7 中東・北アフリカ地域
日本は原油輸入の約9割を中東・北アフリカ地域に依存しており、世界の物流の要衝である同地域は、日本の経済とエネルギーの安全保障の観点から、極めて重要です。また、高い人口増加率で若年層が拡大し、今後成長が期待される潜在性の高い地域です。
同時に同地域は、中東和平問題に加え、「アラブの春」以降の政治的混乱、イランを巡る緊張の高まりなど、様々な課題を抱えています。特に、シリアでは戦闘が継続し、多くの難民・国内避難民が生まれ、周辺国も含めた地域全体の安定に大きな影響を及ぼしていることに加え、2021年8月のアフガニスタンにおけるタリバーン復権後は、同国および周辺国においても人道ニーズが高まっています。また、「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」のような暴力的過激主義の拡散のリスクも今なお各地に残存しています。
●日本の取組
この地域の平和と安定は、日本を含む国際社会全体の安定と繁栄にとって極めて重要です。持続的な平和と安定の実現に向けて、経済的支援や人材育成等を通じて支援していくことが求められています。
■新型コロナウイルス感染症に対する支援

アフガニスタンに関するG20首脳テレビ会議に出席する岸田総理大臣(写真:内閣広報室)
2021年、日本は、新型コロナウイルス感染症の対策として様々な支援を実施しました。2021年7月、イランに対し、約291万回分の日本製ワクチンをCOVAXファシリティ経由で供与し、12月には新たにエジプトおよびシリアに対して供与するとともに、イランへの追加供与を決定しました。このほか新型コロナ対策に取り組むヨルダンに対する支援として、2021年11月に、新型コロナ危機対応緊急支援円借款の枠組みを通じ、110億円の円借款を供与しました。
■シリア・イラク・レバノン、およびその周辺国に対する支援
国際社会の懸案事項であるシリア問題について、日本は、2021年3月に開催された「シリアおよび地域の将来の支援に関する第5回ブリュッセル会合」において表明した、総額約2億ドルの支援を速やかに実施しました。この支援には、シリアおよびその周辺国に対する人道支援や社会安定化といった分野への支援が含まれています。
2021年8月、茂木外務大臣(当時)がトルコを訪問した際に、世界最大のシリア難民受け入れ国であるトルコに対し、難民の増加と滞在の長期化に伴って必要となる社会インフラ整備のための支援として、450億円の円借款の供与に関する交換公文が署名されました。
イラクに対しては、日本は、イラク経済の根幹である石油・ガス分野や基礎サービスである電力・上下水道分野において、円借款などを通じた支援や、研修・専門家派遣による人づくりへの支援を実施しています。加えて、イラクが安定した民主国家として自立発展するため、ガバナンス強化支援にも取り組んでいます(第Ⅱ部2-1(4)民主化支援を参照)。
2011年のシリア危機発生以降、日本のシリア・イラクおよびその周辺国に対する支援の総額は約32億ドル以上となっています。このように、絶えず人道状況が変化している同地域において、日本は時宜(じぎ)に即した効果的な支援を実施しています(第Ⅱ部2-2(1)平和構築と難民・避難民支援も参照)。
また、日本は、人材育成や難民の自立支援に向けた取組も行っています。日本は、将来のシリア復興を担う人材を育成するため、2017年度から2021年までに108名のシリア人留学生を受け入れました。
■イエメン支援
イエメンでは、紛争の長期化により、全人口の約8割が何らかの人道支援を必要する「世界最悪の人道危機」に直面しています。こうした中、日本は、これまで主要ドナーとして、2015年から2021年までの7年間で、国際機関を通じて総額約3億ドル以上の人道支援を実施してきました。また、2021年も国際機関を通じた人道支援に加え、イエメンの自立的な安定化を後押しするための人材育成支援として、イエメンからの国費外国人留学生の受入れ、JICAによるイエメン人専門家を対象とした研修等、日本での教育・研修を実施しています。
■アフガニスタン支援

