国際協力の現場から 04一般公募
ブラジルの野球少年たちが夢を叶えて訪日!
~子どもたちの未来につながるJICAボランティア*1の野球指導~

日本遠征の際に親善試合を行った中学生クラブチーム、筑紫(ちくし)エンデバーズとの交流の様子(写真:宮田瑠星隊員)

ソフトバンク・ホークスの選手らとの交流の様子(前列左端が宮田隊員)(写真:宮田瑠星隊員)
ブラジル北部のマナウス市には多くの日系人が住んでおり、日系1世が設立した少年野球チームである「マナウスカントリークラブ」には日系人が多く所属しています。同チームでは2018年から、国際協力機構(JICA)の日系社会青年ボランティア*2の宮田瑠星(みやたりゅうせい)隊員が監督を務めています。福岡大学野球部の選手として活躍した宮田隊員は、大学卒業後、野球を通じて国際協力に貢献したいとの思いからJICAボランティアに応募し、本格的な野球を教えられる人材が求められていたブラジルで野球指導を始めました。
着任早々のチームは、宮田隊員が想像していた以上に「ブラジル流」であったと言います。
「少年たちの中には親の意向でチームに加入したため、モチベーションの上がらない子も少なくなく、最初の頃は、私がグラウンドに行っても誰もいないことが何度もありました。そこで、何よりもまず子どもたちにグラウンドに来てもらうため、練習をとにかく楽しいものにすることから始めました。野球だけでなく、サッカーやプールでの遊びなども取り入れて工夫しました。」
実は、宮田隊員の着任以前に同チームに監督はおらず、また、メンバーはわずか5人しかいませんでした。しかし、宮田隊員が行った、遊びながら野球をする「楽しい」練習の噂が広まり、着任後しばらくすると、チームの人数は25人にまで増えました。
宮田隊員がチームにもたらした変化はそれだけではありません。2019年9月には、宮田隊員が中心となって資金を集め、11~15歳の9人の選手の訪日を実現させたのです。
訪日の大きなきっかけとなったのは、1人の少年の存在でした。メンバーの一人、フアン・ダビド君は、母国ベネズエラの経済危機により、避難民としてマナウスに逃れて来ました。ベネズエラでは野球は国民的スポーツで、彼も非常に熱心に野球をしていましたが、マナウス移住後は野球を続けることを諦めていました。しかし、日系人の支援により、宮田隊員が指導するチームで再び野球ができることになったのです。
フアン君は、自分を支援してくれた日系人や、指導者である宮田隊員の存在を通して、日本や日本の野球に興味を持ち、ぜひ日本に行きたいという希望を持つようになりましたが、日本への渡航費の工面は難しい状況でした。そんなとき、フアン君の父親にガンが見つかりました。フアン君は、病気と闘っているお父さんに自分が日本で野球をする姿を見てもらい、元気になって欲しいと強く思うようになりました。
自身も父親をガンで失くした経験を持つ宮田隊員は、そんなフアン君の姿に共感し、日本への旅を実現させるため、クラウドファンディングでの資金集めを思いつきます。さらに、地元の日系企業に協力を依頼して回りました。チームの子どもたちやその保護者たちもお菓子を販売したり、祭りを開催したりして資金集めに貢献しました。その結果、渡航資金が用意でき、ついに9人の少年たちの日本行きが実現しました。
日本では、福岡の中学生クラブチームとの野球対戦やプロ野球の試合観戦など、10日間にわたり様々なことを体験しました。プロ野球観戦では、球団関係者の計らいにより、プロ野球選手たちと直接交流することができました。また、訪問した中学校で生徒たちが自ら教室を清掃したり、給食を配膳したりする姿は、そうした習慣のないブラジルの少年たちにはとても新鮮に映りました。
「規律がしっかりしている」、「日本人の血が自分にも流れているのを嬉しく感じた」、「日頃から日系人の祖父や両親に規律や習慣について注意されることがあるけれど、日本に来てその意味が理解できた」。日本を旅したチームのメンバーはこのような感想を述べています。
ブラジル帰国後は、チームの保護者や支援者を招き、日本遠征の報告会を催(もよお)しました。子どもたちは日本での体験を報告し、日本人の規律や習慣など、ブラジル人が学ぶべきと感じたことも発表しました。そして、日本で学んだことを実践すべく、子どもたちが自ら企画し、街を清掃する運動も始めました。地元のメディアもこうした取組に注目し、同チームは取材の依頼も受けています。
宮田隊員自身も、日本遠征による子どもたちの変化を感じていると言います。
「日本遠征後、子どもたちがより真剣に野球に向き合うようになり、練習に遅刻してくることもなくなりました。日本で、きちんと挨拶をし、規律や時間を守る大切さに気づいたのだと思います。今回の遠征を通じて、野球のことだけではなく、将来社会人として活躍していく上で必要なことを学ぶ機会を与えられたと思います。」
来年に任期が終了する宮田隊員は、現在、野球チームの活動を途絶えさせないため、保護者の方たちを中心に、後継となる指導者の育成を行っています。宮田隊員自身は今後、再びブラジルで野球指導をする道も模索しながら、ブラジルでの経験を活かし、日本で国際色豊かな野球チームを結成して、将来国際的に活躍できる選手を育成するという目標も持っています。
*1 現名称は「JICA海外協力隊」(2018年秋の制度見直しにより、名称変更)。
*2 現名称は「日系社会青年海外協力隊」(2018年秋の制度見直しにより、名称変更)。