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1.4 第2次ODA改革懇談会の評価に関する提言


 ODAについて抜本的な見直しを検討するため、外務大臣の私的懇談会として2001年5月、学識経験者、報道関係者、財界、NGO等の外部有識者からなる「第2次ODA改革懇談会」が設置されました。同懇談会では、透明性の向上、国別援助政策の重点分野の絞り込みを含めODA改革の具体策について議論を頂き、本年3月29日に最終報告が発表されました。同懇談会では、ODA評価の現状や問題点についても議論がなされ、最終報告でも評価に関して、以下の通り、具体的な提言がなされています。


(写真)第2次ODA改革懇談会
第2次ODA改革懇談会


  • ODA政策の実施面のみならず策定過程および評価面においても、開発途上国の現場についてのきめ細かな情報や多様な経験をもつNGOとの連携を積極的に進める。
  • ODAプロジェクトについての選定から実施に至るまでの過程、入札手続き、実施後の評価結果等は、十分な透明性を保たなければならない。プロジェクトの選定過程から実施、実施後の評価・フォローアップなど各段階での情報公開を一層進める。各段階での第三者による評価体制を強化する。プロジェクトの優先度については、「ODA総合戦略会議」の判断を重視する。入札手続については、抜き打ち監査を含む第3者による徹底した監査システムを導入する。事後評価については外部有識者を一層活用する。
  • ODA評価の一層の改善を求める。特に、JICAの専門家等技術協力に関する評価の実施、各府省庁の評価手法の標準化、政策策定や援助手法の改善へのフィードバック機能の強化、援助関係者の意識改革を進める。さらに、評価等高度な専門性が求められる業務については、援助要員を量的・質的に拡充する。

 もとより、外務省では評価体制の改善に向けて、評価検討部会による検討等、不断の努力を行っているところであり、上記の提案は、かかる努力を一層加速させるものと捉えております。従って、今後は現在行っている評価体制の見直しにおいても、上記提案を十分勘案していきたいと考えています。


ODA評価に関する世界の動向


東京工業大学大学院社会理工学研究科教授 牟田博光1)


1.はじめに

 ODAはその主な活動場所が日本国外であり、他の主要ドナ-及び国際機関と協力して行われることも多く、我が国ODAの評価といえどもグロ-バル・スタンダ-ドを無視することはできない。以下に他の主要ドナ-や国際機関のODA評価の現状及び考え方を整理する。

2.ODA評価の現状と課題

(1)ODA評価の目的
 経済開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)はODA評価の主目的を大きく次の二つのグループに分けているが、主要ドナ-国及び国際機関が明言しているODA評価の目的もほぼ同様である。

説明責任・監査
 ODAの原資は公金であり、その使途を納税者や出資者に明確に説明をすることはODA評価の基本的な目的である。また、評価によって国際協力の透明性を確保することができる。さらに、評価活動を通じて協力に対する自国民、相手国国民の理解と参加を促進するとともに、他の援助供与国、国際機関との協調を図ることも狙いとしている。

学習・改善
 デンマ-ク国際開発庁(DANIDA)の評価マニュアルでは、評価結果を利用して、援助の質を高めることが評価の真の価値であると述べている。プロジェクトの善し悪しを判断するというより、改善策を考え、どのようにしてより良いものにしていくかを考える道具として利用するということである。事前評価や中間評価であれば、評価結果を活用して当該協力を良くし、効率を高めることが考えられる。言い換えれば、協力の実施管理を支援することといえる。事後評価であれば将来の類似案件を構築する際に参考となる。

