
外務省は、外交の最前線として世界195か国に大使館を設置し、相手国政府との交渉や連絡、政治・経済その他の情報の収集・分析、日本を正しく理解してもらうための広報文化活動などを行っています。開発途上国では、政府開発援助(ODA)を通じた開発協力業務も重要な仕事の一つです。大使館での実務経験を有する外務省職員から話を聞きました。

青山大介 主査
在モンゴル日本国大使館勤務後、TICADIV、北海道洞爺湖サミット関連業務を経て、現在、国際協力局地球規模課題総括課でSDGs関連業務を担当。

司会:岡田悠季(ゆき)
開発協力企画室
課長補佐

野口有佑美(あゆみ) 課長補佐
在セネガル日本国大使館勤務時、在ギニアビサウ日本国大使館業務も担当。現在、国際協力局政策課でODA予算関連業務を担当。

稲葉大樹(だいき) 主査
在ブラジル日本国大使館、在アンゴラ日本国大使館勤務を経て、国際協力局国際保健戦略官室で新型コロナ対策等の支援に従事、現在、中東アフリカ局アフリカ部アフリカ第2課でアンゴラ、モザンビークほかを担当。
岡田:大使館における開発協力業務の経験について、日本の支援が役立っている様子や、やりがいや苦労を交えて教えてください。
青山:モンゴルでは、各地にある学校や保育園など老朽化した施設を補修する場面で、草の根・人間の安全保障無償資金協力注1を通じた支援が盛んに行われてきました。地域コミュニティに根ざした支援なら日本の「草の根無償」というイメージを持っている方も多く、モンゴルの日本への大きな信頼につながっていると感じました。国民性の違いを感じる場面も少なからずありましたが、広い国土のどの地域を訪問しても、「ありがとう」の言葉や、「日本が支援してくれた学校に自分のこどもが通っている」というような感謝の声が聞かれて、日本の存在が広く知られていることを、肌で感じました。
日本の支援が長年の月日を経て、二国間関係の強化につながった例も経験しました。2019年、即位礼正殿の儀へ参列のため来日したモンゴルのフレルスフ首相(当時)が、「1990年代にJICAの研修で来日した際に、温かく迎えてくれた青森県のホームステイ先のホストファミリーを探してほしい、モンゴルに招待した当時の約束を果たしたい」と熱望されました。名前も分からない中、その頃の手がかりがないか国会図書館で調べたり、報道関係者の方々に聞いたりして、なんとかホストファミリーを見つけました。2022年の夏にその招待が実現し、大統領となられたフレルスフ氏はホストファミリーご一家とモンゴルで再会されました。日本が行っている開発協力は様々な所で人と人をつなぎ、国と国の関係を築いていることを実感しました。
野口:在セネガル日本国大使館勤務時に担当していたギニアビサウ注2は、政権交代時にクーデターが起きるなど政情が不安定でした。そんな中、安定した国造りを目指して議会選挙を行おうとの機運が高まりましたが、議会選挙の経験が多くないギニアビサウにおいては、選挙に関するノウハウがありません。そこで、議会選挙を実現させたいという思いから、日本ができる支援を検討し、国連開発計画(UNDP)との連携を通じた支援を実現できました。選挙は、主導権をめぐる指導者たちの争いが顕在化する機会でもあり、様々な理由で延期されましたが、日本を含む各国の支援を受けて、最終的に成功裏に終了しました。この経験を通じて、民主主義が根付くということはどういうことか、その意義と大変さを身に染みて感じました。EU各国やアフリカ諸国、日本の支援が奏功し、ようやく選挙が実現した時、その選挙関連のポスターに日本の国旗が他国と並んで掲げられているのを見て、この国の大きな変革に、日本も日本らしい形で支援を行うことができたという喜びを感じました。
稲葉:私が赴任していたアンゴラでは、新興国を含む多くの国による開発協力が行われていました。その中には、途上国の持続可能性を十分に考慮せず、開発をめぐる国際ルール・スタンダードに合致しない形で多額の援助が行われているケースも見られましたが、日本の特徴は、異なるスキームを組み合わせ、アンゴラの長期的な発展に資する支援のあり方を模索しながら支援を行っていくことだと思っています。具体的には、無償資金協力を通じて基礎インフラ施設整備を行うと同時に、その国の持続的な成長を支える施設にするために、維持管理や運営のための人材育成や職業訓練などの技術協力を併せて行うのです。
また、ポルトガル語が公用語のアンゴラでは、日本はブラジルと協力し三角協力注3にも取り組んでいます。JICAの技術協力を中心とした日本の支援を長年受けてきたブラジル全国工業職業訓練機関(SENAI)において産業人材育成に関する知見を積んだブラジル人を講師としてアンゴラに招き、アンゴラの方々に対する職業訓練を行いました。現在も、自動車整備人材の育成のために、三角協力を進めています。こういった開発協力の形は、日本がブラジルで行ってきた支援が実を結び、信頼を得ることで、途上国が自身の経験として他の途上国に伝えていくことができるからこそ成り立つものです。職業訓練を受けたアンゴラの人々は、職を得ることができ、生活が安定するようになると、日本の支援に非常に感謝してくれます。そんな息の長い、相手国の人々のニーズに沿った日本らしい貢献に、やりがいを感じました。
