2017年版開発協力白書 日本の国際協力

第2節 地域別の取組

世界では国や地域によって抱える課題や問題が異なります。現在の国際社会における開発課題の多様化、複雑化、広範化、グローバル化の進展等を考えると、世界全体を見渡しつつ、世界各地域に、その必要性と特性に応じた協力を行っていく必要があります。日本は、これらの問題の経済的、社会的背景なども理解した上で、刻一刻と変化する情勢に柔軟に対応しながら、重点化を図りつつ、戦略的、効果的かつ機動的に開発協力などを行って開発途上国の問題解決に取り組んでいます。

図表Ⅲ-7 二国間政府開発援助の地域別実績(2016年)

1 東アジア地域

東アジア地域には、韓国やシンガポールのように高い経済成長を遂げ、既に開発途上国から援助供与国へ移行した国、カンボジアやラオスなどの後発開発途上国(LDCs)、インドネシアやフィリピンのように著しい経済成長を成し遂げつつも国内に格差を抱えている国、そしてベトナムのように市場経済化を進める国など様々な国が存在します。日本は、これらの国々と政治・経済・文化のあらゆる面において密接な関係にあり、この地域の安定と発展は、日本の安全と繁栄にも大きな影響を及ぼします。こうした考え方に立って、日本は、東アジア諸国の多様な経済社会の状況や、必要とされる開発協力内容の変化に対応しながら、開発協力活動を行っています。

< 日本の取組 >

日本は、質の高いインフラ(経済社会基盤)整備、制度や人づくりへの支援、貿易の振興や民間投資の活性化など、ODAと貿易・投資を連携させた開発協力を進めることで、この地域の目覚ましい経済成長に貢献してきました。日本は、近年では、基本的な価値を共有しながら開かれた域内の協力・統合をより深めていくこと、相互理解を推進し地域の安定を確かなものとして維持していくことを目標としています。そのために、日本は、これまでのインフラ整備と並行して、防災、環境・気候変動、法の支配の強化、保健・医療、海上の安全等様々な分野での支援を積極的に実施するとともに、大規模な青少年交流、文化交流、日本語普及事業などを通じた相互理解の促進に努めています。

日本と東アジア地域諸国がより一層繁栄を遂げていくためには、アジアを「開かれた成長センター」とすることが重要です。そのため、日本は、この地域の成長力を強化し、それぞれの国内需要を拡大するための支援を行っています。

●東南アジアへの支援

東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国注1は、日本のシーレーンに位置するとともに、多くの日系企業が進出するなど経済的な結びつきも強く、政治・経済の両面で日本にとって極めて重要な地域です。2015年に6億人の単一市場や共生社会を掲げる「ASEAN共同体」が発足し、域内の連結性強化と格差是正に取り組んできました。日本は、こうしたASEANの取組を踏まえ、連結性強化と格差是正を柱として、インフラ整備、法の支配の強化、海上の安全、防災、保健・医療、平和構築等の様々な分野でODAによる支援を実施しています。

連結性の強化に関しては、2016年のASEAN首脳会議において、ASEAN域内におけるインフラ、制度、人の交流の3つの分野での連結性強化を目指した「ASEAN連結性マスタープラン」の後継文書である「ASEAN連結性マスタープラン2025」が採択されました。日本は、この新しい文書に基づいて、引き続きASEAN連結性支援を行っていきます。

日・ASEAN友好協力40周年であった2013年には、東京で開催された日・ASEAN特別首脳会議において「日・ASEAN友好協力ビジョン・ステートメント」が採択され、日・ASEAN関係の強化に向けた中長期ビジョンが打ち出されました。また、その際日本はASEANに対し、5年間で2兆円規模のODAによる支援を表明しました。防災分野では、日本は、2015年から「ASEAN地域強靱(きょうじん)な都市づくりに関する基礎情報収集・確認調査」を、2016年7月から「ASEAN災害リスク低減と気候変動適応の統合に対する制度・政策枠組みに関する基礎情報収集・確認調査」をそれぞれ実施しています。日本は、いずれもASEAN加盟10か国を対象に現地調査、ワークショップ、フォーラムなどを開催し、それらを通じて、自然災害に強い都市づくり、および気候変動適用の防災への統合を促進するための体制強化、実施計画策定、実施ツール等の開発を支援しています。これらの成果はASEAN防災委員会で承認され、ASEAN防災大臣会合へも報告されています。また、日本は各国のニーズに沿った個別の支援を進めるとともに、2016年には、ASEAN全域を対象としたASEAN災害医療連携強化プロジェクトを開始し、ASEAN地域の災害医療分野における連携体制構築を目指し、同分野の調整能力強化を進めています。

