2024年版開発協力白書 日本の国際協力

2 南西アジア地域

南西アジア地域は、域内で約18億人の人口を有し、近年高い経済成長率を維持していることから、日本企業にとって魅力的な市場・生産拠点であり、投資先としても注目を集めています。また、同地域は、日本と中東・アフリカ地域を結ぶシーレーン上の要衝に位置しており、戦略的にも重要な地域です。

一方、南西アジア地域には、インフラ整備、初等教育制度や保健・医療制度の整備、法制度整備、自然災害への対応、民主主義の定着、環境・気候変動対策など、依然として多くの開発課題が存在しています。特に貧困については、世界の貧困層の約3分の1が同地域に住んでいると言われており注10、貧困の削減が大きな課題となっています。

日本は、南西アジア各国との間に伝統的な友好関係を有しており、長年にわたり同地域の最大のパートナーとして支援を実施してきています。同地域の有する経済的な潜在力をいかしながら経済社会開発や、民主化・民主主義の定着、平和構築、自然災害に対する緊急人道支援・復旧に向けた支援など、多岐にわたる支援を行っています。

●日本の取組

日本の有償資金協力を通じて整備されたインドのムンバイ・メトロ3号線の車両基地の様子(写真:Mumbai Metro Rail Corporation Limited)

日本の有償資金協力を通じて整備されたインドのムンバイ・メトロ3号線の車両基地の様子(写真:Mumbai Metro Rail Corporation Limited)

ネパール初の山岳交通道路トンネルとなるナグドゥンガ・トンネル本坑の貫通式の様子

ネパール初の山岳交通道路トンネルとなるナグドゥンガ・トンネル本坑の貫通式の様子

近年目覚ましい経済成長を遂げるインドとの開発協力は「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」注11の重要な構成要素であり、日印双方の強みを持ち寄り、新たな価値を共創することを通じ社会的課題の解決を図ることで、日印双方の利益に資するような開発協力を推進しています。その一方で、インドは全開発途上国の貧困人口の約2割を抱えるなど、世界的なSDGsの達成の観点からも経済社会開発の必要性が依然として非常に大きいことを踏まえ、インドの包摂的かつ持続可能な経済成長の実現を後押ししています。

2024年には、連結性向上に資する道路や橋梁(りょう)、貨物専用鉄道の建設、保健医療体制の強化に資する医科大学病院の建設、インド南部の起業家や中小零細企業に対する支援、インド北部の山岳地帯における都市上水道整備、気候変動対策のための森林・生物多様性保全、園芸作物の多様化支援等の円借款に関する書簡を交換し、インド政府のSDGs達成に向けた取組を包括的に支援しています。また、「ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道建設計画」については、7月に行われた日印外相会談において、日・インドの旗艦プロジェクトとして引き続き推進していくことを両国間で確認しました。このほか、2024年3月、上川外務大臣(当時)は、ジャイシャンカル外務大臣との間で、日印両国の強みをいかした形で第三国の発展を共に支えていくべく、新たに日印関係者間で開発分野での第三国協力に係る協議の場を設けることで合意し、インドとの間で新たな協力関係を築いています。

近年発展が目覚ましく、日本企業の進出も増加している伝統的な友好国バングラデシュとの間では、2023年4月のハシナ首相(当時)の訪日の機会に、両国間の「包括的パートナーシップ」が「戦略的パートナーシップ」に格上げされました。日本は、本パートナーシップと、(i)経済インフラの開発、(ii)投資環境の改善、(iii)連結性の向上を3本柱とする「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)」構想の下、2023年3月に岸田総理大臣(当時)が発表した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のための新たなプランにおいて、多層的な連結性に資する具体例として挙げられた、インド北東部とバングラデシュなどを一体の経済圏と捉え、地域全体の成長を促すためのベンガル湾からインド北東部をつなぐ産業バリューチェーンの構築への貢献も念頭に、マタバリ深海港、ダッカメトロ(MRT)、ダッカ国際空港第三ターミナル、経済特区の開発等の協力を進めています。2026年に後発開発途上国(LDCs)からの卒業を控えているバングラデシュでは、順調な経済成長を持続・加速化していく上で、産業多角化の促進や急激な都市化への対応等、様々な課題に直面しています。このため、日本は、バングラデシュに対し、若手行政官の人材育成などのための無償資金協力も実施しています。

