国際協力の現場から 11
ゴミ処理問題の解決とリサイクルシステムの導入
~マーシャルにリサイクルセンター建設計画~
マーシャル諸島共和国は赤道の北800km、太平洋ミクロネシア海域に位置し、1,200以上の島々と5万人強の人々から成る小さな国家です。島々は輪の形に並んでいて、その美しさから「太平洋に浮かぶ真珠の首飾り」とも呼ばれています。

マジュロ環礁廃棄物公社の処分場の様子。ゴミの山は高ければ10mほどにもなる。(写真提供:在マーシャル日本大使館)
今、この小さな国の首都マジュロにおいてゴミ処理の問題が起きています。マーシャルではこれまでずっと伝統的な生活が営まれ、ゴミもほとんどが自然にかえっていくものでした。しかし近年、国民の生活が欧米化するにつれ様々な物資が輸入されるようになり、これまでは存在しなかったプラスチックや金属などの自然に分解されないゴミが大量に排出されるようになりました。また、2013年からの4年間に、ゴミの排出量が日量23トン程度から30トン程度へと、急速に増加しました。しかし、ゴミ処理施設が整っておらず、また、そもそも処理技術もなかったマーシャルでは、このような変化に対処できず、排出されたゴミは処理しきれずにゴミの山となって蓄積され続けていました。

無償資金協力で建設されたリサイクルセンターで廃金属圧縮機を稼働させている様子。右から2人目が冨野専門家。(写真提供:在マーシャル日本大使館)
こうした状況を受け、マーシャルは日本に対して、廃棄物の適正管理、リサイクルの促進を目的とした技術支援を要請しました。この問題の解決のために、JICAからシニア海外ボランティアとして派遣されたゴミ処理の専門家、冨野正弘(とみのまさひろ)さんは赴任当時の様子を次のように語ります。
「私が赴任した当時、ゴミの山は既に強風などで拡散されない高さの限界を超えて10mほどに達していました。ゴミの中にはプラスチックや金属などの分解困難な物が多く含まれていて、このままでは、せっかくの美しい島にゴミが散乱し、海中のサンゴの上にビニール袋が漂うような事態も考えられました。」
こうしたゴミ処理問題の背景には、マーシャル特有の事情も存在していました。国土のほとんどがサンゴでできた環礁であるため、国全体が平坦な土地で、日本で行っているような谷にゴミを集積させる方法もとれず、ゴミがそのまま、むき出しのゴミの山になってしまう点、また投入したゴミを覆土するための土が存在しないため、ハエや害虫が発生しやすい環境である点などです。
冨野さんの活動は、こうした課題を解決していくため、二つの方向で進められました。一つは、ゴミの山を減らすために、リサイクル可能なものをゴミの中から取り出して適正に処理するとともに、一般ゴミの焼却施設を試験的に導入し、周辺環境への影響確認や対応を図りながら継続的に使用できるか検討すること。もう一つは、ゴミの発生元である家庭や商店、あるいは学校でのリサイクル活動を推進していくことでした。
ちょうど冨野さんが赴任した当時、日本の外務省の無償資金協力で、マジュロ環礁内で発生するゴミ処理を担っているマジュロ環礁廃棄物管理公社において、リサイクルセンター1棟が建設され、ここに廃金属圧縮機1台とペットボトル圧縮機1台を導入する作業が進められていました。
これらの機器を円滑に導入し、現地の人々が運用方法を理解、対応できる形で日々の生活の中に取り込み運営していくための技術指導が冨野さんの手によって行われています。
また、家庭や学校、地域のコミュニティーミーティングに参加して、現在はゴミになってしまっているものの有効利用や、リサイクルに関する啓蒙(けいもう)活動も冨野さんも協力して継続的に行われています。
現在、ゴミ問題の解決は、マーシャル全体の最も重要な課題の一つとなっており、様々な試みがなされています。たとえば、分解しにくい発泡スチロールのトレイやカップ、プラスチック素材のレジ袋は法律で使用禁止という厳しい規制がなされ、缶やペットボトルはあらかじめ課金され、回収時に返金する制度も導入される予定です。
「ゴミ処理の問題は、リサイクルで作り出された素材の輸出という目標まで考えると、とても1、2年で解決するものではなく、私の任期中にすべてを見届けることはできません。しかし、できれば5年程度で分別収集のシステムを完成し、10年以内には周辺の大洋州諸国とも協力することにより、付加価値の高いリサイクル素材をスケールメリットを持って輸出できるような体制にしていきたい。こうした目標の中で、現在の活動を続けています。」と冨野さん。大きな期待の中で冨野さんの活動は続きます。