2017年版開発協力白書 日本の国際協力

匠の技術、世界へ 2

日本の技術がインドのジャガイモづくりを変える
~栽培方法の向上から収穫の機械化を目指して~

あまり知られていませんが、インドは世界第2位のジャガイモ生産量を誇ります。インドで生産されたジャガイモのほとんどは同国内で消費され、近年はポテトチップスやフライドポテトなどの加工品の消費も年々増加しています。

その一方で、大きな課題も存在しています。インドでは、農家の多くが小規模農家であり、ジャガイモの生産では、畝(うね)づくり、種イモの植え付けから収穫に至る一連の農作業を人手に頼っているため、多くの作業者を集める必要があります。ところが近年になって、インド経済が発展し人件費が高騰している上、都市部への出稼ぎなどの影響で、特に小規模の農家では人手不足のため、ジャガイモ生産をやめてしまうようなこともあるそうです。こうしたことから、多くの人手に頼らずに済むよう、農作業の機械化が早急に求められています。

ジャガイモ収穫機に乗りながら運転方法等についての説明を受ける現地の農民たち。(写真提供:東洋農機)

ジャガイモ収穫機に乗りながら運転方法等についての説明を受ける現地の農民たち。(写真提供:東洋農機)

ジャガイモ収穫機の分野で日本国内シェア約70%を占めるトップメーカーである東洋農機株式会社(本社:北海道帯広市)は、インドのジャガイモの収穫を機械化し、効率的な生産体制の確立を目指し、2014年度からインドでのジャガイモ収穫機の普及についてODAを活用した案件化調査を実施し、収穫機の市場調査や農園での性能試験、農家へのデモンストレーションなどを行いました。そして、インドにおける種イモ生産量の85%を占めるパンジャブ州政府園芸局をカウンターパート(相手方機関)に2015年度からODAのスキームとしての「ジャガイモ収穫機普及に向けた普及・実証事業」を行っています。

現地にいく度も足を運び、指導に当たってきた東洋農機の大橋敏伸(おおはしとしのぶ)常務は、当初の様子を次のように語ります。

「私たちはジャガイモの収穫機のメーカーですので、当初は機械化で収穫の効率を上げることを目的に調査を行いました。しかし、様々な農家を見て歩いたところ、栽培方式がまちまちであり、機械化に向かないケースも多いという課題が見つかりました。さらに、それ以上に問題があると感じたのは、栽培技術の未熟さでした。」

つまり、機械化によってきちんとした成果を上げるためには、栽培方法から指導していく必要があったのです。同社の指導内容は、そこから大きく変化することになります。

大橋さんは「幸い、当社は様々なプロジェクトを通して、栽培の技術に関しても知識を持っていたため、日本からスタッフを派遣し、畑を耕し、畝をつくり、種イモの植え付けからジャガイモの品質向上、収穫に至るまでの指導を行いました」と、当時を振り返ります。

結果は1年目から明らかでした。収穫量は3割アップし、それまで多く見られていたジャガイモの緑化現象(ジャガイモは緑になると、ソラニンという毒ができる。)もなくなりました。この大成功を目の当たりにしたインドの農場経営者たちの態度も大きく変化しました。

「最初、調査で訪れたときには、『日本人から教えられることなど何もない』と、好意的とはいえない反応でした。またインドの人たちは感情を表情に出さない方が多いので、私たちのしていることが喜ばれているのかどうかも分かりませんでした。ところが、ある日突然、私たちに、『あなたたちのおかげで本当に勉強になった!自分なりにも調べてみたが、あなたたちのいうとおりだった!ありがとう!』といわれました。『日本式でやりたい』、『日本に視察に行きたい』そんなことまでいってもらい、本当にうれしく思いました。」と大橋さんは語ります。

こうした成功のかたわらで、計画を変更しなければならない部分も生じました。当初、機械化の中心となる収穫機を東洋農機製で提供していこうと考えていましたが、インドの小規模農家では、たとえ小型の収穫機であっても、価格面で購入が難しい、ということが判明しました。

東洋農機関係者から機械収穫について説明を受けるパンジャブ州政府関係者と近隣農家の人たち。(写真提供:東洋農機)

東洋農機関係者から機械収穫について説明を受けるパンジャブ州政府関係者と近隣農家の人たち。(写真提供:東洋農機)

このため、同社では、収穫機の現地生産を目指し、技術指導という形で協力をしていくこととなりました。そのためのパートナー探しが今の課題となっており、作業機メーカーやトラクターメーカーとの折衝を続けています。

「単に機械を提供するのではなく、技術指導という形ですので、今後はより深くインドの方々とお付き合いしていくことになります。ジャガイモの収穫機は、土の中の作物を掘り上げるので、消耗が激しい。そのためアフターサービスの体制が非常に重要で、これはインドにおいても変わりません。こうした点をきちんと理解していただけるパートナーに技術指導していきたいと思っています。」と大橋さん。

日本の技術を活用したインド仕様収穫機の現地生産の可能性が確認されれば、東洋農機によるさらなるビジネス展開に大きな期待が膨らみます。

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