また、日本はバングラデシュに対する人道支援も続けています。2017年にミャンマー・ラカイン州から大量流入した避難民について、日本はバングラデシュ政府の受入れ取組を後押しするため、国連世界食糧計画(WFP)や国際移住機関(IOM)などの国際機関と連携し、コックスバザール県の避難民キャンプやホストコミュニティに加え、他国に先駆けて支援を始めたバシャンチャール島においても、人間の安全保障分野を中心とした支援を継続しています。避難民およびホストコミュニティ支援では、日本NGO連携無償資金協力やジャパン・プラットフォーム(JPF)注12による日本のNGOを通じたきめ細やかな協力も行われています。

こうした多様な主体と連携した人道支援は緊急を要する場面でもいかされており、2024年8月末にバングラデシュ南東部を中心に発生した洪水被害に対し、日本は9月に国連児童基金(UNICEF)および国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じた、水・衛生および一時的避難施設等の分野における合計100万ドルの緊急無償資金協力を決定しました。また、JPFを通じた日本のNGOによる3億円の支援も決定されました。

アジアと中東・アフリカをつなぐシーレーン上の要衝に位置するスリランカは、伝統的な親日国であり、日本はFOIPの実現に向けて、連結性強化や海洋分野などで同国との協力強化を進めてきています。また、日本は、過去の紛争の影響で開発の遅れている地域を対象に、女性世帯、国内避難民となり私財を失った女性たちを含む人々の生計向上や、漁業・農業分野を中心とした産業育成・人材育成などの協力、および災害対策や海上油流出事故への対応能力の向上などへの支援を行っています。さらに、2022年の経済危機発生以降の危機的な状況を受けて、日本は、スリランカのニーズに寄り添う形で、食料、保健等の緊急人道支援を行ってきたほか、汚職・腐敗防止に関する政策の策定支援を始めとするガバナンスの強化に対する支援も行っています。

2022年4月にスリランカ政府が対外債務の一時的支払い停止の宣言をしたことを受けて、日本は債権国会合の共同議長として、スリランカの債務再編の取組を強力に後押ししてきました。2024年7月、債権国メンバーとスリランカ間で債務再編に関する覚書の署名が完了し、また、日本とスリランカとの間の二国間合意の迅速な締結に向けたスリランカ政府の意思が確認されたことを受け、日本は一時停止してきた円借款案件に係る貸付実行等を再開することを決定しました。日本は、スリランカの持続的な発展、成長に一層貢献していきます。

モルディブは、スリランカ同様、インド洋シーレーンの要衝に位置する伝統的な親日国であり、日本は、FOIPの実現に向けて同国との協力強化を進めています。2024年には、島嶼(しょ)国ゆえの治安の脆(ぜい)弱性を抱える同国に対して、税関の監視能力を強化するための監視艇や関連の機材に係る無償資金協力を供与しました。また、国土の80%が海抜1m以下の低平で面積の小さい島々から構成され、洪水等の自然災害が多発しているモルディブが迅速に災害復旧作業を行えるよう、排水ポンプや消防車等を供与したほか、モルディブ国民が緊急時に詳細な防災情報を適時得られるよう、現在実施中の日本方式による地上デジタルテレビ放送網の整備に際し、物価変動等の影響を受けた資金不足解消のために追加的に無償資金協力を供与しました。

パキスタンは、世界第5位の人口を擁し、アジアと中東の接点に位置するという地政学的重要性を有するとともに、テロ撲滅に向けた国際社会の取組において重要な役割を担っており、同国の安定的な発展は周辺地域、ひいては国際社会全体の平和と安定の観点からも重要です。日本は、自然災害による被害を頻繁に受けているパキスタンの気象現象を監視する能力を強化したり、気象・洪水情報や予警報の精度を向上できるよう、支援を続けているほか、母子保健・医療体制の強化にも貢献しています。そのほか、2024年にも、野生株ポリオウイルスが常在する同国のポリオ撲滅に向けたワクチン接種を支援するための無償資金協力を供与したほか、若手行政官の人材育成を支援する無償資金協力を供与しました。

