2 南西アジア地域
南西アジア地域は、域内で約18億人の人口を有し、近年高い経済成長率を維持していることから、日本企業にとって魅力的な市場・生産拠点であり、投資先としても注目を集めています。また、同地域は、日本と中東・アフリカ地域を結ぶシーレーン上の要衝に位置しており、戦略的にも重要な地域です。
一方、南西アジア地域には、インフラ整備、初等教育制度や保健・医療制度の整備、法制度整備、自然災害への対応、民主主義の定着、環境・気候変動対策など、依然として多くの開発課題が存在しています。特に貧困については、世界の貧困層の3分の1以上が同地域に住んでいると言われており注9、貧困の削減が大きな課題となっています。
日本は、南西アジア各国との間に伝統的な友好関係を有しており、長年にわたり同地域の最大のパートナーとして支援を実施してきています。同地域の有する経済的な潜在力をいかしながら経済社会開発や、民主化・民主主義の定着、平和構築、自然災害に対する緊急人道支援・復旧に向けた支援など、多岐にわたる支援を行っています。
●日本の取組
日印首脳会談(写真:内閣広報室)
デリーメトロを視察する茂木外務大臣
パキスタン第3の人口を擁するファイサラバードに対する「浄水場及び送配水管網改善計画」によって設置された配水施設
ブータンにおいて、「温帯果樹振興プロジェクト」により、同国の農業省の職員に果樹の栽培方法を指導するJICA専門家(写真:JICA)
近年目覚ましい経済成長を遂げるインドとの開発協力は「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」注10の重要な構成要素であり、日印双方の強みを持ち寄り、新たな価値を共創することを通じ社会的課題の解決を図ることで、日印双方の利益に資するような開発協力を推進しています。一方、インドは全開発途上国の貧困人口の約2割を抱えるなど、世界的なSDGsの達成の観点からも経済社会開発の必要性が依然として非常に大きいことを踏まえ、インドの包摂的かつ持続可能な経済成長の実現を後押ししています。
2025年には、民間投資の促進、行政官の森林・生物多様性保全に関する能力強化、水不足の深刻な地域における海水淡水化施設等の建設、都市圏におけるメトロ建設、養殖推進および水産関係者の生計向上に資する支援などの円借款に関する書簡を交換し、インド政府のSDGs達成に向けた取組を包括的に支援しています。また、「ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道建設計画」については、8月に行われた日印首脳会談において、日印の旗艦事業として、その実現に向け、引き続き協力していくことを確認しました。さらに、同会談の際に発表された「日印首脳共同声明」および「今後10年に向けた日印共同ビジョン」において、スタートアップ企業支援やAIに関する補完的な協力を推進する「日印AI協力イニシアティブ(JAI)」を新たに立ち上げるなど、イノベーションを生み出す新興技術分野の協力の裾野を広げることで一致しました。加えて、2025年8月のアフリカ開発会議(TICAD 9)で発表した「インド洋・アフリカ経済圏イニシアティブ」の下、世界で最も経済的潜在性が大きいインド以西からアフリカ大陸を含む一帯の地域の発展のため、日印でも協力していくことを確認しました。
2025年11月には高市総理大臣が南アフリカ共和国で開催されたG20首脳会合にて日印首脳会談を行い、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けて連携していくことで一致しました。
2026年1月には茂木外務大臣がインドを訪問し、モディ首相を表敬するとともに、ジャイシャンカル外務大臣との間で、第18回日印外相間戦略対話を実施しました。両外相は、2025年8月のモディ首相訪日時に打ち出した「今後10年に向けた日印共同ビジョン」に基づき、経済安全保障を含む安全保障、AIを含む経済・投資・イノベーション、人的交流の三つの柱で引き続き協力を深めていくことを確認するとともに、とりわけ経済安全保障協力とイノベーションを通じた経済成長に重点的に取り組むことで一致しました。また、両外相は、JAIの下、AI分野において具体的な協力を推進していくための「日印AI戦略対話」の立ち上げで一致しました。
茂木外務大臣はインド訪問の機会に、日本が円借款の供与を通じて建設に協力し、女性専用車両や、整列乗車、点字ブロックなど、日本の公共インフラにも導入されている手法を採用したデリーメトロを視察しました。
近年順調な経済発展を続け、日本企業の進出も増加している伝統的な友好国バングラデシュとの間では、2023年に格上げされた「戦略的パートナーシップ」と、(ⅰ)経済インフラの開発、(ⅱ)投資環境の改善、(ⅲ)連結性の向上を3本柱とする「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)」構想の下、FOIPを推進する観点から、マタバリ深海港、ダッカメトロ(MRT)、ダッカ国際空港第三ターミナル、経済特区の開発等の協力を進めています。2025年には、2024年8月に発足した暫定政権が取り組む各種経済改革や気候変動対策を後押しするための財政支援を行うことを決定しました。また、近年、旅客や貨物の需要が急激に拡大していることに伴い、円滑な交通・流通に支障が出ている同国の鉄道を複線化し、国内と周辺国の連結性向上を図るための円借款の供与を決定しました。ほかにも、2026年に後発開発途上国(LDCs)からの卒業を控え、産業多角化の促進や急激な都市化への対応といった諸課題に取り組むため、行政機構の制度構築や行政能力の向上が急務となっており、日本は若手行政官などの人材育成のための無償資金協力も継続しています。
