具体的な対処方法・注意を与えています。また、現地においては、緊急移送を含む緊急時への対応の見直しを定期的に行っていますが、今後ともハード面、ソフト面での体制強化を図っていきたいと思います。