伝統的な親日国であるネパールの民主主義の定着、安定と繁栄は、日本にとって、政治的・経済的に重要な南西アジア地域全体の安定を確保する上でも重要です。ネパールが2026年のLDC卒業を目指す中、日本は持続可能な経済発展の実現を後押ししており、これまで、橋、病院などの公共インフラ施設や、住宅や学校などの改修や再建を支援しています。加えて、同国政府の災害リスク削減に係る能力強化や、建築基準にのっとった建物の普及などに係る各種技術協力を実施しています。2024年4月、ネパール初の山岳交通道路トンネルとなるナグドゥンガ・トンネルが、日本の有償資金協力により、貫通しました。このトンネルが完成すれば、ネパールの運輸交通網が円滑化され、急増する交通需要にも対応できるほか、移動時間も短縮され、また、交通の安全性も向上されます。

ブータンに対する日本の開発協力は、特に農業生産性の向上、道路網、橋梁などの経済基盤整備や、人材育成といった分野で、着実な成果を上げています。2024年には、国土の大部分が山岳地帯であり、道路が最も重要な交通・輸送手段となっているブータンにおいて、日本の技術を活用して2つの橋梁(ナムリン橋とダーダリ橋)の架け替えを行う無償資金協力に関する書簡を交換しました。また、ブータンの道路インフラがより効果的に維持管理されるよう、技術協力を通じた人材育成も行っています。

案件紹介7

パキスタン

SDGs1 SDGs5

シンド州におけるインフォーマルセクターの女性家内労働者の生計向上および生活改善支援プロジェクト
技術協力(2017年3月~2023年12月)
パキスタンの女性たちが活躍できる仕組みを

パキスタンでは女性の多くは非正規労働に従事し、特に自宅を作業場とする家内労働者が大部分を占めています。そうした労働者はしばしば不安定で不当に低い報酬で働いていたり、劣悪な労働環境に置かれたりしています。

そこで日本は、家内労働者が多いシンド州において、同州の女性開発局や現地のNGOなどと協力し、研修会やセミナー、就労場所における助言などを通じ、女性たちの生計向上と生活改善支援を行いました。

研修やセミナーでは、まず家計の管理として、こどもの就学や突然の病気などに備える人生設計や貯蓄計画の作成を支援しました。次に、商品の納期を守ること、品質管理や衛生管理の仕方など、仕事や取引の基本事項の普及に取り組みました。さらに、正規の金融サービスへのアクセスが容易ではない女性が利用できる、スマートフォンを活用した金融サービスの開発・普及にも取り組みました。

プロジェクト活動を通じて開発されたアプローチのモデルと、女性の家内労働者を対象とした生計向上およびビジネスのトレーニング教材は、案件終了後も、パートナー機関において家内労働者の支援に活用されることが期待されます。

多くの世帯で生活と家計を支える女性の活動を向上させることは、パキスタンの経済的、社会的発展にも欠かせません。

日本は、家内労働に従事するパキスタンの女性の安定的な生計活動の維持と改善を、これからも支援していきます。

スマートフォンの機能を使って金融アクセスを高める研修の様子(写真:JICA)

スマートフォンの機能を使って金融アクセスを高める研修の様子(写真:JICA)

研修を受ける女性たち(写真:JICA)

研修を受ける女性たち(写真:JICA)


  1. 注10 : 国連開発計画(UNDP)ホームページ(ただし、同ホームページの南アジアにはアフガニスタンが含まれている)
    https://hdr.undp.org/content/2023-global-multidimensional-poverty-index-mpi#/indicies/MPI
  2. 注11 : 日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ https://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sw/in/page3_001508.html
  3. 注12 : 用語解説を参照。
このページのトップへ戻る
開発協力白書・ODA白書等報告書へ戻る