2019年版開発協力白書 日本の国際協力

開発協力トピックス5

海洋プラスチックごみ問題
~G20大阪サミット議長国として開発途上国も巻き込んだ新たな対策を~

JICAセンターにおける廃棄物管理研修の様子(写真:JICA)

JICAセンターにおける廃棄物管理研修の様子(写真:JICA)

タイの海岸に打ち寄せられた海洋プラスチックごみ(写真:九州大学磯辺篤彦教授)

タイの海岸に打ち寄せられた海洋プラスチックごみ(写真:九州大学磯辺篤彦教授)

プラスチックは手軽で安く大量に作られ、安全・衛生面の維持がしやすいことから、レジ袋やペットボトルなど様々な製品に幅広く使われており、私たちの生活に深く浸透しています。しかし、プラスチック製品が利用後にきちんと廃棄物処理されず、海洋などにおける不法投棄や不完全な埋め立て処理などにより、河川や海洋に流出してしまい、海洋の生態系や観光、漁業、養殖業に悪影響を与えることが心配されています。また、プラスチックが細かい粒子となったマイクロプラスチックを魚などが餌(えさ)と間違えて食べてしまったり、マイクロプラスチックに吸着した化学物質が食物連鎖に取り込まれ、我々人間の健康にも悪影響を及ぼす可能性が懸念されています。

海に流出するプラスチックごみは一般的には毎年800万トンとも言われており、これはジャンボジェット機に換算すると5万機分もの重量にあたります。また、プラスチックは一旦海に出てしまうと長期間消えずに海に漂い続け、一説には、ペットボトルが完全に分解されるためには400年かかるといわれています。これは、1614年の大阪の陣から現在までに相当する大変に長い時間です。

そこで日本は、今年6月に日本初開催となったG20大阪サミットの機会に、世界に向けてリーダーシップを発揮し、サミット議長国として「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」をまとめました。これは、海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指すものです。画期的であるのは、「G7」ではなく「G20」の機会において、参加各国の首脳の間で合意を得たことであり、これは、世界における海洋プラスチックごみの流出量に関係しています。海洋プラスチックごみの流出量は、G7諸国からはわずか約2%であるのに対し、G20諸国からの流出は全体の約48%を占めると推計されています。このことからもわかるように、海洋プラスチックごみの問題は、途上国を含むG20全体、ひいては世界全体で取り組む必要がある課題なのです。

同サミットにおいては、同ビジョンの実現に向けて各国で協調して実効的な対策を進めるために、各国が自主的な対策を実施し、その取組を継続的に報告・共有する「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」も合意されました。途上国を含めたG20が、共通のビジョンと国際枠組に合意し、それをG20の外にも広げていくことになりました。

また、日本は、同サミットの機会に、独自の取組として、「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」の立ち上げを表明しました。前述のとおり、世界全体における海洋プラスチックごみの量の削減は、日本1か国だけで取組を進めても解決せず、途上国における海洋プラスチックごみの流出防止にも対策を講じる必要があります。そこで、「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」は、途上国における廃棄物管理の向上を目的とし、ODAなどを活用して、①廃棄物管理(Management of Wastes)、②海洋ごみの回収(Recovery)、③イノベーション(Innovation)、④能力強化(Empowerment)を支援するものです。同イニシアティブはまた、世界での2025年までの廃棄物管理人材を1万人育成することや、東南アジア諸国に対する能力構築・人材育成支援も約束しています。今後、同イニシアティブの効果が現れることが期待されます。

日本がこれまでに行ってきた支援の好事例として、バングラデシュに対する清掃職員の研修およびゴミ収集車の提供があり、日本の支援を通じ、2004年にはゴミ収集率が44%だったものが、2018年には80%にまで改善しました。日本は、こうした実績を活かし、ゴミ処理のための質の高いインフラ整備にも協力しています。

さらに、海洋プラスチックごみ問題解決のためには科学的知見の蓄積も必要です。海洋プラスチックごみについては、その流出の実態が十分に明らかになっていません。そのため、日本は2019年3月、国連環境計画(UNEP)に拠出し、東南アジア(メコン川流域)やインド(ガンジス川流域及びムンバイ)において、海洋プラスチックごみの排出源・経路の特定やモニタリング手法のモデル構築などを行い、各国における適正な廃棄物処理システムの導入などの政策につなげていく予定です。

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