岡田:現在の本省での開発協力業務について、本省ならではのやりがいや苦労、大使館の経験がいかされていることなども交えて、聞かせください。
野口:現在は、ODA事業の実施のために、予算をいかに確保するかを考える仕事を担当しています。予算がなければ現場での支援は実現できません。ですので、今の自分の役割は、開発協力の現場と、政治や国民をつなぐことだと考えています。予算を成立させるには、日本の支援が途上国の開発に資すると同時に、最終的に日本の国益につながるのだということを、国民の皆様にしっかり説明できることが大切です。日本企業や市民社会といかに連携して効果的にODAを実施できているか、ODAを実施することが日本の国益にどのように還元されているか、気候変動や感染症対策など一国だけでは解決できない地球規模課題の解決にODAを活用することが日本にとってもいかに大切か、そのようなことを国民の皆様に伝えることができるよう、日々悩み学びながら、日本の開発協力が実現できるよう頑張っています。
青山:本省での仕事は、支援を必要とする課題や国が数多(あまた)ある中で、どう優先順位を付けるかの判断が非常に重要です。各国の大使館からは、現場レベルの対話やニーズ分析の結果に基づき、各国が抱える課題を解決するための協力要請が本省に寄せられます。どれも各国にとって重要なものである一方、限りある予算を戦略的かつ効果的に活用するためには、日本の外交政策上の重要度、日本の比較優位が発揮できる協力となりうるか、開発効果が発現するまでフォローできるかなど、複合的な視野を持って判断していく必要があり、自問自答しながら優先順位を考えます。現場では支援ニーズに目が行きがちですが、そのニーズに応える支援が、日本の外交戦略上いかに重要かを案件形成の段階からもっと考えていくことが大事だと感じています。より良い協力を実現するには、日本としての大きな戦略と現地のニーズの双方をよく理解する必要があるということです。
稲葉:本省勤務で感じるのは、本省と在外の目線の違いです。物事を進めるにあたり、日本では当たり前のことであっても、相手国と最前線で調整する現地では、うまくいかないことが多々あります。書類一つとっても、単に提出を督促しているだけでは何ら進まず、相手国政府の担当者のデスクまで出向いていったことなど珍しくありません。大使館での業務経験は、本省において相手国の目線に立った現実的かつ効果的な外交政策の立案にあたり役立っています。
岡田:最後に、今後の日本の開発協力への思いについて聞かせください。
稲葉:世界には協力し合えるパートナーがたくさん存在しています。国際保健戦略官室で担当した各国でワクチン接種率を上げる活動の中で強く感じたのですが、限られた予算の中で効果を上げていくには、他のドナーや国際機関など様々なアクターとの連携が欠かせません。連携しつつも、日本としてやりたいことを実現していくことも大事です。広い視点を持って連携する中で、日本の政策も実現し、相乗効果を生み出し、課題解決を追求することが大事だと感じています。
野口:世界情勢が大きく変化する中、新型コロナウイルス感染症のまん延もあり、持続可能な開発目標(SDGs)の達成は深刻な影響を受けており、世界各地で発生する自然災害や紛争への対応を含め、ODAの重要性は非常に高いと感じています。限られた予算の中で効果を上げるためには、選択と集中は大切です。一方、予算なしには支援の継続や新たな課題への対応が困難になるため、ODA予算をどう増やし、どう使い、日本と世界にとってどんな成果をもたらすのか、ODAの重要性を広く国民の皆様にしっかりと説明し理解を得た上で、予算を増やす努力を行うことも大切だと考えています。
青山:日本への他国からの期待は大きいと感じています。世界情勢が目まぐるしく変化していく中、ビジネスもODAも、さらにスピードが求められてくるでしょう。そうした中、日本への期待に応えるためには、官民が協働で開発協力に携わり、例えばビジネスベースでやっていける部分はビジネスとして、相手国の発展に貢献できるような仕組み作りを支援することも、持続可能性の観点から重要であると感じています。

- 注1 人間の安全保障の理念を踏まえ、途上国における経済社会開発を目的とし、草の根レベルの住民に直接貢献する、比較的小規模な事業のために必要な資金を供与する無償資金協力(供与限度額は原則1,000万円以下)。NGOや地方公共団体などを対象としている。
- 注2 ギニアビサウには大使館の建物は置いておらず、在セネガル日本国大使館がギニアビサウの大使館業務を行っている。
- 注3 用語解説を参照。