匠の技術、世界へ 4
インドネシアで無煙の完全自動小型焼却炉が活躍
~環境汚染を防止し、危険な医療廃棄物を無害化~
東南アジア南部に位置し、およそ13,000もの島々から成るインドネシアは、人口約2億5,500万人(世界第4位)、アジアで3番目に広い国土を有し、20年前から右肩上がりの経済成長が続いています。その一方、海洋に流出するプラスチックゴミ※1の世界第2の排出国で、大都市を中心に廃棄物の発生量は増加の一途をたどり、リサイクルや焼却、埋め立ての処理が適切に行われていない現状にあります。また、各島々から海を渡って最終処分場までゴミを運搬するにも回収や管理にコストと手間がかかることから、不法投棄も多く見られます。焼却処理の施設や行政の対応は追いつかず、ゴミは分別されずにオープン・ダンピング(野積み・投棄)で処分場に埋め立てられ、廃棄物による衛生面・環境面での問題が深刻化していました。特に、医療廃棄物の適正処理は急を要する課題となっています。
このような状況に対し、沖縄県の株式会社トマス技術研究所の代表取締役、福富健仁(ふくとみけんじ)さんは「沖縄と同じく離島が多いインドネシアには、ゴミを分別せずに処理できる小型の焼却炉を」と提案しています。離島でのゴミ処理は通常、「あれもこれも燃やさなければならない」ために焼却炉の運転・管理が難しく、焼却炉を傷めて使えなくなってしまうケースが多々あるそうで、インドネシアにおいても同じ状況に陥っていることが懸念されます。
奄美大島で生まれ育った福富さんは、漂着ゴミなどの廃棄物処理に悩まされる離島の人々の苦労を解消しようと、チリメーサーを開発しました。2006年環境大臣賞を受賞した同製品は、どんなゴミを入れて燃やしても「煙を出さない」「有害物質の排出を抑える※2」、そして「完全自動運転※3」なので誰もが使えて「簡単設置」が可能であり、国内では沖縄県を中心に佐賀県・長崎県の離島地域や、山間部にある僻地など、自治体を含む70か所以上に納入実績があります。このチリメーサーであればインドネシアの離島のゴミ処理ニーズに応(こた)えられると、福富さんは語ります。さらに、焼却後に灰となるゴミの体積は、燃やす前に比べて100分の1に容量が減り、最終処分場までの輸送コストも抑えることができます。
このチリメーサーは、厳密な管理が求められる医療廃棄物処理にこそ大きな力を発揮することから、2016年12月、JICAの中小企業海外展開支援事業に提案した「島嶼地域における環境に配慮した小型焼却炉の普及・実証事業」で、バリ島で2番目に大きいデンパサール市立ワンガヤ総合病院に1基を設置しました。チリメーサーの医療廃棄物の焼却能力は、1基につき1日当たり約250kgの焼却処理が可能です。ワンガヤ総合病院では、これまで1日100kgもの医療廃棄物が不適切な処理で焼却されていたため、黒煙が上がり続け、近隣住民から排ガス汚染と悪臭に関する苦情が絶えず、焼却炉の稼働時間も限られていました。また残渣は、焼却炉での燃焼温度が低く滅菌が不十分な状態のまま、ジャワ島のボゴールにある産業廃棄物処分場へと輸送、廃棄されていたため、輸送経路や最終処分場における感染症蔓延(まんえん)のリスクが懸念されていました。チリメーサーの導入によって、これらの問題が大幅に改善し、その効果を目の当たりにしたインドネシア政府の各省庁職員や病院関係者は驚き、本格導入の検討が開始されました。ほかの病院でも共通の問題を抱えているため、チリメーサーの稼働が実証されれば、市内の多数の病院の焼却炉がチリメーサーに置き換わる可能性が期待されます。
“煙を出さずに、燃やしたゴミをいかに減らして、いかに無害化するか”に心血を注ぐ福富さんは、「沖縄の高い技術力、ものづくりの力を世界へと発信していきたい。廃棄物問題が顕在化し、社会的な衛生改善へ期待が高まっているインドネシアを中心に、東南アジア市場への参入を本格化させたい」と意欲を示しています。
※1 世界の海洋に流出するプラスチックゴミの量は、年間480万~1270万トン。中国が1位(世界合計の約28%)、インドネシアが2位(約10%)、日本は30位(約0.4%)。海洋に浮かぶ量ではなく海岸線から流出した量を、海に面する192の国や地域を対象に、アメリカ・ジョージア大学などの研究チームが調査・分析(2010年調査)。
※2 たとえば、ダイオキシンの排出量は基準値(日本の法規則)の50分の1に抑制されている。
※3 特許技術の燃焼制御方法で、温度・ばい煙濃度・燃焼速度などを制御する自動制御システム。焼却炉が自ら運転状況を感知して技術燃焼効率を高め、適正な運転ができる。