開発協力トピックス3
国際緊急援助隊(JDR)法30周年
2017年は、国際緊急援助隊の派遣に関する法律(JDR:Japan Disaster Relief法)が1987年8月に施行されてから30周年の節目の年でした。JDR法は、日本の国際協力を推進するため、海外の特に開発途上にある地域で発生した大規模な災害等に対して、被災国政府または国際機関等の要請に応じ、国際緊急援助隊を派遣するために必要な措置を定めることを目的として制定された法律です。その後、1992年に国際平和協力法(PKO:Peace Keeping Operation法)が施行され、紛争起因の人道支援はPKO法に基づき対応し、JDR法は、自然災害や大規模な事故等の人為的災害に対する緊急支援を対象とすると整理されました。1987年のベネズエラにおける洪水被害に対し専門家チームが初めて派遣されて以降、現在に至るまで延べ145チームが45の国・地域に派遣されました(2017年12月現在)。
日本政府が実施する国際緊急援助には、大きく分けて①国際緊急援助隊の派遣、②緊急援助物資の供与、③緊急無償資金協力があり、災害の規模や被災国等からの要請の内容に基づいて、これらの国際緊急援助のいずれか、または複数を組み合わせて実施されます。国際緊急援助隊には5種類のチーム(救助チーム、医療チーム、感染症対策チーム、専門家チーム、自衛隊部隊)があり、被災国政府または国際機関等からの要請の内容(どのような支援が必要とされているか)、災害の規模・種類等に応じて、外務省が関係省庁・機関と連携してチームの種類や活動内容を検討し、派遣が決定されます。

メキシコ地震で捜索・救助活動に従事する国際緊急援助隊・救助チーム。(写真:JICA)
最近では、日本時間2017年9月20日未明にメキシコ中部で発生したマグニュード7.1の地震被害に対して、国際緊急援助隊・救助チームを派遣しました。救助チームの主な任務は、倒壊した建物などから被災者を捜索、発見、救出し、必要な場合は応急処置をした上で、安全な場所へ移送することです。チームは、外務省、警察庁、消防庁、海上保安庁、JICAの隊員で構成され、今回は地震発生翌日の21日、70名の隊員が成田空港からメキシコに飛び立ちました。国際緊急援助隊は活動に必要な資機材だけでなく、隊員のための水・食料・テント等を持ち込み、なるべく被災地域に負担をかけず自己完結できるよう、平時から準備しています。携行装備は、技術の進歩とともにこの30年間で常に改善が図られてきました。今回の捜索・救助活動は、救助犬と共に生存者を探すことから始まり、時には2か所の現場で同時に、24時間体制で行われました。高地であるメキシコシティでは夜間の気温が10度近くまで下がり、冷たい雨が降ることもありました。幸いにもメキシコ在住の日系人等によって設立された日墨協会の施設を活動拠点とすることができたため、このような環境で懸命に過酷な活動を行った隊員にとって、安全な建物で休息をとれたことは、大きな助けになりました。また、救助チームが行く先々でメキシコ市民からいただいた歓迎や応援の言葉は、隊員たちにとって大きなエネルギーになりました。国際緊急援助隊の30年の歴史の中では、被災地での温かいサポートや現地の人々との交流が多くあり、国際緊急援助隊は日本の顔が見える支援として重要な役割を果たしています。

2015年のネパール地震で手術を施す国際緊急援助隊・医療チーム。(写真:JICA)
近年、開発途上国では、防災を含め災害への対応能力の向上が顕著です。この中で、日本の国際緊急援助隊には、国内での災害対応経験や技術力に基づいた質の高い支援の実施が期待されており、年間を通じて行われている各チームの研修・訓練で能力構築・向上に取り組んでいるほか、より良い支援のための国際的なガイドライン作りにも積極的に関与しています。たとえば、被災国の支援活動において海外の医療チームが被災国に報告すべき診療情報の共通項目(MDS:Minimum Data Set)が挙げられます。MDSは、国際緊急援助隊・医療チームが2013年のフィリピン台風の被災地における医療支援の経験を基に発展させたもので、2017年2月に世界保健機関(WHO)によって国際標準として採択され、世界各地の災害医療現場への普及が進められています。
日本の国際緊急援助隊は30年の経験を活かし、これからも、国際社会と協調しながらより一層質の高い援助の実現に向けた取組を続けていきます。