2019年版開発協力白書 日本の国際協力

(2)NGOなどの市民参加型連携

ア.JICA海外協力隊事業
帰国隊員への外務大臣感謝状授与式および懇談会において感謝状を授与する鈴木馨祐外務副大臣(2019年10月)

帰国隊員への外務大臣感謝状授与式および懇談会において感謝状を授与する鈴木馨祐(けいすけ)外務副大臣(2019年10月)

1965年に発足し、半世紀以上の実績を有する青年海外協力隊を含むJICA海外協力隊事業は、累計で92か国に5万人以上を派遣し、まさしく日本の「顔の見える開発協力」として開発途上国の発展に貢献してきました。70日間の派遣前訓練を修了した人材を開発途上国に原則2年間派遣し、現地の人々と生活や労働を共にしながら、派遣先国の経済・社会の発展に協力する国民参加型事業です(「国際協力の現場から」およびコラムも参照)。

本事業は、現地の経済・社会の発展のみならず、現地の人たちの日本への親しみを深めることを通じて、日本とこれらの国との間の相互理解・友好親善にも寄与しており、国内外から高い評価を得ています。また、グローバルな視野を身につけた協力隊経験者が日本の地方再生や民間企業の開発途上国への進出に貢献するなど、協力隊経験の社会還元という側面も注目されています(JICA海外協力隊(民間連携)については、用語解説を参照)。

日本政府は、こうした取組を促進するため、帰国隊員の進路開拓支援を行うとともに、現職参加の普及・浸透に取り組むなど、より多くの人が本事業に参加しやすくなるよう努めています。

なお、青年海外協力隊・シニア海外ボランティアを含むJICAボランティア事業の制度について、総称を「JICA海外協力隊」とし、現行の年齢による区分(青年・シニア)を、一定以上の経験・技能等の要否による区分に変更する見直しを行い、2018年秋募集から順次適用しています。

ケニア

ウゴング道路の交通安全ワークショップ
JICAボランティア事業*1(2018年12月~2019年3月)

児童向け講習会で教員が信号機を説明している様子(写真:JICA)

児童向け講習会で教員が信号機を説明している様子(写真:JICA)

ケニアの首都ナイロビでは慢性的に交通渋滞が発生しており、同国の経済成長にとっての大きな障害となっています。こうした現状を改善するため、日本は2012年からナイロビで最も交通渋滞が深刻なウゴング道路の拡幅・改良事業*2を支援し、円滑な市内交通の実現に寄与してきました。

一方で、道路状況の改善に伴い車両の走行速度が上がったため、特にウゴング道路沿線の学校に通学する児童の交通事故の危険性が高まっています。ウゴング道路拡幅計画でも横断歩道や信号機、標識の設置などを進めてきましたが、救急医療の整備が行き届いていないケニアでは交通事故のケアなどが難しく、ケニア全体で年間約1万3,000人が交通事故で亡くなっており、緊急の対策が必要となっています。

このような状況を少しでも改善しようと、日本側から同国で活動しているJICA海外協力隊員有志やJICA運輸交通政策専門家、ケニア側からケニア交通安全局等の人々が集まって、2018年12月に道路沿線の小学校教員を対象とする交通安全講習を企画・開催しました。また、同講習会に参加した小学校の教員から要望を受け、2019年3月には、同校に対して児童向けの講習会も開催しました。

最初は黄色信号を「出発進行!」と答えていた児童たちに、教員と共に講習を行った結果、日本では当たり前の左右を確認してから道路を渡ることの大切さを理解してもらうことができた、と参加した協力隊員は語ります。今後も日本はケニアにおいてインフラの整備だけにとどまらない、人々と共にある支援を推進していきます。


*1 現名称は「JICA海外協力隊」(2018年秋の制度見直しにより、名称変更)。

*2 2012年から2018年にわたり無償資金協力「ウゴング道路拡幅計画」を実施済みで、2018年から2020年の予定で「第二次ウゴング道路拡幅計画」を実施中。

イ.日本のNGOとの連携

日本のNGOは、開発途上国・地域において様々な分野で質の高い開発協力活動を実施しており、地震・台風などの自然災害や紛争等の現場においても、迅速かつ効果的な緊急人道支援活動を展開しています。NGOは、開発途上国それぞれの地域に密着し、現地住民の支援ニーズにきめ細かく丁寧に対応することが可能であり、政府や国際機関による支援では手の届きにくい草の根レベルでの支援を行うことができます。外務省は、こうした「顔の見える開発協力」を行う日本のNGOを開発協力における重要なパートナーとして、NGOに対する資金協力を含む支援(以下参照)、NGOに対する活動環境整備支援、およびNGOとの対話の3点を柱に連携を進めています。

