2017年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 07

日本の生産性向上のノウハウを伝える
~パキスタンアパレル製品の付加価値向上のためのKAIZEN~

パキスタンは、西はアフガニスタンとイラン、北は中国、東はインドと国境を接し、南はアラビア海に面する人口1億9,540万人の国です。農業と繊維産業が盛んで、特に綿花の生産量は世界4位。繊維産業の規模はGDPの約10%、総輸出額の約50%を占め、製造業従事者の約40%を雇用する重要な産業です。しかし、この基幹産業である繊維産業において、パキスタンは長年にわたり大きな課題を抱えています。同国が作り出し、輸出している製品の多くが未だ低技術・低付加価値のホームテキスタイル(ベッドカバー、シーツ、タオルなど)であり、同国は世界有数の綿花の産地でありながら、その利点を活かせていません。原因として次のような点が考えられます。

まず、パキスタンは世界有数の綿花の生産地ですが、加工して輸出するという付加価値の向上に着目せず、安価で高品質の「完成品」を求めるようになった世界の需要に対応できなかった点があります。また、女性は家庭を守るものという伝統的な価値観が強く、縫製作業で求められるムラのない作業のための女性労働力の不足も指摘されています。

職業訓練校で、工業用ミシンの使い方を指導する正田専門家。(写真提供:藤田綾)

職業訓練校で、工業用ミシンの使い方を指導する正田専門家。(写真提供:藤田綾)

このような背景から、2016年6月「アパレル産業技能向上・マーケット多様化プロジェクト」が開始されました。このプロジェクトの目的は、競争力を高めるための生産ラインの個々のワーカーたちの技能向上と、工場全体、特に管理層に生産管理的視点を備えさせること、つまり品質を向上させていくという意識と知見を植え付けることです。そのためプロジェクトではアパレル産業の人材育成を目的とした研修校への指導、技術支援が行われました。

同プロジェクトにおける中心的存在であり、これまでも世界各国でアパレル産業育成のためセミナーや工場での生産性向上指導を行なってきた正田康博(しょうだやすひろ)専門家は、着任当時の学校の様子を次のように語っています。「現場を詳しく視察して、まず気づいたのは、研修校の研修内容がパキスタンのアパレル産業の要望に応(こた)えていない、という点でした。また、洋服製造の経験も乏しく、パターンメーキング(型紙作成)をはじめとした技能・技術教育においての基本的能力が不足していました。また、今や現場の環境改善や品質管理の手法として世界の共通語となっている『KAIZEN』、特に品質改善のための5S(『整理』『整頓』『清掃』『清潔』『躾(しつけ)』)がなぜ必要なのかも理解されておらず、伝えてもなかなか実行されないため、できるだけやって見せて、なぜそれが大事なのかを具体的に分かるように見せていくということの繰り返しでした。」

職業訓練校で行われた講師向け研修修了証書授与式の様子。(写真提供:藤田綾)

職業訓練校で行われた講師向け研修修了証書授与式の様子。(写真提供:藤田綾)

4年間(2016年6月~2020年5月)にわたる同プロジェクトは、開始から1年半が経ち、教員訓練においては、全科目の教員が知っておくべき基礎分野(繊維、染め・仕上げ、品質管理等の10科目)の訓練がようやく一巡した段階です。作業現場においては、教員たちが5Sの中で基本となる清掃のほか、実習態度、躾等の面でも研修生に指導するようになり、機器の清掃やメンテナンス管理を日々行うようになりました。「教員訓練はまだ途上であり、日本のアパレル教育水準に追いつくにはまだ先は遠いといわざるを得ませんが、それでも教えていく中で日々の進歩を感じます。中国での人件費の高騰でASEAN諸国等に生産拠点が移行している現在、ここパキスタンはまだまだ潜在力があり、良い製品を安く作れるようになれば競争力を持つことができると思います。そのためには、付加価値を上げるための企画設計の力を身に付けたり、女性が参加しやすい労働環境づくりも必要です。プロジェクト最終年次(4年次)には政策プロポーザルを繊維省に提出することを目標にしております」と正田さんは話します。

現在、パキスタンにおいて、繊維産業の発展は官民を挙げた重要課題となっており、2019年までに現在の輸出額の130億ドルを2倍にするという大きな目標も掲げられています。この国の大きな変革の時期に、その根底を支える人々の改革を正田専門家たちの地道な支援が後押ししています。

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