2021年版開発協力白書 日本の国際協力

コロナ禍の世界の現場で活躍する国際機関日本人職員注1

中井恒二郎(なかいこうじろう)
国連世界食糧計画(WFP)バングラデシュ コックスバザール事務所 副緊急調整官
本川南海子(もとかわなみこ)
同事務所 プログラム・オフィサー

中井恒二郎氏
本川南海子氏

2017年8月以降、WFPは、バングラデシュ南東部、コックスバザール県においてミャンマーからの避難民約90万人とホストコミュニティの住民約60万人に対して、食料・栄養・自立のための支援を行っています。新型コロナウイルス感染症の流行を受け、キャンプ内のEバウチャー注2・ショップで徹底的な感染防止対策を取るとともに、バングラデシュ政府とともにQRコードを利用した避難民キャンプへの人道支援団体のアクセス管理およびホストコミュニティに対する支援を実施しました。コロナ禍での支援は前例がないために毎日が手探りの状態でしたが、「後悔しない」を合言葉に、同僚たちと任務にあたりました。

日本政府からの支援では、Eバウチャー・ショップで新鮮な野菜や果物、米、食用油などを提供するほか、2021年3月にクトゥパロン避難民キャンプで発生した大規模火災時には6万人以上に炊き出しの食事を提供しました。また、株式会社ユーグレナと協働してホストコミュニティの小規模農家に緑豆の栽培技術支援を行い、収穫した緑豆をEバウチャー・ショップで販売しています。地元小規模農家が生産した食材を購入することで、避難民の食料確保、栄養改善のみならず、ホストコミュニティの持続可能な生計向上にも貢献しています。日本企業とWFP日本人職員の協力によりホストコミュニティの雇用を確保できたことについて、バングラデシュの政府や人びとから高い評価を得ています。

一般公募
広田美和子(ひろたみわこ)
国連人口基金(UNFPA)モザンビーク事務所 コーディネーション・レポーティング・オフィサー 国連ボランティア

広田美和子氏

UNFPAモザンビーク事務所にて同国北部での人道支援のモニタリング評価、パートナーシップ構築、広報、調整業務を担当しています。

モザンビークでは、北部のカーボデルガード州において武装勢力の攻撃や政府軍との武力衝突が相次いだ結果、人道危機が起こり、推定130万人が緊急人道支援を必要としています。同州における国内避難民数は、約1年で4倍以上に増加し、州民の約3人に1人が国内避難民となりました。

また、サイクロンの被害、新型コロナの感染拡大に加え、人道危機により児童婚やジェンダーに基づく暴力が増加しており、女性や少女の立場は一層困難なものになっています。

UNFPAは、日本政府の支援の下、国内避難民やホストコミュニティの女性・少女の安全、性と生殖の健康注3を守るための案件を実施しており、これまで医療へのアクセスが非常に制限されていた地域でも、今後、訪問医療事業を通じて1年間で計3万8,000人以上の女性・少女が医療サービスを受けられる予定です。

今後も女性・少女の安全・健康に寄与する支援に取り組みたいと思っています。

一般公募
伊藤有里(いとうゆり)
国連プロジェクト・サービス機関(UNOPS)ウクライナ事務所 事業支援担当官

伊藤有里氏

私は2018年9月からUNOPSウクライナ事務所にて事業支援担当官として勤務し、事業管理や調達業務を担いました(2021年5月から同トルクメニスタン事務所にて事業運営支援分析官として勤務)。

2014年以降、ウクライナ東部では紛争が続き、現在も340万人が支援を必要としています。また、紛争の負傷者に対する医療へのアクセスの向上や老朽化した医療機材の刷新が課題となっています。

UNOPSは2016年から毎年、日本政府の支援により医療機材を現地の病院に提供しています。2020年は新型コロナによる物流混乱や生産遅延といった問題がある中、X線装置、手術用顕微鏡、腹腔鏡(ふくくうきょう)などを納入しました。これらの機材は、高度な診断・治療を可能とするだけでなく、医療従事者の業務効率化や負担軽減に繋がり、負傷者の早期回復や医療体制の改善に貢献しています。