インフラ整備に関しては、日本は、東南アジア諸国に対するこれまでの支援の経験も踏まえ、「質の高いインフラ投資」の重要性を表明しています。2015年の日・ASEAN首脳会議では、安倍総理大臣が「質の高いインフラパートナーシップ」注2のフォローアップとして、円借款の手続の迅速化、新たな借款制度の創設など円借款や海外投融資の制度改善を行うことや、アジア開発銀行(ADB)との連携をさらに進め、国際協力銀行(JBIC)や日本貿易保険(NEXI)の制度改正・運用改善を行うことなど、抜本的な制度拡充策を発表しました。

また、2016年のG7伊勢志摩サミットに先立ち、安倍総理大臣は「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」を発表、アジアを含む世界全体のインフラ案件向けに、今後5年間の目標として、オールジャパンで約2,000億ドルの資金等を供給すると同時に、さらなる制度改善を進めていくことを表明しました。

さらに、日本は、アジアにおける持続的成長には、インフラ整備に加え、各国の基幹産業の確立や高度化を担う産業人材の育成が不可欠との考えの下、安倍総理大臣が、2015年の日・ASEAN首脳会議の場において今後3年間で4万人の産業人材の育成を行う「産業人材育成協力イニシアティブ」を発表し、2017年3月までに、アジア地域において49,000人以上の産業人材育成を実施しました。日本は今後も、アジアにおける産業人材育成を積極的に支援していきます。加えて、2016年のASEAN関連首脳会議の際に日本は、ASEANを含むアジア諸国との間で、日本の大学院等への留学、日本企業でのインターンシップ等を通じ、高度人材が環流することをODAで支援し、日本を含むアジア全体のイノベーションを促進するための「イノベーティブ・アジア」事業を2017年度から開始することを発表し、ASEAN諸国から歓迎されました。

ASEAN諸国の中でも特に潜在力に富むメコン地域注3に関しては、毎年開催している日本・メコン地域諸国首脳会議(日・メコン首脳会議)のうち日本で開催する回(おおむね3年に1度)において、地域に対する支援方針が策定されています。

現在、2015年に開催された第7回日メコン首脳会議で採択された「新東京戦略2015」に基づき、4つの柱(①メコン地域における産業基盤インフラの整備と域内外のハード連結性の強化、②産業人材育成とソフト連結性の強化、③グリーン・メコン注4の実現、④多様なプレーヤーとの連携)に沿って協力が進められています。2017年11月にフィリピン・マニラで開催された第9回日メコン首脳会議では、2015年に発表した3年間で7,500億円のODAによる支援の3分の2以上が実施されるなど、「新東京戦略2015」に基づく協力が順調に進捗(しんちょく)していくことへの評価、および日本の貢献への謝意がメコン諸国から示されました。特にこの1年で、日本は、カンボジアのシアヌークビル港、ミャンマーのヤンゴン・マンダレー鉄道、タイの高速鉄道等のインフラ整備に係る協力を進めることができました。

2017年8月、フィリピン・マニラにおいて第10回日メコン外相会議が開催され、河野外務大臣が議長を務めた。

2017年8月、フィリピン・マニラにおいて第10回日メコン外相会議が開催され、河野外務大臣が議長を務めた。

ミャンマーの商業都市ヤンゴン近郊で開発が進むティラワ経済特別区の入口。(写真:久野真一/JICA)

ミャンマーの商業都市ヤンゴン近郊で開発が進むティラワ経済特別区の入口。(写真:久野真一/JICA)

2018年1月、カンボジアのシェムリアップ浄水場視察時に現地要人と記念撮影する中根一幸外務副大臣。

2018年1月、カンボジアのシェムリアップ浄水場視察時に現地要人と記念撮影する中根一幸外務副大臣。

2017年8月、フィリピン・マニラにおいて、第10回日メコン外相会議が開催され、河野外務大臣が出席し議長を務め、2年目を迎えた「新東京戦略2015」は、多くのプロジェクトが順調に実施されていること、この1年間で南部経済回廊を構成するカンボジアの国道5号線の改修事業やベトナムの南北高速道路建設事業を実施し、また、タイとの間で「産業人材育成に関する覚書」を締結するなど、ハード・ソフトの両面で、域内連結性強化に資する取組が進展している旨を述べました。

