2016年版開発協力白書 日本の国際協力

匠の技術、世界へ 5

ネパールの無電化地域に明かりを
~大人2人で持ち運び可能な軽水力発電機「Cappa」の挑戦~

大人2人で持ち運び可能な軽水力発電機「Cappa」(写真:ibasei)

大人2人で持ち運び可能な軽水力発電機「Cappa」(写真:ibasei)

ネパール政府機関、民間の人々に対し、「Cappa」について説明する菊池伯夫さん(写真:ibasei)

ネパール政府機関、民間の人々に対し、「Cappa」について説明する菊池伯夫さん(写真:ibasei)

軽水力発電機「Cappa」が稼働している様子(写真:ibasei)

軽水力発電機「Cappa」が稼働している様子(写真:ibasei)

海外からも多くの観光客や登山客が訪れるネパールは標高8,000メートルを超える山々に囲まれた自然豊かな国です。ヒマラヤ山系の急峻(きゅうしゅん)な地形が特徴のネパールでは、豊富な水資源を活用した水力発電を主な発電源としていますが、ピーク時の電力需要をカバーできず、都市部では1日の計画停電が10時間を超えることも珍しくありません。また、農村部での電化率は低く、生活に欠かせない電気でさえも不自由している地域が未だ多く存在しています。

茨城県日立市に本社を置く株式会社茨城製作所は、2011年の東日本大震災後、災害時や非常時に備える独立電源や自然エネルギーへの関心の高まりを受け、小型水力発電機の開発プロジェクトを始動し、約2年をかけて軽水力発電機「Cappa(カッパ)」を完成させました。このCappaで開発途上国に明かりを灯していきたいと、アジア各地で調査を行った結果、ネパールを事業スタートの地として選びました。Cappaは、大人2人で持ち運びができるコンパクトな設計(本体57kg)で、アクセスの悪い山間部などへも容易に設置することができます。また、一般的な小型水力発電機は水の落差によって発電するものが多い中で、CappaはF1や飛行機の最新の技術を活用しており、流れのある川や水路に沈めるだけで24時間安定して発電できることも、大きな特徴です。ネパールを選んだ理由の一つもこの自然水流が豊富だったことにあります。「ヒマラヤの農村に小さな集落が点在していますが、Cappaであれば簡単に持ち込め、稼働させ、それぞれのニーズに合わせて利用してもらえるというイメージがあった」と代表取締役の菊池伯夫(きくちのりお)さんは振り返ります。

茨城製作所では、2014年にODAを活用した中小企業海外展開支援事業※1の案件化調査※2に応募、翌年2月に採択されると、その6月から約1年間、現地でCappaの可能性や課題、現地適合性を調査しました。この案件化調査では、プロジェクトサイトの候補地で水流や周辺環境調査、ヒアリング調査を実施したほか、Cappaを持ち込んでデモンストレーションを行いました。実際に明るく灯った電球を見た住民や自治体の代表者らから大きな拍手が起こり、「Cappaをすぐにでも使いたい」「ヒマラヤの奥地にも導入してほしい」という声が上がりました。菊池さんたちは、小さな明かりがあるだけでどんなに安心を得られるか、生活が変化するかなど、ネパールの人々から話を聞きました。

さらに、同社はCappaのメンテナンスや一部の部品の現地生産を検討するため、ネパール小水力発電開発協会や現地メーカーを訪問して調査を行った結果、各訪問先からCappaの部品生産や組み立て、日本企業との合弁などにも大きな関心が示されました。

菊池さんは「当初、電気を必要としているのは無電化の農村地域だけだと思っていましたが、調査を通じて学校や医療機関など、都市部にもニーズがあることが分かってきました。

これらの調査結果を踏まえ、同社は2017年4月ごろから2019年3月ごろまで、カトマンズ郡とカスキ郡のパイロットサイトでCappaの有効性を実証する普及・実証事業※3を開始します(2016年9月時点)。普及・実証事業では、電力供給が不安定な地域や無電化地域にCappaと低落差式超小型水力発電機を設置し、学校と周辺コミュニティに電力を供給することで、生活水準や教育環境の向上につなげていく計画です。

今後の目標について菊池さんは「製造工程の一部を現地メーカーに移管し生産体制が確立できれば、製品の価格競争力が高まり、またネパールにとっては雇用や産業の創出などにつながります。さらに、ネパールの方と協力して地域に合ったCappaの利用方法を培っていきたいと考えています」と話しています。


※1 ODAを活用した中小企業等の海外展開支援事業は、中小企業等の優れた製品・技術等を途上国の開発に活用することで、途上国の開発と、日本経済の活性化の両立を図る事業。

※2 案件化調査は、中小企業等からの提案に基づき、製品・技術等を途上国の開発へ活用する可能性を検討するための調査。

※3 普及・実証事業は、中小企業等からの提案に基づき、製品・技術等に関する途上国の開発への現地適合性を高めるための実証活動を通じ、その普及方法を検討する事業。

このページのトップへ戻る
開発協力白書・ODA白書等報告書へ戻る