2019年版開発協力白書 日本の国際協力

(7)防災の主流化と防災対策・災害復旧対応、および持続可能な都市の実現

世界各国で頻繁に発生している地震や津波、台風、洪水、干ばつ、土石流などの災害は、単に多くの人命や財産を奪うばかりではありません。災害に対して脆弱(ぜいじゃく)な開発途上国では、貧困層が大きな被害を受け、難民化することが多く、さらに衛生状態の悪化や食料不足といった二次的被害の長期化が大きな問題となるなど、災害が途上国の経済や社会全体に深刻な影響を与えています。このため、災害に強い、しなやかな社会を構築し、災害から人々の生命を守るとともに、持続可能な開発を目指す取組が求められており、中でも、あらゆる開発政策・計画に防災の観点を導入する「防災の主流化」を推進することが重要となっています。

また、近年、人間の主要な居住地域であり、経済・社会・政治活動の中心である都市の運営にかかわる様々な問題が注目されています。たとえば、市街地や郊外で排出される大量の廃棄物処理への対応や、大気・水などの汚染防止への対応、下水・廃棄物処理システムなどのインフラ施設の整備、急激な人口増加とそれに伴う急速な都市化への対応などの問題です。こうした問題に対応し、持続可能な都市の実現に向けて取り組むことが重要な開発協力課題となっています。そこでSDGsでは、目標11として、「包摂的で安全かつ強靱(きょうじん)(レジリエント)で持続可能な都市及び居住地の実現」という課題が設定されました。このように、持続可能な都市の実現を含む人間居住の課題解決に向け、国際的な関心が高まっています。

ミャンマー一般公募

ヒンタダ地区における学校・地域防災支援事業
日本NGO連携無償資金協力(2018年3月~(実施中))

ミャンマーのヒンタダ地区にあるナベーゴン村は、エヤワディ河の水位が上昇するたびに洪水に見舞われ、雨季には数か月にわたって浸水するという問題を抱えていました。浸水時の深さは2メートルに及ぶにもかかわらず、安全な避難場所がなく、浸水すると老朽化した木造校舎では授業が実施できなくなる状況が続いていました。

そこで、災害に負けない人づくり・まちづくりに取り組む特定非営利活動法人SEEDS Asiaは、子どもの継続的な教育機会と住民の避難場所を確保することを目的として、鉄筋(てっきん)コンクリートによる高床式の「学校兼シェルター」を建設しました。この施設は、普段は教育と地域の活動拠点として活用され、洪水になると地域の避難所として活用されるものですが、避難所として使用されている時にも授業を継続できるスペースを確保した設計になっています。子どもの健康と安全に配慮し、災害に強く、地域の防災拠点となる施設を作るという同校舎のコンセプトは、1923年に起きた関東大震災の復興事業の一環として立案された「復興小学校」にヒントを得ています。さらに、兵庫県丹波(たんば)市からは、人口減少によって不要となった学校家具(机と椅子のセットおよび黒板)が寄贈され、ミャンマーへの送り出しの際には日本各地からボランティアが集まり、丹波市での学校の清掃や家具の運搬を手伝ったほか、ビデオレターによる丹波市とミャンマーの子どもたちの交流も生まれました。また、日本とミャンマーの市民からの寄付によって現地の学校にスロープが付設されたことで、高齢者や足の不自由な子どもが容易に校舎まで登れるようになりました。

同施設の有効な活用に向けて、SEEDS Asiaは41名の教員と地域住民で構成される村の防災委員会を立ち上げ、今年度は、ナベーゴン村とその周囲の13村を対象にした研修を毎月実施しています。同研修では、地域による学校運営協議会を有する京都市立高倉小学校の協力を得て、地域との連携活動の事例や仕組みを紹介するなど、災害対応能力の強化が図られています。

完成した学校兼シェルター(写真:SEEDS Asia)

完成した学校兼シェルター(写真:SEEDS Asia)

兵庫県丹波市から贈られた学校家具で学ぶナベーゴン村小学校の児童たち(写真:SEEDS Asia)

兵庫県丹波市から贈られた学校家具で学ぶナベーゴン村小学校の児童たち(写真:SEEDS Asia)

●日本の取組

…防災協力
ネパールの小学校において、日本NGO連携無償資金協力により、震災時の避難方法などを学べる防災紙芝居の読み聞かせが行われる様子(写真:公益社団法人シャンティ国際ボランティア会)

ネパールの小学校において、日本NGO連携無償資金協力により、震災時の避難方法などを学べる防災紙芝居の読み聞かせが行われる様子(写真:公益社団法人シャンティ国際ボランティア会)

日本は、地震や台風など過去の自然災害の経験で培(つちか)われた優れた知識や技術を活用し、緊急援助と並んで、防災対策および災害復旧対応において積極的な支援を行っています。2015年には、仙台において開催された第3回国連防災世界会議の結果、「仙台防災枠組2015-2030」が採択されました。この枠組みには、「防災の主流化」、防災投資の重要性、多様なステークホルダー(関係者)の関与、「より良い復興(Build Back Better)」、女性のリーダーシップの重要性など、日本の主張が取り入れられました。

さらに、新たな協力イニシアティブとして、2019年、安倍総理大臣が今後の日本の防災協力の基本方針となる「仙台防災協力イニシアティブ・フェーズ2」を発表しました。日本は、誰もが安心して暮らせる災害に強い世界の強靱化に貢献すべく、洪水対策などにより、2019~2022年の4年間で、少なくとも500万人に対する支援に加え、行政官や地方リーダー計4万8千人の人材育成、および次世代を担う子どもたち計3万7千人に対する防災教育の実施を表明するなど、防災に関する日本の進んだ知見と技術を活かし、国際社会により一層貢献していく姿勢を示しました。これにより、各国の建造物の性能補強や災害の観測施設の整備が進むだけでなく、防災関連法令・計画の制定や防災政策立案・災害観測などの分野での人材育成が進み、各国の「防災の主流化」が進展しています。

このほか、2015年9月、「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」を採択した国連サミットにおいて、安倍総理大臣は、津波に対する意識啓発のため、国連での「世界津波の日」の制定を各国に呼びかけました。その結果、同年12月、国連総会において、11月5日を「世界津波の日」とする決議が採択されました。これを受け、2019年9月に札幌にて、「『世界津波の日』2019高校生サミットin北海道」が開催されました。

…持続可能な都市の実現

日本は「開発協力大綱」を踏まえ、防災対策・災害復旧対応や健全な水循環の推進など、人間居住に直結した地球規模課題の解決に向けた取組を進めています。具体的には、日本はその知識と経験を活かし、上下水・廃棄物・エネルギーなどのインフラ整備や、災害後において、被災前よりも強靱なまちづくりを行う「Build Back Better(より良い復興)」の考え方を踏まえた防災事業や人材育成などを実施しています。このほか日本は、持続可能な都市開発を推進する国連人間居住計画(UN-Habitat)への支援を通じた取組も進めています。その一例として、福岡に所在するアジア・太平洋地域本部と連携し、日本の民間企業や自治体の環境技術を海外に紹介しています。

また2016年、南米エクアドルのキトで開催された国連人間居住会議(HABITAT Ⅲ)において、人間居住に関する各国の取組実績をもとに、都市問題や人間居住に係る課題の解決に向けた国際的な取組方針である「ニュー・アーバン・アジェンダ(NUA)」が採択されました。NUAは目標11を含むSDGsの達成に貢献するものであり、日本としてもNUAの実施に取り組んでいます。

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