2017年版開発協力白書 日本の国際協力

2 開発協力の適正性確保のための取組

日本の開発協力は、開発協力大綱の実施上の原則を踏まえて立案・実施されています。

(1)平和国家としての開発協力

日本は、開発協力大綱の下、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、国際社会の平和と安定および繁栄の確保により一層積極的に貢献するために開発協力を推進していくこととしています。そのため、日本は「非軍事的協力による平和と繁栄への貢献」という、平和国家としての日本にふさわしい開発協力を推進することを基本方針としています。

開発協力大綱は、ODAを軍事目的に用いないというこれまでの原則を変えることなく、「非軍事的協力による平和と繁栄への貢献」を掲げ、平和国家としての日本にふさわしい開発協力を推進する方針を堅持しています。一方、近年では、感染症対策や紛争後の復旧・復興等の民生分野や災害救援等、非軍事目的の活動において軍や軍籍を有する者が重要な役割を果たしており、国際社会における重要な開発課題への対応のためには、これらの者に対して非軍事目的の協力を行うことが必要となる場面がより増加しています。これを踏まえ、開発協力大綱では、「軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避」の原則の下、これまで十分明確でなかった軍や軍籍を有する者に対する非軍事目的の開発協力に関する方針を明確化しました。また、日本はテロとの闘いや平和構築にも積極的に貢献していますが、日本の支援物資や資金が軍事目的に使われることを避けるため、いかなる場合でも、この原則を十分に踏まえることとしています。同時に、日本はこうした協力の適正性確保のため、開発協力適正会議のような事前の審査や事後のモニタリングにもしっかりと取り組んでいます。

また、日本はテロや大量破壊兵器の拡散を防止するなど、国際社会の平和と安定を維持・強化するとともに、開発途上国はその国内資源を自国の経済社会開発のために適正かつ優先的に配分すべきであるとの観点から、その国の軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入等の動向に十分注意を払って、開発協力を行うこととしています。

(2)環境・気候変動への影響、社会的弱者への配慮
サントメ・プリンシペでは水道がなく、毎朝村の人々は川に集まって洗濯する。(写真:村元菜穂/在ガボン日本大使館)

サントメ・プリンシペでは水道がなく、毎朝村の人々は川に集まって洗濯する。(写真:村元菜穂/在ガボン日本大使館)

経済開発を進める上では、環境への負荷や現地社会への影響を考慮に入れなければなりません。日本は、水俣病をはじめとする数々の公害被害の経験を活かし、ODAの実施に当たっては環境への悪影響が回避・最小化されるよう、慎重に支援を行っています。

開発協力を実施する際には、日本は事業の実施主体となる相手国の政府や関係機関が、環境や現地社会への影響、たとえば、住民の移転や先住民・女性の権利の侵害などに関して配慮をしているか確認します。2010年に策定した「環境社会配慮ガイドライン」に基づき、開発協力プロジェクトが環境や現地社会に望ましくない影響をもたらすことがないよう、日本はその影響を回避・最小化するための相手国による適切な環境社会配慮の確保を支援してきています。このような取組は、環境・社会面への配慮に関する透明性、予測可能性、説明責任を確保することにつながります。

また、日本は開発政策によって現地社会、特に貧困層や女性、少数民族、障害者などの社会的に弱い立場に置かれやすい人々に望ましくない影響が出ないよう配慮しています。たとえば、JICAは2010年に新環境社会配慮ガイドラインを発表し、事前の調査、環境レビュー(見直し)、実施段階のモニタリング(目標達成状況の検証)などにおいて、環境や社会に対する配慮を確認する手続きを行っています。

(3)不正腐敗の防止

開発協力大綱には、不正腐敗の防止など、適正性の確保の観点からの新しい原則も盛り込まれています。

日本のODAは、国民の税金を原資としていることから、ODAに関連した不正行為等が行われることは、開発協力の適正かつ効果的な実施を阻害するのみならず、ODAに対する国民の信頼を損なうものであり、絶対に許されません。

政府とJICAは、これまで、「入札排除措置期間の上限引上げ」等の不正行為に対する様々な再発防止策を講じてきました。しかし、近年においても、ODAに関連した不正行為が行われており、政府とJICAはさらなる対応が求められています。

2017年には、バングラデシュにおける円借款事業等をめぐる不正行為が発覚したことを受けて、政府およびJICAは、それぞれ不正行為を行った企業に対して、一定期間ODAに参加させない措置等を実施しました。

このような不正行為を防止するには、仮に不正行為を行っても、それは見破られ、厳しいペナルティが課されることを認識させる必要があります。そこで、政府とJICAは、過去に発生した不正行為も踏まえつつ、監視体制の強化として「不正腐敗情報に係る窓口の強化」、「第三者検査の拡大」等を行い、ペナルティの強化として「違約金の引上げ」、「重大な不正行為を繰り返した企業に対する減点評価の導入」等を行いました。

政府は、ODAに関連した不正行為は許さないという強い決意の下、JICAと連携し、引き続き、不正行為の防止に向けた対応について、しっかりと取り組んでいきます。

(4)国際協力事業関係者の安全確保

JICA関係者のみならず、コンサルタント、施工業者、NGO等様々な国際協力事業関係者が活動している開発途上国の治安状況は複雑で、国ごとに状況が異なる上、常に変化しています。

2016年7月のダッカ襲撃テロ事件を受け、外務省およびJICAは、関係省庁、有識者と共に国際協力事業関係者の安全対策を再検証し、同年8月、新たな安全対策(最終報告)を発表しました。これは、最近の国際情勢を踏まえ、「安全はもはやタダではない」こと、組織のトップ自らが主導して安全対策を講じる必要性を認識し、より広範囲な国際協力事業関係者・NGOの安全の確保に向け、①脅威情報の収集・分析・共有の強化、②事業関係者およびNGOの行動規範、③ハード・ソフト両面の防護措置、研修・訓練の強化、④危機発生後の対応、⑤外務省・JICAの危機管理意識の向上・態勢の在り方に関し、講ずべき措置をとりまとめたものです。これ以降、外務省およびJICAは、政府、企業、NGO関係者の出席を得た「国際協力事業安全対策会議」を常設化し、これまでに4回の会合を開催するなど、新たな安全対策における諸措置を着実に実施しています。

用語解説
環境社会配慮ガイドライン
「環境社会配慮」とは、大気、水、土壌への影響、生態系および生物相等の自然への影響、住民が非自発的に移転しなければならないなど、環境面および社会面へその事業が与える可能性のある負の影響に配慮することをいう。環境社会配慮ガイドラインは、JICAが関与するODA事業において、こうした負の影響が想定される場合、JICAが必要な調査を行い、負の影響を回避、または最小化するとともに、受け入れることができないような影響をもたらすことがないよう、相手国等が適切な環境社会配慮を確保できるよう支援し、確認を行うための指針。
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