2017年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 09

共に歩む日本の支援で行政と住民の信頼を回復
~コートジボワールの行政サービス能力強化プロジェクト~

アフリカ大陸西部に位置するコートジボワールは、1960年にフランスから独立した人口約2,270万人の国です。カカオ、天然ゴムなどの生産が盛んで、独立後の70年代には「象牙の奇跡」といわれる飛躍的な経済成長を遂げました。しかし、1993年、建国の父と呼ばれたウフエ=ボワニ初代大統領の死去以降、徐々に不安定化の道をたどり、2002年には事実上の内戦状態に突入しました。その後、約10年間にわたり国家は南北に分断され、政治的混乱の中、和平と和解への模索が繰り返されました。

この間、行政機能は低下、住民に対する基礎的社会サービスが行き届かない状況が継続しました。国際社会が「ミレニアム開発目標」に向かって、保健や教育、給水などへの支援を強化していた時期に、同国の国民は、紛争による影響に加え、開発の機会も失ったのでした。

2011年、内戦が収束すると、コートジボワールは、国民和解と社会的統合を進めるとともに、復興と開発への取組に着手しました。そうした中で、行政機能の回復と基礎的社会サービス提供のための能力向上、行政と住民の信頼回復、紛争で引き裂かれたコミュニティの融和などが大きな課題となっていました。

ベケ州での最終会議の後、ベケ州知事、県知事、市長等と記念写真撮影。(写真提供:オリエンタルコンサルタンツグローバル)

ベケ州での最終会議の後、ベケ州知事、県知事、市長等と記念写真撮影。(写真提供:オリエンタルコンサルタンツグローバル)

JICAは、本格的協力再開の端緒についた2013年、「中部・北部紛争影響地域の公共サービス改善のための人材育成プロジェクト(PCN-CI)」をスタートさせました。プロジェクトの対象は、同国中北部に位置するベケ県という、紛争影響が色濃く残る地域です。PCN-CIは、地方行政を所管する内務・治安省と、周辺9つの県と協働し、過去10年間ほとんど機能していなかった基礎的行政サービスを立て直し、計画的に地方行政を進めていくための能力強化に取り組みました。住民の基礎的ニーズとして優先度の高い村落給水と、小学校整備を内容とするパイロット・プロジェクトを実施。住民の計画づくりへの参加、施設の有効活用、維持管理組合の設置など、参加型のパートナーシップ形成を目指しました。しかし当時、中央と地方、住民と行政の間には、それぞれ信頼関係の面で深い溝があり、実際に活動しようとしても、最初はシナリオどおりには進みませんでした。

プロジェクトで建設した学校と子どもたち。(写真提供:オリエンタルコンサルタンツグローバル)

プロジェクトで建設した学校と子どもたち。(写真提供:オリエンタルコンサルタンツグローバル)

現地で日本人専門家として2013年からプロジェクトに参加したオリエンタルコンサルタンツ(株)の副リーダー岡本純子(おかもとじゅんこ)さんは、当初の先方パートナーの反応について、「州知事にしても、関心は『いつになったら学校を作ってもらえるのか?』ということばかりですべて受け身の態度でした」と語ります。「しかし、地域で少しずつ成果が上がり、行政が機能と信頼を取り戻す姿が見られるようになってからは、全く反応が変わりました」と岡本さん。

プロジェクトは、まず行政官と共に現地に足を運び、きめ細かく現地調査を行うことから始まりました。住民が何を必要とし、何に困っているのか。どの事業を優先して進めなければならないのか。まず、これを知る必要があったためです。これまで現地においてこうした調査は全く行われておらず、そのため、たとえ様々な事業が行われたとしても、その多くが住民の意向に沿わないものでした。そして、調査で判明した結果や事業の優先順位などについて、自治体を構成する村の代表をはじめ、住民に対して丁寧な説明を繰り返し行うことで、住民の行政に対する信頼は少しずつ回復していきました。

給水施設や学校の建設を目的にしたパイロット事業は、その一つひとつの行程を地方の行政官と共に進めていきました。現況の調査、最優先プロジェクトの選択、開発計画の策定、事業実施に際しての入札、そして施工管理。正しい工程を行政官と共に体験し、そのノウハウを実地で伝えていきました。

2013年11月から2017年4月まで行われたこのプロジェクトでは、11の小学校の増築・改修、78か所の給水施設建設・改修が実施されました。各施設が本当にそれを必要とする住民のもとに届けられたことも大切ですが、それと同時に、行政機能の回復、住民の行政への不信の払拭、住民同士および住民と行政の協力関係を取り戻すことに寄与することができたのも大きな成果です。

当初、施設建設にばかり関心を示していた州知事は、他人に頼るばかりでなく、自らの手でやっていく必要性を述べるまでになりました。

共に歩む日本の支援がコートジボワールに根付き始めています。

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