国際協力の現場から 05
工業団地の開発支援で経済的自立を促進
~イスラエルとパレスチナの仲介役を果たす日本の支援~
イスラエルとパレスチナの関係において、日本は、2006年に「平和と繁栄の回廊」構想を掲げ、その実現に向けて、パレスチナの経済・社会の自立を促進することで平和構築に貢献しています。その中核となる事業が、ジェリコ農産加工団地(JAIP:Jericho Agro-Industrial Park)です。パレスチナ東部に位置するジェリコ市は、海抜マイナス250mと世界で最も標高の低い町で、冬でも暖かく、巨大なオアシスや湧き水に恵まれた土地であり、オリーブやバナナ、ナツメヤシなどの栽培に適しています。JAIPは、ジェリコ市とその周辺地域で生産が盛んな農作物を加工し、付加価値を高め、ヨルダン経由で湾岸諸国への輸出を目指しています。
ところが、近年、人口の急増や新たな産業の勃興および施設の老朽化による漏水等で水不足が問題となっています。また、パレスチナは、電気の供給や土地の利用をはじめ、人とモノの移動においても制約を受けており、これらの改善が工業団地の開発には必要不可欠です。パレスチナの経済発展のためにも、今後、JAIPの稼働企業を増やしていく必要があります。ジェリコ市を含むヨルダン川西岸地区における天然資源はイスラエルの管理下にあるため、JAIP専用の井戸の掘削など工業団地に必要なインフラの開発については、イスラエルとの交渉なしに進めることはできません。
日本はこれまでもJAIP開設に伴い、貸し工場建設やインフラ整備、工業団地運営能力向上のための技術協力などを通じて、JAIPを開発・運営するパレスチナ工業団地・フリーゾーン庁(PIEFZA※1)の能力強化に努めてきました。2009年8月よりフィージビリティ・スタディ(F/S※2)の補完調査に従事した後、2010年~2013年のジェリコ農産加工団地のためのPIEFZA機能強化プロジェクトおよび2014年からのジェリコ農産加工団地運営・サービス機能強化プロジェクトを総括する松澤猛男(まつざわたけお)さんは、今後の展望を次のように話します。
「パレスチナ内の企業を工業団地に誘致して、国際競争ができるように事業を拡大させ、輸出を促進していこうと、JAIPの開発に着手しました。イスラエルから湾岸諸国への輸出が制限されている中、イスラエルと競合しない産業を育てることには同国も反対する余地がありません。そこで、パレスチナ産の製品を中東、特に湾岸地域へと輸出できるようにすることで、将来パレスチナが経済的に自立できることを目指します。」

2017年12月、パレスチナを訪問中の河野太郎外務大臣が、日本が主導する「平和と繁栄の回廊」構想の旗艦事業である「ジェリコ農産加工団地(JAIP)」を訪問した。
JAIPの成功の鍵を握る輸出ルートを確保するために、流通の要となるJAIPとヨルダン国境をつなぐ道路の建設も予定しています。日本は定期的な協議を実施してイスラエル・パレスチナ双方の合意を図りつつ、現在、具体的な調査、計画などを進めています。JAIPの開発が進み、生産物の出荷数や輸送に当たっての交通量などの具体的な内容が明らかになってきたことで、イスラエルも道路の建設を推進しています。パレスチナにとって、中東・湾岸地域とつながることは一つの大きな進展であり、「日本がその橋渡しをできれば」と、松澤さんは意欲的に語ります。
本件の試みは、これまでの約7年間にわたって多くの成果を上げています。その一例として、2017年10月時点で約40社のテナントと契約を結び、そのうち、オリーブを加工したサプリメントや石鹸、冷凍ポテト、梱包用緩衝材の製造、デーツ(ナツメヤシの実)のパッケージングなどを行う8社の工場が既にJAIPでの操業を開始しています。これは、JICA専門家が継続的に、PIEFZA職員およびPIEFZAを通した工業団地開発業者(デベロッパー)のJAIP運営・開発能力の向上を支援してきた成果の現れといえます。また、JAIPの開発を機に、水・電気・道路建設をはじめとする必要な幅広い分野におけるイスラエルとの交渉には、日本が仲介役となって両者の対話を促進しています。パレスチナの産業開発のために、イスラエルとパレスチナが議論の場を持つということはかつてない試みで、日本がいかに双方の信頼を得ているかを物語っています。現地の人々と共に日々問題解決に当たりながら、根気強く彼らの能力強化に努めてきた松澤さんたちのサポートの成果が見て取れます。
長期的視野から労を惜しまず、現地の人々の自立を促す日本の開発協力によって、経済発展という果実がパレスチナの人々のもとに届く段階に入ってきています。
※1 Palestinian Industrial Estates and Free Zones Authorityの略。パレスチナ自治政府内にある、民間が開発する工業団地をサポートする政府機関のこと。1998年設立。
※2 Feasibility Studyの略。プロジェクトを開始するに当たって、実行可能かどうかを検証する予備調査のこと。