(5)女性の能力強化・参画の促進
開発途上国における社会通念や社会システムは、一般的に、男性の視点に基づいて形成されていることが多く、女性は様々な面で脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれやすい状況にあります。ミレニアム開発目標(MDGs)が策定された2000年代初めと比べると、女子の就学率は格段に向上し、女性の政治参加は増加し、より多くの女性が幹部公務員級、大臣級のポストに就いています。注18しかし、政府による高度な意思決定など公の場に限らず、家庭など私的な場面でも、自分たちの生活に影響を及ぼす意思決定に参加する機会を、女性が男性と同じように持っているとはいえない状況が多くの国で続いています。
一方で、女性は開発の重要な担い手でもあり、女性の参画は女性自身のためだけでなく、開発のより良い効果にもつながります。たとえば、これまで教育の機会に恵まれなかった女性が読み書き能力を向上させることは、公衆衛生やHIV/エイズ等の感染症予防に関する正しい知識へのアクセスを向上させ、適切な家族計画の策定につながり、女性の社会進出、女性の経済的エンパワーメントの促進につながります。
「2030アジェンダ」では、「ジェンダー平等の実現と女性と女児の能力向上は、すべての目標とターゲットにおける進展において死活的に重要な貢献をするもの」であると、力強く謳(うた)われています。そして、SDGsの目標5に「ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児の能力強化を行う」ことが掲げられています。「質の高い成長」を実現するためには、ジェンダー平等と女性の活躍推進が不可欠であり、そのためには開発協力のあらゆる段階に男女が等しく参画し、等しくその恩恵を受けることが重要なのです。
< 日本の取組 >
21世紀こそ、女性の人権侵害のない世界にしていくため、日本は、国内外で「女性が輝く社会」を構築すべく、①女性の権利の尊重、②女性の能力発揮のための基盤の整備、③政治、経済、公共分野への女性の参画とリーダーシップ向上を重点分野に位置付け、国際社会の先頭に立ってジェンダー主流化と女性のエンパワーメント推進に向けた取組を進めています。
2017年5月に開催されたG7タオルミーナ・サミットでは、G7各国は首脳宣言でジェンダー間の平等のあらゆる政策での主流化を謳(うた)い、「ジェンダーに配慮した経済環境のためのG7ロードマップ」を採択し、主に、女性の参画拡大およびすべての段階での平等な機会および公正な選考過程の促進、働きがいのある人間らしい質の高い仕事への女性のアクセスの基盤強化、生涯を通じた女性および女児に対する暴力の排除に関し達成目標を掲げました。また、同年11月には、G7の枠組みにおいて初となる男女共同参画担当大臣会合がタオルミーナで開催されました。同会合では、国際社会が直面する男女共同参画、女性活躍に関する様々な課題について意見交換を行い、G7男女共同参画担当大臣宣言をとりまとめました。
2017年7月、G20ハンブルク・サミットにおいて立ち上げられた女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)*が発表されました。開発途上国の女性が自ら生計を立て、社会への積極的な参画・貢献を促すこの重要な取組を、日本として強く支持し、5,000万ドルの支援を行うことを表明しました。
2017年9月、安倍総理大臣はUN Womenが進めるHeForShe注19男女平等報告書発表式に出席し、日本の「女性が輝く社会」実現に向けた取組と成果を発信するとともに11月に東京で開催される第4回WAW!2017を紹介し、「女性が輝く社会」を世界中で実現するため、WAW!でつながり、共に取り組んでいくことをHeForShe支持者に呼びかけました。
2017年11月に開催されたWAW! 2017では、女性起業家支援、SDGs達成に向けた企業におけるジェンダー分野の取組、技術革新と女性の人材育成、無償労働の分担、女性・平和・安全保障、メディアにおける女性、若者が考える女性活躍の未来とは、自然災害下におけるジェンダー平等およびレジリエンス向上といったテーマの下、参加者たちは幅広い議論を行いました。日本は、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関(UN Women)を通じた支援も実施しており、2016年度には約3,000万ドルの拠出を行い、女性の政治的参画、経済的エンパワーメント、女性・女児に対する性的およびジェンダーに基づく暴力撤廃、平和・安全保障分野の女性の役割強化、政策・予算におけるジェンダー配慮強化等の取組に貢献しています。たとえば、日本はコートジボワールにおいて、1,000名以上の女性と女児に対してビジネスプランの研修等、所得向上のための財務トレーニングと能力強化を実施しました。10年に及ぶ情勢不安や軍事危機を経験した同国において、日本は暴力過激主義の横行を防止すべく、雇用の創出、収入活動の促進および女性・女児の能力向上といった地域全体の経済的エンパワーメント、地域における対話促進、教育を通じた意識啓発を行いました。
また、紛争下の性的暴力は、日本としても看過できない問題であるという立場から、日本は紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表(SRSG-SVC:Special Representative of the Secretary-General on Sexual Violence in Conflict)事務所との連携を重視しており、2016年度は同事務所に対し、シリア、ヨルダン、ソマリアにおける案件に対し100万ドルの拠出を行い、司法アクセスの強化や地域リーダーとの協力などへの支援を通じ、性的暴力への予防および対応能力強化に貢献しました。
さらに、より効果的に「平和」な社会を実現するためには、紛争予防、紛争解決、平和構築のあらゆる段階で女性の参画を確保し、ジェンダーの視点を入れることが重要との考えから、日本は、2015年に女性・平和・安全保障に関する国連安全保障理事会決議第1325号および関連決議の履行に向けた「行動計画」を策定し、2016年から「行動計画」の実施段階に入るとともに、モニタリングを開始し、2016年度末には年次報告書を公表しました。
日本はこのような活動を通じて、すべての女性および女児のエンパワーメントとジェンダー平等の実現、男女が共に支え合う社会および制度の構築を目指し、多様化する開発課題に対応するため、各国と協力していきます。
- *女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi:Women Entrepreneurs Finance Initiative)
- 開発途上国において、女性起業家や女性が運営する中小企業が直面する障害(資金アクセス、法制度等)を克服するための支援を実施することにより、開発途上国における女性の経済的自立を支援し、その経済・社会参画を促進することを目的とする世界銀行と参加国14か国によるイニシアティブ。支援内容は、女性起業家の資金等へのアクセス支援、金融機関等に対する女性起業家とのビジネス促進に向けた助言、開発途上国の法制度改善に向けた技術協力等。同イニシアティブはドナー国から約3.4億ドル、および民間資金・国際金融機関から動員する資金と合わせ、10億ドル超の資金を利用可能とすることを目指す。
- 注18 : (出典)The Millennium Development Goals Report 2015
- 注19 : UN Womenによる、ジェンダー平等のために男性・男児の関与を呼びかけるキャンペーン。