2017年版開発協力白書 日本の国際協力

第2章 日本の開発協力の具体的取組

ボツワナ北部のマロベラ職業訓練校で、自動車整備の技術を指導する青年海外協力隊員(自動車整備)の深澤洋平さん。(写真:マガンダチ・ダビラニ)

ボツワナ北部のマロベラ職業訓練校で、自動車整備の技術を指導する青年海外協力隊員(自動車整備)の深澤洋平さん。(写真:マガンダチ・ダビラニ)

本章では、日本が世界で行っている開発協力の具体的な取組について紹介していきます。ここでいう「開発協力」とは、政府開発援助(ODA)や、それ以外の官民の資金・活動との連携も含む「開発途上地域の開発を主たる目的とする政府および政府関係機関による国際協力活動」を指しています。

第1節 課題別の取組

本節では、「1.『質の高い成長』とそれを通じた貧困撲滅」、「2.普遍的価値の共有、平和で安全な社会の実現」、そして、「3.地球規模課題への取組を通じた持続可能で強靱(きょうじん)な国際社会の構築」の3つの重点課題について最近の日本の取組を紹介します。

1 「質の高い成長」とそれを通じた貧困撲滅

世界には、未だに貧困にあえいでいる人々が多数存在します。世界における貧困撲滅は最も基本的な開発課題です。特に、貧困問題を持続可能な形で解決するためには開発途上国の自立的発展に向けた経済成長を実現することが不可欠です。

その成長は、単なる量的な経済成長ではなく、成長の果実が社会全体に行き渡り、誰ひとり取り残されないという意味で「包摂(ほうせつ)的」なものであり、社会や環境と調和しながら継続していくことができる「持続可能」なものであり、経済危機や自然災害などの様々なショックに対して「強靱性」を兼ね備えた「質の高い成長」である必要があります。

これらは、日本が戦後の歩みの中で実現に努めてきた課題でもあります。日本は自らの経験や知見、教訓および技術を活かし、「質の高い成長」とそれを通じた貧困撲滅を実現すべく支援を行っています。

1-1 経済成長の基礎および原動力を確保するための支援
(1)産業基盤整備・産業育成、経済政策

「質の高い成長」のためには、開発途上国の発展の基盤となるインフラ(経済社会基盤)の整備が重要となります。また、民間部門が中心になって役割を担うことが鍵となり、産業の発展や貿易・投資の増大などの民間活動の活性化が重要となります。

数々の課題を抱える開発途上国では、貿易を促進し民間投資を呼び込むための能力構築や環境整備を行うことが困難な場合があり、国際社会からの支援が求められています。

●マラウイ

カムズ国際空港ターミナル拡張計画
無償資金協力(2015年11月~(実施中))

アフリカの内陸国マラウイにおいては、外国と直接交易する上で、航空輸送がたいへん重要な役割を担っています。日本は1983年に円借款等により首都リロングウェにあるカムズ国際空港建設を支援して以降、老朽化した施設・機材の更新や、航空管制業務に関する技術協力、電力不足に対応するための太陽光発電整備にかかる無償資金協力を継続的に実施してきました。特に2012年に実施した計器着陸装置等の管制機材整備のための無償資金協力により、航空機管制の安全性が向上し、夜間および悪天候時の航空機の離発着が可能となりました。これにより2011年の離発着数が約3,700便から7,000便(2012年)、旅客数が約11.2万人から19.5万人(2012年)へと大幅に増加しました。

しかし、旅客ターミナルビルは、建設後30年以上が経過し、経年劣化による構造物の損傷、空港内設備の劣化が生じており、2025年には36万人になると見込まれる利用者増に対応するための改修が必要となりました。また、航空機運航の安全性を確保するため、新たな航空機監視システムの導入も必要とされていました。

国際線到着ターミナルの基礎躯体工事現場の様子。(写真:Gyros株式会社)

国際線到着ターミナルの基礎躯体工事現場の様子。(写真:Gyros株式会社)

こうした背景から、日本はカムズ国際空港における国際線旅客ターミナルビルの出発・到着ウィングの増設、国内線旅客ターミナルビルの新設、既存ターミナルの改修、および航空機監視システム等の整備を行うための支援を決定し、2017年3月に工事が開始され、2019年に完工する予定です。また、航空機運航の安全性の確保を図ることで、より多くの航空会社および旅客が利用し、国境を越えた人の移動の促進に寄与することを目的としています。同時に、この事業で導入される航空機監視システムを持続的に運用、維持管理するための管制官と技術官の人材育成を行う技術協力プロジェクトも並行して実施されており、資金協力と技術協力を組み合わせた効果の高い事業といえます。

