2017年版開発協力白書 日本の国際協力

(2)安全な水・衛生

水と衛生の問題は人の生命にかかわる重要な問題です。水道や井戸などの安全な水を利用できない人口は、2017年に世界で約8億4,400万人、トイレや下水道などの改善された衛生施設を利用できない人口は開発途上国人口の約半分に当たる約23億人に上ります。約36万人の5歳未満の子どもが安全な水と衛生施設が不足しているために引き起こされる下痢によって命を落としています。注14さらに、安全な水にアクセスできないことは経済の足かせにもなっています。たとえば、水道が普及していない開発途上国では、多くの場合、女性や子どもが水汲みの役割を担っています。時には何時間もかけて水を汲みに行くので、子どもの教育や女性の社会進出の機会が奪われています。また、水の供給が不安定だと、医療や農業にも悪影響を与えます。

こうした観点で、「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」ことはSDGsの目標6に定められています。

●インド

自動漏水音検知器を用いた漏水検知システムの普及・実証事業
中小企業海外展開支援事業(普及・実証事業)(2015年2月~2017年2月)

インドの都市部では、経済成長と都市化が急速に進み、特に人口が集中する地域では、水道管の施工技術の成熟度が低く、漏水問題等の発生により、水の供給が追いついていません。しかしながら、地下漏水の調査は行われておらず、地表から観察できる漏水のみが補修されているという状況です。このような中で、漏水率を少しでも削減して給水需給ギャップを緩和することが求められています。

漏水音と確認されたLED点滅箇所に対し、漏水探知器により、漏水確認および漏水位置の特定を行う技術講習の様子。

漏水音と確認されたLED点滅箇所に対し、漏水探知器により、漏水確認および漏水位置の特定を行う技術講習の様子。

漏水調査技術に豊富な実績を有する水道テクニカルサービス(株)(神奈川県横浜市)は、JICAの中小企業海外展開支援を受け、インドで3番目に人口の多いカルナタカ州都ベンガルール市で、自動漏水監視装置「L-sign」の普及・実証事業を開始しました。同社は、「音」で漏水を検知する独自の音聴工法を強みとしており、様々な漏水検知機器を用いた技術によって漏水率の低減に取り組んでいます。同社は、ベンガルール市東地区事務所が管轄する地域のうち、給水戸数3,000戸、管路延長約50kmに対して、自動漏水監視装置「L-sign」を配水管に20器、給水管に3,000器設置し、最終的に29か所の漏水を発見し、対策を行いました。

同社の取組によって、地下に潜在する漏水の発見も可能となり、貴重な水の損失防止につながっています。

共同でL-signの有効性検証を行ったベンガルール上下水道公社は、「我々の意向を汲んで、環境に適応するようきめ細やかに取り組んでもらった」と非常に高く評価するとともに、漏水防止の重要性の観点から新たに無収水対策部門を設置しました。それに伴い、水道テクニカルサービス(株)は現地エンジニアへの漏水調査トレーニング(漏水検知音の聞き分けなど)を新たに請け負い、機器提供だけではなく技術供与も積極的に行っています。

< 日本の取組 >

日本は、1990年代から累計して水と衛生分野での援助実績が世界一です。この分野に関する豊富な経験、知識や技術を活かし、①総合的な水資源管理の推進、②安全な飲料水の供給と基本的な衛生の確保(衛生施設の整備)、③食料増産などのために水を安定的に利用できるようにする支援(農業用水など)、④水質汚濁を防止(排水規制等)・生態系の保全(緑化や森林保全)、⑤水に関連する災害の被害を軽減(予警報システムの確立、地域社会の対応能力の強化)など、ソフト・ハード両面で支援を実施しています。

日本の開発協力では、専門家の派遣や開発途上国からの研修員受入れなどの技術協力や円借款や無償資金協力により、開発途上国での安全な水の普及に向けて支援を続けているほか、国際機関を通じた支援も行っています。

たとえば、アジア・大洋州地域において、日本は、ミャンマー、カンボジア、ベトナム、パラオといった国々で上水道の整備・拡張のための事業を実施中であり、地方の給水率の改善が課題となっているカンボジアにおいても2017年3月に無償資金協力「コンポントム上水道拡張計画」の署名が行われました。人口増加や経済発展が進むインドにおいては、2017年3月、新たに円借款「アンドラ・プラデシュ州灌漑(かんがい)・生計改善計画(フェーズ2)(第一期)」および「ラジャスタン州水資源セクター生計向上計画(第一期)」の署名が行われました。バングラデシュでは、農村部における小規模水資源管理施設整備や農道整備、さらには水管理組合への研修・技術指導等を行う円借款「小規模水資源開発計画(フェーズ2)」の署名が2017年6月に行われました。

