第2章 法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持
前章で紹介したとおり、「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序が国際社会の安定と繁栄の礎との考えに基づいています。法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を実現するためには、安倍総理大臣が提唱した「海における法の支配三原則」、すなわち、①国家は国際法に基づいて主張をなすべき、②主張を通すために力や威圧を用いない、③紛争解決には平和的収拾を徹底すべき、という原則を徹底する必要があります。インド太平洋地域において法の支配が普及し、定着していくために、日本は、海上保安能力構築支援や法制度整備支援を通じた法の支配の強化に貢献しています。
第1節 海上保安能力構築支援等
海における法の支配を徹底し、航行の自由および海上安全を確保することは、主要な物資やエネルギーを海上輸送に依存する日本にとって重要であるのみならず、国際社会全体の平和、安定および繁栄の促進のために必要です。インド太平洋地域においてシーレーン沿岸国の海上法執行機関等の能力を強化し、国際社会の発展にとって必要となる海上交通の安全を確保するために、日本は、各国の海上保安機関に巡視船艇や機材の供与を行うとともに、その職員を日本に招聘(しょうへい)したり、海上交通等の専門的な知識を有する専門家を各国に派遣し、海上法執行能力の向上支援の強化に取り組んでいます。
たとえば、ベトナムに対しては、これまでに中古船舶7隻や海上保安機材の供与を行うとともに、2017年6月、グエン・スアン・フック・ベトナム首相が訪日した際には、ベトナム海上警察が運用する巡視船6隻を円借款で整備することを決定しました。フィリピンについては、同国の沿岸警備隊に巡視船10隻および大型巡視船2隻や小型高速艇や海上保安機材の供与を順次実施するとともに、海上法執行実務の能力強化支援等の技術協力を実施しています。マレーシアについては、同国の海上法令執行庁に対し中古巡視船の整備に必要な海上保安機材の供与を実施するとともに、長期専門家の派遣や教育訓練制度改善支援を実施しています。インドネシアに対しても、巡視艇3隻の供与や海上交通保安能力向上のための長期専門家の派遣を実施しており、2017年10月に、2018年度以降も海上保安機関の能力向上のための研修を実施していくことを決定しました。また、海上犯罪取締り等の課題別研修を毎年実施しています。
東南アジアのみならず、約1,300kmの海岸線を有し、東アジアと中東・アフリカ地域を結ぶシーレーンの要衝に位置するスリランカに対しても、2016年に同国の沿岸警備庁に2隻の巡視艇を供与することを決定しました。同様に、海賊による被害が相次いだソマリア沖・アデン湾に面するジブチの沿岸警備隊に対しても巡視艇2隻を供与するとともに、沿岸警備隊の人材育成と組織強化のための技術協力を実施し、沿岸の安全と社会経済活動の確保に貢献しています。

2017年6月、訪日したグエン・スアン・フック・ベトナム首相と握手を交わす安倍総理大臣。(写真提供:内閣広報室)

2017年8月、米国ワシントンDCにおいて、日米安全保障協議委員会(日米「2+2」)が開催され、握手をする河野太郎外務大臣と小野寺五典防衛大臣、レックス・ティラソン国務長官とジェームズ・マティス国防長官。
日本はこうした海上法執行能力の構築支援を引き続き積極的に行っていく考えであり、2017年8月に実施した日米安全保障協議委員会(「2+2」)の機会に、インド太平洋地域の沿岸国の海洋安全保障能力分野の能力構築支援等のために今後3年間で約5億ドルの支援を行っていくことを表明しました。こうした方針の下、同年11月の東アジアサミットでは、「テロに屈しない強靱(きょうじん)なアジア」に向けて、フィリピン南部およびスールー・セレベス海の治安改善のため包括的なアプローチとして2年間で150億円規模の支援を着実に実施することを表明しました。このような支援表明に基づき、今後も同分野への支援を進めていきます。