「NGO・外務省との共同評価」は、政府の援助関係機関とNGOが実施しているプロジェクトについてそれぞれのプロジェクトの成果と貢献度を双方の視点から共同学習することにより、今後の双方のプロジェクト形成・実施、援助方針・戦略などにフィードバックしつつ、これを通じてNGOと政府の援助関係機関の協力推進を図ることを目的とした評価です。
1.ラオス・「NGO、外務省の共同評価」(1999年度) カムアン県農林複合プロジェクト ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズ II 評価調査団: (NGO側) 和田 信明 (名古屋NGOセンター専門委員) ソムニード・サンガム専務理事(名古屋NGOセンター専門委員) 磯田 厚子 女子栄養大学助教授、日本国際ボランティアセンター(JVC)副代表(NGO活動推進センター) 中田 豊一 関西NGO協議会 顧問 (外務省側) 今井 洋之 外務省経済協力局民間援助支援室事務官 西野 恭子 国際協力事業団国内事業部国内連携促進課課長代理 宮崎 慶司 オーバーシーズ・プロジェクト・マネージメント・コンサルタンツ株式会社企画課長 現地調査実施期間:2000年2月10日~12日、2000年2月14日~16日 |
(1)カムアン県農林複合プロジェクト
(イ) | 経済面の開発(Economic Development)の視点からの評価 JVCが導入する自然農業の方法は、自然環境および人体に与えるダメージもなく、コスト的にも技術的にも村人自身が比較的容易に導入や実践ができることを目指している。この自然農業の活動は1999年より開始され、現在は試験導入段階にあるため、村全体が農業生産の向上を実現するまでには至っていない。 |
(ロ) | 環境面の開発(Ecological Development)の視点からの評価 本事業はラオス政府が推進する土地森林移譲政策をプロジェクトの中心コンポーネントとして巧みに取り込み、住民参加型の環境保全や保護と密接に連動したかたちでプロジェクトを組み立てており、優れた着想である。本事業は、それより前に行われたJVCの森林保全プロジェクト(1993年~1996年)を引き継いだかたちで行われているが、前事業の実績を含めると1999年末においてカムアン県下約800村のうち86村で土地移譲が完了しており、そのうち16村がJVCが支援した村であった。JVCが支援した村においては、森林保全に対する村人の意識が根付き、無秩序な森林伐採を食い止めることができ、自然環境の破壊を防ぎ、森林の持続的な保全と利用を促進することに貢献した。 |
(ハ) | 地域社会・生活共同体の開発(Community Development)の視点からの評価 本事業のカウンターパートであるカムアン県および郡の農林局行政官に対しての参加型開発の技術や手法に関する技術移転は一定の成功を収めており、土地森林移譲手続きを住民主体で行うという意識が地元行政側に広がりつつあることを確認した。 |
(2)ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズII
(イ) | 経済面の開発の視点からの評価 小規模灌漑などの農業基盤整備、農業生産技術の普及・開発のための農業振興グループの活動などは、現在も進行中のものであり、これらがどの程度の目標を達成できたか、あるいは各農家経済にプラスのインパクトを与えたかについては、現時点ではよくわからない。 |
(ロ) | 環境面の開発の視点からの評価 環境への配慮はプロジェクト実施において優先度は高く、例えば農業基盤整備に係る構造物の建設においても、工法、技術、設計、規模などの面で、環境に配慮したものとなっている。また自転車式くみ上げポンプなどのアイディアや、化学肥料や農薬投入を極力避けながらの栽培技術の開発を支援するなど、環境への配慮と調和に意欲的に取り組んでおり、その成果も評価できる。 |
(ハ) | 地域社会・生活共同体の開発の視点からの評価 住民の発想や提案を引出し、住民の参加を制度化するような適切な形の組織を助成・支援する働きかけの一環として、この事業では村落開発委員会、各種農業振興グループ、水利組合などの農民組織の育成と強化を行ってきている。この活動も現在進行中であり、また組織が成熟しその成果が発現するまでには時間がかかる。 |
(1)各プロジェクトに関する提言
