(5)文化・スポーツ
開発途上国では、自国の文化の保護・振興に対する関心が高まっています。その国を象徴するような文化遺産は国民の誇りであり、観光資源として周辺住民の社会・経済の発展に有効に活用できる一方、資金や機材、技術などの不足から、存続の危機に晒(さら)されている文化遺産も多く存在します。このような文化遺産を守るための支援は、被援助国の国民の心情に直接届くものであり、長期的に協力の効果が持続するものです。また、こうした人類共通の貴重な文化遺産をはじめとする文化の保護・振興は、対象国のみならず、国際社会全体が取り組むべき課題でもあります。
また、途上国では、スポーツの振興にも関心が高まっています。スポーツは、国民の健康の維持・増進に寄与するのみならず、相手を尊重する気持ちや他者との相互理解の精神、および規範意識を育むことから、人々の生活の質の向上に貢献しています。スポーツの持つ影響力やポジティブな力は、途上国に開発・発展の「きっかけ」を与える役割を果たします。
●日本の取組

マラウイで、技のかけ方を生徒に指導する青年海外協力隊員
日本は、文化無償資金協力*を通じて、1975年より、途上国の文化・高等教育の振興、文化遺産の保全やスポーツ振興などのための支援を実施しています。具体的には、途上国の文化遺産、文化財の保存や活用に必要な施設、その他の文化・スポーツ関連施設、高等教育・研究機関の施設整備や必要な機材の整備を行ってきました(コラムも参照)。こうして整備された施設は、日本に関する情報発信や日本との文化交流の拠点にもなり、日本に対する理解を深め、親日感情を培(つちか)う効果があります。
2019年には、日本語教育を含む教育分野、放送・出版分野、スポーツ分野への支援を含む17件の文化無償資金協力を決定しました。さらに日本は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催国として、スポーツの価値とオリンピック・パラリンピックムーブメントを広めていくためのスポーツを通じた国際貢献策「スポーツ・フォー・トゥモロー」を推進すべく、ODAやスポーツ外交推進事業を活用したスポーツ支援を積極的に行いました(詳細は「開発協力トピックス」も参照)。このほか、スポーツ分野において214名のJICA海外協力隊員を派遣しました。
また日本は、国連教育科学文化機関(UNESCO)に設置した「ユネスコ拠出金」等を通じて、文化遺産の保存・修復作業、機材供与や事前調査などを支援しています。特に、将来、その国の人々が自分たちの手で自国の文化遺産を守っていけるようにとの考えから、日本は途上国の人材育成に力を入れており、日本人専門家を中心とした国際的専門家の派遣や、ワークショップの開催などにより、技術や知識の移転に努めています。また、いわゆる有形の文化遺産だけでなく、伝統的な舞踊や音楽、工芸技術、口承伝承(語り伝え)などの無形文化遺産についても、同じく拠出金を通じて、継承者の育成や記録保存、保護のための体制づくりなどの支援を行っています。
ほかにも、アジア・太平洋地域世界遺産等文化財保護協力推進事業として、アジア・太平洋地域から文化遺産保護に携わる若手専門家を招き、文化遺産保護の能力向上を目的とした研修事業を実施しています。木造建築物の保存修復と考古遺跡の調査記録についての研修を隔年で行っているほか、2019年には、中央アジアの専門家を対象とした博物館に関する研修やカンボジアでのワークショップを実施しました。
パプアニューギニア一般公募
パプアニューギニア軍楽隊支援
JICA専門家派遣(2017年3月~2019年3月)
草の根文化無償資金協力(2017年8月)
2018年11月、パプアニューギニアが初の議長国となったAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議が首都ポートモレスビーで開催されました。各国首脳が招待されたガラディナー会場では、同国国防軍の軍楽隊が各国首脳の会場到着を歓迎する演奏を行い、安倍総理夫妻の到着時には、日本の童謡「ふるさと」が演奏されました。
日本は、2017年1月のパプアニューギニア軍楽隊の立ち上げ時から支援を行っており、APEC議長国をつとめる同国政府への支援の一環として、APECの一連の行事において演奏を披露することを目標に、軍楽隊に対する支援を行ってきました。編成当初は楽隊員のほとんどが楽譜も読めず、管楽器に触れるのも初めてでしたが、日本の支援を通じて、わずか2年足らずでAPEC公式行事で演奏できるまでに成長しました。
2017年1月以降、陸上自衛隊中央音楽隊から現地に訓練チームが派遣され、数週間の音楽教育が十数回にわたって行われたほか、同年3月から2年間、水科克夫(みずしなかつお)JICA専門家(元航空自衛隊航空中央音楽隊長)が同国に派遣され、陸上自衛隊中央音楽隊チームによる訓練と連携した演奏指導が行われました。
また、草の根文化無償資金協力を通じて新しい楽器一式が提供され、首都のポートモレスビーに姉妹校を持つ仙台育英学園からも中古楽器一式が寄贈されました。これに加え、日本政府は、日本国内で一般公募を行い、APEC公式行事での演奏のために、行進曲「March “Port Moresby”」を軍楽隊に贈りました。この曲は今でも様々な公式行事で演奏されています。
こうしたオールジャパンの支援を受けたパプアニューギニア軍楽隊は、JICA専門家派遣期間の終了後も、定期的に陸上自衛隊中央音楽隊からの音楽教育を受けつつ、活発に活動しています。2019年10月には、シドニーで開催された、各国軍楽隊が競演するミリタリー・タトゥーにも招待されました。
このように、大きく成長した軍楽隊がパプアニューギニアの人々に愛され、活躍の場を広げていることは、日本の人材育成支援の成果の一つといえます。

在パプアニューギニア日本大使館公邸で演奏を披露する軍楽隊(写真:JICA)

軍楽隊に演奏を指導する水科専門家(写真:JICA)
- *文化無償資金協力
- 開発途上国の文化・高等教育振興に使用される資機材の購入や施設の整備を支援することを通じて、途上国の文化・教育の発展および日本とこれらの諸国との文化交流を促進し、友好関係および相互理解を増進させることを目的とした資金を供与するもの。この協力には、途上国の政府機関を対象とする「一般文化無償資金協力」と、NGOや地方公共団体等を対象として小規模なプロジェクトを実施する「草の根文化無償資金協力」の2つの枠組みがある。