メコン地域の中では、特に民主化の進展に取り組むミャンマーに対して、2012年、日本は経済協力の方針を見直し、急速に進むミャンマーの改革努力を後押しするため、①少数民族に対する支援を含む国民の生活向上、②法整備支援や人材育成、③インフラ整備を3本柱とし、幅広い支援を行っています。特に、最大都市ヤンゴン近郊のティラワ経済特別区(SEZ:Special Economic Zone)の整備のため、日本は官民を上げて協力しており、日本政府はODAにより周辺インフラの整備に貢献しています。2017年9月現在、世界から85社(そのうち43社が日本企業)が進出し、既に37社(うち日本企業は28社)が稼働しています。これは、日本の「質の高いインフラ投資」が世界からの信頼に結実した成功例といえます。

また、2016年にミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家最高顧問が訪日した際には、日本は、ミャンマーの民主化の定着、国民和解、経済発展を、官民を挙げて全面的に支援するとの方針に基づき、「日本・ミャンマー協力プログラム」を踏まえて、官民合わせて2016年度から5年間で8,000億円規模の貢献を行うこと、その一環として国民和解の進展を支えるため、少数民族地域へ同じく5年間で400億円の支援を行うことを安倍総理大臣から表明しました。日本は、この日本・ミャンマー協力プログラムを通じて、ミャンマーの実情を踏まえつつ日本の知見と経験を活かし、ミャンマーの地方と都市のバランスの取れた発展を支援していきます。同時に、日本は今後年間1,000人規模の交流・人材育成を行い、国づくりを支えていくことも伝えました。

用語解説
ASEAN連結性マスタープラン2025
2015年を目標年としていた「ASEAN連結性マスタープラン」(2010年採択)の後継文書として、2016年のASEAN首脳会議にて採択された、ASEAN連結性強化のための行動計画。2015年採択の「ASEAN2025:共に前進する」の一部と位置付けられている。同文書は、「持続可能なインフラ」、「デジタル・イノベーション」、「シームレスなロジスティクス」、「制度改革」、「人の流動性」を5大戦略としており、それぞれの戦略の下に重点イニシアティブが提示されている。
日本・ミャンマー協力プログラム
ミャンマーの開発を考える上で重要な主要9分野で取り組むべき課題を抽出したもので、具体的には、I「地方の農業と農村インフラの発展」、II「国民が広く享受する教育の充実と産業政策に呼応した雇用創出」、III「都市部の製造業集積・産業振興」、IV「地方と都市を結ぶ運輸インフラ整備」、V「産業発展を可能とするエネルギー協力」、VI「都市開発・都市交通」、VII「金融制度整備支援(政策金融/民間金融)」、VIII「国民をつなぐツールとしての通信・放送・郵便」、IX「国民生活に直結する保健医療分野の改善」を柱としている。
●中国との関係

日本は、1979年以降、日中関係の柱の一つとして中国に対するODAを実施してきましたが、中国の経済的発展および技術水準の向上を踏まえ、既に一定の役割を果たしたとの認識の下、対中ODAの大部分を占めていた円借款および一般無償資金協力は、約10年前に新規供与を終了し、円借款は既存の事業の貸し付けについても完了しました。過去の支援は、中国経済の安定的な発展に貢献し、ひいてはアジア・太平洋地域の安定、さらには日本企業の中国における投資環境の改善や日中の民間経済関係の進展に大きく寄与したと認識しています注5

現在の中国に対するODAは、日本国民の生活に直接影響する越境公害、感染症、食品の安全等の協力の必要性が真に認められるものに絞って極めて限定的に実施しており、技術協力(2016年度実績5.00億円)注6と、草の根・人間の安全保障無償資金協力(2016年度実績0.29億円)注7によるものです。

技術協力について、日本は、たとえば、日本への影響も懸念されているPM2.5を含む大気汚染を中心とした環境問題に対処する案件や現地進出日本企業の円滑な活動にも資する中国の民法や特許法等の起草作業を支援する案件を実施しています。