中南米地域のホンジュラスでは、2017年6月、浄水施設を含む上水道施設の整備・拡張を通じ、水質や衛生環境の改善を図る無償資金協力案件「コマヤグア市給水システム改善・拡張計画」の署名が行われました。

また、アフリカでは、エチオピア、スーダンなどにおいて、日本は安全な水へのアクセス改善、給水率の向上に向けた事業を実施中であり、ウガンダについては、2017年5月に新たに無償資金協力「ウガンダ東部チョガ湖流域地方給水計画」の署名が行われました。

ほかにも、日本は日本NGO連携無償資金協力によって、日本のNGOによる水・衛生環境改善事業を支援しています。たとえば、特定非営利活動法人APEXは、インドネシアにおいて2017年2月から3年間の予定で、低コストで運転管理が容易でありながら、良好な処理水質が得られるコミュニティ排水処理システムの広域的普及促進事業に取り組んでいます。2017年度には、ジャワ島内で12基分の設置が進んでおり、このシステムはインドネシアの公共事業国民居住省の推奨するシステムとなりました。

こうした取組と並行して、草の根・人間の安全保障無償資金協力などによる協力、国内および現地の民間団体と連携した開発途上国の水環境改善の取組も、世界各地で行われています。

環境省でも取組を行っています。たとえば、アジアの多くの国々において深刻な水質汚濁の問題が生じており、関連する情報・知識不足を解消するため、同省はアジア水環境パートナーシップ(WEPA)を開始しました。アジアの13の参加国注15の協力の下、人的ネットワークの構築や情報の収集・共有、能力構築等を通じて、アジア水環境ガバナンスを強化することを目指しています。

●マラウイ

横浜市水道局の連携ボランティア派遣
自治体連携ボランティア(2014年~2016年、2017年から3年)

2008年に横浜で開催された第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)を契機に、JICAと横浜市、水道局が連携し、アフリカへの支援を進めています。2014年9月には、横浜市水道局から3名の職員を短期ボランティアとして、マラウイのブランタイヤ水公社(BWB)へ派遣し、水道事業の改善に向けた業務支援を行いました。この事業に対し、BWBより引き続きボランティア派遣の要望があり、横浜市水道局は、2016年度まで3年間にわたってBWBに毎年3名ずつ、総勢9名の短期ボランティアを派遣しました。この中で、BWBのスタッフと共に現場に入り、漏水探査や料金滞納者への対応方針など経験を活かした技術指導を行いました。あるボランティアは、日本の経験を途上国の発展に役立てたいという強い思いを持ってマラウイを訪れ、マラウイ人の熱心に学ぼうとする姿勢に感銘を受けたといいます。

技術指導を受けるBWBのスタッフ。

技術指導を受けるBWBのスタッフ。

現地のBWBの課題は無収水です。「無収水」とは、配水管からの漏水や違法な接続による盗水により、料金請求ができない問題のことです。ブランタイヤ市の無収水率は40%(横浜市は8.2%)であり、早急な改善が必要です。そこで、JICAは、2017年4月に横浜市水道局と「マラウイ共和国ブランタイヤ水公社支援のためのボランティア連携に関する覚書」を締結し、2017年度からさらに3年間、横浜市水道局から毎年4名の短期ボランティアを派遣し、モデル地区を選定しながら、総合的に無収水対策、料金徴収を含む顧客サービス向上に取り組むことになりました。

この取組により、①水道管(布設工事)の設計・施工に関するチェックポイントが作成され、現地実施機関であるBWB職員の技術向上に役立つこと、②検針員の意識向上、技術向上のためのワークショップ(研修)マニュアルの作成によって、BWB職員自身でワークショップを開催できるようになること、③BWBの職員たちが適切なデータ収集方法を習得し、無収水の原因究明・対策ができるようになることが期待されます。(2017年12月時点)


  1. 注14 : (出典)WHO/UNICEF “Progress on Drinking Water, Sanitation and Hygiene:2017 Update and Sustainable Development Goal Baselines”
  2. 注15 : 日本、カンボジア、タイ、ラオス、マレーシア、中国、インドネシア、韓国、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、スリランカ、ネパール
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