「パレスチナ支援調整委員会(AHLC)閣僚級会合」においてビデオメッセージを発出する本田外務大臣政務官(2021年11月)
2021年8月のタリバーンによるカブール陥落(かんらく)以降、アフガニスタンおよび周辺国で人道ニーズが一段と高まっている中、日本として、米国およびドイツ共催のアフガニスタンに関する拡大閣僚会合(2021年9月、茂木外務大臣(当時)出席)、国連主催のアフガニスタンの人道状況に関するハイレベル閣僚級会合(同月、鷲尾外務副大臣(当時)出席)、イタリア主催のアフガニスタンに関するG20首脳テレビ会議(10月、岸田総理大臣出席)等の国際会議に積極的に参加し、日本の人道支援の方針を表明するとともに、援助従事者の安全や人道アクセスの確保の重要性を強調しました。
上記会合で表明した方針に基づき、日本は、2021年10月に国際機関を通じて、シェルター、保健、水・衛生、食料、農業、教育等の分野で6,500万ドルの緊急無償資金協力を行うことを決定し、2021年12月現在、事業を実施中です。本支援も含め、日本は2021年中にアフガニスタンに関し総額約2億ドル(約220億円)の支援を行いました。また、同年12月には、令和3年度補正予算において、国際機関経由で総額約1億900万ドルの追加的支援を決定しました。
日本は2001年以降、アフガニスタンの持続的・自立的発展のため、二度の閣僚級支援会合のホスト(2002年、2012年)や、人道、保健、教育、農業・農村開発、女性の地位向上など、様々な分野で開発支援を行ってきました。今後のアフガニスタン支援については、上述の人道支援を迅速に実施するとともに、国際社会と緊密に連携しながら、ニーズをしっかりと見極めた上で適切に対応していきます。
■中東和平(パレスチナ支援)

中東訪問の際にイラクのフセイン外務大臣と会談した茂木外務大臣(当時)(2021年8月)
日本は、パレスチナに対する支援を中東和平における貢献策の重要な柱の一つと位置付け、1993年のオスロ合意以降、総額21億ドル以上の支援を実施しています。具体的には、東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区の社会的弱者やガザ地区の紛争被災民等に対して、その厳しい生活状況を改善するため、国際機関やNGOなどを通じた様々な人道支援を行ってきました。2021年5月にはパレスチナ武装勢力とイスラエルとの間で衝突があり、ガザ地区に大きな被害が出ましたが、これを受け、日本政府は食料、がれき除去、水・衛生、医療・保健などの分野での支援や新型コロナワクチンのためのコールド・チェーン注21整備、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を通じた食糧援助等により2,300万ドル規模の支援を実施しました。
日本は、将来のパレスチナ国家建設に向けた準備と、パレスチナ経済の自立化を目指して、パレスチナの人々の生活の安定・向上、財政基盤の強化と行政の質の向上など、幅広い取組を行っています。2021年8月に茂木外務大臣(当時)がパレスチナを訪問した際には、「平和と繁栄の回廊」構想の旗艦(きかん)事業であるジェリコ農産加工団地(JAIP)注22を訪問し、日本の支援によって建設されたパレスチナ・ビジネス繁栄センターの開所式に出席しました。さらに、新型コロナ感染拡大とその対策による社会経済への影響で大きく低迷したパレスチナ自治政府の財政事情を支援するため、2021年11月、10億円の無償資金協力を実施しました。

- 注21 : 注1を参照。
- 注22 : 日本独自の中長期的な取組として、2006年以降、日本は、イスラエル、パレスチナおよびヨルダンとの4者による域内協力により、ヨルダン渓谷の経済社会開発を進める「平和と繁栄の回廊」構想を提唱し、その旗艦事業であるジェリコ農産加工団地(JAIP)の開発支援に取り組んでおり、2018年5月には、パレスチナを訪問した安倍総理大臣(当時)がJAIPを訪問。