広報・資料 報告書・資料

1.6 有識者評価


6.ケニア・モンバサディーゼル発電プラント建設計画」(1999年度)
 (参考案件:ソンドゥ・ミリウ水力発電計画)

評価者:
 中川 雅之 海外電力調査会電力国際協力センター次長

現地調査実施期間:2000年4月10日~14日

プロジェクトの目的

 ケニアでは電力の供給力不足から計画停電を実施しており、渇水期には停電時間が長期化する傾向にあった。このため、電力不足の改善、渇水期における安定した電力供給などを目指し、観光や商業面で重要なモンバサ市にディーゼル発電プラントを建設するものである。


評価結果

 本発電プラントの完成により、モンバサ市の計画停電が全面的に解消するとともに、首都ナイロビにおいても計画停電時間が短縮された(基幹系統内における月別不足電力量では2,400キロワットアワーから1,400キロワットアワーへ低下)。特に1999年後半から異常渇水状態が続いていることから、同発電プラントの投入は絶好のタイミングであった。

 また、同発電プラントの構成は、1万2,500キロワットアワー×6基(合計7万5,000キロワット)であるため、大型ユニットで構成するよりも運転・保守が容易であり、老朽化後の部品の共有などを考慮すると、非常によい設備構成である。

 さらに、予備品管理については予防保全の考え方が採用されており、コンピューターによって不足している予備品を随時チェックするシステムとなっている。

 しかしながら、運転は全面的にコンピューター制御を導入していることから、制御系の故障を引き起こした場合、その対処について若干の懸念を感じた。このため、納入メーカーとの連絡体制の強化が必要である。


提言

  • (1)納入メーカーとの連絡体制をさらに強化することが望ましい。
  • (2)将来的に需要に見合う供給力が確保され、需給調整運転が必要になった場合、運転操作について相応な訓練が必要になると予想されるが、この点について、日本の技術協力があれば、より信頼度の高い電力供給が確保されるものと思われる。

■■外務省からの一言■■

 トラブルが発生してもマニュアルでの運転が可能であり、設備の利用を継続することは可能です。またコンピューター内部の故障については、IC基盤単位で故障基盤が表示され、基盤単位で取り替えることで修理できるよう対策を講じています。

 送配電損失率の向上に向け、国際協力銀行は、「送電ロスセミナー」を2000年2月に開催しました。同セミナーには、ケニア電灯・電力会社職員1名も参加しています。


7.カンボディア・母子保健センター(2000年度)

評価調査団:
 佐藤 喜一 黒部温泉病院院長

現地調査実施期間:2000年10月23~26日

(写真)母子健康センター建物外観
母子健康センター建物外観

プロジェクトの目的

  • (1)カンボディアにおける母子保健の中核である母子保健センターの産婦人科診療部門、訓練研修部門、宿泊部門、管理部門の移転新築及び関連機材の調達を行う。
  • (2)母子保健センターの機能改善のため、技術協力を通じて運営管理能力の向上、研修活動の強化、臨床活動の向上、運営指導活動の強化、啓蒙活動強化を図る。

評価結果

  • (1)母子保健センター建設計画(無償資金協力)
    (イ) センターの建設は、1997年3月に完了し、同年4月から病院業務を開始し、その機能を十分に発揮している。
    (ロ) センターの規模とその機能は、日本の大病院に相当し、カンボディア人のために大いに役立っている。在留邦人も不安なく受診可能な病院である。
    (ハ) 入院ベット数は、150床であるが、稼働率が90%と高い。年間の出産数は9000名に達している。
    (ニ) 異常分娩への対応が可能な設備を有しており、帝王切開術は現地医師が行っている。
    (ホ) 地方の医師や看護婦の教育と実地研修は院内のホールや各施設を利用して定期的に実施されている。
    (ヘ) 宿泊施設も十分に利用されている。
    (ト) これまでに、水漏れ、水道の配管ミス、汚水槽の維持管理不足などの問題が発生した。
  • (2)母子保健(技術協力)
    (イ) JICA専門家による技術指導は一定の成果を上げており、病院の運営及び医療活動の向上に役立っている。
    (ロ) 母子保健センター職員とJICA専門家から構成される病院運営委員会は、病院の運営と医療活動の向上を目指して、順調に運営されている。
    (ハ) カンボディアでは公立病院は建前上は無料であることが慣例であるが、同センターは、医療費の有料制を採用し、医療費の透明性の確保、職員の所得の確保、病院の維持管理費の確保等に貢献した。
    (ニ) JICA専門家が病院職員を指導しながら、「母親教室」(妊娠中や分娩前後の保健や栄養などの教育等)が行われており、妊婦の知識向上に役立っている。
    (ホ) エイズを含む感染症の防止に最大の注意が払われている。

