2017年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 10

母子の健康向上を目指して
~ホンジュラスの保健医療サービス体制を強化~

中南米諸国の中でも貧困率※1が高いホンジュラスは、出生1000人当たりの5歳未満児死亡数が22.2人(2013年)、出生10万人当たりの妊産婦死亡数も129人(2015年)※2と、同様に悪い状況にあります。

一方で、近年の中南米では、必要不可欠な保健医療サービスを地域の住民自らが自分たちの健康について考え行動し、保健課題の解決を目指すプライマリーヘルスケア(PHC)の考え方が主流になっています。ホンジュラスにおいてもPHCの考え方に基づき、「国家保健モデル」が策定されました。同モデルでは、医師や看護師などからなる家庭保健チームが各家庭の巡回診療等を行い、包括的な保健医療サービスを提供することを最重要課題として提唱しています。

しかし、ホンジュラスは、このような保健医療サービスを標準化するノウハウを持っていなかったため、日本に対し技術協力支援を要請しました。日本は同要請を受け、地方自治は進んでいるが全国の中で貧困率の高いレンピーラ県と、地方自治は進んでいないが平均的な保健サービス網を有するエル・パライソ県という特徴的な2つのパイロット地域を選択し、母子保健に焦点を当てた「国家保健モデル」の保健医療サービスを実施するためのプロジェクトを2013年から開始しました(2018年までの予定)。

家庭保健チーム向けの講師養成研修の様子。(写真提供:池田高治)

家庭保健チーム向けの講師養成研修の様子。(写真提供:池田高治)

このプロジェクトでは、PHCの考え方に基づき、行政と住民が協力して地域の保健問題を解決していく仕組みを整備し、その結果として住民の健康向上が継続的に行われることを目指しています。また、その過程で、サービス改善の中心となる、行政側の家庭保健チームの能力強化も目的としています。

ホンジュラスでは、「国家保健モデル」が策定されて以降、住民がどんな保健状況にあるかを知るため、全戸を対象に継続的に調査が行われています。同調査の結果、様々な課題が浮かび上がりました。たとえば、妊婦検診に行っている女性が非常に少ない、あるいは行ったとしても、懐妊後数か月が経過してからというケースも多く見られました。そのため、出産予定日が正確に算出できず、危険な状態になってからあわてて医療施設を訪れ、手遅れになってしまうケースも少なくありませんでした。

家庭保健調査の監督方法を指導する池田専門家。(写真提供:池田高治)

家庭保健調査の監督方法を指導する池田専門家。(写真提供:池田高治)

同プロジェクトの委託契約を受け、現地で活動するアイ・シー・ネット株式会社の池田高治(いけだたかはる)さんは、活動の様子を次のように語ります。「まず、早期の妊婦検診が必要だということを住民のみなさんに分かってもらうことから始めました。どうして早期に妊婦検診が必要なのか。出産予定日が分かっているということにどんな意味があるのか。そのことを具体的に例を挙げながら、説明していきました。」こうした活動を家庭保健チームが持続的に行ったことで、2つのパイロット地域での産前検診の受診率、施設での分娩率は目に見えて向上しました。

また、家庭保健チームの活動の現場では、日本から持ち込まれた携帯型超音波診断装置が大きな力を発揮しています。この装置は、超音波(エコー)を用いて身体の中を見るものですが、これを日本の技術によって小型化して携帯できるようにしたことで、農村に医療施設がなくても、お母さんたちが自分の村にいながらお腹の中にいる赤ちゃんの発育の様子を知ることが可能となり、その効果は絶大でした。

さらに、これまで不正確な記録で母子を危険に晒(さら)していた出産日の正確な算出や、早期に異常を発見することも可能となりました。また、診断データを病院などの専門医と共有し、適宜助言を受けられるような連携を強化し、より専門的な診断、早期の治療もできるようになりました。そして、一軒一軒の家を家庭保健チームが訪問して診察を行うことで、住民たちの医療への信頼度も大きく向上しました。

「私がこのプロジェクトを行っていく上で最も心がけたのは、ホンジュラスの人々自身の手でプロジェクトを進められるような知識、技能を習得してもらうという点です。最初、彼らは日本人に協力するだけという傍観者的意識でしたが、日本人は自らやりたいことをしに来たのではなく、「国家保健モデル」に基づいて行うべき仕事、すなわち彼ら自身の仕事を助けに来たのだという趣旨を伝えたとき、彼らは初めてプロジェクトの目的を理解し、本当に喜んでもくれました。」と池田さんは語ります。

同プロジェクトの成果、ガイドラインや研修の内容は、ホンジュラス政府にフィードバックされ、また、国立大学の家庭保健の講義や実習との連携が始まりました。今後も医学部などの学生や卒業生にも継承されることにより、他地域での保健体制の向上のノウハウとして活用されることが期待されます。


※1 世界銀行が、国別の社会経済的な環境に見合う形で貧困を推計するために用いる統計。世帯構成員1人当たりの収入が、カロリー所要量に見合う食料品の購入に必要な支出レベル(食料貧困ライン)および、基本的ニーズを満たすために最低限必要な非食料品支出(非食料貧困ライン)を合計した額より低い場合、貧困に位置付けられるもの。

※2 出典:Millennium Development Indicators (The Official United Nations Site for the MDG Indicators)

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