また、日本はバングラデシュ暫定政権が目指す公正かつ包摂的な政治参加の実現に向けた協力として、国連開発計画(UNDP)と連携の下、次期総選挙に際して有権者登録などに用いる機材の供与を行いました。そのほか、2017年にミャンマー・ラカイン州から大量流入し、その後も増え続けている避難民について、日本はバングラデシュ政府の受入れ取組を後押しするため、世界食糧計画(WFP)、国際移住機関(IOM)などの国際機関等と連携し、ミャンマーからの避難民およびホストコミュニティのための人間の安全保障分野を中心とした支援を継続しています。あわせて、日本NGO連携無償資金協力やジャパン・プラットフォーム(JPF)注11による日本のNGOを通じた支援も行われています。
アジアと中東・アフリカをつなぐシーレーン上の要衝に位置するスリランカは、伝統的な親日国であり、日本はFOIPの実現に向けて、連結性強化や海洋分野などで同国との協力強化を進めてきています。また、日本は、過去の紛争の影響を受けた人々の生計向上や、漁業・農業分野を中心とした産業育成・人材育成などの協力および災害対策や海上油流出事故への対応能力の向上などへの支援を行っています。さらに、2022年の経済危機発生以降の危機的な状況を受け、食料、保健などの緊急人道支援やガバナンスの強化に対する支援も行っています。2025年には、近年の経済成長と急速な人口増加による都市部の廃棄物処理問題や火災発生リスクに対応するための廃棄物収集・輸送車や消防車の整備、汚職対策の強化に資する法的・政策的枠組み構築、北部・東部の小規模酪農家の生計向上に資する機材整備等の支援に関する無償資金協力を決定しました。
2022年4月にスリランカ政府が対外債務の一時的支払い停止の宣言を行うなど経済危機に陥りましたが、その後日本は債権国会合の共同議長として、スリランカの債務再編の取組を強力に後押ししてきました。2024年7月、債権国メンバーとスリランカ間で債務再編に関する覚書の署名が完了しました。2025年3月、日本とスリランカは、スリランカ政府およびスリランカ空港公社がJICAに対して負う債務の一部を繰り延べるための書簡を署名・交換しました。これにより、日・スリランカ間の債務再編が正式に完了しました。これを受けて、7月、日・スリランカ経済協力政策協議が開催され、日本のスリランカに対する国別開発協力方針、スリランカ政府の優先開発分野などにつき意見交換を行い、引き続きスリランカの経済社会開発とFOIPの維持・強化のため、緊密に協力していくことを確認しました。また、9月に行われた日・スリランカ首脳会談で発表された日・スリランカ共同声明では、両国間の「包括的パートナーシップ」の下、安全保障、経済・投資、経済協力などの分野における協力をさらに深化・拡大することを確認しました。日本は、スリランカの持続的な発展、成長に一層貢献していきます。
モルディブは、インド洋シーレーンの要衝に位置する伝統的な親日国であり、日本は、FOIPの実現に向けて同国との協力強化を進めています。同国は、国土の80%が海抜1m以下の低平で面積の小さい島々から構成され、島嶼(しょ)国ゆえの水災害に対する脆(ぜい)弱性を抱えています。このため、2025年には、同国の首都マレ島において、海岸防災施設(護岸)の嵩(かさ)上げを行うとともに雨水排水能力を向上するための機材を供与する無償資金協力を決定しました。
パキスタンは、世界第5位の人口を擁し、アジアと中東の接点に位置するという地政学的重要性を有するとともに、テロ撲滅に向けた国際社会の取組において重要な役割を担っており、同国の安定的な発展は周辺地域、ひいては国際社会全体の平和と安定の観点からも重要です。同国は、南西アジア地域において母子保健・医療体制が最も脆弱な国の一つであるため、日本は2025年に、同国中部パンジャブ州の小児病院に新生児集中治療室などを設置し医療機材を供与する無償資金協力を決定しました。また、同国の水道事業において、採算が確保できないことが支障になっているところ、パンジャブ州ファイサラバード市において水道スマートメーターなどの供与を決定しました。
伝統的な親日国であるネパールの民主主義の定着、安定と繁栄は、日本にとって、政治的・経済的に重要な南西アジア地域全体の安定を確保する上でも重要です。ネパールが2026年のLDCs卒業を目指す中、日本は持続可能な経済発展の実現を後押ししており、これまで、橋、病院などの公共インフラ施設や、住宅や学校などの改修や再建を支援しています。加えて、同国政府の災害リスク削減に係る能力強化や、建築基準に沿った建物の普及などに係る各種技術協力を実施しています。シンズリ道路は日本の無償資金協力により建設された山岳道路で、カトマンズを中心としたネパール国内の物流改善に大きな貢献を果たしました。しかし2024年に、1970年の観測開始以来最大の豪雨が発生し、この影響で、道路の一部が崩れるなどの被害を受けました。これを踏まえ、2025年に、特に技術的難易度および緊急性の高い箇所の復旧支援を決定しました。
ブータンに対する日本の開発協力は、特に農業生産性の向上、道路網、橋梁(りょう)、発電などの経済基盤整備や、人材育成といった分野で、着実な成果を上げています。例えば、国土の大部分が山岳地帯であり、道路が最も重要な交通・輸送手段となっているブータンにおいて、日本の技術を活用して二つの橋梁(ナムリン橋とダーダリ橋)の架け替えを支援しています。これに合わせ、ブータンの道路インフラがより効果的に維持管理されるよう、技術協力を通じた人材育成も行っています。2025年2月、ブータンの安定的な電力供給の体制の構築と雨期の近隣国への余剰電力輸出の促進を図り、同国の持続的な社会経済発展と南西アジア地域の脱炭素化に寄与するため、水力発電所の整備を支援することを決定しました。
- 注9 : 国連開発計画(UNDP)ホームページ(ただし、同ホームページの南アジアにはアフガニスタンが含まれている)
https://hdr.undp.org/content/2024-global-multidimensional-poverty-index-mpi#/indicies/MPI - 注10 : 日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ https://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sw/in/page3_001508.html
- 注11 : 用語解説を参照。