(イ) | カムアン県農林複合プロジェクト (a)単に森林保護だけでなく、森を利用しながら保全して行くという自然資源管理の視点に立った林業の確立と技術の普及についても今後検討する必要がある。 (b)自然農法に関しては外からの技術の導入だけではなく、在来の自然農法の技術や篤農家の掘り起こし、およびそれらの改良普及の道も同時に開く必要がある。 (c)ジェンダー活動については、啓発活動だけでなく、いかにして実質的に女性が村の決定に重要な役割をはたすようになるかという点を中心に、活動全体の組み立てとモニタリングの仕方を検討することが必要である。 (d)参加型開発のコミュニケーションの技術をはじめとする関連技術と考え方をより分かり易くかつ普及しやすいものとしてメッセージ化してゆく必要がある。 |
(ロ) | ヴィエンチャン県農業農村開発計画フェーズII (a)プロジェクト対象村の選定基準については、プロジェクトの成果を高めるためにも、さらに分かりやすく明確化する必要がある。 (b)ラオスの社会体制や既存組織の状況を十分考慮しながら、住民組織育成方針をさらに明確にする必要がある。 (c)開発調査の結果をより一層生かしてゆくためにも、社会開発専門家の配置や育成に一層の配慮を期待する。 |
(2)NGO側と外務省側の連携に関する提言
(イ) | 各NGOが、必ずしも、その分野での技能や経験が組織として十分に蓄積し、かつそのような人材を十分に有しているわけではない。したがって、NGO側と外務省側のプロジェクトレベルでの連携においては、まず、双方とも経験豊かな人材を配置するよう十分配慮すべきである。 |
(ロ) | 社会開発分野を中心とする人材を互いに育成するためには、互いの現場で学びあうような現場を使ってのインターン制度を取り入れることが必要である。 |
(ハ) | 援助対象国の人々の生活の現実に根ざした政策決定が必要だが、経験に基づく知見が外務省側に常にあるとは思われない。特定の地域や国に特化して草の根で活動を続けているNGOの知見やネットワークを生かすために、国別援助計画の策定にNGOを参加させるべきである。 |
今回、評価の対象となったNGO、外務省双方のプロジェクトは、ラオスの基幹産業である農林業において、住民参加を基本とし、そこに自然・環境保全を密接に連動させるメカニズムを組み込むという共通したアプローチを採用しており、ラオスの国土保全と民生安定のモデルケースを開発するという共通の目標を持っていると言えます。
わが国の外務省とNGOの連携を図っていく上で、こうしたプロジェクトを評価対象として取り上げた意義は大きいと考えています。
2.「NGO・外務省の共同評価」(ヴィエトナム)(2000年度) 評価調査団: (NGO側) 磯田 厚子 日本国際ボランティアセンター副代表、女子栄養大学助教授 杉本 正次 名古屋NGOセンター副理事長・事務局長 吉田 明彦 日本国際飢餓対策機構職員 (ODA側) 白川 光徳 外務省経済協力局評価室長 村松一二美 外務省経済協力局民間援助支援室事務官 内田 淳 JICA企画・評価部評価監理室職員 (コンサルタント) 岩川 薫 株式会社パデコ プロジェクト・コンサルタント 現地調査実施期間:2001年2月19日~23日 |
開発福祉支援事業においては、「住民への直接裨益」「住民参加」「ソフト支援」に重点を置くべきであるが、今回視察を行った2つのプロジェクトについては、双方共に草の根レベルの住民等に直接裨益している点で評価できる。
(1)総合的子どもの栄養改善プロジェクト
(イ) | 目標の達成度・効果 プロジェクトの主要目標である中・重度の低体重栄養不良については、大幅な改善が見られた。また、急性の栄養不良についても、明確なプロジェクト効果が測定された。なお、長期的なスパンで効果が発現する軽度の低体重栄養不良及び慢性の栄養不良については、一部の地域を除いて、まだ十分な効果が現れるには至っていない。 |
(ロ) | 効果・活動の持続性 対象地域の村民から選ばれる「草の根保健婦(Health Volunteer)」を中心として、母親の意識改革及びそれによる行動変化を重視し、地元で手に入る食材を利用するなど、持続性、自立発展性によく留意してアプローチ方法を選択している。対象地域の人民委員会についても関係局間相互の連携が行われており、各関係者の当事者意識は高い。現地視察を行ったビンロック村では、すでに母親の行動変化が見られるなど協力効果はかなり浸透、定着しており、プロジェクト終了後も子どもの体重測定や誤った習慣の改善普及などの活動は継続されていた。今後、それらの活動が周辺地域へも徐々に波及することが期待される。 |
(ハ) | 開発福祉支援事業としての妥当性 このプロジェクトは、開発福祉支援事業の対象7分野のうち、「保健衛生」と「コミュニティー開発」に該当し、まさに開発福祉支援事業が目指している住民参加型の住民に直接裨益するプロジェクトである。最終受益者は3歳以下の子どもであるが、そのような子どもを持った母親達が活動に直接参加しており、コミュニティーレベルで事業を進めている「草の根保健婦」も地域の母親である。 |
