5 欧州地域
過去に共産主義体制にあった中・東欧、旧ソ連の多くの国々は、現在、市場経済に基づいた経済発展に取り組んでいますが、様々な課題に直面しています。
●日本の取組

北マケドニアにおいて技術協力「持続的な森林管理を通じた、生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)能力向上プロジェクト」で空中写真撮影のためドローンを操縦している日本人専門家(写真:JICA)
日本は、人権、民主主義、市場経済、法の支配などの基本的価値を共有する国々との関係をさらに強化し、欧州全体の一層の安定と発展に貢献するため、経済インフラの再建や環境問題などへの取組を支援しています。
西バルカン諸国注19は、1990年代の紛争の影響で改革が停滞していましたが、ドナー国・国際機関などの復興支援および各国自身による改革の結果、復興支援の段階から卒業し、現在は持続的な経済発展に向けた支援が必要な段階にあります。結束する欧州を支持する日本は、欧州連合(EU)などと協力しながら開発協力を展開しており、「西バルカン協力イニシアティブ注20」(2018年)の下、同諸国がEU加盟を目指すために必要な社会経済改革などを支援しています(アルバニアにおける金融サービス向上の取組について、「案件紹介」を参照)。
ウクライナに対して、2021年においても日本は同国の自立的・持続的経済成長を後押しすべく、経済・投資環境整備、都市環境改善、保健や教育などの基礎的社会サービスなど、幅広い分野において支援を行っています。2014年以降、政府側と親露派武装勢力との散発的な衝突などにより情勢が不安定な同国東部に対しては、避難民への水・衛生分野の支援、シェルターの提供や住居修復、和解を促す側面支援を実施してきました。さらに、技術協力を通じて、財政・金融に関する支援や、行政機関の能力開発のための研修、不正・腐敗防止のための中立・公正な公共放送の運用支援、廃棄物管理能力向上の支援などを実施しています(ウクライナで活躍する国際機関日本人職員について、「コロナ禍の世界の現場で活躍する国際機関日本人職員」を参照)。
2021年、日本は、新型コロナウイルス感染症の対策支援として、アルバニア、コソボ、モンテネグロの3か国に対し、保健・医療関連機材を供与する総額3億円の無償資金協力を実施しました。
日本は、欧州地域内の経済発展の格差を踏まえ、EUに加盟した国々は援助対象国から卒業したものとして支援を段階的に縮小するとともに、それらの国がドナー国として域内の開発途上国に対する開発協力に一層積極的に取り組むことを促しています。
アルバニア



小規模農家金融包摂プロジェクト
技術協力プロジェクト(2017年10月~2022年6月)
アルバニアはEU加盟候補国ですが、依然として欧州で最も貧しい国の一つであり、貧困層の大半が農業に従事しています。農業はGDPの約20%を占める重要な産業ですが、家族経営の小規模農家が多く、農村部に点在していることから、金融機関にとってはサービスを提供するコストが高いため、農村部の銀行口座保有率は4割に満たないのが現状であり、融資を受ける人の割合も1割にとどまっています。そのため、貧困層の金融サービスへのアクセスを改善し、経済・生計基盤を確立することが課題となっています。
本プロジェクトでは、農村部で金融サービスを提供している同国のFED invest貯蓄信用協会をカウンターパートとして、オンラインでも利用可能な銀行口座の普及や金融リテラシーに関する研修の実施など様々な支援を行っています。それまでは何度も直接、銀行に行く必要があった手続きをオンラインでできるようになったことで、利便性が格段に向上し、公共料金も自動振替で支払うことができるようになりました。
また、農家の間で農業技術などに関する情報へのニーズが高まっていたことを受け、支援センターを設立し、オンラインで専門家に直接質問したり、農産品の市場価格などを把握したりできる仕組みも整えました。
さらに、本プロジェクトでアンケートを実施したところ、新型コロナウイルス感染症対策として取られた移動制限や商品流通の停滞などにより、種子や肥料といった農業投入材の価格が高騰し、経営が困難な状況にある農家が増加していることが分かりました。そこで、農業投入材の購入用に1農家あたり40,000アルバニアレク(約40,000円)の支援を実施したところ、感謝の声が多く寄せられたことから、第2弾の実施も決まり、計1,250世帯の農家に対して支援が届けられました。
農村部などの遠隔地でも「誰一人取り残さない」金融サービスの実現に向け、今後も農家のニーズに細かく対応しながら支援が続けられていきます。

農業投入材の販売店を営む女性(写真:JICA)

農業技術や農産品の市場価格を知ることができるオンライン上のシステム(写真:JICA)

- 注19 : アルバニア、北マケドニア、コソボ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロの6か国。
- 注20 : 西バルカン諸国のEU加盟に向けた社会経済改革を支援し、民族間の和解・協力を促進することを目的とする取組。