2019年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 02一般公募

人道支援の最前線で日々奮闘する、若き日本人国際機関職員の声
~緊急援助の調整を通して一人でも多くの命を救う~

橋が無い川を、国連の車をフェリーに乗せて運び、避難民の元へ向かったときの様子(写真:木村真紀葉特別補佐官)

橋が無い川を、国連の車をフェリーに乗せて運び、避難民の元へ向かったときの様子(写真:木村真紀葉特別補佐官)

バンバリを訪問中の中央アフリカ共和国の国連人道調整官(写真右)と、異なる国連機関の現地事務所の所長らとともに、人道状況について意見交換する様子(写真:IOM Bambari Sub Office)

バンバリを訪問中の中央アフリカ共和国の国連人道調整官(写真右)と、異なる国連機関の現地事務所の所長らとともに、人道状況について意見交換する様子(写真:IOM Bambari Sub Office)

2019年2月から8月まで、私は国連人道問題調整事務所(OCHA:Office for the Coordination of Humanitarian Affairs)のスタッフとして、アフリカ大陸の中心部に位置する中央アフリカ共和国に勤務し、緊急援助の「調整」を担っていました。同国では、武力紛争等に起因した、長きにわたる人道危機により、現在も人口466万人のうち、半数以上の260万人が人道支援を必要としています。私が駐在していた同国中部ワカ県のバンバリでも、大規模な人道支援が実施されており、食料、医療、水・衛生、シェルターなど、異なる分野で活動する多くの国際機関・NGOが支援に携わっています。これらの機関・団体が、足並みをそろえて、重複なく、不足なく、効率的に人道支援を届けられるように「調整」するのがOCHAの仕事であり、私もバンバリ・フィールド事務所で、調整会議の運営や人道状況の報告・分析など、様々な業務にあたっていました。

実際の調整業務については、多くの団体の異なる意見の板挟みになりながら、無理難題に頭を抱えることも少なくありません。例えば、2019年6月、当国駐在国連人道調整官から、一刻も早くバス・コト州モバイエ市に人道ニーズ調査チームを送るよう指示がありました。このような現地調査においては、各団体が連携して効率的に調査を行えるようOCHAが調整し指揮を執るため、私は調査チームのリーダーとして、準備に取り掛かりました。治安が不安定なモバイエ市へ行くには国連PKOの護衛が必要であり、そのための調整を行うのもOCHAの仕事であるため、早速現地の国連PKOの副指揮官と交渉にあたりました。しかし、治安が悪化した別の地方にPKO部隊を送ったため、すぐに同地方へ護衛を派遣するのは不可能とのこと。この状況を受け、国連人道調整官に、調査の実行がすぐには難しいことを伝えましたが、「現地の状況が深刻なので待てない。何とか早く現地に行け」と、当初の指示を繰り返されました。そこで、国連PKOと粘り強く交渉を繰り返し、予定が二転三転した結果、最終的には「明後日なら護衛できる」という直前の連絡を受け、ぎりぎりでの招集に難色を示す調査チームのメンバーを急いで集めて、現場に向かいました。

また、現地調査が終わった後、調査結果に基づいて合同支援計画をたて、必要な資金を計算し、本部やドナーに対して働きかけるのもOCHAの仕事の一つですが、各機関の考え方の違い等から、合意形成が一筋縄ではいかない場合も多くあります。モバイエ市の調査でも、支援の優先順位や支援対象者の数などをめぐって各機関の間で意見が分かれてしまいました。何度か議論が行き詰まりつつも、合意を形成するために交渉、説明、説得を重ねながら奔走(ほんそう)しました。

出来上がった調査報告書や合同支援計画自体は、直接的に人々を助けるものではありません。しかし、合意を取りまとめることにやりがいを感じたのは、これらの報告書や合同計画が、モバイエ市で最も困難な状況にある人の声を世界に伝え、資金を動員し、支援を実施するために必要不可欠な手段であるからです。また、最も支援が必要な人々の声を世界に発信することは、厳しい環境にある声なき人々の代弁者となることでもあり、その点にOCHAのスタッフとしての使命感を感じます。

このように、OCHAの業務は、人道支援の最前線であっても、常に「裏方」です。しかし、私はこの「調整」業務に情熱を感じています。それは、立場や専門性の異なる機関・団体をまとめ、限られた資金と資源を最大化することが、一人でも多くの命を救うことに繋がると考えているからです。

私は外務省の平和構築人材育成事業(「平和構築分野での人材育成」を参照)とJPOプログラム(「(2)開発協力人材・知的基盤の強化」を参照)を通して、コンゴ民主共和国、チャドおよびエチオピアで、国連の人道支援分野でのキャリアを踏み出すことができました。その後も、中央アフリカ共和国、そして現在は再びコンゴ民主共和国で、緊急援助の仕事を続けています。「なぜ人道支援を?」とよく聞かれます。私にとって、世界でも最も厳しい環境で生きている人道危機下の人々の命を救う人道支援は、とても尊い仕事であり、現場で少しでも役に立ちたい、という強い志を持っています。今後も、OCHAの職員として、最も必要な人々へ、一人でも多くの人々へ、より早く、より効率的に支援を届けるために、貢献したいと思っています。

国連人道問題調整事務所(OCHA)

コンゴ民主共和国キンシャサ事務所

国連人道問題副調整官付特別補佐官

木村真紀葉


*駐在国の人道問題に関する国際支援の全般的な責任を負っており、主要な国際人道支援団体の代表で構成される人道国別チームの議長も務める人。

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