(2)評価の目的達成のための工夫

1)客観的評価基準の確立
成果重視と指標
 世界銀行では評価結果として役に立ち、信用ができ、透明性に富むものを求めている。評価の基本は、援助行為によって現実に何が変わったか、目標・目的がどの程度達成されたかという達成度合いを指標で測り、明確に示すことである。そのためには、アウトプット(結果)2)はもとより、アウトカム(目標)3)、インパクト(上位目標)4)についてもできる限り数値で示せる指標を用いて記述することが必要である。アウトカムやインパクトの指標は様々な要因の影響を受けるため、その変動からドナ-固有のプロジェクトの効果を取り出すのは必ずしも容易ではないが、ドナ-が支援する開発目標の達成状況を明確に示している。
 米国、イギリス、国連開発計画(UNDP)などでは実質的な成果指向型評価が取り入れられている。カナダやデンマ-クなどでは指標を作るために解説書、マニュアルなどを作成している。米国国際開発庁(USAID)では指標を用いてパフォ-マンス(成果)をプロジェクト計画時から終了時までモニタ-するシステムを考案している。USAIDの成果報告書(2000年)は、経済成長と農業開発、民主主義とグッド・ガバナンス、教育・訓練による能力開発、人口の安定と健康保持、長期的に維持可能な環境の保護、人道的支援、というプログラム目標とUSAIDの経営強化という経営目標別に、年次計画がどう達成されたかを記述している。年次計画も同様な形で書かれている。

評価の独立性の確保
 説得力があり、納得のいく評価結果を得るためには、評価は手法としてできるだけ客観的であるだけではなく、立場的にも客観的でなければならない。ほとんどのドナ-国及び国際機関では評価部門は協力部門から独立し、意思決定部門に直結している。また、評価活動においてもいわゆる第三者評価の重要性が強調されるようになっている。世界銀行では、終了時にプロジェクト担当部門によって行われている自己評価は独立した評価部門によってレビューされて、成果の格付けが確認される。さらに、数年後事後評価として評価部門が独自に再評価する。

レーティング
 プロジェクトには達成すべき目標がある。その目標の達成度に応じて、レーティング(評点)することがある。例えば、アジア開発銀行が1997年にバングラデシュで行った43案件の再評価は、全体として成功した案件35%、部分的に成功した案件56%、成功しなかった案件9%と分類されている。
 しかし、レーティングの基準は単純でも客観的だけでもない。また、レーティングすることが評価の最終目的ではない上に、どのような基準でレーティングをしたとしても結局○や×だけが独り歩きする傾向があること、さらに、不成功と烙印を押す「魔女狩り」的な要素があり、ODA実施者の志気を不必要に下げるだけで、改善努力にあまり寄与しないなどの問題もあり、世界的に見ても2国間援助のドナーではレーティングはほとんど行われていない。

2)高次目標達成の重視
プロジェクト評価からプログラム・政策レベルの評価へ
 1980年代の半ばから、各国援助機関は国レベルの開発協力に力を入れるようになってきた。世界銀行やオランダも当初個々のプロジェクトの評価を行っていたものが、政策、セクタ-、プログラムといった総合的な課題の評価に重点を移していった。
 これまで国レベルの評価は、国毎のプロジェクト評価結果を総合化するという意味合いの分析が多かったが、最近では個別プロジェクト評価の寄せ集めではなく、国の開発目標に各種の援助が総合的にどの程度寄与したかを評価する分析が多くなっている。UNDPや他の援助機関も同様の傾向で、プログラムやプロジェクトのミクロ的成果から、社会経済的なマクロ的インパクトに目が向けられるようになっている。