外務省は、2018年に計4回にわたり開催されたODAに関する有識者懇談会の提言に基づき、2019年4月から、日本NGO連携無償資金協力事業(以下参照)における一般管理費を、現行の対現地事業経費の5%から最大15%まで引き上げました。これにより、従来ODA事業を実施する上で団体自身の活動を維持するために投入してきた自己資金を、広報や民間資金の獲得などの団体の体制強化に向けられるようになり、団体の財政基盤や組織力が強化されて、ODAの担い手としての認知度が国内外で高められることが期待されています。

さらに、外務省は開発協力大綱のもと、今後5年間におけるNGOとの連携の方向性にかかわる計画を共同で作成し、2015年に発表しました。その後、NGOと共に同計画の進捗(しんちょく)報告を毎年行うなど、この計画のフォローアップを行っています。

…NGOに対する資金協力を含む支援

日本政府は、日本のNGOが開発途上国・地域において、開発協力事業および緊急人道支援事業を円滑かつ効果的に実施できるよう、様々な協力を行っています。

■日本NGO連携無償資金協力

日本NGO連携無償資金協力事業「教員養成大学(TEC)における実践的環境教育等を通じた持続可能な生活環境実現プロジェクト」において、カンボジアの教員養成大学の学生たちが環境教育の授業を受ける様子(詳細はコラムを参照)(写真:Nature Center Risen)

日本NGO連携無償資金協力事業「教員養成大学(TEC)における実践的環境教育等を通じた持続可能な生活環境実現プロジェクト」において、カンボジアの教員養成大学の学生たちが環境教育の授業を受ける様子(詳細はコラムを参照)(写真:Nature Center Risen)

外務省は、日本NGO連携無償資金協力として、日本のNGOが開発途上国で実施する経済社会開発事業に資金を提供しています。事業の分野も医療・保健、教育・人づくり、職業訓練、農村開発、水資源開発、地雷・不発弾処理のための人材育成支援等、幅広いものとなっています。この枠組みを通じて、2018年度は日本の59のNGOが、31か国・1地域において、総額約50.4億円の事業を106件実施しました。

■ジャパン・プラットフォーム(JPF)

2000年にNGO、政府、経済界の連携によって設立された緊急人道支援組織であるジャパン・プラットフォーム(JPF)には、2019年12月時点で43のNGOが加盟しています。JPFは、外務省から供与されたODA資金や企業・市民からの寄付金を活用して、大規模な災害が起きたときや、紛争により大量の難民が発生したときなどに、生活物資の配布や生活再建などの緊急人道支援を行っています。2018年度には、アフガニスタン人道危機対応支援、イエメン人道危機対応支援、イラク・シリア人道危機対応支援、パレスチナ・ガザ人道支援、南スーダン支援、ミャンマー避難民人道支援、モンゴルおよびラオスでの水害被災者支援など、11プログラムで70件の事業を実施しました(コラムも参照)。

■NGO事業補助金

外務省は、日本のNGOを対象に、経済社会開発事業に関連し、事業の形成、事業実施後の評価、国内外における研修会や講習会などを実施するNGOに対し、200万円を上限に、総事業費の2分の1までの補助金を交付しています。2018年度には8団体がこの補助金を活用し、プロジェクト形成調査および事後評価、国内外でのセミナーやワークショップなどの事業を実施しました。

■JICAの草の根技術協力事業

草の根技術協力事業(パートナー型)「児童養護施設の養育体制強化を通じたこども達の成長と自立を促進するプロジェクト」(フィリピン)において「ライフスキル向上のアクティビティ」を実践している様子(写真:特定非営利活動法人アクション)