提言

  • (1)JICAの医療専門家も指摘しているとおり、人材の育成と確保が大きな問題となっている。人材育成を行う一方で、既存の大学医学部のスタッフや産婦人科医らと連携により、人材を得ることが必要である。
  • (2)援助にあたっては、カンボディアの人材不足に配慮することが必要である。具体的には、施設の建設や機材の供与の際には、(イ)現地の仕様に合わせること(施設及び機材の使用、維持管理の為に新たに必要となる技術や知識を軽減し、スペアパーツの調達も容易となる)、(ロ)建設作業の監督を強化し、問題の発生防止に努めること、(ハ)完成時及び完成後の施主による検査体制の強化、問題の早期発見のための手だてが必要である。なお、医療施設及び機材の維持管理に必要なトレーニングを行う場合には、確実に維持管理が行われるよう、各作業の意義(どうして必要なのか)についても併せて教育するなどの工夫が必要である。
  • (3)現在、センターには病理組織検査部門がなく、悪性腫瘍の有無を診断できない。今後、病院機能を向上させるために検査部門を設置し、技術指導を行うことが必要である。

■■外務省からの一言■■

 母子保健については、2000年よりフェーズ2として技術協力を実施しています。指摘されている施設の不具合については、既に施工業者、施設管理の専門家のフォローアップにより、全て使用可能な状態になっています。また、水道の配管ミスについては、カンボディア側のカウンターパートのボルトの締め方等の扱いが適切でなかったことが原因と判明しています。今後は、同センターの更なる財政的な自立が重要であり、引き続き人材の育成に取り組む中、カンボディア側の努力が期待されます。また、同センターが中核となって地方病院への技術の普及が行われることが期待されます。


8.カンボディア・シハヌーク病院エイズ病棟拡張計画等(2000年度)

評価調査団:
 佐藤 喜一 黒部温泉病院院長

現地調査実施期間:2000年10月23~26日

プロジェクトの目的

  • (1)老朽化により放置されていた感染症病棟の一階を改修し、ベット数を29床から60床に拡張する。
  • (2)結核病棟(排水設備、トイレ、ベットを含む)を一棟建設する。

評価結果

  • (1)シハヌーク病院エイズ病棟拡張計画

    カンボディアで急増しているエイズ患者(注:1997年時点においてHIV感染者の数は、約9万_12万人。人口の約1%に相当。)を看護するセンターとしてシハヌーク病院がプノンペン市にある。その老朽化した感染症病棟の一階部分を改修し、ベットを31床増やし、60床に拡張するもの。援助は既に完了し、入院ベットは末期のエイズ患者で満床であり、エイズ看護に役立っている。国境無き医師団とカンボディア人医師により医療が施されている。看護と介護はカンボディア人の看護婦が行っている。また、外国のNGOメンバーの活躍が目立っていた。各病室には、酸素吸入のための酸素ボンベを収納するための保持台が設置するなどの工夫が見られた。エイズ患者の多くが結核も併発しており、その対応が重要となっている。
  • (2)キエンツバイ郡病院結核病棟建設計画

     プノンペン市から東へのびる国道一号線を車で約一時間の場所にキエンツバイ郡病棟が位置しており、この地域の総合病院として機能している。一般病棟から道路を挟んで反対側にL字型で平屋造りの結核病棟が建設された。この病棟は大きく4部屋に分かれ、検査室、薬品保管室と男女別の病室として使用されていた(ベット数は30床であり、調査時点では男女計14名が入院)。検査室には日本の援助による顕微鏡1台が設置され、1日あたり平均6件の喀痰の検査が行われている。治療薬や染色薬など結核の診断治療に必要な基本的な薬は保健省より支給されている。

(写真)シハヌーク病院で診療するカンボディア人医師
シハヌーク病院で診療するカンボディア人医師


提言

  • (1)シハヌーク病院エイズ病棟拡張計画

     投入金額(約700万円)によってどこがどのように改修されたのかを判断することが難しい。特に既存の病院等の建物の改修を行う場合には、事後的な確認を行うだけでなく、改修作業中に実施状況のきめ細かいモニタリングを行うことも必要ではないか。また、草の根無償の案件については、一般的に大使館の業務も多忙であり、モニタリングやフォローアップのために要員と費用を確保することが必要である。
  • (2)キエンツバイ郡病院結核病棟建設計画