また、中国の経済発展を踏まえた新しい協力の在り方として、最近は中国側が費用を負担する形での協力を進めています。たとえば、2013年に四川省で発生した芦山地震の被災地において、中国側が進める防災教育や防災館の建設において、日本は防災対策の共有や耐震免震技術の指導等の支援をしていますが、その費用は中国側が負担しています。

草の根・人間の安全保障無償資金協力については、大気汚染の原因となっている野焼きの防止に向けた支援や、女性の社会進出の促進に向けた出稼ぎ女性労働者への支援等を実施しました。

●ミャンマー

初等教育カリキュラム改訂プロジェクト
技術協力プロジェクト(2014年5月~(実施中))

ミャンマーでは、2011年の民政移管後、国際水準の学力達成を掲げ、法改正や学制改革など大規模な教育改革に着手しています。日本は、ミャンマーが東南アジア諸国連合(ASEAN)に加盟した1997年から、子どもの主体的な学びを促す児童中心型教育の普及を支援してきました。その一方で、授業で使用される教科書の大半は20年近く改訂されておらず、暗記中心の指導法や試験は児童中心型教育の障害となっていました。

新しいカリキュラムの教科書を使って学ぶ子どもたち。(写真:JICA)

新しいカリキュラムの教科書を使って学ぶ子どもたち。(写真:JICA)

2014年から実施された「初等教育カリキュラム改訂プロジェクト」は、児童中心型教育を効果的に実施するため、新たなカリキュラムや教科書・指導書、評価ツールの開発とこれらを用いた教員養成校教官などの人材育成を支援するものです。本事業では、日本とミャンマーの教育専門家がカリキュラム開発チームを編成し、小学校の全学年(ミャンマーの初等教育は1年生から5年生までの5年制)、全10科目(ミャンマー語、英語、算数、理科、社会、体育、道徳・公民、音楽、図工、ライフスキル)の教科書と教師用指導書を開発しています。そして遂に、2017年6月から、ミャンマー全土の新1年生約130万人が新しい教科書で学び始めました。

また、新教科書の導入に先立って、2017年1月から5月にかけて現職教員に向けた新初等教育カリキュラムの導入研修を実施し、約10万人の教員が全国各地で参加しました。6月からは、全国に25校ある教員養成校の教官・学生を対象とした導入研修を実施しています。

教育セクターに対する支援は、国家の発展の根幹にかかわるものです。その意味で、ミャンマーの初等教育のカリキュラム改訂や教科書策定を日本が支援していることは非常に価値のあることです。日本は今後も、教育の質の向上を通じてミャンマーの国づくりを支援していきます。

東アジア地域における日本の国際協力の方針
図表Ⅲ-8 東アジア地域における日本の援助実績

  1. 注1 : ASEAN諸国:ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム。(ただし、シンガポール、ブルネイはODA対象国ではない。)
  2. 注2 : 「質の高いインフラパートナーシップ」は、①日本の経済協力ツールを総動員した支援量の拡大・迅速化、②アジア開発銀行(ADB)との連携、③国際協力銀行(JBIC)の機能強化等によるリスク・マネーの供給倍増、④「質の高いインフラ投資」の国際的スタンダードとしての定着を内容の柱としている。
  3. 注3 : メコン諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム)。
  4. 注4 : 日本とメコン地域諸国が豊かな緑、豊富な生物多様性および自然災害への強靱性を有する「緑あふれるメコン(グリーン・メコン)」を達成しようとする取組。
  5. 注5 : 2016年度までの有償資金協力の累計は33,165億円(約束額)、無償資金協力の累計は1,576億円(約束額)、技術協力は累計1,845億円(JICA支出額)。(ただし、円借款(有償資金協力)および一般無償資金協力は既に新規供与を終了している。)
  6. 注6 : 技術協力の近年の実績
    32.96億円(2011年度)、25.27億円(2012年度)、20.18億円(2013年度)、14.36億円(2014年度)、8.06億円(2015年度)、5.00億円(2016年度)
  7. 注7 : 草の根・人間の安全保障無償資金協力の近年の実績
    8.43億円(2011年度)、2.88億円(2012年度)、2.84億円(2013年度)、0.85億円(2014年度)、1.07億円(2015年度)、0.29億円(2016年度)
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