日本の継続的かつ包括的な協力の成果であるカムズ国際空港は、日本とマラウイの協力の歴史を表し、その象徴にもなっています。

< 日本の取組 >

●質の高いインフラ

日本は、開発途上国の経済・開発戦略に沿った形で、その国や地域の質の高い成長につながるような質の高いインフラを整備し、これを管理、運営するための人材を育成しています。技術移転や雇用創出を含め、開発途上国の「質の高い成長」に真に役立つインフラ整備を進めることは、日本の強みです。

こうした「質の高い成長」に役立つインフラ整備への投資、すなわち「質の高いインフラ投資」の基本的な要素について認識を共有する第一歩となったのが、2016年のG7伊勢志摩サミットで合意された「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」です。同原則の具体的要素(①ライフサイクルコストから見た経済性、安全性、自然災害に対する強靱性、②雇用創出、能力構築、技術とノウハウの移転、③社会・環境配慮、④経済・開発戦略との整合性等の確保、⑤効果的な資金動員の促進)の重要性はその後のG20杭州サミット、第6回アフリカ開発会議(TICAD(ティカッド) VI)、東アジア首脳会議、APEC首脳会議においても共有されました。

また、「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」に沿ったインフラ投資に関する日本独自の貢献策として、安倍総理大臣から、G7首脳に対し、今後5年間で総額2,000億ドル規模の「質の高いインフラ投資」を世界全体に対して実施していく「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」につき説明しました。TICAD VIにおいても、安倍総理大臣から、アフリカに対して、2016年から2018年までの3年間に約100億ドルの質の高いインフラ投資を行う旨を発表しています。

さらに、日本は質の高いインフラ投資の国際スタンダード化を進めるべく、経済協力開発機構(OECD)やEU等と連携して取り組んでいます。2017年4月に日本はOECD開発センターおよび東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)と共催で、第1回アジア国際経済フォーラムを東京で開催し、質の高いインフラに関する活発な議論を行いました。また、同年9月の国連総会ハイレベルウィークの際には河野外務大臣出席の上、日本はEUおよび国連と共催で質の高いインフラ投資の推進に関するサイドイベントを開催するなど、「質の高いインフラ」に関する国際的な議論を牽引(けんいん)しました。日本としては、今後も質の高いインフラ投資の国際スタンダード化に向けた取組を進めていく考えです。

●貿易・投資環境整備

日本は、ODAやその他の公的資金(OOFを活用して、開発途上国内の中小企業の振興や日本の産業技術の移転、経済政策のための支援を行っています。また、日本は開発途上国の輸出能力や競争力を向上させるため、貿易・投資の環境や経済基盤の整備も支援しています。

世界貿易機関(WTO)では、加盟国の3分の2以上を開発途上国が占めており、開発途上国が多角的な自由貿易体制に参加することを通じて開発を促進することが重視されています。日本は、WTOに設けられた信託基金に拠出し、開発途上国が貿易交渉を進め、国際市場に参加するための能力を強化すること、およびWTO協定を履行する能力をつけることを目指しています。

日本市場への参入に関しては、日本は開発途上国産品の輸入を促進するため、一般の関税率よりも低い税率を適用するという一般特恵関税制度(GSP)を導入しており、特に後発開発途上国(LDCsに対しては無税無枠措置をとっています。また、日本は、経済連携協定(EPAを積極的に推進しており、貿易・投資の自由化を通じ開発途上国が経済成長できるような環境づくりに努めています。

こうした日本を含む先進国による支援をさらに推進するものとして、近年、WTOやOECDをはじめとする様々な国際機関等において「貿易のための援助(AfT)」に関する議論が活発になっています。日本は、貿易を行うために重要な港湾、道路、橋など輸送網の整備や発電所・送電網など建設事業への資金の供与や、税関職員、知的財産権の専門家の教育など貿易関連分野における技術協力を実施してきています。

さらに日本は開発途上国の小規模生産グループや小規模企業に対して「一村一品キャンペーン」への支援も行っています。また、日本は開発途上国へ民間からの投資を呼び込むため、開発途上国特有の課題を調査し、投資を促進するための対策を現地政府に提案・助言するなど、民間投資を促進するための支援も進めています。