     結核病棟が建設されたことにより、結核患者を一般病棟から隔離できるようになったことで、結核予防に一定の効果があった。しかし、同病棟は、開放病棟であり、患者は外出が容易である。一層の予防の観点からは、結核患者への対応と検査技術の向上のために技術指導する必要がある。

■■外務省からの一言■■

 草の根無償プロジェクトの適正な管理については、案件の数も増えているが大使館自身によるフォローアップに加え、外部調査委託制度を利用して建物状況のフォローアップ調査を行う等現地大使館も積極的に取り組んでいます。


9.タイ・エイズ予防地域ケアネットワークプロジェクト(2000年度)

評価調査団:
 佐藤 喜一 黒部温泉病院院長

現地調査実施期間:2000年10月27~31日

プロジェクトの目的

 国家レベルでのエイズ対策に適応するエイズ予防及び地域ケアに係る継続的・包括的な実施モデルの開発と普及。


評価結果

  • (1)1999年末時点でのタイのHIV/エイズ感染者数・患者数は75.5万人、成人感染率は2.15%(UNAIDS報告)となっている。その中でもパヤオ県を中心とする北部はタイ国内においても特にHIV/エイズ感染者数・患者数の多い地域となっており、エイズ対策に対する支援を実施するにあたっての地域の選定は妥当であった。
  • (2)エイズ問題への対応は多くの問題が関わるだけに困難であるにもかかわらず、派遣されたJICA専門家が積極的に活躍していることが大変印象的だった。また、JICA専門家の努力により、衛生局長の信頼を得た結果、プロジェクトの実施が容易になっており、現地職員やNGOスタッフとの協力も得て順調に進んでいる。
  • (3)主な予防対策は、タイ側によるコンドームの配布と啓蒙活動、HIV検査、母子感染予防などである。
    (イ) 母子感染予防措置として行われている出産前後の薬剤の投与と母乳からの感染を防ぐための粉ミルクの投与が成果をあげており、感染率は7%まで抑えられている。
    (ロ) エイズ患者の多くが周囲から差別されることをおそれて隠していることが、エイズ患者支援活動とエイズ感染予防の妨げになっている。
    (ハ) タイ側が、コンドーム100%キャンペーンなどでコンドームの配布と啓蒙活動を行った結果、売春婦からの感染が減少した一方で、夫婦間でのコンドームの使用が信頼問題であるとの認識から夫婦や恋人間での感染が相対的に増加していることへの対応が必要となっている。
  • (4)主なエイズ患者のケアは、結核発症予防、日和見感染症の治療、カウンセリングなどである。

    (イ) タイ側によりデイ・ケア・センターを活動の中心としてエイズ患者に対する情報の提供やカウンセリングなどの支援が行われ、成果を上げている。
    (ロ) エイズ患者のほとんどが20代~30代の働き手であることから患者を含む家族が経済的困難を抱えている。デイ・ケア・センターを中心に手芸や小物造りなど患者の所得向上のための支援が行われているが、必ずしも十分とは言えない。また、孤児に対する支援も必要となっている。

提言

  • (1)専門家などの関係者は、地域に密着しつつ順調に目的を果たしているが、エイズに関連する多くの問題への対応が必要であることから、引き続き支援を継続する必要がある。
  • (2)今後は患者及び家族の生活向上や孤児に対する支援も重要であり、短期・長期的視点からの収入向上に向けた支援も必要である。その為には、NGOや他のJICAプロジェクトと連携が不可欠である。
  • (3)技術協力は、「顔の見える経済協力」として友情と信頼関係の育成に効果があり、その観点からも、日本もNGO等との連携を進めるとともに、エイズに関する情報の提供やカウンセリングなど、草の根レベルでのエイズ患者支援を拡充することが望まれる。
  • (4)エイズ患者が結核を併発する症例が多くなっている。結核の治療を担う専門家の派遣も検討すべき時期に来ている。
  • (5)草の根レベルのフィールド活動には、移動手段が不可欠である。車両など移動手段を十分に確保することも大切である。