草の根技術協力事業(パートナー型)「児童養護施設の養育体制強化を通じたこども達の成長と自立を促進するプロジェクト」(フィリピン)において「ライフスキル向上のアクティビティ」を実践している様子(写真:特定非営利活動法人アクション)

JICAの技術協力プロジェクトにおいては、NGOを含む民間の団体に委託して実施される場合があり、NGO、大学や地方自治体といった様々な団体の専門性や経験も活用されています。さらに、国際協力の意志を持つ日本のNGO、大学、地方自治体および公益法人等の団体の提案による「草の根技術協力事業」を実施しており、2018年度は222件の事業を世界51か国で実施しました。同事業には、団体の規模や種類に応じて、①草の根パートナー型(事業規模:総額1億円以内、期間:5年以内)、②草の根協力支援型(事業規模:総額1,000万円以内、期間:3年以内)、③地域提案型(事業規模:総額3,000万円以内、期間:3年以内。地域活性化特別枠は総額6,000万円以内)という3つの支援方法があります。

…NGOに対する活動環境整備支援

NGOに対する資金協力以外のさらなる支援策として、NGOの活動環境を整備する事業があります。これは、NGOの組織体制や事業実施能力をさらに強化するとともに、人材育成を図ることを目的とした事業で、外務省は、具体的に以下4つの取組を行っています。

■NGO相談員制度

外務省の委嘱を受けた全国各地の経験豊富なNGO団体(2018年度は15団体に委嘱)が、市民やNGO関係者から寄せられる国際協力活動やNGOの組織運営の方法、開発教育の進め方などに関する質問や相談に対応しました。

■NGOインターン・プログラム

本プログラムは、日本の国際協力NGOへの就職を希望する若手人材のために門戸を広げると同時に、若手人材の育成を通じて日本のNGOとの連携による国際協力を拡充・強化するため、将来的には日本のODAにも資する若手人材の育成を目指し、外務省は、インターンの受入れと育成を日本の国際協力NGOに委託し、育成にかかる一定の経費を支給しています。

2018年度は、このプログラムにより、計9人がインターンとしてNGOに受け入れられました。

■NGOスタディ・プログラム

本プログラムは、外務省が日本の国際協力NGOの人材育成を通じた組織強化を目的として、日本の国際協力NGOに所属する中堅職員を対象として国内外で研修を受けるための経費を支給するものです。2つの形態で実施されており、それぞれ、実務研修型(国際開発分野の事業や同分野の政策提言等において優良な実績を有するNGOにおいて実務能力の向上を図るもの)と、研修受講型(国内の研修機関が提供するプログラムの受講を通じて専門知識の向上を図るもの)に分類されます。研修員は、所属団体が抱える課題に基づき研修テーマを設定し、帰国後には研修成果の還元として、所属団体の活動に役立てるとともに、ほかのNGOとも情報を広く共有し、日本のNGO全体の能力強化に寄与することとしています。2018年度は、このプログラムにより9人が研修を受けました。

■NGO研究会

外務省は、NGOの組織能力、専門性向上を目的とした研究会の実施を支援しています。このプログラムは委嘱先のNGOが、他のNGOなどの協力を得ながら、調査、セミナー、ワークショップ(参加型の講習会)、シンポジウムなどを行い、具体的な改善策の報告・提言を行うものです。2018年度、NGO研究会は、「2030年を見据えた日本の国際協力NGOの役割」、「多様化する国際協力NGOとソーシャルセクターの実態調査」、および「『SDGs16.2 子どもに対する暴力撤廃』とNGO」の3つのテーマに関する研究会を実施しました。同活動の報告書・成果物は外務省のODAホームページに掲載されています。

■JICAのNGO等活動支援事業

外務省が行う支援のほかに、JICAでは国際協力活動を実施しているNGO・NPO、公益法人、教育機関、自治体等の団体が、より効果的で発展的な事業を実施・推進するため、様々な形で研修などのNGO等活動支援事業を実施しています。JICAの企画やNGOの提案により、草の根技術協力事業等の実施に際して必要となる開発途上国における事業実施に係る研修や、NGO等の機能強化に資する各地域や分野の状況に応じた研修を実施しています。