ミャンマー最大の商業都市であるヤンゴンの税関オフィスで、複数の日本人専門家が指導している様子。(写真:久野真一/JICA)

ミャンマー最大の商業都市であるヤンゴンの税関オフィスで、複数の日本人専門家が指導している様子。(写真:久野真一/JICA)

2017年2月には「貿易の円滑化に関する協定(TFA)」が発効に至りました。この協定の実施により、日本の企業が輸出先で直面することの多い貿易手続の不透明性、恣意的な運用等の課題が改善し、完成品の輸出のみならずサプライ・チェーンを国際的に展開している日本の企業の貿易をはじめとする経済活動を後押しすること、また、開発途上国においては、貿易取引コストの低減による貿易および投資の拡大、不正輸出の防止、関税徴収の改善等が期待されます。

2017年7月に行われたWTO・OECD共催の第6回「貿易のための援助」グローバル・レビュー会合では「持続可能な開発のための貿易、包摂性及び連結性の推進」がテーマとなりました。日本は、「貿易のための援助」の主要ドナー国として、アフリカ開発会議(TICAD)プロセスや対アフリカ支援、「質の高いインフラパートナーシップ」等を紹介しました。また、貿易のための援助は、持続可能な開発目標(SDGs)のすべての目標の達成に必要な原資になることや、被援助国のオーナーシップを重視しながら開発支援を行うことの重要性を強調しました。

●国内資金動員支援

開発途上国が自らのオーナーシップ(主体的な取組)で、様々な開発課題を解決し、質の高い成長を達成するためには、開発途上国が必要な開発資金を税収等のかたちで、自らの力で確保していくことが重要です。これを「国内資金動員」といいます。国内資金動員については、国連、OECD、G7、G20、IMF、およびMDBs等の議論の場において重要性が指摘されている分野であり、「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」においても取り上げられている分野です。

日本は、関連の国際機関等とも協働しながら、この分野の議論に貢献するとともに、関連の支援を開発途上国に対して提供してきています。たとえば、日本は、開発途上国の税務行政の改善等を目的とした技術協力に積極的に取り組んでいます。2017年に日本は、国際課税、徴収、納税者サービス等の分野について、カンボジア、インドネシア、マレーシア、ベトナムへ国税庁の職員を講師として派遣しました。

国際機関と連携した取組としては、たとえば、租税条約注1や多国籍企業に対する税務調査のあり方など、税制・税務執行に関する開発途上国の理解を深めるために、それらの分野におけるOECDの専門家を開発途上国に派遣してセミナーや講義を行う、「OECDグローバル・リレーションズ・プログラム」の展開を20年以上支援してきています。そのほか、日本は、IMFやアジア開発銀行(ADB)が実施する国内資金動員を含む税分野の技術支援についても、人材面・知識面・資金面における協力を行っており、アジア地域を含む開発途上国における税分野の能力強化に貢献しています。

近年、富裕層や多国籍企業が国際的な課税逃れに関与することに対する世論の視線は厳しいものになっています。この点、たとえば世界銀行やADBにおいても、民間投資案件を形成する際に、税の透明性が欠如(実効的な税務情報交換の欠如など)していると認められる地域を投資経由地として利用する案件について、案件形成の中止も含めて検討する制度も導入されています。MDBsを通じた投資は開発途上国の発展にとって重要な手段の一つであり、開発資金の提供の観点からも、開発途上国の税の透明性を高める支援の重要性は増しています。

最後に、OECD/G20 BEPSプロジェクトの成果も、開発途上国の持続的な発展にとって重要という点に触れておきます。このプロジェクトの成果を各国が協調して実施することで、企業活動や行政の透明性は高まり、経済活動が行われている場所で適切な課税が可能になります。開発途上国は多国籍企業の課税逃れに適切に対処し、自国において適正な税の賦課・徴収ができるようになるとともに、税制・税務執行が国際基準に沿ったものとなり、企業や投資家にとって、安定的で予見可能性の高い、魅力的な投資環境が整備されることとなります。

●金融

開発途上国の持続的な経済発展にとって、健全かつ安定的な金融システムや円滑な金融・資本市場は必要不可欠な基盤です。金融のグローバル化が進展する中で、新興市場国における金融システムを適切に整備し、健全な金融市場の発展を支援することが大切です。