合同評価の重要性
 被援助国に対する援助は、単独の国や国際機関が行っているわけではなく、複数のドナーが様々な分野で援助を実施している。このため、あるドナーによる援助のみを評価対象とするだけでは、特定の国に対するその援助のインパクトや効果を正しく評価することは困難である。更に最近では、開発パートナーシップの推進という観点から、途上国が援助国・国際機関と協力して、個別の分野ごとに連携して開発協力を行うという「セクター・ワイド・アプローチ」の取り組みが試みられており、その実施のために、セクター毎に共通基金を設立して各ドナーが資金を拠出する「コモン・ファンド」方式の導入など、援助協調の動きもあり、複数のドナーによる合同評価の重要性が強く認識されている。また途上国自らの開発への取り組みの活性化のために、評価への途上国の参加の必要性についても議論されている。さらに、ODAの質の向上のためにはODA評価手法や評価体制の改善は非常に重要であるとの観点から、援助国や援助機関と被援助国による合同評価は、途上国との評価手法の共有化や、途上国における評価手法や評価体制の改善を図る上で非常に効果的であるとし、その学習効果も注目されている。
 このように、近年、「合同評価」の重要性の認識が高まっており、2001年のOECD-DAC援助評価作業部会の年次会合(於:パリ)においても主要議論の一つとして議論された。  一方、合同評価に係わる議論においては、積極的に推進しようという意見に対して、幾つかの問題点も指摘されている。例えば、多数の関係者の携わる合同評価の実施には、時間的にも財政的にも負担が多いこと、合同での評価によって援助評価の国内的な意味合いが抜けてしまい、自国民への説明責任を如何に確保するかなど評価のオーナーシップに係わる問題があることなどがあげられる。  日本としては、数年前から、国際機関や他国との合同評価を実施しているが、上述したような問題点も認識しつつ、更なる合同評価の効果的な実施に向けて努力を行っていくことが重要である。

3)評価結果の公開と広報
 ODA活動の改善を保証するためには、評価結果を公表することが不可欠である。報告書は可能な限り様式を整理してデータベース化するとともに、評価結果をホームページなどで迅速な公開を拡充することが大事である。ODAを拡大し、継続していく為には国民の理解と参加が重要である。評価活動に市民、NGO、自治体、地方議員などが参加する機会を拡充し、公開された評価報告書に関し、国民一般が自由に意見を述べ、それらが次のODA活動に反映される仕組みの整備に、これまで以上に努めなければならない。
 世界銀行、アジア開発銀行など国際機関だけではなく、USAID、カナダ国際開発庁(CIDA)など主要援助機関はホームページで評価基準や評価結果を公開している。我が国でも評価結果の公開と広報が重要であるという認識から、外務省、国際協力事業団(JICA)、国際協力銀行(JBIC)でホームページでの評価結果の公開などに取り組んでいる。

4)評価フィードバック体制の改善
評価情報の活用促進
 評価結果は利用されて当該プロジェクト、次の類似のプロジェクトに生かされ、長期的にODAが効率化され、効果が高まると期待されている。しかし、評価活動がODAの効率化、効果向上にどれだけ役立ったかについては明らかでないことが多い。
 例えば、スウェ-デンでの評価結果は政策決定、現行の協力案件、新しい協力案件で考慮されることになっているが、実際にはほとんど利用されていない。評価結果の利用者は援助実施機関、相手国政府、プロジェクト管理センタ-、プロジェクト現地事務所、プロジェクト裨益者と様々であるはずである。しかし、相手国側に評価結果が知らされていなかったり、評価結果が利用される場合でも、評価結果を改善のために直接的に利用することよりも、概念的な理解や協力行為の正当化に利用するに留まっていると分析されている。
 ドイツやイギリスなどにおいては、評価結果が新しいプロジェクトにフィードバックされるメカニズムが比較的あるが、多くの援助機関では、「事後評価自体のことを知らない」、「入手方法を知らない」、「使わなくても業務はこなせる」など、事後評価自体の宣伝不足の問題と、事業サイクルにおける評価の位置付けが不明確であることの問題がある。

フィ-ドバック体制の確立
 評価情報を周知させたり、評価情報の内容を改善して使いやすくすることは重要なことではあるが、それだけでは十分ではない。評価活動を報告書作成のためだけの活動に終わらせずに、次のより良い計画作成や事業実施へつなげるよう、フィードバックを適切に活用・反映できるような仕組みを作る必要がある。その為には評価部門が企画部門や事業担当部門と協力してフィードバックを積極的に図らなければならない。例えば、イギリスでは常設の委員会を作り、評価結果のフィードバックを確実にする仕組みを整備している。我が国でも類似の仕組みを工夫している。

