2019年版開発協力白書 日本の国際協力

(6)環境・気候変動対策

環境・気候変動問題は、これまでG7、G20サミットにおいて、繰り返し、主要テーマの一つとして取り上げられ、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」でも言及されるなど、国際的にその取組の重要性が認識されています。これまでも日本は、こうした問題の解決に向けて精力的に取り組んできており、今後も引き続き、国際社会における議論に積極的に参画していきます。

●日本の取組

…海洋環境の保全
G20資源効率性対話・G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組フォローアップ会合で写真撮影に臨む小泉進次郎環境大臣(2019年10月)(写真:環境省)

G20資源効率性対話・G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組フォローアップ会合で写真撮影に臨む小泉進次郎環境大臣(2019年10月)(写真:環境省)

海洋プラスチックごみ問題は、海洋の生態系、観光、漁業、および人の健康に悪影響を及ぼしかねない喫緊の課題として、近年、その対応の重要性が高まっています。2019年6月のG20大阪サミットでは、議長国を務めた日本の主導のもと、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」がG20各国で共有されました。同ビジョンの実現に向け、日本は、途上国の廃棄物管理に関する能力構築およびインフラ整備などを支援していく旨を表明し、世界全体の実効的な海洋プラスチックごみ対策を後押しするため、①廃棄物管理(Management of Wastes)、②海洋ごみの回収(Recovery)、③イノベーション(Innovation)、④能力強化(Empowerment)に焦点を当てた、「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」を立ち上げました。日本は、同イニシアティブのもとで、具体的な施策を通じ、廃棄物管理、海洋ごみの回収およびイノベーションを推進するため、途上国における能力強化を支援していきます(詳細は「開発協力トピックス」も参照)。

また、G20大阪サミットでは、大阪ブルー・オーシャン・ビジョンの実現に向け、各国が協調して実効的な対策を進めるための「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」が合意され、同年10月、東京において、「G20資源効率性対話・G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組フォローアップ会合」が開催されました。同会合では、実施枠組みに基づき、各国の対策・優良事例についての報告・共有が行われたほか、大阪ブルー・オーシャン・ビジョンの実現に向け、各国政府や国際機関との相互学習などを通じた対策・施策を推進することが確認されました。

このほか、日本は、2018年11月の日・ASEAN首脳会議において表明した、海洋プラスチックごみ対策に関するASEAN支援を拡大する一環として、2019年8月から、マイクロプラスチックを含む海洋プラスチックごみの調査手法と分析手法を学ぶための研修を日本で実施しており、2019年9月までに、インドネシア、ベトナム、カンボジア、タイから9名が参加しました。また、2019年9月にはインドネシア、11月にはベトナムを対象に、海洋ごみに関する現地パイロット共同調査の事前調査を実施しました。さらに、同年12月に開催された第8回日中韓サミットでは、日中韓3か国で、海洋プラスチックごみなどを含む共通課題に対する共同努力を促進していくことを確認しました。

…気候変動問題
二国間クレジット制度(JCM)に関する日本・ベトナム間の第8回合同委員会(2019年5月)

二国間クレジット制度(JCM)に関する日本・ベトナム間の第8回合同委員会(2019年5月)

気候変動問題は、国境を越えて取り組むべきグローバルな課題であり、先進国のみならず、途上国も含めた国際社会の一致した取組の強化が求められています。1997年に採択された京都議定書が先進国のみに温室効果ガスの削減義務を課していたことなどから、すべての国が排出削減に取り組む新たな枠組みとして、2015年にパリで開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において「パリ協定」が採択され、2016年に発効しました。同協定の採択後は、2020年以降の本格運用に向け、実施指針に関する交渉が開始され、2018年に開催されたCOP24において同実施指針が採択されました。しかし、市場メカニズムの実施指針についてはCOP24で合意に至らず、2019年12月にマドリード(スペイン)で開催されたCOP25においても合意されなかったため、COP26での採択に向け、継続検討となりました。一方で、気候変動の悪影響に伴う損失および損害(ロス&ダメージ)や、ジェンダーと気候変動、対応措置などの議題については、具体的な進展が見られました。

