2019年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 01

セネガルに高品質な日本製の潤滑油を!
~アフリカの優秀な人材と日本企業をつなげるABEイニシアティブの好例~

ABEイニシアティブの研修員が中外油化学工業株式会社の埼玉工場にてエンジンオイルの製造工程を学習している様子(写真:中外油化学工業)

ABEイニシアティブの研修員が中外油化学工業株式会社の埼玉工場にてエンジンオイルの製造工程を学習している様子(写真:中外油化学工業)

ジョップ氏がモザンビークからの研修員とともにエンジンオイルの試作に挑戦している様子(写真:中外油化学工業)

ジョップ氏がモザンビークからの研修員とともにエンジンオイルの試作に挑戦している様子(写真:中外油化学工業)

2014年にABEイニシアティブによる受入れを開始して以来、2019年度までにアフリカ54か国すべての国から合計1,285人の研修員が来日し、半数以上がすでにプログラムを終えて帰国しています。セネガル人のセリーニュ・マンスール・ジョップ氏もその中の一人です。

ジョップ氏はABEイニシアティブのもと、2016年から名古屋大学大学院工学研究科で2年間学んだ後、半年間、中外油化学(ちゅうがいゆかがく)工業株式会社にてインターンシップを行いました。プログラム終了後はセネガルに帰国し、現在は同社の製品をセネガルに導入するための橋渡し役として活躍しています。ジョップ氏は、ABEイニシアティブに応募したきっかけを次のように語ります。

「子どもの頃からたくさんの日本のアニメを見てきたこともあり、日本の文化に関心がありました。また、日本には地震などの自然災害にも耐えうる質の高いインフラが整備されています。セネガルの大学で土木工学(主に橋梁(きょうりょう)工学)を専攻し、大規模なインフラ整備に関心があったため、ABEイニシアティブのことを知り、日本で学べる絶好のチャンスだと思いました。」

ジョップ氏は高い競争率を突破してABEイニシアティブの研修員に選ばれました。修士号取得後は、セネガルで自身の会社を立ち上げた兄の影響もあり、日本でビジネスパートナーを見つけたいという思いでABEイニシアティブの研修員が一堂に会するビジネスフェアに参加し、そこでブースを構えていた中外油化学工業株式会社をインターン先に選びました。

同社は埼玉県に本社を置く潤滑油(じゅんかつゆ)メーカーで、エンジンオイルなどの自動車用潤滑油を、国内はもとより海外にも広く販売しています。しかし、電気自動車などの普及に伴い世界的な市場規模の縮小が予想されるため、同社は既に進出しているアジアに加え、さらなる市場としてアフリカの可能性を探っていました。こうした中、上記のビジネスフェアに参加したことがきっかけで、2017年の夏にアフリカからの研修員の受入れを開始し、ジョップ氏を含む11名が就業を開始しました。

ジョップ氏は中外油化学工業でのインターン期間中、主力商品の自動車用潤滑油について知識を深めるのはもちろん、同社のもつ高品質・高機能道路補修材の将来のセネガル展開を見込んで、商品の資料をセネガルの公用語であるフランス語に翻訳したり、現地で代用可能な材料を調べたりするなど、様々な業務を経験しました。ともに仕事を進めた中外油化学工業海外事業部の中村大亮(なかむらだいすけ)氏は、ジョップ氏の積極性が強く印象に残っていると言います。

「彼は明るくて元気があり、仕事上の課題に対しての反応が鋭い。人とコンタクトをとるのも上手で、行動力が際立っていました。また、せっかく日本で学ぶ機会を得たのだから、日本で何かを得て、日本と関わりながらセネガルで起業したいという熱意を強く感じました。」

ジョップ氏は2019年3月に帰国した後、同社のセネガル進出の「水先案内人」となり、現地大手企業との共同事業による潤滑油の製造販売に向けて、潤滑油の試験販売を通じた市場調査に着手しています。中外油化学工業は、同年9月に、セネガル向けに同社の海外向け製品「ライジング(エンジンオイル)」のコンテナを初めて出荷し、帰国したジョップ氏もその販売を全面的にサポートしています。

このプロジェクトの実現に関し、中村氏は次のように語ります。

「当社がビジネスコンサルタントを介さずに、セネガルに初のコンテナを送るというリスクを取れたのは、ジョップ氏との強い信頼関係があってのことです。社内にはアフリカ進出に心配の声もありましたが、研修員を受け入れるようになってから、アフリカでのビジネスの可能性にも理解が深まりつつあります。最近では、ABEイニシアティブ出身のモロッコ人の元研修員が当社に入社した事例もあります。」

このほか、セネガルでは道路補修材の市場開拓やビジネスモデル策定のための調査(JICA中小企業・SDGsビジネス支援事業)も予定されており、ジョップ氏は同調査の現地コーディネーターとしても活躍する予定です。

ジョップ氏のほかにも、セネガルからABEイニシアティブを利用して日本で学ぶ機会を得た若者はこれまでに約60人います。JICAセネガル事務所では、個々の研修員の経験をこれからの日本とセネガルのよりよい関係につなげていけるよう、研修員の帰国後のフォローアップを実施しており、日本企業とのマッチングや事業ニーズの伝達、個別相談などに対応しています。

「ABEイニシアティブの研修員フォロー体制はとてもしっかりしており、今でも何かあると助けてくれます。私が中外油化学工業とセネガルの道路補修会社をつなげたことで、現在両社がタッグを組んで、JICAの支援が検討されていることを嬉しく思っています。」と、ジョップ氏はプログラムを振り返ります。

ABEイニシアティブを通じて、日本とセネガルのビジネスにおける人脈が形成され、セネガルにおける日本企業の経済活動が活発になる、そんな両国の発展につながる友好関係が生まれています。


*詳細は用語解説を参照。

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