一般公募
内野恵美(うちのめぐみ)
国連人口基金(UNFPA)インドネシア事務所 人道支援プログラムアナリスト(JPO)

内野恵美氏 QRコード
内野恵美氏

2019年11月に着任後、現地の状況把握もままならぬうちに、インドネシア国内で新型コロナの感染が報告され、在宅勤務が始まりました。長期化する外出制限などのため、ジェンダーに基づく暴力の被害者の多くが支援を受けられずにいること。妊産婦が産前産後の検診を受けられず、出産や産後の不安を感じていること。また、高齢者や障害者も孤立し、生きがいを感じられなくなっていること。私は、毎日膨(ふく)れ上がる感染者数と、コロナによる格差拡大を目の当たりにし、自分がこれらの問題の解決に向けて何の貢献もできないまま過ごしていることに、当初、焦燥(しょうそう)感や無力感を感じたのを覚えています。

しかし、現在は、私も日本政府の支援のもと、「誰一人取り残さない」コロナ対策プロジェクトの立ち上げと実施に携わり、状況の改善に貢献しています。このプロジェクトを通じ、ジェンダーに基づく暴力の被害者、HIV/エイズと共に生きる人々、妊産婦、高齢者、障害者など、コロナ禍において弱い立場に置かれている人々の命を守るための支援を届けています。

一般公募
植村奏水(うえむらかなみ)
国連児童基金(UNICEF)ウガンダ事務所 子どもの生存と発達プログラム担当官

植村奏水氏

ウガンダでは2020年3月に最初の新型コロナ陽性者が確認され、2021年6月頃には医療現場の対応能力を大きく上回る第2波が到来しました。ロックダウンや保健・医療システムのひっ迫は、予防接種率の低下、栄養状態の悪化、学習機会の損失、児童婚・早期妊娠の増加など様々な形で子どもたちに影響を及ぼしています。

私はワクチン接種状況のモニタリングや各地域の保健・医療システムを強化する活動を通じて、ウガンダの新型コロナ対策を支援しています。

日本政府はUNICEFがウガンダで実施する活動の重要なパートナーです。日本の協力により、医療・水と衛生等へのアクセスの確保や栄養の改善のための事業を展開するとともに、新型コロナや定期予防接種用のワクチンを低温保管するコールド・チェーン注4設備の拡充を行い、ウガンダ政府とともにユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の実現を目指しています。

UNICEFウガンダ事務所も新型コロナ感染拡大の中で職員を失い、多くの職員が大切な人を亡くしました。そのような中でも、新型コロナの影響で苦しむ子どもたちのために、日々活動を続けています。

小田代佳子(おだしろけいこ)
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)モザンビークカーボデルガード州ペンバ事務所 コミュニティ保護官

小田代佳子氏

2017年にモザンビークのカーボデルガード州で始まった武装勢力による攻撃と暴力は、70万以上の人々を避難に追い込み、故郷から逃れる中、多くの人が家族と離れ離れになりました。食べるものもなく、危険を逃れ茂みに隠れていた人も数多くいます。両親を失った子どもたちも多くいました。

UNHCRは、シェルターや食料以外の生活必要物資の供与、政府に対する基礎的サービス提供に関する助言およびモニタリング等を通じた人権保障のための活動を行っています。また、日本政府からの協力により、国内避難民に避難所を整備したほか、毛布、マットレス、蚊帳(かや)、キッチンセット等を供与し、人々の生活再建に大きく貢献しました。

私は、困難な状況下でも、人びとの生き残るための力強さや回復力、未知の明日に堂々と立ち向かっていく姿を尊敬するとともに、彼らの将来を築くため協力できることをいつも光栄に思っています。


  1. 注1 : 国際機関職員の方からの寄稿。人物の肩書きは執筆時点のものです。
  2. 注2 : プリペイド式のカードにより食料品店から食材を購入できるシステムのこと。
  3. 注3 : 人間が安全で満ち足りた性生活を営み、子どもをいつ、何人、誰と、どこで、妊娠・出産するのかを自由に決められ、性別・年齢にかかわらず、自分の生と生殖について身体的・精神的・社会的に満足できる状態であること。
  4. 注4 : 注1を参照。
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