■NGO-JICAジャパンデスク

JICAはNGOの現地での活動を支援するとともに、NGOとJICAが連携して行う事業の強化を目的として、「NGO-JICAジャパンデスク」を海外20か国に設置しています。NGO-JICAジャパンデスクでは、主に①日本のNGO等との連携によるJICA事業の円滑な実施に必要な業務、②日本のNGO等の現地活動を支援する業務、③日本のNGO等とJICAとの連携強化に必要な業務の3つのサポートを行っています。

…NGOとの対話

■NGO・外務省定期協議会

NGO・外務省定期協議会は、NGOと外務省との連携強化や対話の促進を目的とし、ODAに関する情報共有やNGOとの連携の改善策などに関して定期的に意見交換する場として、1996年度に設けられました。現在では、年1回の全体会議に加え、「ODA政策協議会」と「連携推進委員会」の二つの小委員会が設置されています。どちらの小委員会も、原則として、それぞれ年3回開催されます。「ODA政策協議会」ではODA政策全般に関する意見交換が、「連携推進委員会」ではNGO支援・連携策に関する意見交換が行われています。

■NGO・在外ODA協議会

2002年以降、日本政府は、日本のNGOが多く活動している開発途上国において、大使館、JICA、NGO関係者が意見交換する場として「NGO・在外ODA協議会」を設置して、ODAの効率的・効果的な実施等について意見交換を行っています。

■NGO-JICA協議会

JICAは、NGOとの対等なパートナーシップに基づき、より効果的な国際協力の実現と国際協力への市民の理解と参加を促すため、NGO-JICA協議会を開催しており、2018年度は3回開催されました。

タイ

チョンブリ県における町ぐるみ高齢者ケア・包括プロジェクトサンスク町をパイロット地域として
草の根技術協力(地域活性化特別枠)(2016年1月~2018年12月)

佐久の介護技術を学んだサンスク町のヘルスボランティアが町の高齢者にリハビリを行っている様子(写真:Ms. Ratana Chuklinプロジェクト補助員)

佐久の介護技術を学んだサンスク町のヘルスボランティアが町の高齢者にリハビリを行っている様子(写真:Ms. Ratana Chuklinプロジェクト補助員)

高齢化問題は、今や日本を含む先進国だけではなく、経済発展を遂げている開発途上国においても深刻な問題となっています。こうした途上国では先進国以上に急速に高齢化が進展し、高齢者の介護、看護の人材育成が求められています。タイはその典型例で、2014年の時点ですでに高齢社会に突入し、65歳以上の高齢化率は2017年には10.7%と上昇しているにもかかわらず、高齢者を介護する人材が極端に不足しており、また人材育成も十分ではありません。

長野県東部に位置する佐久地域は、1947年頃から農村医療・地域医療が盛んとなり、現在も高齢者ケアを行う体制を整えています。2014年、タイ南東部のチョンブリ県サンスク町にある国立ブラパ大学で佐久大学の学生が国際看護演習を実施するようになったことを契機に、両大学の学術交流、さらにサンスク町と佐久市の交流へと発展し、2016年にプロジェクト開始となりました。市役所をはじめ市内の病院、介護施設が連携してサンスク町から看護師やヘルスボランティア(日本における介護ヘルパーや介護士に相当)を受け入れ、研修を実施するとともに、佐久市からも短期専門家がサンスク町へ派遣され研修を行いました。

現地の寺院などでの集会や家族による高齢者ケアといったタイの伝統を尊重しつつ、ヘルスボランティアによる訪問ケアが実施されてきました。佐久市で研修を受けた看護師らがサンスク町のキーパーソンとなって看護・介護の体制づくりに寄与することなども目標とされています。

こうした活動により、サンスク町におけるヘルスボランティアらの地域活動開発力、介護技術が向上し、訪問ケアの回数はプロジェクト開始前の週1回から開始後は週4回と大幅に増加し、高齢者介護をめぐる状況は改善しました。また、佐久市の関係者にとっても、タイにおける近所の助け合い・互助の精神を通じて佐久地域の在宅ケアを見直すきっかけとなるとともに、「佐久市のヘルスケアモデルをタイへ技術移転」が、国内外で広く知られ高い評価を受けるようになりました。サンスク町のモデルが、今後タイ全土へ展開されることが期待されます。

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