第2章 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進
人々の生命を脅かし、あらゆる社会・文化・経済的活動を阻害する保健課題の克服は、人間の安全保障に直結する国際社会共通の課題です。人間の安全保障とは、国家の安全保障を補う概念であり、人間一人ひとりに着目し、人々が恐怖と欠乏から解放され、尊厳ある生命を全うできるような社会づくりを目的とするものです。日本は人間の安全保障を提唱し、それを「積極的平和主義」の基礎とするとともに各種の取組を推進してきており、保健をその中心と考えています。
第1節 平和と健康のための基本方針
2015年2月の「開発協力大綱」の策定を受け、同年9月の健康・医療戦略推進本部において、保健分野の課題別政策として「平和と健康のための基本方針」を定めました。この基本方針は、政策目標として、「公衆衛生危機・災害等の外的要因に対しても強靱(きょうじん)な健康安全保障体制の構築」、「生涯を通じた基礎的保健医療の継ぎ目のない利用を確立し、UHCを達成」、「日本の保健人材、知見、医薬品、医療機器および医療技術ならびに医療サービスの活用」を挙げています。この方針に基づき、すべての人が生涯を通じて必要なときに基礎的な保健サービスを負担可能な費用で受けられるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成を念頭に、国際社会の議論を牽引(けんいん)してきました。
たとえば、2016年5月のG7伊勢志摩サミットにおいては、G7/G8で初めてUHCを優先課題として取り上げ、UHCがエボラ出血熱等のパンデミック(大流行)への備えを強化する上で不可欠との認識を共有することに貢献しました(「国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョン」)。また、同ビジョンをアフリカでも着実に実践するため、2016年8月のTICADVIにおいて、世界銀行やWHO等と共同でアフリカにおけるUHC推進のための政策枠組「UHC in Africa」を策定・公表しました。さらに、国際保健分野のマルチの援助協調枠組を拡大・強化し、UHCを2030年までに達成することを目指す「UHC2030」の設立において日本は主導的な役割を果たしました。