ODAを活用した中小企業の海外展開支援
日本における中小企業は、企業数において全体の99.7%を占め、雇用面でも全従業員の約7割が中小企業で働いています。こうした中小企業は、長い伝統を有する老舗企業から新規の事業に取り組むベンチャー企業まで様々ですが、確かな技術とノウハウ、さらには、経験知、人材、商品・サービスを有している場合が多く、途上国の開発課題を解決できる可能性を大いに秘めています。そのような日本企業が持つ製品や技術を途上国の開発課題の解決に結びつけると同時に、中小企業の海外展開を後押ししていこうとするのがこの事業の目的です。
しかしながら、海外事業の経験の少ない中小企業にとって、海外市場の開拓はハードルの高い事業かもしれません。とりわけ、歴史や文化、経済の発展段階が異なる途上国に進出しようとすることは、リスクが伴います。途上国において自社の製品・技術が役に立つのか、十分な市場ニーズは存在するか、存在する市場ニーズをどのように自社のビジネスにつなげられるかなど、確認すべき情報や克服すべき課題は多いと思われます。そうした中、「ODAを活用した中小企業海外展開支援」事業では、各企業の製品・技術の活用方法について、各社の創意工夫による企画を作って応募いただき、企画競争を経て採否を決定します。採択された場合には、国際協力機構(JICA)の委託事業という形で、現地での調査もしくは自社製品の現地適合性を確認するための実証を実施していただいています。現地で調査活動などを行うに当たっては、在外公館やJICAの現地事務所がこれまで培ってきた現地政府関係者などとの信頼関係を活かして、企業のみなさんを支援しています。

交通渋滞情報配信システム(写真:(株)ゼロ・サム)
この支援事業は、2012年の事業開始以降、既に5年が経過しました。これまでに事業を活用した企業は延べ600社を超え、開発課題への貢献、海外ビジネスの展開の両面で、好事例が出てきています。たとえば、東京にある土木機器メーカーは、インドネシアの下水道工事において、現地で大きな社会問題となっている交通渋滞に影響を与えることなく工事が可能な非開削型の推進工法技術が高く評価され、現地の公共事業で同社の技術が採用されました。また、京都にあるIT企業は、インドにおいて、モバイル通信やクラウドを活用した交通渋滞情報の配信システムを開発し、交通渋滞情報を提供するサービスの30年間の長期契約締結に至りました。鳥取にあるガラス発泡材等の開発・製造・販売を行う企業は、モロッコにおいて、廃ガラスを原料とした土壌改良材を使った節水型農業の普及に取り組み、水の使用量を従来の半分にまでカットするとともに、トマトの収穫量を約30%増やすことに成功しました。このように、分野も地域も様々ですが、世界の各地で、途上国と日本の中小企業とのwin-winの成功事例が開花しています。

掘進機(写真:(株)イセキ開発工機)
この事業による中小企業にとっての利点は、新たな取引先・顧客の確保、現地生産・現地サービス提供の開始といった海外ビジネス面にとどまりません。企業の目が海外市場に向かったことで、社員の意識が変わり、自社の人材育成や、自社または自社製品・サービスの知名度向上、地域振興の活性化など幅広いメリットを強調する企業の声も聞かれます。
外務省およびJICAでは、引き続きODAを触媒として、中小企業と途上国を結び、中小企業の海外展開を支援するとともに、途上国の開発課題解決に向け取り組んでまいります。