2019年6月、日本は、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を閣議決定し、今世紀後半の出来るだけ早い時期に、脱炭素社会の実現を目指すという目標を掲げました。気候変動分野では、人工光合成などのカーボンリサイクルや二酸化炭素の回収・利用・貯留(CCUS)、水素に関連した、脱炭素社会を実現する鍵となる新技術が世界で生まれています。こうしたイノベーションの促進や民間資金の誘導、ビジネス環境改善を通じ、「環境と成長の好循環」を実現することとしています。

また、日本は、途上国における気候変動対策支援にも積極的に取り組んでおり、その一つとして、日本の優れた低・脱炭素技術などを、途上国をはじめとする世界に展開していく「二国間クレジット制度(JCM)」を推進しています。これにより、途上国の温室効果ガスの削減に貢献し、その成果を二国間で分け合うことが可能になります。日本は2013年に、モンゴルとの間で初めて、JCM実施に係る二国間文書に署名したことを皮切りに、2019年末までに17か国との間でJCMを構築しました。これまで、インドネシア、モンゴル、パラオ、ベトナム、タイなどにおいて、省エネルギーや再生可能エネルギーなどに関する33件のプロジェクトからJCMクレジットが発行されており、JCMは世界全体での排出削減に寄与しています。

また日本は、世界最大の多国間気候資金基金である「緑の気候基金(GCF)」を通じた途上国支援も行っています。GCFが初めての増資を迎えるにあたり、2019年10月には、パリにて開催されたハイレベル・プレッジング会合において、初期拠出15億米ドルに続いて、最大15億米ドルを拠出する用意があることを表明しました。GCFでは、2019年12月までに124件の案件がGCFのプロジェクトとして承認・実施されています。また、2017年7月にはJICAおよび三菱UFJ銀行が認証機関として承認され、2019年7月、チリにおける太陽光・揚水水力発電計画が、三菱UFJ銀行による初めてのプロジェクトとして採択されました。

…生物多様性
日本の支援により完成した、ウガンダのゾウ密猟監視施設

日本の支援により完成した、ウガンダのゾウ密猟監視施設

近年、人類の活動の範囲、規模、種類の拡大により、生物の生息環境の悪化、生態系の破壊に対する懸念が深刻になってきています。日本は、2010年10月に生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)を愛知県名古屋市で開催するなど、生物多様性分野の取組を重視しています。また、愛知目標の達成に向けた途上国の能力開発などを支援するため、「生物多様性日本基金」に拠出しており、条約事務局において、本基金により生物多様性国家戦略の実施を支援するワークショップの開催などが進められています。また、2019年1月、愛知目標に替わる次の世界目標を含む、ポスト2020生物多様性枠組み策定に向けたプロセスの一環として、アジア地域ワークショップが名古屋市で開催され、同枠組み策定に向けた日本の貢献などが説明されました。

また、近年、象牙をはじめとする野生動植物の違法取引が深刻化し、国際テロ組織の資金源の一つになっていることが、国際社会で問題視されています。日本は、ワシントン条約関連会合での議論に積極的に参加するとともに、同条約が実施するプロジェクトへの拠出などを通じて、国際社会と協力して問題の解決に取り組んでいます。具体的な取組として、日本は、2019年4月にウガンダで、また同年7月にモザンビークで、ゾウの密猟対策を実施する施設の建設を支援し、引渡式を行いました。