(写真)エイズ患者を訪問しての聞き取り調査
エイズ患者を訪問しての聞き取り調査

■■外務省からの一言■■

  • (1)「沖縄感染症対策イニシアティブ」としてHIV/エイズ対策を重視しており、特にタイの予防啓発を中心とする政策に注目しています。その中で、このプロジェクトは日本のHIV/エイズ対策支援の範となるべきものであり、他国への普及をも念頭に、一層の改善に向け努力していきたいと考えています。
  • (2)エイズの分野で専門家派遣事業が効果を生んでいることが評価されたことは、嬉しく思います。専門家が現地の担当者やNGOと協力して活躍しており、「顔の見える経済協力」と言えるでしょう。今後もこの様な技術支援を継続・強化したいと考えています。

10.モンゴル・母と子の健康プロジェクト(2000年度)

評価調査団:
 河原 雄三 経済ジャーナリスト

現地調査実施期間:2000年11月6日~10日

プロジェクトの目的

 モンゴルでは、1960年代から予防接種拡大計画(EPI)(対象疾病は、BCG、ポリオ、麻疹等)を推進、現在まで国際機関等の援助によるワクチンの調達で高い接種率を確保している。また、内陸国である同国では、ヨード欠乏症(IDD)が深刻な問題となっており、その対策としてヨード(千葉県が無償で供与)を混入した塩の普及などが喫緊の課題。このプロジェクトは、IDDの制圧とEPIの自立運営に向けた同国の努力を支援する。


評価結果

(写真)麻疹の予防接種
麻疹の予防接種
  • (1)予防接種拡大計画(EPI)

     視察対象となったウランバートル市のスフバートル地区保健センターでは、管内の予防接種率が国家目標の95%をほぼ達成。地方(ウブルハンガイ県)におけるEPIも、目標に近づいている。現場レベルのモラールも高く、プロジェクトが順調に進展しているとの印象を受けた。
  • (2)ヨード欠乏症(IDD)

     安価なヨード化塩を家庭に供給するため、ウブルハンガイ県の3つのソム(村)で1998年から実施している住民参加型のスプレー式ヨード化塩生産のパイロット・プロジェクトを視察。タラグト・ソムに於けるヨード化塩の普及率(推計値)は、99年の5.8%から2000年には60.2%へと大幅な伸びを示しており、過剰・過少摂取をチェックする調査が実施されている。また、日本からの援助についての広報・宣伝活動等にも熱心に取り組んでいる。

提言

  • (1)EPIの自立運営に向けた課題は、ワクチンの調達と臨床医・看護婦のレベル向上。ワクチン調達についてモンゴル側は、その原資となる「ワクチン基金(250万ドル)」への拠出をドナー国に要請しているが、同国の財政事情と自助努力の双方を踏まえた対応が今後求められよう。また、臨床医等のレベル向上に向け、研修員受け入れを拡充してはどうか。
  • (2)遊牧民が多い上に日本の4倍もの広大な領土を有するモンゴルでは、小児への予防接種の実施のための小児の所在を確認する作業を進めていくのは至難の業である。こうした特殊事情を考慮すると、モンゴルにおいてEPI対策を支援するためには、車両供与の増強を図る必要があると思われる(1997年度21台のジープを供与済)。
  • (3)モンゴル側は、医療分野で感染症対策の強化を課題に掲げており、感染症関連は医療施設の整備が要請案件として浮上している。日本側がこれに応ずる場合、単に資金協力にととまらず、ソフト面の協力(技術協力)を組み合わせることも一案ではないか。
  • (4)IDDへの対策は着実に進展しているが、対策を強化するために塩の調達資金やヨード化塩生産機材、広報・宣伝機材の整備等が課題となっている。いずれへの協力も検討に値するが、会計システムの整備やランニング・コストの負担能力など、受け入れ側に態勢が整っていることが前提となろう。
  • (5)モンゴル国民の健康問題は、先の選挙でも大きな焦点となった。人民革命党に政権が移行したモンゴル政府は、この分野への取り組みを最重要課題に掲げており、その意味でもこの分野での日本の支援を真剣に検討する必要があるのではないか。

■■外務省からの一言■■

  • (1)感染症対策における、資金協力と技術協力(ソフト面の協力)との連携の提言(3)については、極めて重要であると認識しており、今後も「母と子の健康プロジェクト」同様、資金協力と技術協力の有機的な結合を図っていきたいです。
  • (2)現在、モンゴルでは、都市と地方の地域格差が問題となっており、今年7月に誕生した新政権も政策として地域格差の是正を掲げています。このプロジェクトは、都市部だけでなく地方での保健・医療サービス向上に寄与しているとして、モンゴル側より評価されています。

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