(ニ) | 開発福祉支援事業によるインパクト 開発福祉支援により、活動地域の拡大やプログラムの規模の増大(家庭菜園事業の実施など)がもたらされ、総合的な栄養支援を組めるようになった。 |
(2)フエ市児童福祉総合支援プロジェクト
(注:2000年2月に行った南条読売新聞論説委員による有識者評価も参照可能)
(イ) | 目標の達成度・効果 障害児に関しては、病気も含め障害を持った子どもに対して治療・リハビリテーションが行われ、支援対象となった子どもに直接効果が現れている。ストリートチルドレン等に関しては、具体的には、児童文化センターが建てられ子ども達に利用されていること、上級職業訓練センターが建てられたことが確認された。しかし、児童文化センターと上級職業訓練センターによる効果はまだ時を待たなくてはならない。 |
(ロ) | 効果・活動の持続性 このプロジェクトは、実施パートナーであるフエ市人民委員会にも高く評価されており、また地元のマスメディアにもしばしば取り上げられている。人民委員会はこの活動を継続して行きたいと考えているが、継続するためには資金が必要である。そこで、「子どもの家(児童文化センターもその一部)」の維持費創出のため、上級職業訓練センターで子どもに対してまずはバイク修理の職業訓練を行い、卒業生によるバイク修理による収入の一部を維持費に回すことを考えている。上級職業訓練センターは、プロジェクト活動の持続のためばかりでなく、子ども自身の自立のためでもあるが、このセンターが期待された成果を出せるかどうかは、まだ分からない。また病気・障害児の治療をさらに続けていくための資金目処もまだ立っていない。 |
(ハ) | 開発福祉支援事業としての妥当性 このプロジェクトの活動内容は、開発福祉支援事業の対象7分野のうち「社会的弱者救済」に該当し、既に記した通り成果を上げている。開発福祉支援事業の特徴の一つである住民参加の観点からは、プロジェクトの裨益者たる子ども達及びその家族は、プロジェクトに参加するよりむしろ客体に留まっているという印象を受けた。今後、子どもの依存心を生み出さないように配慮することや、子どもあるいは保護者などが自ら事業運営活動に参加できるような仕組みを整備することが望ましい。 |
(ニ) | 開発福祉支援事業によるインパクト 開発福祉支援事業が入ることによって、ベトナムの「子どもの家」を支える会による活動の規模が大きくなり、それ以前に出来なかった事業も手がけることが出きるようになった。しかしながら、以前に無給のボランティアによって一度行われた障害児を見つける仕事は、開発支援事業によってお金が支払われることになり、今後は無給では実施できなくなる可能性が考えられる。 |
(1)開発福祉支援事業に関する提言
(イ) | NGOが出来ること、ODAが出来ることを組み合わせて効率的・効果的に援助を行っていくために開発福祉支援事業は有効であると判断されるので、積極的に活動すべきである。 |
(ロ) | 開発福祉支援事業では、3年間で援助が終了することに留意し、活動による効果が持続する案件を採択すること、並びに、実施NGO団体に対して、活動方法についての情報(例えば類似案件での成功例、失敗例)を提供するなど、活動を持続させるための支援体制等を改善することが望まれる。 |
(ハ) | 開発福祉支援事業は、現場レベルでは、草の根無償、開発パートナー事業等のスキームとの類似性が多く重なり合った部分もある。それぞれのスキームの特徴を活かして効果的に援助を行なうためには、ホームページを活用するなど、NGO等への情報提供を行い各スキームについての理解を深めることが必要である。また、現地の大使館及びJICA事務所においてニーズを総合的に把握するとともに、統括的に案件の調整、選定等を行うなど、現地と本部の役割を明確化するとともに、関係者間相互の緊密な連携体制が望まれる。 |
(ニ) | 開発発福祉支援事業によってプロジェクトを実施している団体は四半期ごとの報告書と1年ごとの報告書をJICAへ提出することが義務づけられているが、提出回数が多すぎ本来の業務への負担にもなるので、提出頻度を減らすことが望まれる。 |
(2)ODAとNGOの連携・協力のあり方に関する提言
ODAとNGOとのより良い連携・協力を強化するためには、外国でのODA側とNGO側の情報交換の場が整備されることが望まれる。形態は、既存ネットワークを活用したり新たな仕組みが必要とされる場合など、実情に応じたものが望ましい。現地の大使館やJICA事務所が、どのようなNGOが、どのような活動をしているか等について、把握できていればNGOの活動と連携したODA実施について検討することも可能となるのではないか。また、NGO側としても、このような場を通じて適切なODA情報を得て、ODAとの連携の可能性を探れることは有意義である。