…環境汚染対策
日本の支援により、ベトナムのトゥアティエン・フエ省の小学校に設置された3R推進のためのゴミ箱

日本の支援により、ベトナムのトゥアティエン・フエ省の小学校に設置された3R推進のためのゴミ箱

日本は環境汚染対策に関する多くの知識・経験や技術を蓄積しており、それらを途上国の公害問題を解決するために活用しています。2013年に日本で開催された、水銀に関する水俣条約外交会議において、日本は議長国として「水銀に関する水俣条約」の採択を主導し、同条約は2017年8月に発効しました。日本は、水俣病注32の経験を経て蓄積した、水銀による被害を防ぐための技術やノウハウを世界に積極的に伝え、グローバルな水銀対策においてリーダーシップを発揮しています。2019年11月に開催された水俣条約第3回締約国会議においても、条約の実施と遵守を推進する実施・遵守委員会に選出されるなど、水銀の規制に関する国際的なルール作りにも積極的に貢献しています。

また廃棄物管理分野において、環境省は、2019年3月4日~6日に、タイ天然資源環境省および国際連合地域開発センターとの共催で、「アジア太平洋3R推進フォーラム第9回会合」をバンコクにて開催しました。同会合では、3R注33推進に役立つ制度面および技術面の情報を各国と共有するとともに、会合の成果として「3R及び循環経済によるプラスチックごみ汚染防止に向けたバンコク3R宣言」を採択しました。また、2017年4月に環境省がアフリカの廃棄物に関する知見の共有とSDGs達成を促進することなどを目的とし、JICA、横浜市、国連環境計画(UNEP)および国連人間居住計画(UN-Habitat)とともに設立した「アフリカのきれいな街プラットフォーム(ACCP)」の第2回全体会合が、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の公式サイドイベントとして、2019年8月26日~27日に横浜で開催されました。同会合の成果文書として、ACCPの今後の活動の方向性を示す「ACCP横浜行動指針」が採択され、会合の成果をTICAD7に取り込み、アフリカ各国の廃棄物管理をより一層推進していくことが確認されました。これを受けて、TICAD7の成果文書である「横浜行動計画2019」では、廃棄物管理システムの向上に取り組むイニシアティブとして、ACCPに関する記述が盛り込まれました。

用語解説
二国間クレジット制度(JCM:Joint Crediting Mechanism)
日本が有する優れた低・脱炭素技術や製品、システム、サービス、インフラを開発途上国に提供し、その普及を目指す温室効果ガス削減プロジェクトなどを通じ、温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価するとともに、実現した削減分を「クレジット」として、日本の削減目標の達成に活用する仕組み。
緑の気候基金(GCF:Green Climate Fund)
2010年のCOP16で採択されたカンクン合意において設立が決定された、開発途上国の温室効果ガス削減・吸収と気候変動適応に関する活動を支援する多国間基金。
生物多様性条約
生物に関する問題に国境はなく、生物多様性問題に対する世界規模での取組が必要なことから、1992年に採択された条約。同条約は①生物多様性の保全、②生物多様性の構成要素の持続可能な利用(生態系・種・遺伝子の各レベルでの多様性を維持しつつ、生物等の資源を将来にわたって利用すること)、③遺伝資源の利用から生ずる利益の公平な配分を目的とする。先進国から開発途上国への経済的および技術的な支援を実施することにより、世界全体で生物多様性の保全とその持続可能な利用に取り組んでいる。
愛知目標(戦略計画2011-2020)
2010年のCOP10において採択された、生物多様性条約の2020年までの戦略計画で掲げられた目標。2050年までに「自然と共生する世界」を実現することを目指しており、短期目標として、2020年までに生物多様性の損失を止めるための行動の実施を目的として、20の個別目標を設定している。

  1. 注32 : 水俣病は、工場から排出されたメチル水銀化合物に汚染された魚介類を食べることによって起こった中毒性の神経系疾患。熊本県水俣湾周辺において1956年5月に、新潟県阿賀野川流域において1965年5月に公式確認された。
  2. 注33 : Reduce(リデュース:廃棄物の削減)、Reuse(リユース:再使用)、Recycle(リサイクル:再生利用)の3つのRの総称。
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