金融庁では、2017年3月、8月および10月に、アジアの開発途上国等の銀行・証券・保険監督当局の職員を招聘(しょうへい)し、日本の銀行・証券・保険分野のそれぞれの規制・監督制度や取組等について、金融庁職員等による研修事業を実施しました。

用語解説
その他の公的資金(OOF:Other Official Flows)
政府による開発途上国への資金の流れのうち、開発を主たる目的とはしないなどの理由でODAには当てはまらないもの。輸出信用、政府系金融機関による直接投資、国際機関に対する融資など。
後発開発途上国
(LDCs:Least Developed Countries)
国連による開発途上国の所得別分類で、開発途上国の中でも特に開発の遅れている国々。2011~2013年の1人当たり国民総所得(GNI)平均1,035ドル以下などの基準を満たした国。2017年11月現在、アジア7か国、中東・北アフリカ2か国、アフリカ34か国、中南米1か国、大洋州4か国の48か国(図表IV-37を参照)。
無税無枠措置
先進国が後発開発途上国(LDCs)からの輸入産品に対し原則無税とし、数量制限も行わないとする措置。日本は、これまで同措置の対象品目を拡大してきており、LDCsから日本への輸出品目の約98%が無税無枠で輸入可能としている。
経済連携協定
(EPA:Economic Partnership Agreement)
特定の国、または地域との間で関税の撤廃等の物品貿易およびサービス貿易の自由化などを定める自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)に加え、貿易以外の分野、たとえば人の移動、投資、政府調達、二国間協力など幅広い分野を含む経済協定。このような協定によって、国と国との貿易・投資がより活発になり、経済成長につながることが期待される。
貿易のための援助(AfT:Aid for Trade)
開発途上国がWTOの多角的貿易体制の下で、貿易を通じて経済成長を達成することを目的に、開発途上国に対し、貿易関連の能力向上のための支援やインフラ整備の支援を行うもの。
一村一品キャンペーン
マラウイの首都リロングウェにある一村一品ショップの商品。(写真:久野真一/JICA)

マラウイの首都リロングウェにある一村一品ショップの商品。(写真:久野真一/JICA)

1979年に大分県で始まった取組で、地域の資源や伝統的な技術を活かし、その土地独自の特産品の振興を通じて、雇用創出と地域の活性化を目指すもの。これを海外でも活用している。一村一品キャンペーンではアジア、アフリカなど開発途上国の民族色豊かな手工芸品、織物、玩具など魅力的な商品を掘り起こし、より多くの人々に広めることで、開発途上国の商品の輸出向上を支援している。
貿易の円滑化に関する協定
(TFA:Trade Facilitation Agreement)
貿易の促進を目的として通関手続の簡素化・透明性向上等を規定するもの。2014年のWTO一般理事会特別会合において、TFAを2017年2月にWTO協定の一部とするための議定書が採択された。TFAは、WTO加盟国の3分の2に当たる110加盟国が受諾したことで発効に至った。日本は2016年に受諾。TFAはWTO設立(1995年)以降、初めての全加盟国が参加して新たに作成した多国間協定。WTOによれば、貿易円滑化協定の完全な実施により、加盟国の貿易コストが平均14.3%減少し、世界の物品の輸出が1兆ドル以上に増大する可能性があるとされている。
OECD/G20 BEPSプロジェクト
BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)とは、多国籍企業等が租税条約を含む国際的な税制の隙間・抜け穴を利用した過度な節税対策により、本来課税されるべき経済活動を行っているにもかかわらず、意図的に税負担を軽減している問題を指す。この問題に対応するため、日本が2016年末まで議長を務めたOECD租税委員会は、2012年にBEPSプロジェクトを立ち上げ、2013年には「BEPS行動計画」、2015年には「BEPS最終報告書」を公表。2016年には、BEPS実施フェーズ(「ポストBEPS」)のキックオフとなる「第1回BEPS包摂的枠組会合」が京都で開催され、日本は、BEPSプロジェクトの成果が広く国際社会で共有されるよう、OECDや開発途上国、関係する国際機関と協調して議論を先導した。「包摂的枠組」には、現在110以上の国・地域が参加している。また、日本はBEPSを防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約の交渉に積極的に参加し、2016年末には条約が署名のため開放された。2017年6月には条約の署名式が行われ、日本も署名を行った。2017年10月現在、70か国・地域が同条約に署名している。

  1. 注1 : 租税条約:所得に対する租税に関して、二重課税を除去したり、脱税および租税回避を防止したりする二国間の条約。
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