2017年版開発協力白書 日本の国際協力

3 中央アジア・コーカサス地域

中央アジア・コーカサス地域は、ロシア、中国、南アジア、中東、欧州に囲まれていることから地政学的に重要な地域であり、この地域の発展と安定は、ユーラシア地域全体の発展と安定にとっても大きな意義を有しています。また、この地域には石油、天然ガス、ウラン、レアメタル(希少金属)などのエネルギー・鉱物資源が豊富な国も含まれることから、資源供給国の多様化を目指して、資源・エネルギー外交を展開する日本にとっても戦略的に重要な地域です。この観点から日本は、この地域の国々に人権、民主主義、市場経済、法の支配といった普遍的価値が根付くよう、そして同時にアフガニスタンやパキスタンなど、中央アジアに近接する地域を含む広域的な視点も踏まえつつ、この地域の長期的な安定と持続的発展のための国づくりを支援しています。

< 日本の取組 >

日本は、旧ソ連の崩壊に伴い独立した中央アジア・コーカサス諸国に対し、1991年の独立以来、市場経済体制への移行と経済発展に向けた各国の取組を支援するため、経済発展に役立つインフラ(経済社会基盤)整備、市場経済化のための人材育成、保健医療など社会システムの再構築など多彩な分野で支援を行っています。

2017年5月、トルクメニスタンで開催された「中央アジア+日本」対話・第6回外相会合に参加した岸田外務大臣(当時)は、北朝鮮問題も含めた、日本と中央アジア各国との幅広い協力関係を象徴する「共同声明」に署名し、今後の優先的な実践的協力分野として、地域内外の相互の連結性を強めることは地域の発展に資するとの考えの下、運輸・物流分野のこれまでの協力と今後の協力の方向性を打ち出した「運輸・物流協力イニシアティブ」を発表し、このイニシアティブに基づき、240億円規模の支援を行っていくことを表明しました。たとえば、このイニシアティブの下で実施されるキルギスの国際幹線道路改善計画により、道路改善・防災対策(地滑り対策等)を支援することで、道路の輸送力と安全性の向上が期待されます。また、日本は、今後5年間で2,000名の研修生を受け入れる旨も表明しました。日本は中央アジア・コーカサス諸国に対して、2016年までに10,270名の研修員の受入れ、2,303名の専門家の派遣をはじめ、若手行政官の日本留学プロジェクトである人材育成奨学計画や、日本人材開発センターを通じたビジネス人材育成など、新しい国づくりに必要な人材の育成を支援してきています。

さらに、共通の課題を抱えるこの地域の国々が協力し合うことが大切との考えから、日本は国境管理、テロ・麻薬対策、防災、農業などの分野で、地域内協力の促進を支援しています。このほか、民主化を進めるキルギスに対して、日本は選挙関連機材を供与し、2015年の議会選挙や2017年の大統領選挙で、それらが有効に活用された結果、選挙が大きな混乱もなく平和的に実施されるなど民主主義の定着にも貢献しています。

2017年6月、滝沢求前外務大臣政務官(当時)(右)は、ジョージアを訪問し、ギオルギ・クヴィリカシヴィリ首相と会談を行った。

2017年6月、滝沢求前外務大臣政務官(当時)(右)は、ジョージアを訪問し、ギオルギ・クヴィリカシヴィリ首相と会談を行った。

中央アジア・コーカサス地域における日本の国際協力の方針
図表Ⅲ-10 中央アジア・コーカサス地域における日本の援助実績

●ジョージア

日本方式普及ノン・プロジェクト無償資金協力(医療・保健パッケージ)
ノン・プロ無償資金協力(平成26年度)

グヴァミチャヴァ院長(後列左)、貝谷大使(当時)(後列右)と早期発見により肺がんを完治したマリナさん。(前列中央)

グヴァミチャヴァ院長(後列左)、貝谷大使(当時)(後列右)と早期発見により肺がんを完治したマリナさん。(前列中央)

日本の約5分の1の国土に約400万人が居住するジョージアでは、病院の医療機器が著しく老朽化しており、多くの国民が質の高い医療サービスを受けることが困難な状況にあります。こうした状況の改善のため、この協力では、日本の優れた医療機材(CT、デジタル方式X線撮影装置、超音波診断装置等)をジョージアの2つの病院に供与するとともに、ジョージア各地の救急用に約140台のAED(自動体外式除細動器)注1を供与することとし、2017年4月に供与式が実施されました。

供与式当日、貝谷在ジョージア日本国大使(当時)が供与先を視察した際、日本から供与されたCTによって初期の肺がんが発見され、早期治療で完治した女性が紹介され、同大使に対して心から感謝を述べる場面がありました。病院長は、その女性は日本が供与したCTによる最初の救命例であり、そうした機器のない状況では早期発見は不可能であったと述べています。

供与式ではセルゲエインコ労働・保健・社会福祉大臣から、AEDのおかげで患者の生存率が70%以上上昇したとして、日本の支援に対する謝意表明がありました。

また、日本の企業が生産した製品が調達されたことで、今後の日本企業の海外展開が促進され、両国間の経済関係がより強化されることが期待されます。

注1 心停止状態に陥ったときなど、心臓に電気ショックを与えて正常な状態に戻すための医療機材

このページのトップへ戻る
開発協力白書・ODA白書等報告書へ戻る