短期フィ-ドバックの促進
 評価結果は次のプロジェクトで利用するだけでなく、できるだけ当該プロジェクトの実施過程において活用されるのが望ましい。事業のさまざまな段階、特に事業開始から早い段階にできるだけ頻繁にモニタリングを行い、早いフィ-ドバックを適切に事業の実施に反映させられる仕組みを作り、プロジェクトの成果を高め、ODA事業の効率化につなげる努力が必要とされている。
 特に、政策レベルの評価結果はODA全体に与える影響が大きいことから、政策実施中に複数回の評価を行い、適宜に政策の再確認、見直しを行うことが必要である。最終的には行政府での評価結果が立法府で活用されることが、政策レベルの評価のフィ-ドバックとして重要である。

参加型評価・相手国へのフィ-ドバックの必要性
 忘れてならないのは相手国へのフィードバックである。評価結果を相手国側にきちんと報告することを徹底し、相手国が評価結果からの教訓・提言を今後の事業計画の作成・実施に反映するよう支援することが長期的に重要となる。2000年に東京で開催されたOECD-DAC援助評価作業部会のワークショップには発展途上国から初めてオブザ-バ-が招かれた。同時に開かれたODA評価セミナ-でも援助供与国と相手国が協力して評価することの意義が強調された。
 世界銀行は、国際協力の効果は相手国政府の良好な政策環境の中でのみ発現することを最近特に強調している。これまでODA評価は援助供与側のみで行われがちであったが、評価活動に相手国側の関係者を含める参加型評価は相手国側の評価能力を高めると共に、協力の効果的な活用能力の向上をさせるなど、評価結果のフィ-ドバックに大きく貢献する。オランダではパ-トナ-国の専門や関係機関を評価に参加させたり、評価報告書のドラフトにコメントをもらったりしている。
 このような公明正大な評価活動は、国際社会の中での日本のODAの評価を高め、ひいてはプロジェクト終了後の自立発展性を担保するものとなる。このような観点から、我が国においても、相手国政府との合同評価の重要性を考慮し、JICAの終了時評価調査では、基本的に合同評価の形で評価が行われている。さらに、国別評価調査の実施後、評価対象国において政府や民間の関係者などの参加の下、セミナーを開催し、評価結果の報告、討議などを行うことも多くなった。

3.おわりに

学習・改善の強調へ
 評価の「説明責任」の役割としては、不正な行為を戒めることがあげられる。しかし、評価の機能がそれだけであれば、後ろ向きな評価になってしまう。世界銀行や米国などでは「学習」の機能を重視した、前向きな評価を強調している。
 ODAは発展途上国という未確定で困難な環境の下に行われるものであり、非の打ちどころがない完全なプロジェクトは皆無である。どのように科学的な将来予測を行い、可能な努力をしても、これで十分と言うことはない。たとえ当初の目標は達成できても、効率化の余地は必ず残される。改善の余地のないプロジェクトはあり得ない。完全であり評価は不要と思えば進歩はない。
 大事なことは、評価結果を基にして当該プロジェクトや、次に行われる類似プロジェクトを改善することである。あれが悪い、ここが悪いと言い募るのではなく、評価結果を活用してODA活動がどれだけ良くなったかという、結果の利用に焦点を当て、改善手段としなければ、ODA評価活動はやがて形骸化してしまう。
 ODA評価はあくまでもODAの質を高めるのを助けるものでなければならない。評価の二つの目的の中でも、学習の役割を大きくしていくような努力と意識の改善が一段と求められている。関係者に影響を与えるという社会的学習を促進してこそ、評価は初めて役に立つからである。
注:
1) 牟田博光教授は、ODA評価研究作業委員会委員長(1998-99年)、ODA評価研究会委員長(2000年)、日本評価学会副会長(2002年2月現在)等、歴任されている。
2)アウトプット:建設された道路、ダム、建物、訓練された教師、研修生など、プロジェクトを実施することによって直接生み出される生産物やサービス
3)アウトカム:プロジェクトの成果が生み出されることによって、発現が期待される受益者に対する成果・効果。
4)インパクト:プロジェクトを実施することによって、技術、経済、社会文化、制度、環境などの面で周囲に及ぼす直接的、及び間接的効果


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